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極東のリンカーネーション  作者: 冬菊
第1章初めて見る世界
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第1話 前世

 矢守刀輝(やもりとうき)は大学生であった。

 その日は寒く雪の降る日だった。


(明日は起きたら雪かきしないとダメになりそうだな)


 明日の朝の重労働の事考えて気だるげにキャンパス内を歩いていた。

 道中、時折女子生徒達から刀輝を見かけて黄色い声が上がる。容姿端麗で、槍術や体術もやって鍛えていることから体格が良くなっている彼はキャンパス内外問わず注目の的だった。

 だが、誰も彼に言い寄ったことがあっても告白したことは無い。なぜなら皆彼と、ある女子の距離を測りかねていたのだ。


「とーき冬休みのどこか空いてる?」


 そう言って小走りで声をかけてきたのはくせっ毛がなく艶のある黒髪を特に結んだりせずに腰あたりまで伸ばしている、まだあどけなさはあるものの凛とした雰囲気の少女だ。名前は胡弓紗矢(こきゅうさや)。刀輝の幼なじみの少女だ。実家が弓道場で、紗矢も全国大会上位に入る実力者だったが今は引退している。だが、今まで培ってきた技術が無くなるのが怖いので今でも弓道をゆるくやっている。


「うーん、基本は練習が入ってるかな。」


 と刀輝が言うと顔が少し曇ったが紗矢はすぐに笑を取り繕った。


「…そっか、そうだよね、練習がんばってね。」


 そんな表情をされると刀輝も素直にありがとうとは言えないわけであって。


「と、言ってももうほとんど自主練だから休んでも問題ないよ。」

「っ、ほんと?」


 と若干嬉しそうに食い気味に聞き返してきたが


「で、でも私の都合のために自主練時間をなくすわけにはいかないよね…」


 と次は自信なさげに遠慮し始めた


「大丈夫だよ、紗矢何か用事あるんでしょ。練習よりそっちのほうが大切だよ」


 刀輝は優しく微笑んだ。

 紗矢は恥ずかしそうにうつむいて顔を赤らめた。

 刀輝は練習も大切だとは思っているがそれもりも大切なのは人間関係だと思っているそれを崩さないためには練習を少しサボる程度問題はなかった。


「な、ならさ。お出かけできない?ふ、2人っきりで」

「ふ、2人で?う、うん。問題ないよ。どこに行くの?」


 さすがにそう恥ずかしがって言われるとこっちまで恥ずかしくなって言葉に詰まってしまった。


「この前先輩から2泊3日ペアの温泉旅行券もらったんだ。よかったら一緒に行けないかなって。」

「に、2泊3日で温泉・・・」

(おっと、いけない妄想の世界に沈みそうになってたな…しかし、なぜペアの相手が俺なのか)

 こんな話をしているのが周りの人の誤解を生んで噂が1人歩きすることが間々ある。まあ、ただの杞憂に過ぎないのだがそう言うにしてもあまりにも2人の距離は近かった。


「君たちがこの辺りで有名な道場のリア充の子供達だね?」

「っ…はい?あなたの言う道場がどこかわからないので。お答えしかねますが…どなたですか?てか、リア充じゃないです」


 突然人が現れたように感じたのでびっくりしたが、知らない人のぼんやりとした質問に素直に答えるのは忍びなかったので素性を探るためにも質問で返した。あと一応反論も。


「おや、これは失敬。私はとある研究所に雇われたものでして、当研究所の実験に参加してくれる有名な道場の強い子達を探してたんですよ」


 と、男は慇懃に告げてきた。


(なんだこいつ、流石にこんな怪しい話誰も乗らないぞ。とりあえずここは…)

「……そうなんですか、どのみち俺達には関係ない話ですねその道場の門下生でも無いので。ほかを当たってください。そもそも、なんの実験かもわからないのでそんな話誰も乗らないと思いますよ…っ」


 刀輝が話終えた途端男が急に接近してきてぶつかられた。いや、それだけならまだ良かったのだろう。


「いえいえ、元々納得してついてきてもらおうとを思ってなかったんですよ。実はすべて調べがついていて元からターゲットはあなた達だったんです」

「がっ、はっ」

「とーき!」


 紗矢の悲鳴とともに焼ける様な熱さが自分の胸元から広がっていった、視界がチカチカする。自分の胸元を見てようやく状況を理解する。あろうことか男は刃物を突きつけてきていたのだ。刀輝は咄嗟に紗矢に告げた。


「ごほっ、さ、紗矢逃げろ!」

「で、でも、とー…」

「いいから早く!自分の家まで走って逃げろそして警察に連絡しろ!」

「あ…う、うん」


 戸惑ってる紗矢がなにか言おうとしたがそれを遮ってもう1度逃走を促してようやく逃げ始めようとした。が、男は突然口をあけて


「逃がしませんよ?」

「きゃっ!」


 紗矢が走り出した瞬間人にぶつかって尻餅をついてしまった。


「ごめんね、君たちには死にかけてもらわないといけないから逃げられちゃ困るんだ」


 そう言っていつからそこに居たかは分からないがもう1人居た女の人はいたたまれなさそうな表情を浮かべ紗矢の心臓にも幾何学模様の付いたナイフを刺した。


「はっ、くぁ…」

「さ…や」


 刀輝もナイフを抜かれ立っていられなかったから膝をついて耐えようとしたがそれも叶わなかったのでうつ伏せに倒れてしまった。隣であお向けに倒れている紗矢に向かって手を伸ばした、紗矢も手を伸ばして手を重ねあった。

 そして、2人の視界は暗転した。微妙に残った意識の中で刀輝は「なぜこんな死に方をしなくてはならない、まだやり残したことがあるというのに。てかそもそもまだリア充じゃない!なんで嫌がらせみたいにそんな言葉を使ったんだよ!」など憎しみが湧き上がってくるが死にゆく自分にはどうしようもない

 そして刀輝と紗矢の身体は生命活動を止めた



「はぁ、後味わりぃ仕事だな」


 先程まで慇懃な態度だった男は粗野な雰囲気に早変わりした。


「仕方ないでしょ、いい人材をあの研究所が持ち合わせてなかったんだから」

「まあ、あんなインドアな連中ばかりの研究所ですしね。てかそもそも研究員なんてそんなもんすかね」

「ほら、ぐだぐだ言ってないでさっさとこの2人を運ぶ」

「へいへいっと。」

「ようやく見つけた可能性なんだから無駄にするわけにはいかないわよ。失敗は許されないわ」

「そりゃ、わざわざ苦しい思いをさせちまったこの2人のためにも失敗は許されないっすよ。まあ、成功しても幸せになれる訳では無いと思いますけど…」


 そう言って2人の男女は刀輝と紗矢を丁寧に抱え歩き始めた。

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