獲物の午後
カマキリの飼育ケースがたまに白いドロッとした液体で汚れてるんですよ
なんだろな酸っぱいなって思ってたんすけど、最近餌のゴキブリの体液だとわかりました
家庭教師の報酬はなにも知識だけじゃあない。
『子供だろうと黒人だろうと雇用関係にある以上きちんと払わさせてもらうよ』というショッキングブルーさんの実に商人らしい哲学の元、現金も入ってくる。
といっても小さい頃から大金持たせるのは危険ってことでせいぜいお駄賃程度だけど。
それでも7歳児にとっては十分過ぎる額だし、そもそも身分上払ってくれてる時点で聖人極まりないしありがたい限りだわ。
キュラメイクで運のパラメーターでもいじったかしらね。
そうね、なにもしなくてもたまたま金持ちの友達がいて、たまたま教育受けさせてくれる聖人がいて、たまたま女の子の知り合いがいる人生ってなかなか最高じゃあない?
おまけでコネで会社入れてくれる親戚がいたら万々歳だけど、生憎うちの家系じゃあ見込めないわね。
今日の仕事も楽しい読書タイムも終えたあたしはそんな考えと報酬を胸に帰路についていると、路地の影からヤツが現れた。
「やぁ、ベン。仕事帰りかい?」
「えぇそうです、ラモーンさん。」
小学一年生の目には小六ですら立派でトッポい大男に映るのだから、齢七歳のあたしからすると17歳少年の迫力といったら相当よ。
増してや普段から喧嘩恐喝窃盗薬物小切手偽造に明け暮れ、この年にして憲兵からブラックリスト入りという名の血統書まで頂いた天下のチンピラを前にしたらまさに蛇とカエルだ。
「いつもエラいねぇ〜〜〜。クレバァ〜クレバァ〜。
今日はなに教えてきたんだ?え、そろそろ中心極限定理くらいまではいったか? 」
「いえ、まだ動物の死骸から人間作ったあたりです。」
「ロペス書の15ページ目じゃあないか。二週間前もそこやってなかったか?
話に聞くだけでまどろっこくてムズムズするぜ。大変だな、え。」
どうでもいい前置きを終え、葉巻に火をつけ一呼吸、おもむろに本題を切り出してきた。
「そんで、その精神的重労働の引き換えにいくらもらってきたんだ。
どれ、おじさんに見せてごらん。」
逆らえるわけもなく余すことなく差し出された金額を数え、演技がかった神妙顔を浮かべる。
そしてその様子を演技ではなく神妙な表情で見つめるあたし。
「ふぅむ、毎度ながらお前の稼ぎは・・・あー、その、芳しくないな。
リーブ・ホームはお前と同い年だが3倍は稼いでるんだぜ。」
「すみません。」
「まぁ、まぁ、さほど気にすることはないさ。悪いのはケチのファッキンブルーだ。
そうさね、今回の取り分は2割でいいよ。ただでさえ少ない努力の報酬を、しかも10も年下の子供から奪うなんて鬼畜な真似、流石のこのラモーンも心が痛むってもんよ。
さ、はやく持ち帰って家族を喜ばせたげな。」
「ありがとうございます。」
当然ながら心優しい気遣いで終わるわけもなく、ラモーンはあの演技がかった神妙顔を貼り付けて
「しかし、まいったな・・・・・・。いやな、俺はお前らから「少しばかりの気持ち」を頂戴して、その代わり他のゲスなチンピラドモの毒牙にかからんよう唾つけてやってるわけだろう。
それでサ、報酬に見合わん労働に嫌気がさすのが人間ってもんだ。
もしかすると、もしかするとだが上納金の少ないヤツのことはあまり見てやれなくなるかもしれない。
顧客は大勢で、俺の体は1つっきゃないんだからな。自ずと優先度ってのが生じてくるわけだ。わかるだろ、え?」
どうせショッキングブルーさんが多くは払わないとわかってる癖に毎度詰ってくる。
「取引をやめたいと言い出したフェイセスがどうなったか覚えてるかい?
俺も止めたし、名残惜しかったが泣きながら懇願されちゃあ堪らない。
そしたらカワイソーに、四日後には青目のフーズっつー草売りのクズ野郎に捕まってヤク狂いにされちまった。まだ13だったのに。
なによりも胸糞悪いのが最期だな、もっと引き止めればよかったと本気で後悔してるよ。
まさかクスリ欲しさに自分の母親を・・・・・・おっと、話が逸れた。
で、わかるだろ。わかってるなら、じゃあ代わりにどうするべきなのかもわかってるはずだろ、え?」
このつど代わりの品を提示するのも毎度のことだった。
「品」を聞いた途端、ヤツの神妙顔は歓喜の表情へと変わっていった。
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「ふぅ、誰に仕込まれたのか知らんがお前はやたらうまいよな。
俺は彼女が9人いるけど、誰もお前にゃ勝てないよ。」
薄暗い路地裏で一仕事終えたベンはペッと唾を吐くと、ラモーンに向き直った。
「稼ぎの悪さなんてどーでもよくなるよ。だからさ、これからもよろしく頼むよ、フフフ。」
そう言うとラモーンは路地裏から出て通りの方へと消えていった。
とにかく口内が酷く痛む。
舌の先が特に悲鳴をあげていた。
長い間休むことなく筋肉を酷使すればどの部位だって痛くなる。
さながら筋肉痛のような、疲労に起因する鈍い痛みが舌先を支配していた。
しかし相手は休ませてはくれない。はやく終われ、とっとと出せと始終続く苦痛の中、ベンは懸命に行為を続けた。
気まぐれで後頭部を押され、喉奥を無遠慮に蹂躙されたのも確か地獄の苦しみであった。
試しに指でも突っ込めば手っ取り早くわかるが、えずきの苦痛は筆舌に尽くしがたい。
涙が出てくるし、自分の出したものだと信じられないような、発情したカエルのような呻き声が漏れる。
精神的な苦痛、屈辱はもはや感じなくなったし行為自体に元々抵抗はなかったが、これだけは今後慣れることないだろう。
いつかは終わる。しかしやがて次回がくる。
その恐怖に、路地の影に怯えながら、今度こそベンは蓮の葉の裏へと帰って行った。
好きなリョナ小説サイトが消えてた
かなしい