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《鬼神族》  作者: 鬱っぽいダラダラ星人
長女 梅木樹珠
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第6話:歩み

前話と同じく、名前類は出ません。


けれど、少々暗いところがあると思いますので、気をつけて下さいませ。


※毎度興奮状態で申し訳ございません←マゾではございません。

また、沼に溺れたのだ私は。


もう一度、自分を無数の自分を殺した。


道が砂利、草は固く、気温も暑かった。

汗が滴ると妙に苛立ちが心の中で暴れる、「汗が滴る感触は気持ちが悪い」と

苛立ちをなだめるもう一人の自分は今では苛立ちと同感しながら「天気は猫のように気まぐれ」とため息をする。他の私は血の海に溺れ、今では『私』を含めて3人しかいない。


2回目の溺れから私は食欲が失せた、人間社会にとっては嬉しいことだけれど私にとっては少し困ることだ。心が食べたくなくても、身は食べないと死んでしまうからだ。

こう言う時に人食い妖怪はつくづく幸運と思われる、人を食べ物として見ていない。


「牛が言葉を喋れたら食うか?」と言う質問に関して私は:「ならばずっと喋っていてください」という、なぜか?言葉を発すことができるのならば、見世物にして金を巻き上げればいいと思うからだ食ったりしたら可能性が消える。

あと、生きている分自分の「意識」と言うものがあるのではないか?

あるとするならば、余計食べる気が失せる。


人間だとて、同じことだ。自分の意思があるからこそ妖怪や鬼を嫌い払うし、自分の利益や立場となると手段は問わないだろう。


人間が鬼の真似をするように、我々鬼もまた人間の真似事をする。


一体何が本物なのか、わからないように。


「さてと、少し休もう」と木影に座り込んだ。長い間人界にいたせいか、時の流れが早く感じ自分の体もまた人界に適するように進化をしていた。前は7歳の容姿だったのに、今ではどこぞの看板娘のようだ。自分の足を少しの間だけ見つめる。


「成長したな…」と呟く。


そして涙を流した、意味もなく。ただ思い出したのだあの日の出来事を鮮明に。

愛を知った人食い慎吾も彼の大事な親友を食べた後泣いたのであろうか。

いや、絶対に泣いた。泣いていなかったら主様のあの涙はない。

人食いの道を外れ、人の道も歩けない主様を拾った『朝霧鶴之助』が亡くなった時も主様は涙を流しただろう、鶴之助の妻を足したら大事な人が3名消えた。主様にとっては線香花火のように消えたのか、それども濁った水が水と混ぜ合わせる感覚なのかはわからない。

けれど、鮮明に全てを覚えているからこそ私は涙を流した。


私だとて、兄者や歴兄が死んでしまったら泣く。

自害だとてするかもしれない。


けれど、しない。なぜか。


自害してしまったら、今まで私が自分のために殺し食べてきた人間たちに失礼だからだ。

自害だとて、殺害と一緒。罪だ。

どれだけ辛くても耐えて生きていけば、次の人生は素晴らしいだろう。

神は、誰も見捨てない。たとえ淡い夢でも、私はそれを信じる。


自分の手を見つめた。


「あぁ、私も生きているんだな。」と涙をこぼす。

主様と出会って、私は泣いてばかりだ。

「今までずっと泣くことなんか滅多になかったのにな」と笑う。

涙を拭い晴天の青空を見上げた。

心苦しくても、笑顔を向けた。


全員覚えている、私が犠牲にしてきた人たちを。いや、犠牲ではないか、彼らは私の中で生きている。

私が食べたかった人たちも、食べ損なった者たちも、絶対に食べる気はない人たちも。

全員思い出しながら、自分の心の中で祈る。


「主様、彼らの次の命を幸せにしてください。私の手が届かないところへ生かしてください。」


また私が彼らを食べないようにと。


草履を履かずに村から逃げたせいか、足は傷だらけだった。鋭い石の擦り傷、丸い石の上を歩きすぎて跡もできた、草の上に立ちすぎて緑にもなっていた。手はどうだろう、涙を手に拭いすぎて指先がふやふやになっていた。髪は背中までだったのに、今では太ももまで伸びた。


脳は思い出した、あの神主の記憶を。彼の『運命』に対する真っ直ぐな姿勢、道しるべのような言葉。

主様も思い出した、彼の殺意と狂気。そして大切な人たちに対する愛を。


「大丈夫」


「私はまだ歩き続けれる。」


「立ち止まった人たちの代わりに、私は歩く。」


立ち上がり、景色を見直した。

この世界は醜い。

私のような醜い存在を生かしている神もまた醜いだろう。

けれど、私を生かす理由があるとするならば、私は最後の瞬間までその理由を探し見つけ出す。手を強く握りしめた、私は自分の死を見届けるのだ。

こんな世界に私は絶望する。けれど同時に愛しい。


醜くて美しい、憎くても愛しい、私は世界を抱きしめる。


「存在してくれてありがとう」


私はまた、歩き出した。



私の後を追う、小さな気配を感じ取りながら。






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