第3話 融合
セレスティアは兄の事を説明するために足早に父の仕事場に来たが扉の前についたところで一度深呼吸をすることにした。だいぶ焦ってるみたいだから落ち着いて事情説明を出来るようにするためだ。そしてコンコンと扉を叩く。
「お父様、今お時間よろしいでしょうか?早急にお耳に入れたいお話がございます」
「ああ、セレスティアか構わん入れ」
「失礼致します」
そう言って部屋に入ると年齢の割には若々しく白髪の一本も無い父フランク=アルムが厳格な雰囲気をかもち出して椅子に座って書類仕事をしていた手を止めてこちらを見た。
「おはようございますお父様」
「おはよう。どうしたセレスティアがこんな朝から仕事場に来るなんて珍しいな」
いつもは親バカと言っていいほど子供たちに甘い人なのだが、仕事場では厳格な雰囲気を突き通すことにしてるのかいつもとは違う厳しめの口調でセレスティアに問いかけた。
「…っそれがお兄様の様子がおかしいようでして」
「ベルンハルトが?…何があったか話してみろ」
いつもと違う父の雰囲気に若干ひるんでしまったが今朝の話をする事にした。
「はい、実は…」
そして、セレスティアは父に兄の身に起こったことを述べていった。起きるのが遅かったこと、起きたと思ったら苦しみ出して血を出したこと、自分がまた眠らせたこと。これらを話していると父も流石に心配になったのか仕事を後回しにすることにしたようだ。
「ふむ、ベルンハルトがそのような事態に…とりあえず私も容態を見てみることにしよう。セレスティアはユリアーナにも伝えてくれ。私は先にベルンハルトの部屋へ行く」
「かしこまりました。お母様も呼んできますね。えっとどちらにいらっしゃるのかしら?」
父の居場所は絞りやすいが母はなかなか絞ることが出来ないのだお茶をしていたり、花を見ていたり、本を読んでいたり、父の仕事の手伝いをしていたりと、屋敷内を転々とすることもあるので探すのがなかなか大変だったりする。しかし今回は屋敷中探し回る必要は無いみたいだ。
「ユリアーナなら先程庭で花をいじると言っていたぞ」
と、ありがたい助言をくれたので早速探しに向かうことにした。
庭についたもののかなり広めの庭なので人ひとりを探すのは苦労するものになっていた。
「さて、お母様はどこかしら」
庭で花をいじると言っても自分より高い木が迷路みたいになっていたりするところもあるから探すのは大変なのには変わりなかった。でも今日は、そんな奥の方まで入り込んでなかったみたいなのですぐ見つけることが出来たようだ。
「お母様!」
と、見つけたのが嬉しくて思わず声を上げて母の元に走っていって抱きついてしまった。
「あらあら、どうしたのティアそんなに慌てて。そんなに急がなくてもお母さんは逃げないわよ」
「いや、逃げてるつもりはなくてもなかなか捕まらないのがお母様なんですよ…」
ユリアーナ=アルム、栗色のウェーブのかかった髪を背中まで伸ばしていて普段はふんわりした雰囲気の柔らかい人だが父の話によると昔は世界中を飛び回っていたとか。食事中に何をして飛び回っていたのか話そうとした父が怯えた表情をして口を噤んでしまったので、実の娘ですら正体が微妙に不明な人なのだ。
「それでどうしたのかしら?あなたがそんなに慌てるなんてあんまり無いことだわ」
抗議の視線をしれっと流して私に説明を求めてきた。私はハッとして父に説明したことと同じことを説明したら。
「それはあなたも怖かったわね。よく伝えてくれました。さっそくベルも心配だから部屋へ行くわよ」
そう言って頭を撫でた後ほんわかした雰囲気を引き締めてベルンハルトの部屋へ向かっていった。
ベルンハルトの部屋へ行くと父が既にいたので母を探してきたことを報告する事にした
「お父様、お母様を探してきてきました」
「うむ、ご苦労だった」
「あなたベルの様子はどう?」
「今はぐっすり眠ってるようだね。良い魔法の掛かり方だったようだ。よくやったセレスティア」
「いえ、このくらいのことならいくらでも。それよりお兄様は…」
「いくら医師としての知識があってもこうも外傷が何も無いとなると難しいな。魔法の効果は切れてただ眠ってるだけのようだから目を覚ました時また同じ症状が出るようだったら対応するしかあるまい…」
と、父は何も出来ない自分を無力に思ったのか悔しそうに歯噛みしてそう言った。しばらくの間部屋に重い空気が流れたが母が口を開いた
「このまま何もしないでいてもどうしようもないしあなたは仕事に戻りなさい」
「しかし…」
「と言っても、放置してたら心配で仕事に集中出来ないでしょうからベルのことは私が見ておきます」
「うむ…かたじけない」
そう言うと父は仕事場に戻っていった。
「お兄様…」
この都市で一番の医師としての姿を持ってる父ですらお手上げということは今のこの都市で解決できる案件ではないのだろうと思いもう目を覚まさないのではと不安になりベッドで寝ているベルンハルトの手をぎゅっと握った。
「ティアも心配だろうけど学校があるでしょ。あなたが学校行かなかった理由が自分だとわかったらベルも責任感じちゃうかもしれないから行ってきなさい」
「お母様…ですが…いえ、分かりました行ってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
母は優しく微笑んで私を見送った。
「ティアと夫に言った手前目を離すのはいかがなものかとも思うけど時間つぶしのための本でも持ってこようかしらね」
そう言ってユリアーナも一旦本を取りにベルンハルトの部屋を出ていった
(どこだここ?夢か…いや、違う気がするな、記憶がある。この家で暮らしてることをしっかり覚えているな、けど俺はこんなところに住んでた記憶なんて……俺?矢守刀輝だよ…な。あれ?でもベルンハルト=アルムって呼ばれても違和感はないな)
誰もいない自室で目を覚ましたベルンハルトは困惑していた。さっき目を覚ました時はなかったと思う記憶が増えていたこともそうだが、なにより知らなかったはずのことだと思われる事柄が知識ではなく、しっかり経験として身についてることがあるからだ。それに矢守刀輝が死ぬまでの記憶がある程度思い出すことが出来る。
ベルンハルト=アルムとしての記憶も思い出すことが出来た。
自分の体を見てみる限り刀輝では無くベルンハルトの身体だろう。
実は生きてましたみたいなご都合主義にはならなかったみたいだ。
(今朝見たものは夢ではあるが俺の記憶の一端でもあったのか)
二つの記憶の世界が全然違うことを考えると刀輝は生まれ変わったという事になる。前世の時にそういう類の本をいくつか読んだことがあるが。
(信じ難いけど実際俺は死んだはずだしな。誰に殺されたかは…分からないな)
あの2人組は恨めしくはあるがもう死んでしまってあの世界には戻れないであろうから気にしないことにした。
それよりも一緒に刺されたはずの紗矢はどうなったんだろうか。俺みたいに転生してたりしないのか…
「ぐぅ…」
など現状にある程度整理がついてほかのことを考えていると朝から異常に頭が利用されたからか空腹が限界に近づいていたことに気づいた。
(そう言えばティアが起こしに来てくれたけどそのまま倒れ込んだから朝ごはんも食べてないのか)
そう思ってベッドから降りようとしたところで来訪者があった
「あら、ベル目が覚めたのね。大丈夫?気分が悪いところがあったりしない?」
本を取りに行っていたのから戻ってきた母が声をかけてきた。
「母上…心配かけてしまって申し訳ございません。この通り身体にはどこにも異常はないです」
含みのある言い方にも聞こえてしまったかもしれないが今の母には気づかれなかったようだ。
「あら、そう?でも今日1日は学校休みなさいよね。ティアの話からすると血とかも出てたようだから今日は家にいなさい」
「そう…ですね、分かりました。あと母上、お腹がすいたので朝食にしたいんですけど食堂行けばいいですかね?」
「そうね、今料理長に作ってもらうわね」
そう言ってパタパタと小走りで部屋を出ていった