第4話:人界・桃色の夢
読み方(主に名前):
梅木樹珠:うめきじゅじゅ
巫廻麗刄:ふみつば
歴歌留多:れきがるた
興奮状態ですが、慣れました。←終わったなこれ
何百年も忘れない最悪の日と250年は、平和に幕を閉じた。
今では、主様にお会いできた事を光栄に思える。「ではなぜ兄を不機嫌にさせるほど主様の事を聞くのか」というのは、ある理由がある。気になりすぎたのだ、人食い慎吾がたとえ封印され妖の道からはみだそうが、なぜ偉大なる『朝霧家』の家主になっているのか?もちろん、後継だからだろう。だが、しかし、あんなに罪をせよっている罪人が偉大になり尊敬される立場になったのか、不自然だ。普通だったら、牢屋行きどころか、死刑なのでは?
それに、偉大なる我が鬼神族の長男を刀にするなど、どれくらいの力を持っているのかすらわからない。私の経験上、優しい殺気で流し見されただけで恐ろしかったのに。鬼と人間の相性は最悪、人が好きな鬼はたくさんいるが、子はやはり人間同士の方が作りやすい。例えを出すと、女同士、男同士で子を作るのは無理のように、鬼と人もまた、無理の右側だ。そしてまた、人間は鬼の力には弱く、脆い。鬼もまた、力つけた人間相手…例えば安倍晴明のような奴相手では元も子もないだろう、人間の圧勝だ。そして、主様は人ならぬ人に一番近い存在だ。もしかしてそれを使っているのか?確かに、妖怪戦争の大戦最強とも言われた『人食い慎吾』の実力者だ。もともと鬼は毛虫として見ていたのかもしれない。とにかく、人の存在に近いのならば、多分鬼退治は専門と言ってもいいだろう。
鬼と人の相性は最悪なのだから。
また一つ疑問が湧いた。人はどうやって力をつけているのだろう。確か、霊力?というものを生まれた時から備わっている人の仔もいるらしい。では『安倍晴明』とやらはどうやってこんなにも有名になったのだ?確か陰陽師だったような気がする。まぁ、今度人界に上がった時に見物でもしよう。
「樹珠ー?どうかしたのか?ぼーっとして。」と巫廻兄が言った。
「あのね、巫廻兄、私今度人界に行って見たいんだ」と、私がいう。さり気なく、別に行けないんだったらいいんだけどさ、っぽく自信なさそうに。
普段の巫廻兄なら『ダメ!汚いおっさんが可愛らしい樹珠を見たらいかがわしい事を絶対してくるから!絶対ダメ!』と言うのが予想だった。だがしかし、巫廻兄は逆に目をうるしながら「そうか…お前も成長したものだ!誇りに思うぞぉ!樹珠!やっと人間観察に興味を示したか!あんの鬼オタクの暦と違って立派に成長したものだ!さすが我が妹!」と抱きしめてきた。
そしてバン!と襖が開き、歴兄の足が勢いよく巫廻兄の頭を蹴った「あんだと?!誰が鬼オタクじゃ!人を引きこもりみたいにいうな!これでも仕事の一種じゃ!」
「じゃぁそその手に持ってる人形はなんだ?」と苦しそうに巫廻兄は歴兄の手に指を指す。
「あ、こ、これは…えっと、暇だったから、俺のためnーーじゃなくて樹珠のために作った『月水兎』のぬいぐるみだ!ほ、ほーれ樹珠!これをあげよう!」と、確かにあの時に世話になった月水兎によく似たぬいぐるみを手渡された。
そして「あ、えっと、大丈夫だよ、歴兄。私に気を使わなくていいから。」と断った。「そ、そうか!じゃぁ歴兄がもらっておくな!ははは…」と言いながら去って行った。きっと今からほかのぬいぐるみと一緒に並べて鼻歌を歌うのだろうと予想した。
「鬼オタクめ…」と巫廻兄と一緒に呟いた瞬間、巫廻兄と私は爆笑した。
「あ、そうだ。樹珠、もし人界へ行くなら百鬼夜行の時にするか?その方が十分安全だと思うからな。」と巫廻兄は言った。だけれど私は「ううん、普通の時にするよ。その方が人は自然だからね。あと、誕生日のお祝いはいらないよ、人界への長時の旅…が欲しいから。」といった。
巫廻兄はふっとわらい、「流石父上の娘だ。」と言って頭を撫で、「よし、そうしようじゃぁないか!」と勢いよく言った。
そして、私は小鬼からの覚醒を遂げ、急いで旅支度を始めようと、宴会から飛び出した。
提灯が幻のように光る、夜空の星が魔法のように流れて行く。蛍が飛び立ち宴会の声は続いて行く。いつも見ている変わりない光景なのに、「美しい」と涙を流す。人の世ではこんなに幻想的ではないだろう、だけれど心が弾むと同時に自分が今まで一歩も出なかった見慣れた世界を離れるということは自分にとっては恋しいような心境だった。
部屋に走り込み、涙を流しながら旅支度を済ませた。なぜか手も涙が止まらなくて家の門をくぐった時には目が痛いぐらいだった。星が宇宙という野原を駆け抜ける白狐のように流れた。「あぁ、やっと一歩めに踏み出せた。」家の門から出た一歩めはずっしりしていて、確実だった。私が知らなかった楔が、解放されたのだ。夢のような夜空に手を上げた、もうここには長い間戻らないだろう。けれど、それで良いのだ、私はやっと『人生』と言う名の戦争に参戦できるのだ。
強き者には目を見て話を聞き合い、弱き者には守り導く。私の命は長い、心臓が刺されても死なない。彼らの命は刃物一つ、病一つで簡単に消え去る。それを承知しつつ生きて行く人間がどのように思い、考えながら生きているのだろう。短い瞬間の永遠を、私は見続ける。いつか自分もまた、長い瞬間を生きている彼らと共に『人生』という名の戦争で戦えるように。
——チャリン
鈴が鳴る音。
——うふふ、きゃっきゃ、ははは。
人が嬉しそうに笑う声。
——ポタポタ
自分の涙が地面に落ちる音。
なんて、なんて素晴らしいのだろう。幻空の絵のような空はなく、星は降っていなかった。
けれど、思わず涙目になる。醜く美しい空、小さく縮んでしまった星の数々、けれども「美しい」と言わずにはいられなかった。緑の草は私の足をくすぐる、けれど心地よかった。
巨大の梅の木の下、私は人界の空を見ながら眠った。硬い地面の上で、生きている実感がする、お腹が空けばお腹を抱え「おにぎり持って来ればよかった」と笑いながら後悔した。
明日の予定なんぞ無く、立てる気にもならなかった。
外は肌寒かった、けれども心地よかった。
なぜか?
それは私の夢の中ではもう既に桜や梅が満開の春だったからだ。全てがめんこい色で包まれて、自分は一番大きな梅の木の上で居眠りをする。そして、青い百合を持った青年がこちらへと歩いて来た。なんだろう?と私は思い起き上がると彼は
「なんて、美しいのだ。」と呟いた。
そこで、愛しい夢は途絶えた。が、肌寒く起きた朝でも、その夢の内容はまるで現実であったかのように鮮明に覚えていた。
顔を見れなかったことに深く後悔した。けれど、夢は夢なのだ。
覚えていないことは覚えていない。見覚えない景色は私がいる場所では照らし合わせることもできない。覚えていることは桃色の空と花、空色の青百合そして青年。
「美しい」と言っていた。
私がか?私が美しいのか?
信じられない、鬼種の中ではまだ私は小鬼から少し進化しただけの中鬼だということなのに。
見た目はまだ子供だ。鬼の目からしても、人の目からしても。
まさかとは思いたくはないが、幼女趣味…?いや、それはいくらなんでも言いすぎか。
「一つの可能性が『予兆』」
未来を言い当てるということだ。これは一応脈ありなのかもしれない
最後の可能性、色々不自然なところはあるが、一度受けた影響なのでもう一度発作する危険性もあるためこれも考えておこう。
「主様が私に受けさせた『試験』の副作用。」
私の目線からして、副作用は『扉を開くための条件を飲んでいない』のに、扉を開けたことにあったのだが、可能性としてはまだまだ副作用が完璧に取れていないのかもしれない。
巫廻兄も大体言葉の反応類で試験を受けたに違いない、これは明確。
もうちょっと情報を聞き出すべきだったと今になり後悔する。
無論、戻るつもりは一切無い。
日が昇る、本当だったら眩しくて直視できないものなのだが、なぜか目がはっきりと昇る太陽を見守った。記念日のような感覚なのかもしれない「人界での第一日目」この日を絶対に忘れない。なんとなく、これからの生活を考えてみた。あぁ、人を食わなければならない、自分のために。
人と一緒に戦い学ぶと決めた、それは決して変わらない。が、自分の生死のためにも食せねばならぬ時は強制突破なのだ、戸惑いは無論躊躇なんぞしてはいつか陰陽師の類の人間が必ず私を殺しにかかってくる。注意しながら生きていかなければならない、こんなところで死んでたまるか。
こんなところで、死んではいけないのだ。
わたしは、おいかけるのだ。