第1話:欲の花、梅花
読み(主に名前類):
梅木樹珠:うめきじゅじゅ
巫廻麗刄:ふみつば
歴歌留多:れきがるた
初めての投稿ですので、今現在絶妙な興奮状態でございますゆえ、気にしないで温かい目で読んでいただければ幸いでございます。
人は鈍感だ。
我ら鬼も見えず、見えた時には怯え、逃げ出す。こちらの気持ちも知らないで。
自分勝手な生き物、それが人間。人間が自分勝手できるのならば、私も良いのでは?と思い、
私は『欲を食らう赤き鬼』と成り下がった。
ーー要するに、ひどく自分勝手となった。
小さい頃から兄者から言われてきた。
「樹珠、人はそうゆう生き物だ、人の友達を持つなど…諦めなさい。」一番上の兄者、巫廻麗刄は優しく微笑み、私の頭を撫でで誤魔化す。しかしその手口、もう何度も見てきた。
「なぜですか?兄者もまた人を好いているではありませんか。しかも、人にすらなれなかったなり損ないを主として慕っている。」と、何度も「なんで」を繰り返す。
兄者は小さな子供にはめんこいからと言い優しくする。だけれどその優しさの裏腹に、とてつもない冷たく邪悪で恐ろしい彼がいる。そう、鬼がみな自分を守るため備わっている性格。
「樹珠、あの方について二度と口を開くな。お前にあのお方について話す権利も関係すらない。」
殺気が溢れ出て私の足はすくむ、怖い。
小腹が空いた。と兄者は嘘を言い、「なんであんな態度をとったのだろう」と、自分の部屋で自己反省会を開き行う。さっきまでは閻魔のような恐ろしい顔をしていたのに今は涙目。それを見るのが楽しくてついつい同じことをし、怒らせる癖が芽生えてしまう…もうすでに花は咲いたのだけれど。
だけれど、最近私の「良い趣味」はもう一人の兄者…歴歌留多(歴兄)にチクられてしまい、最近兄者の自己反省会の高みの見物(盗み見)がばれている。
「…樹珠…見ておるな?」と兄者はニヤリと笑い、私はその悪意を悟り瞬時に自分の部屋へと全力疾走を始める。『女の子の足をなめるな!』と思いながら走っていると、
「樹珠〜大人の足をなめちゃならぬぞ〜!」と、大人気ない兄者に捕まり、癒しの求めとしてざっくり五時間の抱っこを要求される。
『いや、最悪じゃこの展開。』と思ったことはもう何度目か…と切なく内心涙を流す。
そして、我らのようなか弱い子供には必ず英雄がいる。その光が眩しくて、また泣いてしまった。
「…なにやっとんじゃこの変態兄が…」と、歴兄が兄者を軽蔑する目できた。
『よし、助かった。』これで一安心と思いきや、逃げる私の足を兄者が掴み道ずれに10時間の兄者軽蔑会に強制出席させられた。
あっという間に日が暮れて、晩御飯を食べていると同時に最悪な今更感が襲ってくる。
「あっ、朝ごはん全然食べてない!!」
そして、朝御飯作成者、歴兄に兄者と二人で全面的に謝罪をし、もうお腹いっぱいなのに、カピカピのご飯を食し、私たちの一日が終わった。
兄者が殺気を出すくらいに話したがらない彼の「主様」には、一度だけ会ったことがある。
何百年経とうが忘れない最悪の日。
その日は兄者の主様が津波で流されてしまったため、宿の予約まで一日、我ら家へ泊まりに来たのだ。
兄者は主様の部屋の準備を私にさせようとしていた。目が必死だったので、やろうと思ったのだが主様が
「えぇ〜話し相手はお前みたいな男前ではなく可愛らしい女の子がいいなぁ…そしたら飽きないだろうし、ね?君も力仕事は嫌でしょう?だから、巫廻が部屋準備してよ。」と、結局兄者が部屋の支度をせねばならなくなった。嫌々に客部屋へ足を踏み入れる兄者が少し心配になり、「本当にいいのですか?」と兄者に確認した。胸騒ぎがする、本当にこのままで良いのかと。
兄者は少し希望を見つけたような目つきをしたが、兄者が主様の顔を見た後ため息をつき「いや、俺がするよ、樹珠は休んでいなさい」と言われた。やはり、何かいつも通りじゃない。
歴兄も、私を台所へ連れてこようとしたが、主様がいつも話をふっかけてくるので歴兄は会話に割り込まず、いつも通りに晩御飯を作り始めた。兄者二人とも、ため息ばかりついているような気がする。
結局、私と主様が残った。気難しい雰囲気。兄者が話したがらない、元有名な人食いでなり損ないの人間。
どうしよう、何を話そうか。そう思っていた時に、主様の口が開いた。
そして優しい声で「樹珠ちゃんは誰かと契約しているのかい?」
契約?なんだそれは?
「…い、いえ…?」と、慎重深く警戒心高めで答えた。
「ははは、やだなぁ樹珠ちゃんーそんなに怯えなくていいよ?あ、もしかして巫廻のやつになんか吹き込まれた?信じてはいけないよ、あいつは過保護すぎるんだ。そもそも俺にゃ幼女幼男の趣味はないから、そこんとこ安心して」とへらへら笑いながら言う。
思ったよりも兄者の主様は若い人だった。兄者と同じ黒髪で、仕草は優雅で綺麗だ。いい匂いもするし、彼の体温は触らなければわからないけれど、きっとお日様の光のような暖かさだろう。本名も呼び名も知らないから主様。こんなに優しそうな人が星と砂の数の人を殺し、食っていた?ありえない。そう心が言う。
「そもそも、契約とはなんなのですか?」と私は聞く。
その質問を聞いた後、主様は目を丸くして、そうか、とつぶやいた。
「うーん…そうだねぇー…いや…ん?あ、そうか、そうだな。」といい、「まぁ、まとめて言ってしまえば、お仕事だよ。巫廻麗刄…いや、君のお兄ちゃんが俺の所で働いている代わりに、働いた分の給料…お金をあげているのだよ。あー、やっぱり君にゃちょっと説明するには難しいかな?」と笑った。
その後は茶を啜り「あ。茶柱立ってる」と茶柱を観察しながら微笑んでいた。契約とはなんだろう。主様の言う『お仕事と給料』…それは理解できる、完璧に。けれど、それ以外にも何かあるきがする。もっと重要なことが。これは鬼としての勘ではなく、確信に近かった。
「…契約とは本当はなんなのですか?主様…いや、人のなり損ないよ。」
と、喧嘩をふっかけた。兄者が異様に優しかったのは元からだろう、けれどその性格はきっとこの人から受け継いだものだろうと思った。だから兄者と似たような喧嘩終いだろうとおもっていた。
その考え方が、すでに子供より幼稚だとは知らずに。
「ははは…」
一瞬、狂気を感じた。「何がおかしい」と私が言う、自分ですぐに気がついた。声も体も震えている。
彼、主様の顔を直視できない。
怖いと、心が、脳が叫び散らす。
その心の声もうざったい。けれど共感するしかなかった。
長い一瞬、感じた狂気は目の当たりにした。
もう引き返せないということが嫌でもわかった。