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《鬼神族》  作者: 鬱っぽいダラダラ星人
長女 梅木樹珠
18/25

第18話:立ち話はなんだ、中で話そう

読み(主に名前類):


梅木樹珠:うめきじゅじゅ

歴歌留多:れきがるた

主様:ぬしさま


なんとなくキモいなと思ってたアニメのバトルシーンがかっこよくて興奮してました。←「やれやれだぜ」で察してください。

  底なしの弱虫、それが私。



その勝手な一言が、私の身分勝手を証明する。


昼の光、

夜の光、

朝の光を浴び疲れて。


道とは、進んでできたもの。だからこそ私は道を作るために生きていかなければならない、生まれながらの欲の意思を背負うために私は生まれてきた。大勢の人間たち、鬼たちを通すために、それほど大きな道を私は抱かなければならない。


それでも、私は自分を連れ戻されにここへ来た。


私の愛してやまない家に。



空は黒く、美しい星空が目を刺す。人界で流れ星は鬼の死の意味、人間が鬼の判断材料を否定しヒトへと一歩進化したこと。異界では流れ星はヒトの誕生の意味、人間が鬼の判断材料を否定し幽霊が成仏したということ。我々は何をすることもなく、ただただヒトの誕生を祝うことだけしかできない、少なくとも下鬼たちは。鬼神族はみなヒトの誕生とともに自分の類の一匹を亡くなりを笑顔で越えていかなければならない。


「また一匹元通りの姿になった。」と。


正真正銘鬼神族の血を引いていた母上が流れた時、それはもう大きな祭りがあったそうだ。主様も、兄様たちも、一番悲しんでいるはずの父上だとて参加した。自分の元相棒の妻の亡くなりを、自分たちの母親の亡くなりを、愛しい自分の妻の亡くなりを、祝った。


人間が否定しなければ、母上も今まで生きていた。


私には母上との記憶はないものに近い、生まれた時から母上は否定され始めていたからだ。彼女の体はもうすでに手遅れで、魂が生きたまま体が死んでいった。


窒息、何よりも静かで痛苦しい死に方。



門番が門をゆっくり開け、自分が何年か前に勇気振り絞り門をでたことを思い出す。その時私は夢で溢れてて、人生という戦を人間たちと友にすることを心に誓った。私は今、勇気を振り絞ろうとしている。絞って、門に入ることを心に命じる。


軽く、肩を叩かれた。



「やぁ、樹珠ちゃん。やっぱり君は合格者だね。」


その声は主様であった。瞬間的にみて思ったことは、『小鬼だった頃とはほぼなにも変わっていな』だった。しかしよく見ると、真っ黒な艶のある髪の毛に白い線が多く増えた。白髪とは違う、艶のある髪が。左片方の目は豹のような野生な模様と黄金色に変わっていて、右片方は何も変わらない血の色。肌は出会った時と同じ雪のような白だったが、所々全く違う人間の体の部位を繋げたような傷跡があった。


左目、右耳、右手、左手の人差し指と小指、右足の踵骨まわり、左足の指三本。主様が右耳につけていた、いつでも落ちてしまいそうな耳飾りも消えていた。


「主様、お久しぶりです。」感動と不思議を隠しつつ挨拶をする。主様がどれだけ年上であろうとも、子ども扱いはされたくはない。


「うん、ずいぶん大人っぽくなったね。」二重した声はまだ主様の喉にはあっていなく、彼はすぐに咳をした。

「私の記憶力の問題なのかもしれませんが、主様随分お変わりに成られましたね。外見とかが特に。」


「うん、そうだね。たしかにそうだ。新しくなった僕の見た目は、化け物になっただろう。声だってもう自分だけのものじゃなくなってしまったからね。」


自分のものだけじゃなくなってしまった。

人食い慎吾の物語に特に重視されている教訓、何事も関わってしまったら自分だけの問題じゃなくなる、関わった者達の問題となるのだから。


だけれど、体と声はなぜ自分だけの者じゃなくなるのだろう。心を読んでいたか、それとも不安なそぶりを見ただけでわかったのか。


「僕の声をよく聞いてごらん。」顔の筋肉など使っていないように主様はゆっくりと喋った。そこには確かに主様の声があった、だけれどもう一人、声がしていた。



「白豹鈴蘭、おぼえているかい?」

おぼえています。

「そうかい、じゃ分かるね。」

はい。

「前に君と出会った時、僕は耳飾りをしていたね。」

はい、右耳につけていらっしゃいましたね。

「うん、取れたんだよ。君のお母さんが空から流れたちょっと後に。」

それがどうしたんですか?

「封印だったんだ、鈴蘭との約束でもあった。鈴蘭がね、いろんな約束をその耳飾りに込めていてくれたんだ。」

どんな約束だったんですか?

「…それは家の中に入ったらに教えてあげようか。」

それは随分酷ですね。

「又々試験だよ、さぁ、君は勇気を絞れるけど、昔みたいにその絞った勇気を出すことができるかな?」


主様の容姿はいつまでも若々しく、きれいで優雅である。彼は鬼とは違う『人ならぬ者、妖ならぬ者』だけれど、同時に『人である者、妖である者』でもある。一見半鬼とは似た様な存在だと思われるが、主様の存在はもっと奥深い。


鬼と人間が命を編み出すという単純な半鬼の作り方ではなく、主様は正真正銘の『二人』で作り上げられている。食われる側と食う側で出来上がっている正真正銘

 白豹鈴蘭の体と、人食い慎吾の体を縫い合わせる様な形で生まれ堕ちた命はやがて鬼神族の長の頭さえ重くする。それほどの命の価値を、主様は生まれついたときから縫い合わせてある。


絞った勇気を出すこと、昔にはできて今ではできないから小鬼の頃の自分自身が妬ましい。たったの一歩、それがどれほど重いのか今痛感する。これはまた試験である、わたしは主様の試験を合格したことがある通過者。さっきだとて、主様はわたしを合格者と呼んだ。これはたったの一歩だ、家に帰るための一歩である、恐れるものは何もない。


下駄で土を踏む音、確実でしっかりとした音。


兄様が心配なんだ。


小さい頃に大きいと思った家の門は今では小さく感じている、人間はそれを『懐かしさ』と呼んでいた。我々鬼はそれを『錯覚』とよぶ。鬼が感情を持っているということは感情の鬼とやらと賭けをしたことになるが、鬼と鬼がなにかしらの判断のために賭けることは絶対にない。法もあるし、何より鬼同士が賭けをすると結果は必ずお互いの死であるから。


私も十分博打をする幽霊だなと思う。


「おかえり、樹珠。」歴兄を久しぶりに会う。


主様だけではない、この家に住む者たちが変わってきているのだ。


「ただいま、歴兄。」

「懐かしいな、その呼び方。」手で笑みを隠した。


「まぁ、家を出たときからここでの思い出は止まっているので。」

「そうか。」肩を竦め、ため息をつくように言う。

「髪をお切りになられたのですか?」

「あぁ、」過去を思い出す、遠い目で私を見る。

「お相手は。」

「いないよ、君の未来と僕の過去の狭間で消えてしまった。」


私の未来と、歴兄の過去。


「隙間で未来の場を辿ったのですか?」

「あぁ、本来はあまりしてはいけないことなんだけれどね。」

「そうだったのですか?」

「あぁ。」


隙間とは、鬼神代々受け継がれる力のことである。父上はもともと鬼神族の者ではないため、使うことはできないが、母上の子である我ら三鬼はそれが可能である。私が兄様に手紙を送るために手紙を隙間の中に入れ、兄様が隙間からそれを取り出す。いわゆる、空間を弄る力だ。聴くには、『力の鬼神』を倒すために編み出された力だと聞くが、私は母上から何も聞いていない。


未来と、過去と、現在と空間を結ぶ『隙間』は危ない物事とされ、鬼神族当主だけが自由自在に扱って良いという我々の一族が作り出した法が存在する。

未来とは、知ることによって変わる、いつ消えてもおかしくない不安定な世。過去とは、頑固な凍ってしまった未来、行くことによって今までの現在をねじ曲げる危険な世。現在とは、『道』という未来を作り出すために必要な試練、存在することによって自分が生きている証拠を作り出す厳しい世。



それら全てを弄り回せるのが『隙間』世の中の欠けた物。


「歴兄はなぜその行為が許されたので?」

「名の通り、俺は歴史の番人、時の鬼神だからだよ。」

「新たに鬼名を背負ったのですか?」

「そうだよ、また見ぬ人間の世を行ったときにね。」

「だから許されたと。」

「あぁ。」


納得がいった、なぜ自分を『俺』という第一人称をしていたのかがわかった。未来ではそういう言葉で『我』を表すのだろう。髪の毛が切られていても整えられているのかもわかった。


「未来で、思う者が居たのですか?」

「いたよ、消えたけれどね、魂を食べる暇もなかったさ。」

「人間だったのですか?」

「初めて、あの阿呆兄貴の気持ちと、君が人界へ惹きつけられるのかがわかった気がした。」

「そうですか。」

「消えてしまって、諦められなくて、もう一度辿って、後悔して、一人で背負おうとして、主様と兄様に心配をかけてしまった。」


初めて聞いた、歴兄が兄様を『阿呆兄貴』ではなく『兄様』と呼んだことを。


「主様と兄様もこの件で変わってしまったのですか?」

「いや、主様はお前が出て行ったときに間違って覚醒してしまったのだ。被害者はたくさん居たさ、森も動物たちも、人間にも。あの阿呆兄貴は、俺があちらへ行った数ヶ月後におかしくなった。」

「主様が間違って覚醒した?」


静寂、歴兄が思いつめた表情をしている。


「前から、樹珠と出会う前から、あの人は不安定だった。主様はそのとき『人食い慎吾と神主』の物語の真実を知っていたし、自分がその末路だとも認識していた。だけれど、それは認識程度だった。」

「認識程度?」

「あぁ」


そんなことはないはずだ、主様は白豹鈴蘭を友人のような眼差しで語っていた。


「あの頃の主様は急に『慎吾』になったり、急に『鈴蘭』となり、急に我らが知っているあの二人と神獣夜見が生み出した『不完全品』が出てきたりしていた。」


「じゃあ覚醒したということは?」


「何立ち話をしているんだ」


嗄れた声が聞こえた。戸のところに立っていたのは目つきの悪い一本角を持つ鬼神『殺戮の鬼神』我父上が立っていた。


「父上、いつからそこに?」歴兄が問う。

「人界へ長い間旅していた娘を父親が迎え入れるのが何かおかしいか?それにお前にはお見通しだろう、わからんのなら読め。」

「そんなくだらないことで過去を読みませんよ。」


一度咳をして、父上は私をみた。


「久しぶりだな、樹珠。」

「えぇ、お久しぶりです。」

「父親と会っている実感はないだろう。」

「いえ、度々とは会っていたので、なんとなく感覚はあります。」

「そうか、ならよかった。お前の母上はどうなったかは知っているな?」

「えぇ、ヒトになられて、天界へと行ったと空を見て知りました。空を見なくとも、母が流れてしまったという悲しさは感じられましたが。」


いま思うと、母上とは度々としか会っていなかった。体は弱く、力強い鬼の力に耐えられず、静かに生きていた。いつも横になっていたけれど、たまに体が調子がいい時私と一緒に人形で遊んだり、架空の物語を聞かせてもらったり、一緒に絵も描いたりした。

母親という感覚より、久しぶりに一度しか会えない大好きな友達、という感覚だ。


母上はいつも優しい笑顔で、体温は少し冷えていたけれど、人界での太陽みたいな暖かさの匂いがしていた。


「もう、会えないんですね。」


「お前の妹も、すぐに消えてしまった。」


「妹?」そんなこと聞いたことない。


「あぁ、お前の母上が天界へ行った後、彼女の布団の中に赤ん坊がいたのだ。なぜ彼女の子だとわかるのは、彼女にそっくりであることに加え笑顔が生き写しのように似ているからだ。」


「すぐに消えたというのは?」


「成長はお前の兄よりも早かった、一日置きに成長して行った。正直驚いた、あれだけ成長が早い鬼は初めて見たからな。だけれど、多分あれはわしとヒトとなったお前の母上の間で生まれた鬼なのだと思う。目の片方は鬼のように鋭く、もう片方はヒトとなったばかりのお前の母上の目にそっくりだからだ。」


「消える前に鬼名などは残していきましたか?」


「あの赤子を見つけた七日後、あの子は自分を『告死の鬼神』と名乗った。」


「そんなことはあり得ない、だってあの子は人間のいずれの死が決定された後に生まれた子でしょう?」叫びをあげそうになった、けれど父上は冷静に私の知らない消えた妹のことを話し続けた。


「だからヒトと鬼の血を持つ子なのだ。」


「消えたというのは?」


「あの子も人界に行ったのだ、お前とは少々違う場所でな。隙間を通ったらしい、もっと昔の人界へな。」




「そこを通った後、あの子は後ろも振りかず、そのまま帰ってこなかった。ただ、生まれたばかりの星が一つ、流れたことはわかっている。さぁ、何を立ち話をしているんだい?家はすぐそこだろう、中で話そう。」主様の声がしなやかに流れた。


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