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嫌われ者の蟲使い  作者: 『食べられません』を食べた人
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第八話

 補助魔法がかかった男は先程よりも早い速度で近づき、肩に向かって斬りつける。それを半歩移動して避ける。


 「今なら無傷で衛兵に連れてってやるぞ?」


 余裕で避けているのに自信があるようだ。なかなかの実力を持っているようだし、下位吸血鬼を寄生させるにはちょうどいい。闇ギルドの団員はすでに大勢寄生させているが冒険者には寄生させていない。


 「そっか、ならその前に君の身体を貰おうか」


 身体中から蟲が吹き出す。それに悲鳴をあげる冒険者がいるが、殺すことはない。ただ自我がなくなるだけだ。


 「は?」


 蟲達は一斉に拡散し、室内を埋め尽くしていく。下位吸血鬼は手頃な宿主を見つけると寄生し、身体を奪っていく。力を持たぬと判断された者は次々と蟲達に補食される。蟲達に慈悲はない、あるのは食欲だけだ。


 周りが補食され、寄生され、死んでいく中、高ランク冒険者達は一塊になり、薄い膜に守られていた。発動者は先程の補助魔法をかけたラウラだ。眉間には皺が寄っていて維持に集中していた。


 「さすが高ランクというべきですね。結界ですか、確かに蟲達を防ぐことはできるでしょう。ですが、それはあくまで蟲達だけでしょうね」


 「……なにが言いたい」


 「一時の結界なんて大したものじゃない。それに中からは出なければ攻撃もできない。物量で攻められたら成す術なくやられるだけだ。あとは魔法を使われたら術者が耐えられない」


 「俺が一瞬で決めれば問題ない……」


 「そうですか。すでに手遅れですけどね」


 「なにを……言っている?は?」


 「な、なんで……あなた達……?」


 高ランクの男が剣を構えたまま唖然とする。結界に集中していたラウラさえも驚きで固まる。なぜなら先程まで蟲達に補食されていた他の冒険者が立ち上がり、武器を構えて殺意を向ける。


 「ここに残っているのは貴方達だけだ。今更俺を倒せたところで生き残れるかなんて万が一にもあり得ない。まぁ俺さえも倒すことは出来ないけどね」


 「……っ」


 「やってみないと……わからないだろっ!」


 高ランクの男は結界を飛び出して俺に斬りかかる。軽い挑発にのった男は凄まじい気迫で迫ってくるが、直球の攻撃は楽々と躱せる。


 「だめっ!アザミっ!!」


 ラウラは高ランクの男、アザミに驚愕する。簡単に挑発にのってしまったことにも驚くが、その攻撃を余裕げに避けたラルフにも驚きを隠せないでいた。


 「ほらほら、足元がお留守だよ」


 連続で斬りかかってくるアザミの攻撃を避けつつ、隙を伺い後ろに回って膝裏に蹴りを入れる。それによってアザミはバランスを膝から崩す。


 「くっ…」


 「これが高ランクの力ですか、期待外れですねっ」


 「がはっ!?」


 バランスを建て直そうとしたアザミに追い撃ちをかけるように剣を持った腕を持ち上げ、空中に浮かせ、背中に回し蹴りを叩き込む。アザミはラウラが張った結界にぶつかり、衝撃で結界が破れる。


 「アザミっ!」


 ラウラはアザミを抱き抱えて結界を張り直す。その間、結界に守られていた他の冒険者を下位吸血鬼達に取り押さえさせて、下位吸血鬼を寄生させる。


 「アザミっ!アザミっ!」


 「ラウラ……にげ、ろ……」


 アザミは気絶し、脱力していく。ラウラはそんなアザミを抱き締めてこちらを睨み付けてくる。その間、下位吸血鬼を寄生されている者達は阿鼻叫喚だ。周りが見えてないのか、はたまた俺から目が離せないのだろう。


 「あとは二人だけだ。言い残すことはあるか?」


 「赦さない……」


 「君らに赦されてもなんとも思わないけどね」


 結界を壊すために近づいてもいいが、力つくのを待つことにした。これが最後の別れと言うべき時間だ。精々この時間を楽しむといいさ。


 それから幾分かしてラウラは気絶した。二人に近づいて下位吸血鬼を寄生させる。二人とも呻き声をあげて苦しそうな顔をしたかと思えば、目を開いて体の調子を確かめる。それからラルフに挨拶をして服装を整える。


 「これで終わりだね……」











 「なぁ、ここにラルフってやついねぇか?……てめぇか」


 突然ギルドの入り口から声がかかる。そちらに振り向くとなにか見られている感覚に陥った。すると男はニヤリと嗤い、右手を突き出した。次の瞬間、男の手から黒い何かが自分に向かって放たれた。


 「っ!?」


 それを直感で避けると、黒い何かは真横を通りすぎ、壁にぶつかる前に方向転換をしてこちらに迫ってきた。


 「くっ、いけ」


 蟲達に指示を出して黒い何かに襲いかかる。蟲達と黒い何かは衝突すると、黒い何かはバサバサと音をたてて、蟲達から離れていく。しかし蟲達は逃がさぬとばかりに追い掛けるが、数匹を仕留めたところで男に引っ込んでいった。


 蟲達は何かに阻まれてそれ以上男を追うことができなかった。蟲達がラルフに戻ると今度は冒険者に寄生した下位吸血鬼が武器を持って男に襲いかかる。


 「はっ、そんなんじゃあ俺様は殺せねぇぞ!鴉魔法"黒羽雨撃"」


 男にはいつの間にか黒い羽がはえており、そこから発せられた黒い羽が下位吸血鬼に突き刺さっていく。黒い羽が刺さった下位吸血鬼達は頭や顔を抑えて急に叫びだしたかと思えば、脱力してパタリと倒れていった。


 「……蟲狩りか」


 「そうだぜ、俺様は第23位のザルム、黒き群衆とも言われるザルム・スプルムだ」


 ザルムはにやけ顔でラルフに指を差す。その状態でザルムの身体は変化していく。背中に這えた黒羽がさらに大きくなり、身体中から黒い羽毛がはえていき、手足の爪が伸びる。さらに顔は鴉の顔になっていく。


 ザルムを鑑定すると、


名前:ザルム・スプルム

種族:鴉人族

使役魔物系統:鴉

レベル:73

Bランク

進化レベル100:鴉将

生命力:2050/2050

魔力量:1680/1780

【魔物使い】Lv8【剣術】Lv6【盾術】Lv3【短剣術】Lv6【気配察知】Lv4【気配遮断】Lv4【威圧】Lv5【属性魔法】Lv6【補助魔法】Lv4【鴉魔法】Lv5【肉体強化】Lv6【飛翔】Lv4【飛行】Lv4


 ……だった。明らかに自分と同じ域に達していた。単純な戦闘能力はあちらの方が上か。俺のステータスも確認しておくか。今回は油断のできる相手じゃない。それに蟲狩りはこの町に少なくとも2人はいる。


名前:ラルフ

種族:蟲人族

使役魔物系統:蟲

レベル:92

ランク:B

進化レベル100:蟲将

生命力:2170/2170

魔力量:2580/2580

【魔物使い】Lv9

Lv8:Sランクの蟲系統を使役できる。

→蟲化ができるようになる。(使役してる蟲全ての姿を得る)

Lv9:全ての蟲系統を使役できる。

→使役している全ての蟲のスキルを得る。ただしLv1から。

→特殊進化:魔蟲人族、進化レベル100

→魔蟲人族に進化した場合、使役している全ての蟲が魔蟲に進化する。

【属性魔法】Lv6

初級魔法:火,水,風,土,光,闇,無

中級魔法:火,水,風,土,光,闇,無

【蟲魔法】Lv6

初級魔法:毒,麻痺,不快

中級魔法:腐蝕,病魔,幻覚

【肉体強化】Lv5

血肉強化,骨密強化,硬化

【血支配】Lv1

吸血,血搾取,血擬態,血操作

【骨支配】Lv1

骨糸,骨巣,骨密,骨刀生成

スキル

【魔物使い】Lv9【属性魔法】Lv6【蟲魔法】Lv6【肉体強化】Lv5【擬態】Lv4【剣術】Lv4【弓術】Lv3【短剣術】Lv3【統率】Lv3【飛翔】Lv1【繁殖】Lv1【病魔毒】Lv1【蜘蛛糸】Lv1【腐蝕】Lv1【切離】Lv1【束縛】Lv1【鍛冶】Lv1【細工】Lv1【裁縫】Lv1【農業】Lv1【血支配】Lv1【骨支配】Lv1【再生】Lv1【気配遮断】Lv1【無音動作】Lv1【敏捷強化】Lv1【気配探知】Lv3


 これはすごいな。やっぱりステータスは小まめに見ておくべきだったね。あと少しで進化できるのか。一時撤退して経験値を稼いできた方が手っ取り早いな。


 「余裕ぶってんじゃねぇよ!」


 「ぐふっ……」


 ザルムは瞬時に近付き、腹を殴り飛ばす。それによってギルドの壁を突き破って外へと放り出される。俺からしたら好都合だ。その勢いを使って地面を蹴り、建物の上に飛び上がる。


 「態々逃がしてくれるなんて、優しい蟲狩りだね」


 「はっ、俺様から逃げられるとでも思っているのか?」


 「じゃあこれでどうかな?」


 身体中から蟲が溢れ、それを合図と言わんばかりに蟲が町から涌き出てくる。蟲は1ヶ所に固まることなく拡散していく。町は蟲に覆い尽くされていく。


 「てめぇ……どんだけ使役してやがんだ……」


 「数億匹だよ。ちょっと用事ができたから後で相手してあげるね」


 「逃がすかよ!鴉魔法"黒羽砲撃"」


 小さな黒羽が大量に押し寄せてくる。それを擬態と気配遮断で目標を見失わせて退避する。逃げる先は人通りが激しい市場だ。そこで人を殺し尽くして経験値を稼ぐ。


 ラルフに追随するようにギルドから中位吸血鬼が出てくる。彼らはザルムの黒羽を受けることなく、様子見をしていた。いや、彼らはある場所を漁っていたのだ。そのため、状況を判断できずにいた。だからこそ、ラルフに続々とついていく、涎を垂らしながら。


 ザルムは周りを飛び回っている蟲達によって視界を奪われて、ラルフを見失った。襲われることはあってもそれが届くことはない。身体には蟲除けの結界と蟲殺しの毒をつけているため、何かされることはない。


 「ちっ、逃げられたか。はぁ……下位吸血鬼ってのはこの町にどんだけいるんだよ……」


 ザルムの周りにはギルドで倒れている寄生冒険者ではなく、町の住人や衛兵だ。彼らは武器を持ってジリジリとザルムに近付いていく。溜め息を吐きながらザルムは腰にある剣を抜いた。











 一方、その頃。中位吸血鬼は衛兵に下位吸血鬼を寄生させるために詰め所に来ていた。来ているはずだった。彼らは今、寄生させるべき相手である衛兵に捕まっていた。なぜ捕まっているのか。なぜなら彼らは有名な翼竜騎士団の依り代に寄生している中位吸血鬼だ。食事に誘われない訳がない。


 「ゴホン、栄えある我が衛兵団に彼の有名な翼竜騎士団が視察に来てくれました!この豪運に乾杯!!」


 「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」


 衛兵長の音頭にのって衛兵達はグラスを持って乾杯した。グラスといっても木製の安いものだが、彼らにとっては関係ないこと。自らの思い思いに酒を飲んでいく。


 中位吸血鬼からしたら困惑ものだが、食事ができると思えれば特に抵抗なく誘われるのは当たり前だ。というのも彼らからしたら都合になんの問題もないわけなのだ。元々衛兵に下位吸血鬼を寄生させに来たので、態々探す手間が省けたというところだ。


 それとこれとは関係なく、彼らは食事を楽しむ。酒をあまり口にしないのに、衛兵等は気にしない。あの厳格な騎士団が飲み会に来てくれるだけでも有り難いことなのだから。


 飲み食いするだけで時間が過ぎていくなかさすがに痺れを切らした下位吸血鬼達が酔っぱらいに次々と寄生していく。寄生された衛兵は奇声を上げて暴れまわった後、不自然なくらい大人しく飲み食いし始めた。


 異変に気づいた衛兵長は焦ったように机をたって中位吸血鬼の前に現れた。それからこう言った。


 「も、申し訳ない。こいつら酔っぱらうといつも騒ぎ過ぎるんです。多目に見てやってください」


 「う、うむ…よかろう」


 さすがの中位吸血鬼もあれほどわかりやすいぐらい暴れたにも関わらず気付かない衛兵長に驚きが隠せない。もしかしたら衛兵達は普段から突然暴れだしているのかもしれない。


 下位吸血鬼は最後の仕上げとして衛兵長に寄生した。それから彼らを幾分の間、食事を堪能したのだった。


 




 話は戻りラルフ達はザルムから逃げ仰せて大通りに来ていた。そこにはいつもと変わりなく騒いでいる住人の姿が見受けられた。結構叫び声とかしたはずなのに暢気なものだな。これから殺し尽くすのに。


 見た感じここには強そうな冒険者や衛兵はいない。ならば早速殺していくか。目の前を通りかかった男の首をはねる。すると近くの住人が騒ぎ出すがお構いなしに首をはね、胸に突き刺し、命を奪っていく。


 「これはいいレベル上げになるね。お前らは逃げ道と足を潰せ」


 レベルは93といったところだ。まだまだ足りない。建物の上に乗り、蟲達を退かせて魔法を放つ。放火すると食べ物も燃えて蟲達に怒られるから、中級の風魔法で切り刻む。


 泣き叫び、嘆き苦しみ、死んでいく者達のことをなんとも思わず狩っていく。やはり人を殺すとレベルがよく上がる。連発して魔法を撃つと人が減り、経験値が少なくなる。ここ以外に人がいるところといえば何処だろうね。


 「あと3レベルか…どこかに人が多いところはないかな?」


 「せっかくゆっくりしに来たのに…これじゃあ辺境に来た意味がないじゃない」


 屋上のテラスで人探しをしていると前から妖艶な女性が歩いてきた。


 「ん?何か用ですか?」


 「ええ、用はあるわ。私の休日を奪った蟲使いを狩るというね…」


 「そうですか、では死んでください」


 中級の風魔法を右手で放ち、左手で蟲魔法の麻痺を放つ。蟲狩りの女性はそれを持っていた鞭のような剣で弾いた。しかし麻痺については気付いてなかったらしく、そのまま麻痺になった。


 「ぐぅ…これは、まさか麻痺なのね?」


 「そうですね。安心してください、死ぬときは一瞬ですから」


 蟲狩りを一思いに殺そうと剣を突き刺す瞬間、真横から殺気を感じた。すぐさま足に力を込め、その場から待避した。するとそこには見たこともない大きさの蛇がいた。


 「なんだこいつは?」


 「よくやったわ、ジャバラ。まさか逃げられるとは思わなかったけど」


 「動けたのか」


 「ええ、私に毒は効きませんわ」


 「そうか、ならこれはどうだ」


 蟲狩りの女性はまるで何事もなかったかのように動いていた。大きな蛇を使役していることから蛇系統の魔物使いなのだろう。しかしそれにしても大きい。


 毒が効かないのなら物量で責めるまでだ。蟲の中でも鋭い牙を持つ、亜竜である下位吸血鬼と骨系統の蟲を解き放つ。さらには自分も蟲化をする。蟲化には硬い甲殻を持つ体と誰にも追い付けない速度を持つ黒甲殻蟲を宿す。


 見た目は真っ黒で人型なのでわかりにくいが、女性が出会ったら過半数の人が悲鳴をあげるあの蟲だ。まぁ悲鳴をあげてくれたら、あのおっかない蟲狩りが来るかもしれないけど。


 「いくぞ…」


 俺の姿形に青い顔をしているのが伺えるが、そんなものは無視だ。蟲だけに。蛇の動向も気になるが、蟲狩りを倒せば後の祭りだ。素早く後ろに周り肩を斬りつける。


 黒甲殻蟲の隠密力に気づくことが出来ず、深い傷ができる。あの鞭のような剣が遅れて飛んでくるが、構うことなく死角に回って斬りつける。


 「ぐぅ…はぁ…はぁ…わ、ぐあっ…」


 何かをする素振りをしたので再び斬りつける。大蛇は俺に攻撃しようとしたり蟲狩りを守ろうと動き回っていたが、今では無数が張り付いていて食べられる寸前まで来ている。食べられないのは外皮が硬い鱗で覆われているため、なかなか有効打は出せていない。


 「そろそろトドメをさしましょうか」


 「私が、この程度でっ…死ぬわけない、でしょ」


 蟲狩りは途切れ途切れに言葉を紡ぐが、最初の頃の威勢は当に途絶えている。傷だらけの体で何が出来るのだろうか。そんなことを考えていると、おもむろに服を脱ぎ出した。


 「傷だらけの女性に興味なんてありませんよ」


 「ふっ、わ、たしが、本当の、魔物使い、という、ものを、みせてあ、ゲルワ!」


 ラメリナの体は傷だらけだったが、至るところに鱗のようなものがあり、致命傷を受ける場所は鱗が防いでいた。蟲狩りは体を強張らせると身体中から蛇が現れた。そのどれもが白く美しい蛇だった。


 「まさか俺と同じように多数の魔物を使役していたのか」


 「ヤリナサイ」


 距離をとり観察していると、現れた蛇が次々と襲ってきた。それらの首を剣で切り落としたが、首の先を失った蛇は一瞬項垂れた後、ウネウネと動いたかと思えば頭が再生した。


 「マジか、再生持ちなのかよ」


 つい素で言ってしまう程の驚きはしたが、こんだけ蟲を使役できる奴がいるのだから、再生する蛇がいても不思議ではないか。全方位を中級の風魔法で切り刻んだりしたが、わりとすぐに再生した。


 どうするかと考えながら蟲が熱を奪った蛇に傷口をつける。蟲の中にはそういうことができる蟲がいたので、大蛇でも動きを止めることはできたようだ。傷口をつくってしまえばあっという間に蟲が大蛇を食いつくした。


 「ヨグモジャバラヲッ!ゴロズゴロズゴロズ!」


 本当の魔物使いかも怪しくなってきた蟲狩りが、正気を失い始めた。それを見るに、俺が使う蟲化も精神力が弱ければあんな感じに魔物の本能に取り込まれるのだろうか。


 斬っても斬っても切り刻んでもなかなか死なない蛇女も、少しずつだが消耗していることが確認できた。それでも決定的な決め手が欠ける。思い付きで蛇女に水魔法をかける。


 「グゥッ」


 すると、弱い魔法だったにも関わらず、それを避けた。これで確信した。蛇女は低温に弱い。そうとわかればやることが決まった。


 全方位から水魔法と風魔法を浴びせる。すると目に見てわかるように衰弱していった。蟲達も蛇女に飛び付いて捕食していく。それを眺めながら無防備になるまで待った。


 「これで、終わりだね」


 俺は蛇女に近づき、人にも蛇にも見えない頭をつけた首を跳ねた。その瞬間に身体に力が湧いてきた。と同時にこれ以上力が大きくならないことを悟った。つまりこの種族のレベルの上限に達したのだ。


 「やっときたね。みんな、戻ってきて」


 言葉が届いたのか、街中に点在していた蟲達が一斉に集まってきた。それは見るものには嵐に見え、ある者には悪夢の集合体に見え、蟲狩りは理解することだろう。今世の蟲使いは伝承の蟲使いにまでなってしまったのだと。


 進化することを意識すると同時に意識を失った。












 目を覚ますと知らない真っ暗な空間にいた。目を開けているようで閉じていて、閉じているようで開けている。そんな感じだ。光を見ることはないのに感じることはないのに自分の姿を見ることができた。


 「ここは?」


 『ここは君の夢の中だよ。そしてこれは僕との境界線だ』


 真っ白な子供がいつの間にか俺の前に立っていた。そして見えない壁がその子供と俺の間にあった。


 「貴方は?」


 『僕は君の中に存在するけどしていない。君は僕を知っているはずなのに知らない。だけど、君はここまで来てしまった。だから僕は君に願いを伝える』


 「それは一体どういうこと…?」


 『願いは…"本当の僕を見つけてくれること"だよ』


 「貴方を見つける?」


 『そう"見つけること"だ。時間だ。確かに僕の願いを届けたよ』


 「待ってくれ!見つけるってどこにいるんだよ!」


 その問いに答えることなく真っ白な子供が消えた。必死に声をかけたが、返事をするものはいなかった。そして瞬きをすると、今度は真っ白な空間にいた。


 「くそっ、今度はなんなんだ?」


 先ほどの子供が気になったが、変わった情景に困惑が隠せずにいた。それなのに真っ白な世界はどこか懐かしく思えるほど心が落ち着いてきた。


 『ふふっ、今度の蟲使いは可愛いげがあるのぅ』


 「誰だ!」


 『落ち着きなんし、わしは敵ではないぞ』


 声のする方をみるとそこには黄金色の狐が座っていた。それもただの狐ではなく、九本の尻尾があり大きさも動物とは違って桁違いだ。


 「じゃあなんなんだよ」


 『わしは調停者が一柱、"妖狐のハクレン"と申す。気軽にハクちゃんとでも呼んでくれ』


 「ハク…ちゃん…?」


 『むむぅ!今回の蟲使いはノリがいいのぉ!気に入ったぞ。お主には花丸をやろう』


 「それで俺に今度はどんな用なんだ?」


 『ん?今度?お主、わしに会う前に誰かに会ったのか?』


 「よくわからないけど、真っ白な子供に会ったな。それがどうかしたか?」


 『そうか、そうなのか。あ、あの方に会えたのだな。それは何よりなのじゃ。赤飯炊かんとな!』


 「意味がわからないんだけど…」


 『ふふっ、そのうちわかるのじゃ。また頼み事をするのは申し訳ないのじゃが、お主にはやってもらいたいことがある』


 「それは一体?」


 『うむ、人が支配する国をすべて滅ぼして欲しいのじゃ』


 「わかった。まぁそれは俺の元々の目標だからね」


 『そ、そうか。なら、もう1つ頼むのじゃ』


 「なんだよ?」


 『う、うむ。全ての調停者に会いに行ってくれ。もちろんわしも含めてじゃ』


 「いやだよ、めんどそうだし」


 『なんじゃと!?』


 「他には?」


 『調停者に会ってくれたら、蟲使いについてそしてなぜそんな境遇になったかもわかるというのに…』


 「それは本当か…?嘘だったら殺しにいくぞ?」


 『も、もちろん本当じゃよ!おおっと、そろそろ時間じゃ!また会おうではないか!』


 「ちょ、おい、待てっ!」


 真っ白な空間は光に包まれて再び暗転した。そして目を覚ました。










 目を開けると視界がいつもの何倍も広く感じる。身体からは力が溢れ、そして新たな器官ができたかのように身体の鼓動が違う。腕は4本に増え、背中には2対の羽が生えていた。さらに体を真っ黒な甲殻が覆い尽くし、お尻からは尻尾が生えていた。


 「これが、魔蟲人族か…」


 変わったのは自分だけでなく、蟲達も姿形を大きく変化させていた。下位吸血鬼達は姿を人から魔蟲人族のような身体へと変異させていた。名前も下位魔血鬼と変わっていた。


 「ステータスの確認でもするか」


名前:ラルフ

種族:魔蟲人族

使役魔物系統:魔蟲,蟲

レベル:1

ランク:A

進化レベル100:魔蟲将

生命力:5780/5780

魔力量:4020/4020

【魔物使い】Lv9

Lv8:Sランクの蟲系統を使役できる。

→魔蟲化ができるようになる。(使役してる蟲全ての姿を得る)

Lv9:全ての蟲系統を使役できる。

→使役している全ての魔蟲のスキルを得る。ただしLv1から。

→人化ができるようになる。

【属性魔法】Lv6

初級魔法:火,水,風,土,光,闇,無

中級魔法:火,水,風,土,光,闇,無

【魔蟲魔法】Lv7

初級魔法:邪毒,麻痺毒,不快

中級魔法:腐蝕,病魔,幻覚

上級魔法:中毒

【複合魔法】Lv1

初級魔法:火毒,麻痺水,麻痺風,汚染土,邪光,闇毒,無毒

【肉体強化】Lv6

血肉強化,骨密強化,硬化

【血支配】Lv2

吸血,血搾取,血擬態,血操作

【骨支配】Lv2

骨糸,骨巣,骨密,骨刀生成

スキル

【魔物使い】Lv9【属性魔法】Lv6【魔蟲魔法】Lv7【複合魔法】Lv1【肉体強化】Lv6【擬態】Lv5【剣術】Lv4【弓術】Lv3【短剣術】Lv3【統率】Lv3【飛翔】Lv3【繁殖】Lv1【病魔毒】Lv1【蜘蛛糸】Lv1【腐蝕】Lv1【切離】Lv1【束縛】Lv1【鍛冶】Lv1【細工】Lv1【裁縫】Lv1【農業】Lv1【血支配】Lv2【骨支配】Lv2【再生】Lv2【気配遮断】Lv3【無音動作】Lv3【敏捷強化】Lv2【気配探知】Lv4


 「これはすごいね、あのザルムって人にも負けることはないだろうね」


 「あぁん?誰に勝つだって?」


 ステータスを見るのをやめると黒い羽根の生えた男が飛んできた。その黒い羽根は少しだけ大きくなっているようにもみえた。


 「まさか自分からノコノコやって来るとは思わなかったよ」


 「てめぇを殺すのにはこれくらいで十分なんだよ、鴉魔法"黒羽砲撃"」


 黒い羽根がラルフを襲う。それを避ける気すら起きなかった。魔蟲人族の甲殻はその程度で傷つくものでもないからだ。魔法が止んだところで右手を前に出す。


 「複合魔法"邪光"」


 その光は赤く、ザルムの精神を蝕む光となる。神官が放つは癒しの光だが、ラルフが放ったのは精神破壊の光。


 「うぐがああああああーーーっ」


 「寄生しろ、下位魔血鬼」


 黒い嵐の中から1匹の下位魔血鬼が出てくる。頭を抱えたザルムを嘲笑うかのように首筋に噛み付き、身体に侵入する。ザルムはさらに奇声を発するが抵抗する間も無く下位魔血鬼に寄生された。


 「呆気なかったな。あとは店主から飯を貰って下位魔血鬼を寄生させるか」


 全ての魔蟲を身体に戻して人化を行う。それから店主から飯をもらい、店主に下位魔血鬼を寄生させ、この街に住む全ての住人を食らい尽くした。

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