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嫌われ者の蟲使い  作者: 『食べられません』を食べた人
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第九話

こっちを待ってる方が結構いたので、こちらを書いてました。一万字前後を書ききるにはそれなりに構想を経てないと成り立ちませんね。


※一年経って文章力が上がって不自然になってるかもしれませんが、お気になさらず。

ムルマン王国のミルーバ都市をきれいさっぱり片付けた後、いくらかの村を素知らぬ顔で通過した。村の特産は特になく、中位魔血鬼達の琴線に触れることはなかった。だからか、あの珍しい食いしん坊共は素直に言うことを聞いた。


しかし、ある村で聞いた話で中位魔血鬼だけでなく、数億匹の魔蟲達が騒ぎだした。危なく身体中から溢れた蟲達が先立ってその場所に向かいそうになった。


その話とは近くに住み着いた竜が子育てのためか、近隣の村で乳牛やヤギを夜な夜な盗んでいるんだとか。それもよく筋肉の締まった者達だ。調理して食べたらそりゃあ旨いに違いないってもんを奪っていくわけだ。


食いしん坊の彼らは獲物を奪われた肉食動物のように怒った。というわけで現在その竜が住み着いていると言われている山を登っている最中だ。もちろん村人には止められた。しかしそんな言葉には見向きもしなかった蟲達はすでに偵察を放っている。


偵察はすぐに帰ってきた。ついでに軽く腹を膨らませていた。つまみ食いをしてきたようだ。偵察の話では竜は竜でも亜竜らしい。ワイバーンと言われる種類だが、一見するとBランクと強力な魔物だが、こちらはAランクの力を持つ魔蟲人族だ。進化したばかりといえどもそこらの雑魚とは格が違う。


ワイバーンはワイバーンでも色違いという話だったので、もしかしたら属性持ちの亜竜がしれない。普通に戦うものからしたらやっかいそのものだが、食いしん坊達から言わせれば味が違う種類が増えたというわけだ。


山は緑豊かで蟲がどんどん集まってくる。さすがにここまで数が集まると共食いが始まる。なにせ食べ物は有限。食いしん坊で強いものだけが生き残る。周囲に存在する魔物は直ぐ様襲われて魔蟲の血肉となる。


弱ければ生き残れないそのためか、集まってきた蟲は使役している魔蟲に補食される。先程数億匹といっていたが、実際には数万匹しか残らないだろう。強くなればなるほど食べられる許容量は増えるのだから。


そんな弱肉強食の世界は自然界だけでなく、ラルフの身体の中でも行われていた。それに気づくラルフだが、食いしん坊が減って丁度いいくらいにしか思っていなかった。その結果より強くて食いしん坊な魔蟲だけが残っている。


「ラルフ様、そろそろ獲物が見えます」


「あぁ」


よだれを少し溢しながら進む中位魔血鬼達にはため息が出そうになるが、事実ワイバーンはうまいのでよだれは出なくとも楽しみだ。


「あれが件のワイバーンです」


「意外と大きいな」


「そうですね、何人分に相当するでしょうか?」


「捌いてからのお楽しみです。あ、きます」


暢気にどれくらい食べられるのかと検討していると、声に気づいたワイバーンがこちらを睨み付けながら羽ばたいていた。


「グルァァァァァァアアアア」


咆哮をあげながら飛んできたのは青黒いワイバーンだ。狙いは一番小柄な俺だろう。狙いがわかっていれば簡単に魔蟲魔法"麻痺"を当てられる。麻痺で動かなくなった身体をなんとか動かそうと懸命になっていた。


「うるさいですよ」


ジタバタと騒ぐワイバーンに中位魔血鬼の一人が頭に蹴りを入れる。頭を地面に叩きつけられたワイバーンは唸り声をあげながら睨み付けてくる。中位魔血鬼は動きをさらに止めるべくワイバーンの頭を踏みつけて押さえ込む。


「ラルフ様、止めを」


身動きを封じられてお膳立てされたので、さっさと止めを刺して残りのワイバーンのところに向かう。倒したワイバーンは魔法の鞄に収め、地面にぶちまけた血は寄生していない魔血鬼達に飲ませた。


ワイバーンが住み着いていると思われる場所には、先程の大きさと大差ない赤いワイバーンと二匹の小さなワイバーンがいた。


「子供がいますね」


「子供は食べたことはないですね。どうしますか?」


「戦力になりそうもないし戴こう。お前達はそこで待っとけ。進化した力を試してみたい」


ワイバーンに歩いて近づきながら魔蟲化を行う。魔蟲化が進む度にワイバーンの警戒感が上がっていくのがわかる。全身の魔蟲化が終えたところで子供のワイバーンは威圧感に耐えられず気絶した。


「グル、グルルルルル」


「黙れ」


威嚇をしてくる赤いワイバーンに殺気を当ててみると身体を震わせた。身体を縮こませて怯えるワイバーンの目の前まで来ると意表を突こうと噛みついてきたが、ワイバーンの牙程度では甲殻を貫くことは出来なかった。


「弱いな」


口の中から脳天に向けて手刀を突きだす。それだけでワイバーンは力尽きた。噛みついたままワイバーンを魔法鞄に収めて気絶した子ワイバーンも同じく止めをさした。


魔蟲化を解くと今か今かと待つ食いしん坊がスタンバっていた。まだだと宥めてからワイバーンの巣を探る。するといくらかの財宝があったのでそれを魔法鞄に収める。


「ラルフ様、早くしてください」


催促されたので仕方がなく子ワイバーンの一頭を差し出す。食いしん坊達が集ってあっという間に骨すらなくなった。今回はただ焼くだけの料理をしない。なぜならミルーバで料理人を確保してきたからだ。


魔法鞄から料理に必要な魔道具と机や皿を出した。料理は人任せだ。出来上がるまでワイバーンの寝床を魔蟲達に調べさせる。なにせ一応亜竜種。なにかあるはずだ。


あった。あったが、これは思ってたのと違う。もっと食べ残しとか、そういうものがあると思っていたが、まさか子供とは。


「ラルフ様、出来ましたよ」


「あぁ、今いく」


特に害もないし、と考え、子供を抱えて魔血鬼達の元に戻る。子供はどうやら気絶してるだけだった。抱えた子をどうするかはあとにする。今は飯だ。飯はいつものただ焼いただけでなく、その辺にある香草などを使い、しっかりと臭みをとった上で肉に合う味付けをされていた。


それにはドワーフたちの飯で舌の肥えた魔蟲たちにも好評だった。


「んっくぅ…」


焚き火のそばに置いていた子供が気がついたようだ。果たしてこの子供をどう処理するかは一応状況を聞いてからにしよう。いくら俺が狂っているとはいえ、亜竜に捕まってる子供が普通とは思わない。


「起きたか」


身をよじっていた子供が俺の声に反応してビクリとした。それから意識がはっきりしてきたのか、次第に目を開いた。


「んー…あっ、お、おはようございます」


「あぁ、目を覚ましたばかりで悪いがなぜ亜竜に捕まっていた?」


意識がはっきりしたのなら自身のことを説明できるはずだ。子供はおろおろしだしたので、仕方なく脅すことにした。


「説明しないと…ん?お前どこを見ている?」


子供が見ていたのがどう考えても俺ではなく、俺の後ろだ。そこには香草焼きを貪る魔血鬼たちだが、相変わらず食べるのが汚い。少しはマシになったが、それでもなったばかりのやつらは汚い。


そんな魔血鬼ではない、どこか虚空を見つめる子供に違和感を感じ、鑑定をしてみた。すると、そこには驚愕の内容があった。


「死霊使いか…」


「ひえっ!?」


鑑定内容を呟くと子供は身体を震わせていた。


「気にするな。俺は死霊使いだろうと石を投げないし見下したりはしない。それにしても死霊使いか。確か死霊を見ることができると聞いたことがあるな。さぞや俺の周りには大量の死霊がいるだろうな」


死霊使いとは蟲使いの次くらいに忌み嫌われる魔物使いだ。俺よりもいくらかマシなのは死霊に殺されたことに気付かないため、それほど情報が拡散しないのだ。よっぽど詳しく魔物使いについて調べなければ、死霊使いを殺そうとなどしない。


過去に死霊使いが死霊となって国を滅ぼしたなんて話があるからな。


「僕を殺さないの?」


「殺してどうにかなるのか?死霊使いは死んだ方が厄介だぞ。それよりお前は質問に答えないのか?」


一瞬考える素振りをして子供ははっとして慌て出した。ずいぶん騒がしいやつだ。魔蟲達が大人しいのはどうしてかと訪ねると、俺と同じ臭いがするからだと。よくわからんが、俺と似てるらしい。


子供は落ち着くと少しずつ話し始めた。


「ぼ、僕は村で亜竜の生け贄にされたんです。僕が死霊使いだから、見せしめに僕の家族は殺されました。それから僕は村から厄介者扱いされて…それから僕は亜竜の巣のそばに拘束された状態で放り出されました。亜竜は光るものを集める習性があるので、拘束具をつけた僕はすぐに連れていかれました。でも気が付いたらここにいました」


要約すると村から捨てられた。そういうことだ。俺との状況に似てるといえばそうだ。といえる。だが死霊使いは死霊を使役しないと無害だ。その点、蟲使いは存在するだけで周囲に蟲が寄ってくる。ここで焚き火をしてる間にもどんどん蟲が使役されていく。


「なるほどね。話はわかった。お前は村人達に復讐する気はないか?」


「僕が死霊使いになったのが悪いんです…だから…」


「なぜ死霊使いが悪い?死霊使いは死者の言葉を聞けると聞く。なら、それを活用した司祭でも神官でもできると思うがな」


「そ、それは…」


「だから死霊使いだから悪いとは思わない。俺には魔物使いで使役できるのが蟲だろうと死霊だろうと活用することはできると思うがな。それに迫害することで損をするのは迫害する者たちだ」


「それはどういう…」


俺は迫害する側に問題があると思うが、俺はされる側で人族を滅ぼす勢いで街を滅ぼしていっている。だから、死霊使いだろうとなんだろうと些細なこと。そう思う。だがその前にワイバーンの肉だけでは腹が膨れなかった魔蟲たちが騒ぎ出したので、腹を膨らせる。腹を膨らすにはやることは一つ。


身体から抑えの効かない魔蟲たちが溢れ出した。


「その村人達は今からこの魔蟲達に喰われる。ただの腹拵えでな」


「ひぃっ、む、蟲っ!?」


「お前が復讐する気がないただの木偶の坊なら、その身体は貰うぞ」


魔蟲達に子供以外の生き物を近場から食べるように指示を出した。


「あっ、あっ、あぁ…」


子供は白目を剥きながら失禁した。


「汚いな。ここまで意思が弱いとはね」


失禁した子供を水洗いして服を脱がせる。女だったが、なんとも思わない。裸だろうと内蔵だろうと何度も見たからだ。


「こいつの魔物使いの能力は使える。中位魔血鬼が憑け」


身体から溢れた魔蟲の中から出た一匹の中位魔血鬼はゆっくりと子供の身体に入り込むと、すくっと立ち上がり身体の調子を確かめ始めた。


「どうだ?使い心地は」


「少し筋肉が弱いですが、その分使えるものがあるので問題ないかと」


「そうか。なら、俺達の周りにいるであろう死霊を使役してくれるか?」


「了解です」


鑑定にあった名前はシルバとあったので、こいつのことはシルと呼ぶことにした。シルはぼそぼそと呟くと身体にあった重りが外れたかのようにスッキリとした。


「ラルフ様、どうやらラルフ様には数十万という死霊が憑いていましたので、レベルが一気にあげられました」


「そうか。なら、死霊には情報収集を頼めるか?蟲狩りの情報とかな」


「わかりました。すぐそのように」


そう言って死霊に指示を出すと他の魔血鬼達と混じって香草焼きを食べ始めた。あいつらはそういうやつなのでなにも言わない。とりあえず腹ペコ魔蟲たちには周囲の村を滅ぼしてもらうことにした。










その頃、ある一室で密談が行われていた。


「陛下、伝令が帰ってきました」


「うむ、伝令はなんと?」


「はっ!『ザルムとラメリナは死んだ』だそうです」


「そうか…ザルムがやられたか…彼は素行は悪かったが実力は十全にあったはずだが」


陛下と言われる男は目を手で覆い、疲れた表情を隠す。


「ザルムと蟲使いの相性はそれほど悪くないはずだが、おそらく蟲使いは魔人化してるのでしょう。陛下、早急にアレを召喚すべきかと」


「ロード、お主の言ってることはわかる。しかし、あれを行うには神の紋章がいる。それも神聖王国の司祭にしか扱えまい」


「ですが陛下、これは一刻も早く行うべきです。魔人化してるなら、おそらく蟲達はすでに魔蟲になっているかと。このまま傍観していれば更なる厄災に繋がりますよ」


「わかっておる。ぐぬぬ…ムルマン王国では死霊使いが現れ、それを亜竜に処理させたと聞く。この頃厄災者の魔物使いが多く生まれる傾向になっておる。それはわかる。じゃが、我がルセラ王国とて蟲狩りたちがおる」


「しかし…」


「くどいぞ、ロード。この件は我が国だけの問題ではない。他の国もそれぞれが警戒体制を敷いておる。同盟国にもそれぞれの守護者を各地へ派遣しとる。すぐに蟲使いなど警戒網に引っ掛かり、すぐに倒せるはずじゃ」


「…」


陛下、ルセラ王は眉間にシワを寄せながらそう述べた。ロードには本当に倒せるのか心配だ。おそらく、これからも蟲使いは強くなる。それも一国だけの問題では到底勝てるものではなくなるはずだ。


「ロード、お主には行ってもらいたいところがある…」


「なんでしょうか、陛下」


「これは本当は蟲使いの上位20名のうち誰かに頼もうと思っておったが、お主に行ってもらいたい」


「これは…?」


「竜の国へ救援要請を求める公文じゃ。神聖王国は神を崇拝しておってなかなか神託がなければ己から動かぬ。そこで強いものさえいれば報酬さえも望まぬ竜人なら、きっと蟲使いなどものともしないはずじゃ。行ってくれるな?」


「はっ!必ずや王命を遂行してみせます!」










腹ペコたちを連れて向かったのはシルの記憶にある村だ。門には兵士がおり、通常の村ではあり得ないものだが、なにかあったのだろうか。道を進んでいくと兵士の一人はこちらに走ってきた。もう一人の方は村の方に向かっていった。


「何奴!ぬ?そいつは死霊使いだ!なぜ生きている!」


兵士はシルに槍を構え、シルを威圧する。シルは当たり前のことだが、すでに身体の制御も思考もすべてが中位魔血鬼のものだ。動揺などするわけがない。


「生きてたらどうするの?」


シルは首をかかげて少し上目遣いをする。どこで覚えたかもわからない、中位魔血鬼の仕草は警戒する兵士にダメージを与えた。


「ぐっ、お前は、厄災の種だ。今すぐ立ち去るか自害しろ!」


この兵士は死霊使いについてそこまで詳しくないらしい。


「シルだけ立ち去れだと。他のみんなは村に入って良さそうだね」


シルを置いて兵士の横を通りすぎていく。シルはぼけーっと兵士と見詰めあっている。


「ほら、みんなあの兵士さんが言ったように俺達は通っていいってことだし、しっかりと腹ごしらえをしてくるんだぞ」


兵士の視界に写らないように魔蟲たちを森の中と身体から出して村に行かせる。数が数だけにまるで夜になったかのように魔蟲たちが覆っていく。もちろん兵士には見えていない。未だにシルとにらみあっている。当の本人は腹ごしらえに参加できないとあって少し涙目である。


あとで食べさせてあげよう。目の前の兵士を含めて。魔蟲たちが村の方へ飛んでいくと、村は阿鼻叫喚となった。それもすぐにやむ。魔蟲たちの食事は一瞬だ。


さすがにこの喧騒に目がいくと思ったが、兵士はまだシルを警戒している。もっと警戒すべきものがあると思うがな。


「シル、そろそろ戦利品を取りに行くぞ。そいつは食べてもいいから、早めに来るように」


「はーい、ラルフ様ー」


シルに呼び掛けるとシルは元気に手を挙げて応えた。その間にいる兵士は槍を持つ手に力を入れていることが伺える。正直なところ今更俺に警戒してもすでに終わったことだ。


シルは兵士に手を翳すと周りの雰囲気が重苦しくなり、霧が発生し出した。あくまで食事シーンは見せないつもりらしい。シルは大丈夫そうなので、二人ほど中位魔血鬼を待機させ、村に向かう。


黒甲殻魔蟲によるとやはりと言っていいのか、数多くの兵士や冒険者がいたらしい。その中でも屈強だったものには魔血鬼がとりつき、その他は食糧として頂いた。ただ残念なことに教会などの大きな建物には蟲対抗の結界があり、入れないようだ。


「おかえり、どうだった?そう?あまり量がなかったんだね?あぁ、でも料理はうまかったと」


身体に入ってくる魔蟲達はそれぞれに感情を持ち、村での食事の感想を言ってくる。やはりこれだけの量の魔蟲がいれば、量も足りなくなってくる。


「そろそろ共食いも必要かもね…」


魔蟲は個より全の力を持つがあまりにも量が増えすぎればいずれ破滅する。そうなる前に戦力を全よりも個に集中させた方がいいかもしれない。


「でも、まだまだいるから大丈夫かな?そうか、食料をつくる部隊を育てればいいのか」


ないならつくればいい。その発想をなぜ今まで思い付かなかったのか。


「あぁ、そのためには中位魔血鬼達の数を増やさないとな」


現在に置いて人型になれる魔蟲は魔血鬼たちだけだ。せめて人型になれればな。


「ん?なろうと思えばなれる?」


そう問い掛けてきたのは新しく使役した機械針魔蟲というメタリックな身体と小さいたくさんの手が特徴だ。姿はハリネズミの針を全て小さなyのような手にし、身体はテントウムシのように丸い。


この機械針魔蟲はよく機械仕掛けの魔道具に忍び込み、魔力の流れをあらぬ方向へねじ曲げ、魔道具を少しずつ破壊していく。もちろん蟲避けの魔道具にさえも忍び込んで破壊するため、敵なら天災、味方なら時限式爆弾と名付けられるほど脅威的な蟲だ。それが魔蟲になったことで、さらにパワーアップし、内側だけでなく、外側からも破壊できるようになった。


そんな機械針魔蟲が人型になれると言ってきた。なら、なってみろと伝えると、身体から溢れた機械針魔蟲と村中から現れた機械針魔蟲は一つに集まり、流動的に変化していき、一つの塊となった。


「塊にはなれたが人型は難しそうだな。そうだ。この剣に纏わり付いてくれないか?」


塊がばらばらに散ると差し出した剣に群がっていき大きな大剣となった。


「おぉ、これなら使えそうだね。これができるなら、人に纏われば鎧にもなりそうだ」


そう言うと剣になっていた機械針魔蟲が剣を伝って身体に張りついた。


「これはいいな。そういえばお前たちは何を食べるんだ?」


答えは金属。


「そりゃあそうか、機械だもんな。じゃあこれを食べて強くなるといい」


取り出したのはミスリルだ。今のところ硬い金属といえばこれだ。本来であれば商売に使ったり武器として使うのだが、略奪しているため、特に必要分以外は溜まっていく一方である。


「おぉ、うまいか。そりゃあよかった」


食べ終わった機械針魔蟲は続々と進化していく。メタリックな甲殻は薄い色にy型の手は数を増やし長さも伸びた。


「纏え」


意図を理解した機械魔蟲へと進化した魔蟲達はすぐに身体に張り付き、先程とは天と地ほどの差があるほどスムーズに動けるようになった。


「これはいいね。早速使い勝手を確かめないとね。頭には覆わなくていいから」


村に残された教会や冒険者ギルドには蟲避けがある。その中にはこちらを殺さんとする視線の冒険者や兵士がいる。それを囲むように配置する魔蟲達は今か今かと待ち望んでいる。食事を。甘美を。快感を。


「待たせたね。ちょっと準備に戸惑ってね」


「待ってましたよ、ラルフ様」


「早くしてください。待ちきれずに一人頂いてしまいました」


そう言って指差す先には魔蟲達にゆっくりと補食されていくおっさんがハイライトを失くした目でこちらを見詰めていた。声も出すこともなく、ただ生きたままゆっくりと死んでいく姿にはなんとも思わなかった。


「ちゃんと残さず食べろよ。はやくしないと鮮度が落ちるぞ」


ただの食事シーンについて突っ込むほど暇ではない。それに慣れ親しんだ食事する姿に怒鳴ったり喚いたりする者なんているわけがない。


「わかったわかった。俺が先陣を切るから、俺が必要だと言った者以外は食ってもいい。ちゃんと我慢しろよ?」














「なんだ、あれは…」


結界の中で呟く者がいた。その光景に誰もが固唾を飲んだ。結界は透明であり、本来であれば外の様子を確認することができる。しかし今はどうだ。まるで夜のように暗く、まるで闇そのものに包まれているかのように。


「あ、あれは蟲だ…」


「蟲?蟲ってあれか?害虫に指定されて見つけ次第殺すことを義務化されている」


「そうだ…だがなんだあの数は…」


「村長殿、おそらくあれは蟲使いによるものかと…」


「む、蟲使いだと!?なぜ我が村にそんなものが!?」


村長という男は狼狽した。なぜ自身が取り仕切る村にそんな厄災が現れるのだと。なぜこんなど田舎などにそんな者が襲ってくるのだと。


「今世の蟲使いは人がいる場所全てを襲う」


「なぜそのようなことに!?」


「なぜもなにも、私にもわからん。ただ、私達はこれより村の者達を守るべく行動せねばならん。これは我が主であるムルマン王、その方の王命として死力を尽くして達成しなければならない」


兵士は無謀なことだとわかっている。だが、やらなければなにも起こらないのだと自身に言い聞かせ、震える膝を叩き、立ち上がった。


「我らはこのためにここにいる。行くぞ、敵は目の前にいる」


兵士が怒号を鳴らすと縮こまっていた兵士たちもそれぞれが雄叫びをあげ、腰に添えた剣に手をかける。あるものは天にかかげ、あるものは祈るように地に突き刺した。


「勝つぞ、私達は強い。これまでも、これからも私達は世界に轟かせるのだ。その名を、その勇姿を」










「どうやら、あちらはやる気みたいだね」


「ですね。少しは骨があるといいんですけど」


「なにを言う。骨があるほど食事が遅れるでないか。ここは骨がない方が…ぬ、そういう意味じゃない。骨はいいぞ、味が濃いからな」


骨について触れると骨を補食する魔蟲達が抗議をする。そういう意味じゃないが、骨の有り無しについてはしつこい。まぁそれも戦えばわかることだ。


「遊んでないであそこを見ろ、骨があると思わないか?」


「ええ、ラルフ様のおっしゃる通りですね」


結界の内側にいる兵士たちの視線は1点を見つめていた。


「俺が蟲使いだとわかるみたいだね」


「狙ってくるのであれば守りやすいのですが、どうしますか?」


「力を慣らすことは悪いことじゃない。あちらにもなかなか太そうな骨もいることだし、俺に来るものは俺が相手をする。それ以外は軽くあしらって魔血鬼をつかせろ。あとは見た目のいいものにもついとけ。商売をさせる」


「何を買わせるのですか?」


「奴隷だ。育てて農業や畜産をさせる。お前たちの食事のためだ」


「では、しっかりと見極めませんとね」


「さて、やろうか」


「仰せのままに」








「結界の蟲がいなくなっていく…」


「逃げたのか?」


「いや、本命がお目見えだ。村人たちは後ろに下がってくれ」


「わ、わかりました。皆の衆、兵士様の邪魔にならないように下がるんだ!死にたくなければな!」


村人は冒険者ギルドに逃げていく。それとすれ違いに冒険者が出てくる。


「貴方たちも私から見れば守るべき民なのですが…」


「勘違いするな。俺達はあんた達に頼んでねぇ、俺達は守られるただの男じゃねぇ、守る側だ!」


「そうか…助力願う」


「最初からそう言えってんだ」


冒険者はそれなりに村での高い地位を持つ。だからこそ、素行も悪く嫌われたりもする。だが、しっかりと仕事をこなし、素行の悪さをカバーするほどの功績もある。だからこそ、今こそその責務を果たすため、立ち上がったのだ。






ラルフはゆっくりと歩幅を進めると魔蟲達が道を開ける。


「集え」


魔蟲達はラルフの身体に吸い込まれていく。


「魔蟲化」


身体を真っ黒な甲殻が包み込んでいく。そして肩からは2本の腕が、背中からは2対の羽が、尻尾が生えた。今までは人化しか状態であり、今が本来の姿である。


「纏え」


その言葉で機械魔蟲はラルフの鎧へと変化していく。ラルフの甲殻と混ざるように変化し、ラルフの甲殻は光沢のある黒色にうっすらと青い光を纏い、真っ青なラインが身体を巡った。


そんなラルフと共鳴するように周囲にいた魔血鬼達も魔蟲化していく。亜竜に寄生した魔血鬼達にも甲殻に包まれていく。その姿はまさに黒龍であり、誰もが逃げ出す凶悪な姿へと変貌した。


「さぁ、死力を尽くした戦いを始めようじゃないか」


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