最後の夜続き
鈴木さんは、少し間を置いて話し出した。
「大人になってからの良い出会いは、一生ものだと僕は思うんです。そんな出会いを僕にくれたお二人には、本当に感謝しています。もう一度乾杯しませんか? 僕らの出会いに」
そう言って、グラスを目線に掲げた。
あたし達もグラスを目線に合わせる。
乾杯という言葉もなく、ただ静かにグラスを掲げるだけ。
言葉はないけど、その分、鈴木さんの想いが流れ込んでくるようだった。
グラスに口をつけると、幾重にも重なったハーブの香りと共に、甘くて優しい味が広がる。
これが、鈴木さんがあたし達と飲みたかったお酒。
ママに言って、ボトルキープして貰おう。
そして、これから鈴木さんと会える日も会えない日も、このお酒を飲もうと思った。
ヤバイ、また意識付けされてる。
優しい香りに包まれながら、静かに時間は過ぎていった。
「そろそろ行きます」
鈴木さんの声が、その時間に終わりを告げる。
あたし達は、黙って頷き、席を立った。
鈴木さんはあたし達を交互に見て、ゆっくりと店のドアに向かって歩いていく。
あたし達もゆっくりとついていく。
ドアの前で立ち止まり、鈴木さんはあたし達に向い、また交互に顔を見てくる。そして、ママに近づいて、両手を持ち上げて優しく包むように握った。
「マスター。本当にありがとうございました。また、お会いできる日を楽しみにしています」
手を握られたママは、あわあわしながら、やっと答えた。
「わ、わたしも楽しみにしてます」
ママ、あんた素に戻ってるよ。
鈴木さんは、今度はあたしの手を握り優しく言った。
「高橋さん。一緒に過ごした時間は本当に楽しかったです。また、お会いできる日まで」
ママの気持ちが分かった。
あたしもあわあわしてしまって、やっとのことで声を出した。
「わ、わたしも楽しかったです。また、鈴木さんとお会いしたいです」
鈴木さんは微笑んで、あたしの手を離し、ドアを開ける。
一歩外に出た鈴木さんは、あたし達に、「では、また」と一言残して歩きだした。
あたし達は鈴木さんの後ろ姿を無言で見送った。




