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嫌われ者の蟲使い  作者: 『食べられません』を食べた人
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第七話

 闇ギルドを潰した後、宿に戻りその日は眠った。起きると蟲達が俺から出ていて何かを探していた。


 「どうした?へぇ、寝てる間に来たのか。それで?不味かったと。味は聞いてないからね。何しに来たか聞いてるんだぞ。ほう、まだ支部があったのか。今日はマスターの食堂いくから夜からにするぞ。とりあえず戻れ」


 蟲達は寝てる間に襲ってきた闇ギルドの団員を食らい尽くしたらしい。なんでもこの街の本部は今回潰したところで、支部がいくつかこの街にはある。そこから襲撃があったみたいだ。


 蟲達は警戒しているものと闇ギルド支部の捜索するものとに分かれたようだ。身支度を済ませて部屋から出る。中位吸血鬼達は食堂のご飯が楽しみらしく、部屋の前で待っていた。


 「ラルフ様、おはようございます」


 「あ、うん、おはよう。集まるのはやいな」


 「ラルフ様が動く気配がしたので、集合しておきました」


 「そうか。それはいいとして涎を拭け」


 「し、失礼しました」


 今日の中位吸血鬼達も食いしん坊が前進してるようで口元からはヨダレが出ていた。翼竜騎士団とか似合わないから、涎鬼騎士団に改名した方がいいのでは。


 食いしん坊とともにまずは宿の食堂に向かい、朝食を食べる。さすが元宿主が騎士団だけはあって、食べ方に品を感じる。ただし朝のことがあって品はあってないようなものだと思う。


 食いしん坊なのはこいつらだけじゃないのが困る。蟲達もはやくご飯を寄越せと所望しているが、暴れると食べられなくなることを理解しているので、騒ぐのは俺の中だけである。


 「ここの料理はあそこと違って洗練されてますね」


 「そうだな、私はどちらかといえばこちらの方が…」


 「いや、ここも悪くないが露店に並べられているのも悪くない…」


 なぁ、君ら少し前まで人間美味しいとか言って食べてた蟲達だよな?なに普通に飯食って感想言い合ってるの?おい、それは俺のだ。誰も残すなんて言ってないだろ。聞こえるか、俺の中の数億の蟲達が今にもお前達を食って掛かろうとしてるんだぞ。


 「ラルフ様」


 「なんだ?」


 「ここでもオークを出して注文しましょう。その方が色んな味を楽しめてきっと仲間も喜びます」


 「……後で下位吸血鬼を寄生させればいいだろ」


 「さすがラルフ様、頭の使いどころが違います」


 お前らも涎ばっか出してないで頭を使えばいいだろ。何言ってんだ、こいつら。


 「そろそろ食べ終わっただろ。いくぞ」


 「はい!」


 宿を出た後、市場に向かって様々な食材を購入していく。食材だけでなく調味料も必須だ。俺が食べたいものもあれば、蟲達が食べたいものも買っていく。


 アクセサリーを売っている場所で骨の飾りを大量購入していく俺の様はだいぶ目立っただろう。飾りがほしいってわけじゃない。蟲の中に骨が大好物なやつが意外と多いんだよね。


 それから露店をはしごしながら例の食堂に向かう。途中尾行されていることに気づいて何人かは下位吸血鬼を寄生させといた。ちなみにおつかいに出掛けた下位吸血鬼達はなぜか冒険者ギルドで依頼を受けて小遣い稼ぎをしていた。


 「なぁ、お前らなにしてんの?」


 「は!?こ、これはラルフ様。今は依頼の掃除をしてる最中でして…」


 「なぜそんなことを?」


 「実はお金がなくてですね…」


 「そうか…まぁ頑張れよ」


 下位吸血鬼達は所々で小遣い稼ぎの依頼を受けて至るところで奉仕活動をしていた。お前ら血が大好き吸血鬼だよな?魔物ランクB越えの化け物だよな?なに普通に雑用してんだよ。


 例の食堂に着いた頃には中位吸血鬼達も涎を?おい、腹ペコになるの早すぎるだろ。もう少し節度を保てよ。なに早くしてくれませんか?みたいな目で見てんだよ。


 食堂に入ると薄暗がりでマスターがごそごそと準備をしていた。適当に帰そうとしていたが、こちらに気が付くといそいそと手もみをしながらやって来た。


 「すいませーん、まだ準備中でして…はっ!?ラルフの旦那でしたか。失礼しやした」


 「この魔法の鞄の中に食材から調味料まで有り余るほど入っている。これらを使って料理をしてほしい」


 そう言って仕分けしておいた魔法の鞄を取りだし、机の上に置く。マスターは鞄に手を当てて中身を確認する。


 「こ、こんなに…」


 「料金は…小金貨5枚やろう」


 懐から取り出して魔法の鞄に並べるとマスターは恐縮したようで震えていた。


 「そ、そんなにうちの飯は高くないですよ!せいぜい大銀貨程度ですよ!?」


 「ふむ、まぁ遠慮するな。後で俺の仲間が食べに来るかもしれんから。その代金と思えばいいだろう」


 実際問題、あいつらはなぜか小遣い稼ぎをするほど金を使いまくっていたしな。あとで呼んでここで食わせよう。


 「じゃあ俺は用事があるから。三人程置いてくぞ。手伝いとして使ってくれ」


 「は、はい!作らせて頂きやす!」


 注文が済んだので三人以外を引き連れて闇ギルド支部に向かう。ここで寄生させた人数を黒甲殻蟲に聞いてみると、中位吸血鬼が翼竜騎士団で20名と新たに進化した者が14名、下位吸血鬼が73名で亜竜下位吸血鬼が24匹、寄生してないのが500匹以上だそうだ。


 寄生してない下位吸血鬼は繁殖することで数を増やしているので、いくら寄生させても減ることがない。今のところ寄生してるやつらは雑用で忙しいから、闇ギルド支部を潰すのは中位吸血鬼17名+亜竜下位吸血鬼24匹と数億の蟲達で行うことになる。


 そんなことを思考している間にも尾行してくる闇ギルド団員の数が増えていっている。もちろん俺も中位吸血鬼も気付いている。そろそろ闇ギルド支部に到着する頃だろう。


 俺が振り向くと闇ギルド団員が一斉に襲ってきた。暗殺とかは得意じゃない感じかな。


 「死ねやああああ!」


 「元気だね。ほら、これあげるよ、蟲魔法"麻痺"」


 「がはっ…」


 殴りかかって来た者の拳を受け止めて、腹を殴り麻痺で動きを止める。


 「もらった!」


 後ろから仲間ごと斬りつけるように剣を降り下ろしてきた。しかし一瞬で距離を詰めた中位吸血鬼によって軽々と手刀で剣を弾き飛ばした。


 「この程度ですか?」


 「なっ!?っ…がはっ」


 唖然としたとこを頭を掴んで地面に叩きつけた。


 「ふむ…つまらぬ」


 気を失った男をそのまま持ち上げ、奴等の元へ投げ返した。俺はそれを視界におさめながら、残り人数を確認した。


 「えーっと、1、2、3……17人か」


 「へっ…この人数を相手に勝てるとでも思っているのか?」


 「死にたくなけりゃあ、武器を捨てて降参するんだな」


 この人数とか言ってるけど、こっちの方が人数多いんだよね。その自信が一体どこから来るのか謎だな。


 「なんかうるさいから、黙らせて」


 「「「御意」」」


 了承した中位吸血鬼達は団員達の後ろに回って気絶させる。あれほどぎゃあきゃあ騒いでたわりにあんまり強くなかったのは、下っ端だからだろうか。


 「うん、とりあえずこいつらも寄生させて食べ歩きコースだな」


 気絶した奴等に下位吸血鬼を寄生させると、目覚めた下位吸血鬼達はお小遣いをおねだりしてきた後、颯爽と食べ歩きに向かった。先程まで俺を殺しに来て騒いできたのが嘘のように、無垢な顔してお金をもらったあいつらの顔はどこか清々しかった。


 「ああやって人を更正してった方が世の中綺麗になると思うんだ。まぁ本当に別人になったんだけどね」


 「羨ましい…」


 そんな中、好きなだけ買い食いができる下位吸血鬼達を羨む中位吸血鬼がいた。もちろん俺の中の蟲達もあれに混ざりたいと思っているのだろう。


 「さっき食ったろ」


 「ですが!?」


 「くどい、これ終わったら次行く前に昼御飯食べに行くか…」


 「ラルフ様、さぁいきましょう」


 俺の言葉を飲み込んだ中位吸血鬼達は先程まで食いしん坊丸出しだったのだが、今ではどこぞの貴公子のように凛々しい顔立ちをしていた。


 「なんかムカつくけど、さっさと終わらせるぞ」


 闇ギルドは目の前にあり、上からは見下ろす視線を感じるが、別段強者の威圧も感じない。ただのおっさんだろう。


 「こんにちはー、遊びに来ました」


 無造作に入り、あたかも遊びに来た少年のような振る舞いで入ると、一瞬かたまった闇ギルド団員は滑稽な顔をしていた。


 「なんじゃてめぇは!」


 「そいっ」


 近付いてきた男の頭を鷲掴みにして、握りつぶす。


 「なっ!?」


 「思ってたより柔らかいね。みんなこれが早く終わったら昼御飯だぞ」


 「お任せを」


 中位吸血鬼達は己の欲のために素早く闇ギルドの団員を殺していく。死んだ者は蟲達が美味しく頂き、生き永らえた者は下位吸血鬼を寄生させる。そしてお小遣いをあげて颯爽と食べ歩きに向かう。


 「あとは上で見下ろしてたおっさんかな?ん?まだいるのか。上にあと2人か」


 黒甲殻蟲から情報を聞きながら、階段を昇る。闇ギルドといってもさほど大きな建物というわけではない。むしろ小さい方だ。本部にも金目のものは多かったが、支部にもそういうものは備蓄されている。


 「あとは二人だけね。一人は冒険者風の男で、もう一人はここの長だね。長はそんなに強そうに見えないおっさんだけど、どうなのかな」


 中位吸血鬼が扉を開けると冒険者風の男が斬りかかった。剣の横面を裏拳で弾く。冒険者も強そうだけど、ただそれだけだ。寄生してない中位吸血鬼は魔物の強さはAランクであり、元の体の持ち主は亜竜を使役できる者だ。それが合わさった中位吸血鬼にその程度の攻撃が通用するはずがない。


 「終わりですか?」


 「っ!?」


 冒険者の男は距離をとって剣を構え直す。中位吸血鬼は隙を見せることなく、ただ歩み寄っていく。


 「運動にはちょうどいいですが、もう少し激しく動かなければ、お腹があんまり空かないじゃないですか」


 「……なんのことだ」


 「いえ、これは私達の都合なので、お気になさらず」


 こいつら、本当に飯のことしか考えてないよな。もうちょっと節度というものを弁えろよ。


 「高い金で雇ったんだ!こんなやつらさっさと倒さんかい!」


 「……お任せを」


 おっさんに命令された冒険者は眼光に力が灯り、中位吸血鬼の動きがぎこちないものになった。その隙を逃すことなく男は中位吸血鬼を切り捨てた。首を一閃された中位吸血鬼の首と体からは血が溢れ出てきている。


 「あら」


 「油断するのが悪い」


 「時間を掛けすぎましたね」


 俺達が暢気に中位吸血鬼の感想を述べていると、おっさんと冒険者の男は固唾をのんで、目を見開いていた。


 「仲間じゃないのか!」


 「仲間ですよ?」


 「なら、なぜ動揺しない!仲間が殺されたんだぞ!」


 なぜか冒険者の男に心配された。が、正直今の状態を見てもそれが言えるのだろうか。


 「いたたた……ちょっと、ラルフ様も少しは心配してくださいよ」


 「っ!?」


 首を斬られた中位吸血鬼は体と首から血を伸ばし、徐々に繋がっていくのがわかる。それは血を本体とした中位吸血鬼だからこそできる芸当である。


 「どこに心配する要素があるのやら」


 「全くですよ、早く終わらせないと私達もお腹ペコペコなんですからね」


 「酷いですね…」


 血とは細胞を活性化させることのできる流動するエネルギーだ。それを本体とする中位吸血鬼は魔力も使いながら、体の再生を行う。瞬く間に首と体を繋げた中位吸血鬼に物理攻撃は意味をなさない。


 「ば、化け物……」


 おっさんはガクガク震えながら尻餅をつく。冒険者の男は気を引き締めていたが、それも一瞬のうちに終わる。


 「……っがは」


 「!?」


 隠密で近付いた中位吸血鬼が血操作で手を刃物状にコーティングして心臓を貫く。元々は隠れて血を吸いとることに長けている。そんな者を視界から外せばどうなるかなど、一目瞭然だ。


 「遅いぞ」


 「そうですよ、そんな奴等5秒で倒してくださいよ」


 「悪かった、ただいい具合にお腹が空けて私は満足だ」


 「それはずるい、私も運動してこようかな」


 中位吸血鬼は自分達の意見を素直に言い合う。残されたのはおっさんだけだ。お腹を空かせているのは中位吸血鬼だけではない。血に飢えた蟲達は目の前にあるご馳走を食べさせろと、俺に告げる。


 「あとはお前だけだ」


 「か、金ならあるぞ。いくらだ!いくら払えばいい!女か!女だって用意できるぞ。いい女がいるんだ!俺が紹介すれば簡単に抱けるぞ」


 ただ近付いただけでこの様だ。おっさんは命を乞うように言葉を羅列していく。


 「そんなもの、お前が死んだ後でも手に入る。だが、欲しいものがある。それをくれたら見逃してやろう」


 「な、なんだ。金か?女か!いくらでも用意してやろう。なんだ、なんでも言ってくれ!」


 「そうかそうか、では頂こうか」


 足元から徐々に闇が広がり蠢く。先程死んだ男を飲み込み、それからおっさんをも飲み込んでいく。


 「な、な、なんだ!?これは!?あがっ…いぎ、いだい、いだいいだいっ!?あ、いや、あが、ああああああ……っ…あ、あ、あ……」


 彼等は徐々に味わいながら蠢く。少しずつ、少しずつ食べて、味と悲鳴を堪能する。おっさんの声が途絶えると共に彼等は引いていく。残されたものはなにもない。彼等は再び戻っていく。


 「さてと貰えるものはもらったし、見逃してやろう」


 先程まで男がいた場所に話しかける。もちろんそれに返事をすることのできるものはいない。それでも魂が存在するのなら、魂だけは見逃したことになるだろう。


 「では……じゅるっ……いきましょう」


 「涎を拭け」


 しまらない中位吸血鬼を引き連れて闇ギルドを後にする。闇ギルドの団員は広がる闇が全てを飲み込んだ。ただそれだけで跡は残らない。







 闇ギルド支部がまた一つなくなった頃、この街の門には二人の異質な存在が入ろうとしていた。


 「ここが俺様が配属される街か、いい街じゃねぇか」


 「そうですね、ここだったらゆっくりできそうです」


 「なんだ?ラメリナはゴミを潰しに来たんじゃねぇのか?」


 「いえいえ、それはもちろんですが、それが終われば十分ゆっくりとできるじゃないですか」


 「ゆっくりとするだけじゃあ、つまらんだろ。どれ俺様がお前を気持ちよくしてやろう」


 「貴方のそれじゃあ5秒と持ちませんわ。せめてもう少しサイズがないと、満足できませんわ」


 「ああ?言ったな。俺様が真の実力ってのを見せてやるよ」


 二人は和気あいあいと往来で下ネタを喋る。それを迷惑そうに見守るのは商人や旅の者だろう。二人の番が来ると衛兵に身分を問われる。


 「身分証を提示してください」


 「はぁ…今いいところだってのによぉ。ほらよ」


 「こ、これは!?失礼しました!お通りください!」


 衛兵は身分証を確認して驚く。そこにはこう書かれていた。蟲狩り序列23位と。蟲狩りには序列が存在し、身分としては冒険者よりも貴族といった扱いを受ける。


 「さーってと、ゴミ収穫とでもいきますか!」


 「はぁ…はやく終わらないかしら」


 二人は門を抜け大通りを進んでいく。曲がりなりにも蟲狩りであれば、まずは街で一番偉い者の屋敷に向かう。それが貴族の振る舞いというものだ。






 「ようこそいらっしゃいました。私はこの街の領主であるバイバルと申します。以後お見知りおきを」


 小太りの男は自らを領主と名乗り、頭を垂れた。


 「あぁ、よろしく頼むぜ。俺は蟲狩り序列23位のザルム・スプルムって者だ。んで、こっちはラメリナ・サージャだ」


 ザルムは手をラメリナに向けて紹介し、それと同時にラメリナは軽く会釈した。


 「おぉ、黒き群衆と名高きザルム様でしたか。これは頼もしい限りですな」


 領主は手をもみもみしながら、嬉しそうに笑った。


 「俺達はゴミの居所を探しに来たんだ。領主さんよ、なにか情報はねぇか?」


 「ふむ、それでしたら近頃闇ギルドと何者かが交戦したという情報があります」


 「ほぅ、そいつは…」


 「衛兵の報告によりますと闇ギルドと何者かが交戦し、闇ギルドの本部が火事になったそうです。それから、火事の最中に翼竜騎士団の方々が踏みいって鎮圧したそうです」


 「ちょっと待て、なぜ翼竜騎士団がここにいんだ?」


 「へ?先日亜竜に乗って来られたので、この街由緒ある高級宿にお通ししておりますよ」


 「ラメリナ!どう思うよ?」


 「私の記憶では翼竜騎士団は鉱山都市ガルドフに配属だったかと……」


 「予期せぬアクシデントでもあったか?いや、あいつらはお堅い連中しかいねぇ。そんなもんありえねぇ……きな臭くなってきやがったな、領主よ、その宿とやらは何処にある?」


 「あ、案内を出しましょう」


 「助かるぜ、いくぞ!」


 「はいはい……ゆっくりできるかしら」


 ザルムはラメリナを引き連れて出ていく。案内に従って宿に向かった途中、ザルムは不思議な光景を見かけた。


 「なぁ、あんたらの街の冒険者ってのはあんな雑用をおっさんがすんのか?」


 「どちらでしょうか?」


 「あのどう考えても30過ぎてそうなおっさん達が駆け出し冒険者の依頼をするなんてこと?」


 「いえ、そんなはずは……!?」


 大通りの端の方ではちらほらと掃除や草むしり、客引きをしてる者などをするおっさん達がいた。


 「おい、おっさん。ちょっといいか?」


 「なんだ?俺は今忙しいんだが……」


 「なんであんたみてぇな強そうなやつが魔物討伐依頼じゃなくて、そんな依頼受けてんだ?」


 「ああ?いいじゃねぇか。俺の自由だろ?」


 さっさとどこかに行けと言わんばかりに男は手をひらひらさせた。その反応に納得がいかないザルムは無言で男を鑑定した。その結果を確認したザルムは素早く腰にある剣を抜いた。


 「ザルム様!?なにを!?」


 ザルムの行動に案内人は驚き、ザルムは剣を抜き両手で持つと、そのまま男に向けて振り下ろした。無防備な男に剣は肩から腰にかけて斬りおろされた。


 「な、にをっ……!?」


 男からは多量の血が流れ、血地面へ広がっていった。肩を押さえながら逃げようとする男に追い討ちをかけるように近づき、首を横薙ぎで切り落とす。


 「ぐっ…っ!?」


 ザルムはあっけなく死んだ男に目を向け、剣についた血を振って落とす。


 「きゃあああああ!人斬りよ!」


 「逃げろ!殺されるぞぉ!」


 ザルムの行動によって人殺し判定され、目撃者やそれを聞た人々は次々と逃げていった。ザルムの行動を問いただすようにラメリナは言い寄った。


 「ザルム?なぜ殺したの?」


 「鑑定したらこいつは下位吸血鬼だった。下位吸血鬼ってのは災厄の蟲使いが使役してた魔物だ。つまりは今の蟲使いはそこまでの成長をしてるってことだ」


 「その下位吸血鬼がここにいるってことは……」


 「ああ、この街に蟲使いがいる可能性が高い。しかも下位吸血鬼といえば寄生蟲だ。領主さんの話にあった翼竜騎士団ってのも、もしかしたら下位吸血鬼が寄生してる可能性がたけぇ」


 「なら、翼竜騎士団はもう……」


 「そういうことだ」


 二人は納得し、先程の男と同じように雑用をしていた男達に詰め寄る。悲鳴と血の臭いに気がついてか、下位吸血鬼達は元凶を見つめ、剣に手をかける。


 「こいつはぁ……多いなぁ。出番だ、いけ」


 ザルムは右手に刻まれた紋章から魔物を召喚する。その数は百はいると思われるカラスの群衆だ。たった数秒で空はカラスで埋もれた。


 「いきなさい、ジャバラ」


 ラメリナは太ももに刻まれた紋章から魔物を召喚した。ジャバラと呼ばれる魔物は紅い鱗に包まれた大蛇だ。太い体躯で下位吸血鬼を圧殺していく。


 それから一方的に下位吸血鬼達はやられ、下位吸血鬼によって綺麗になった大通りは下位吸血鬼達の血に染められた。その上を二人は悠然と通りすぎていく。







 時間は遡り、ラルフ達が闇ギルド支部を壊滅させ、例の食堂で腹ペコ涎鬼騎士団はぎゅるぎゅるとなる腹に好きなだけ食べ物を詰め込み、至福のときを過ごしていた。


 「はぁ~幸せだ……」


 こいつら戦ってるときは普通なんだが、飯食べてる時のだらしない顔はどうにかならないのかな。そんなことを思いながら飯にありついているとごそごそと店の扉から黒甲殻蟲が入ってきた。


 「ん?どうした?へぇ…ここにも来たのか。じゃあ食べ歩きしてる奴等にも知らせとかないとね。もし襲われたときは……させてね。じゃあみんなに報せてきてね」


 黒甲殻蟲は下位吸血鬼を数十匹ほど連れて、再び外に向かっていった。食いしん坊達には食べながら情報共有をしておいた。


 つくってもらう料理はまだ終わってないので、引き続き行ってもらうとして、食堂は後にした。中位吸血鬼達は未だに飯の感想を言い合っているが、やることはやらないと俺達の安全を確保できないので、残っている闇ギルド支部を潰しにいった。


 残党の闇ギルド団員は強い者が残っていなかったので、蟲達がおいしく頂いた。下位吸血鬼を寄生させるにも弱い者にやったところでたかが知れてる強さにしかならない。なので、寄生させるなら多少は強い者に決めている。


 「ラルフ様、蟲狩りが来てるのならもう少し戦力を削ぎにいきませんか?」


 「うん?例えばどこにいくんだ?」


 「冒険者ギルドや衛兵の詰め所なんてどうでしょうか?」


 「なら、二手に分かれていくか。片方は衛兵を見付け次第気絶させて下位吸血鬼を寄生させる。もう片方は冒険者ギルドと武器屋なんかを回って、数を確保する」


 戦力を削ぐということで、中位吸血鬼を3人組を4つと俺についてくる5人の1組に分かれた。3人組のうち2つは衛兵を、もう2つは冒険者を捕らえるために向かった。


 「じゃあ俺達は冒険者ギルドを落とすぞ」


 冒険者ギルドは大通りにある。基本的に魔物の輸送は馬車や手持ちのため、路地や人通りの多いところでは無理だ。門の付近か利便性のいい場所にある。この街は人が多いので門の付近にあるようだ。


 冒険者ギルドは外からすでに中の騒ぎが聞こえるほどに騒がしかった。扉を開けて入ると視線が集まる。なんでこう出入りすると視線が集まるのだろうか。


 「ラルフ様、やりますか?」


 「まぁ待て、今は様子見からだ」


 「はっ」


 一先ずは受付に向かう。情報収集するにもまずは受付嬢と仲良くしなきゃな。どっかの受付嬢は論外だったけど。


 「あら、いらっしゃいませ、本日はどのような御用件でしょうか?」


 受付嬢は上目遣いでこちらを見てくる。身長が小さいようだが、中身はお姉さんのようだ。


 「すいません、冒険者になりたくて田舎から来「そんなガキと話してねぇでエルナちゃん俺様とデートいかねぇか?」」


 後ろからやって来たごろつきが横から顔をだし、俺を突き飛ばして割り込んできた。別に痛くも痒くもないが、不自然になるので飛ばされた。


 「っ!?」


 「だ、大丈夫ですか!?」


 受付を遠回りしてエルナちゃん?が駆け寄ってきた。


 「だ、大丈夫です……」


 「ひどい……いきなり突き飛ばすなんて……」


 心配そうな顔のエルナちゃん?とは反対に割り込んできたごろつきは全く反省してない。それどころかまるで自分のせいではないと言い張る。


 ちなみにこんな状態になっても中位吸血鬼はかわいそうなものを見る目でごろつきを見ていた。確かにこんなものなら瞬殺だろうさ。


 「ちっ、ひ弱なガキが。エルナちゃんに迷惑かけるなよ」


 「ワルバさん!いつも言ってるじゃないですか!割り込みはだめだって!」


 「おーこわいこわい。そんなやつの話なんてどうせつまらん話だろ。こんな田舎者の話なんて」


 エルナちゃん?に支えられながら立ち上がる。弱ってないのに弱ってる振りをするのもなかなか難しいな。それはいいとして、いいことを考えた。


 「クズが……」


 小声で蔑む。なんの(しがらみ)もなく冒険者になれる者が、まともな冒険者にもなることもなく、ゴミのような冒険者になるなんて、クズとしか表せない。


 「ああ?今なんつった?」


 「クズだって言ったんだよ」


 「クズだと?てめぇみてぇなガキが随分態度のでけぇこと言うじゃねぇか?ああ?」


 「そうだな、クズもでかいのは体だけだもんな」


 「ああ?この口減らずがっ!」


 軽い挑発に乗ってきたごろつきは拳で殴り付ける。普通の田舎者なら、ひえぇ、こわいよぉ。とか言うかもしれないが、せっかく威勢がいいので遊ぶことにした。


 拳を軽く受け止める。それにはごろつきもエルナちゃんもびっくりしていた。傍観を決め込んだ冒険者さえも驚いていたが、中位吸血鬼は暇そうに眺めていた。


 「はぁ!?」


 「えぇ!?」


 「で?ガキがなんだって?」


 掴んだ拳に徐々に力を込めていくと、ミシミシと骨が軋む音がする。痛みに我慢できず、膝をついて痛がる。


 「いだっ、あがああああああ」


 「おいおい、さっきまでの威勢はどうした?んん?……なにか用ですか?」


 ごろつきの拳を握り潰そうとしたところ、突然肩を掴まれた。振り返るとそこには如何にも高ランクのような男が立っていた。


 「やりすぎじゃないか?そいつも悪かったが、そこまでしてないだろ?放してやれ」


 「仕方ないですね、はい」


 掴んでいたごろつきの拳を降り下ろして放す。それによって拳は解放されたが、勢いでごろつきの肩が外れた。


 「うがっ……いぎいやああああああ」


 「うるさい人ですね。放してあげたのに」


 先程の高ランクに振り返ると、眉にしわを寄せていた。


 「やりすぎだ、お前さんは衛兵に突き出す。絡まれたとはいえ、やっていいことと悪いことがある」


 「ええ?嫌ですよ、衛兵なんて録なもんじゃない」


 「なら、力づくで連れていくしかないな……」


 「へぇ?そんなことできるんですか?」


 「あぁ、高ランク冒険者の義務ってもんだな」


 高ランクの男は鞘を着けたままの剣を腰から取り出す。さすがにギルド内で刃物を出せないってところか。


 「それで?なにを?」


 「ちょっと痛め付けて言うことを聞かせるだけだ」


 高ランクの男は一瞬で近付いて腹に剣を突き出す。それを避けるのではなく先程と同じく手で掴む。


 「おー、はやいはやい」


 「な!?」


 「でもこれぐらいなら目で追えない物でもないな」


 「くっ…抜けない。ならっ!」


 鞘から剣を抜き、距離をとって構え直す。男の仲間だろうか、後ろに移動してきた者がいた。


 「高ランクってのはこの程度なんだな。今度は仲間と一緒にか?」


 「あぁ……思ってたより強そうだ。全員で畳み掛けるぞ。ラウラ!補助魔法だ!」


 「わかってるわよ!補助魔法"風脚"、補助魔法"追い風"、補助魔法"敏捷上昇"」


 風脚で足に風が纏いつき、追い風で動きを阻害する風を封じ、速度を上昇させ、敏捷上昇でさらに速度を上げた。自信を持ち直した男は剣にさらに魔力を纏わせる。


 「……いくぞ」



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