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《鬼神族》  作者: 鬱っぽいダラダラ星人
長女 梅木樹珠
9/25

第9話:人の子鬼の子{後編}

読み(主に名前類):


梅木樹珠:うめきじゅじゅ

七瀬梅:ななせうめ

月水兎:げすうと

月鬼村:げっきむら

七瀬樹里:ななせじゅり


興奮状態です←誰か助けてください


「…もしよろしければ、このまま私をここにおいてくださいますか?」


自分でも意外な発言だった。

本当はすぐに出て行くつもりだった、身内の知り合いの家族となればなおさらだ。

だけれど、私は可能性を感じた。


半鬼とはいえ、食の内に必ず人間が必要となる。この村でも絶対に失踪事件が起きているだろう、だけれどこの半鬼は一切疑われていない、むしろ好かれている。

この家に留まれば、私もまた手間が省ける。


梅も、その母親もまた驚いた顔をしていた。


「え、梅木樹珠様が?いえ、でもこんな小さな家におられては不自由ばかりでございますよ?」梅の母親がおどおどしながらかしこまる。

「私は『ここにいてやってやる』ではなく『ここにいたい』と言ったのですが」

「え、えっと」

「私がここにいては生活が苦しくなると…思っているのかしら」

「いえ!!そんなことは…」

「では、ここにおいてくださいまし。店の手伝い、草むしり、なんでも手伝います。」



        静寂


梅とその母親はただ無言で私を見つめた。


「なぜ、ここにいたいと思ったのですか?あなたの行動には全て理由があると、父が言っていました。今回の人界への来界も、人の命を学ぶためだと風の噂で聞きました。」まっすぐな目で見つめてくる梅は、少し私を恐れているようだった。


彼女の過去は完璧に知っているわけではないが、多分生まれも育ちも人界だろう。人を周りに置き、月水兎以外は人から学んだ。情があるのだろう。


そんな人間を私は生きるためにたくさん食べてきた。


異界にいた頃は、異界の食べ物があれば栄養も食もとれた。

だけれど、人界はそういうわけにはいかない。


異界の食べ物もない、それ以外は全て栄養ではない。

その中で唯一栄養たっぷり入っている器は…人間なのだ。


「私はな、疲れたのだ。」


ここにいれば、人を殺さずにはすむ。

私は大きな情報を持っている、それは


   半鬼を生んだ女は、生涯一生異界の食べ物を口にしなければ死んでしまう。


「食べるのを疲れたのだ、私は。そのせいで狂いもした、小さな命を意味もなく奪ったこともある。だからこそ、ここには可能性を感じるのだ。」


梅の母親は異界のものを口にしている。

私もまた、異界の食べ物を食べ続ければ人間を食わなくても大丈夫になる。


「梅の母君、あなたは異界のものを月水兎…いや、あなたの夫から送られていますね?もし、少しだけでも分けられるのであれば、私もそれを食したいのです。」


梅もその母親も、口を開けっ放しにしている。

「も、もちろんです!!断る理由はどこにもございません!!」涙を流しながら膝を地に着く母親は、目を輝かせていた。それほど、人間が愛しいのだろう。


私だとてそうだ。


人が愛おしくて愛おしくて、喰らい尽くしてしまうほど。


それと同時に、私は人間が憎い。憎くて憎くて仕方ないほど憎んで、私は反省する、後悔する。人を口にしたことを。


あの赤ん坊のことを思い出す、最後のひと時も笑顔で私を励ました。

あの退治屋のことも思い出す、彼は最後の時も人間として息をした。

今まで食べてきた人間、まだ生きている人間、それぞれを思った、それは私にとっては辛いことでもあった。

私に憎しみの目を視線で送った人のこの子とも思った、あれは自然な行為だ。


私はあの人の子の友達、親、兄弟がいるのであれば兄弟、教師、近所の人たち…全員を殺した。


足がまた疼く、痛いと嘆く。

あぁ、私はまだ逃げ続けている。


無言で私を見つめる二人は、私の涙を指摘する。

梅の母親は、涙を拭いてくれた、梅は私を抱きしめてくれた。


「大丈夫です。ここなら、あなたは苦しまずに済む。そういう思いで、此処まで来たのでしょう?」

頭を撫でてくれる暖かいぬくもりは、次第に私の荒れた心の傷を癒してくれた。



       もう、食べるのは疲れた。



その昼、私は村の人たちに挨拶をしながら歩き回った。

「七瀬家の新しい家族」として、七瀬樹里という梅の姉として。


村の全員が喜んで迎えてくれた。

「よかったね、七瀬さん。新しい家族ができて」

「えぇ、本当に。梅も喜んでいました。」


何気ない会話が村中広がった、最後村長までが「宴会を開くぞ!」と言い張った。

お祭り騒ぎのようにどんちゃん朝まで賑わっていた。


「この村は、とある鬼が守ってくれているのだよ。だけれど他の村は『この村は鬼に呪われている』というのじゃ。だから、いつも気持ち悪がられて人は大抵来ないのさ。」酒を飲む村長は満足げに言っていた。

「へぇ…そうなんですか?初めて聞きました。」

「そうじゃよ、だからみんな人が来たことに対して大喜びなのさ。」村長の妻もいう。


私がこれから住み着く村、月鬼村は多分月水兎が守っているとされているのだろう。


村が騒がしくて朝になった時気付いた、小さな人の子の気配がすでに消えていた。

私はそれに対して、どういう反応をすればいいのかわからなかった。

小さな子供にしては大きな殺意を向けられていたから、きっといつか復讐のために襲いかかってくるだろうと思っていたからだ。だからこそ、気配が消えたことに対して少々残念だった思いもあった。


私は目を閉じてこれからのことを思った。


「梅木樹珠様〜!店の支度をお願いいたします〜!」と一階から聞こえた。この声は梅だ。


「だから、樹里と呼び捨てにしてとなんども言わせないで!!」恥ずかしげに階段を下った。

「あ、ごめんなさい!」顔を赤くし、両手で口を押さえた梅は謝った。

「敬語やめてとも言ったよね?」私は睨んだ。

「ごめん」梅はまた謝った。


何気ない会話が続く。


その5分後に、『お母さん』から支度が遅いと叱られた。













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