最後の夜続き
ママはカウンターのバックバーから、ボトルを持ってきた。
あたしは名前も初めてだったけど、ボトルも初めて見た。
「これはどういうお酒なんですか?」
「フランスの修道院で作ってるリキュールです。食前に飲むこともあるし、食後にも飲まれます。薬草をふんだんに使ったお酒です」
あたしは養命酒みたいな? という言葉は飲み込んだ。
「ストレートにしますか? それともロックで?」
ママの問いに鈴木さんは、
「そうですね。ロックでお願いします」
と答えた。
「かしこまりました」
ママはそう言って、またカウンターに戻り、氷の塊を持ってきた。
アイスペールに入った氷を、ロックグラスに入る位にピックで割り、ぺディナイフで削り始める。
あたしと鈴木さんは魅入った。
いつも何気なく出されていた、丸い氷が作られていくさまに。
ママは素早く、それでいて流れるように削っていき、あっという間に三個の丸い氷が出来上がった。
三個の氷を、チェイサー用に持ってきていた水差しの水で軽く洗い、グラスに入れる。
カランと良い響きが広がる。
ママはそこに、ボトルから静かに注いでいく。
黄色味がかった透明なお酒が、グラスの氷を包んでいく。
甘い、そして、いろんなハーブが重なりあったような独特の香りが鼻腔をくすぐる。
ママはあたしに達の前にグラスを静かに置いて、鈴木さんの言葉を待った。




