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嫌われ者の蟲使い  作者: 『食べられません』を食べた人
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第六話

 下位吸血鬼達に亜竜を召喚してもらった。するとそいつらは暴れだした。なので蟲魔法"麻痺"で動かなくさせた。亜竜には他の下位吸血鬼を寄生させた。それによって種族が亜竜から下位吸血鬼に変わったため、俺の体に収納した。これで移動手段を手にいれることができた。


 「これからどこに行こうかな?」


 「やはり、食べ物が美味しいと言われているアムナール帝国はどうでしょうか?あそこなら治安も悪く荒くれもので溢れているので侵入も容易いかと」


 「それがいいな。ナハト周辺は蟲狩りで溢れてるだろうから、面倒なことになりそうだしな」


 「では、そちらに向かいましょう」


 楽しく行き先を決めているとドタバタと門の方からドワーフが走ってきた。今度はギルドでねんねしていたはずのギルマスや仲良し三人組と冒険者達だ。


 「行かせると思うなよ!」


 「そうだ!俺達をなめるなよ!」


 「おや、これはこれは皆さんお揃いで。何のようでしょうか?これから次の街にいこうとしてる旅人を引き止めるなんて…死にたいのか?」


 和やかな雰囲気はぶち壊れ、殺気で溢れる空間で息をのむドワーフ達とそれに便乗した下位吸血鬼の冷たい殺気がこの空間を占拠した。ドワーフ達はガクガクと震え出すが、それでも下位吸血鬼はその赤い眼で捻り潰していく。


 ドワーフ達にもAランク冒険者の強さを持つものはいる。しかし下位吸血鬼はその存在はBランクで蟲であるため、通常のランクよりも上の強さを持つと言われているそのため、Aランクの実力を持つものがラルフ側には20人以上いることになる。


 「なにか用でもありましたか?」


 「お、俺達はこんなもの要らねぇぞ!」


 そう言ってミスリルの塊を返してきた。それも手渡しではなく、投げ渡された。それを魔法の鞄に収める。ふと気が付く。渡したのはこれだけではないと。


 「ギルドマスターも要らないですよね?おや?酒持ってきてないんですか?」


 「うぐっ!?さ、酒に罪はねぇ…」


 「それでわざわざここまで来た理由はなんですか?」


 「俺達は…蟲使いは恐ろしいものだと聞いていた…でもラルフは違った。だからもし…俺達のことを嫌いにならないと言うのなら…またいつでも来てくれよな!その代わり…蟲を出すのはやめてくれ」


 「……いくぞ」


 「はい」


 亜竜の下位吸血鬼を出してそれに跨がり空に向かう。ログナス達の優しさに触れて涙が溢れる。それでも、もうこの国には居られそうにない。なぜなら蟲狩りとは厄介な存在だからだ。蟲に対する結界や魔道具もある。それが配置されれば蟲達の弱体化もあり得るからだ。







 空を飛んでいる最中でさえも下に見える森からは次々と蟲が使役されるために飛んでくる。それを使役する度に魔力が上がっている気がした。すでに数百万の蟲を使役していることから何らかの影響が出ているのかもしれない。


 「どこかここら辺に街はないか?そうか、あっちにあるんだな。わかった。そこに向かおう。あれはなんて街かわかるか?」


 「あれはムルマン王国にあるミルーバ都市と言われるところだと思います」


 「ということは国境をすでに通りすぎたのか」


 「はい、ドワーフの街が国境近くだったため、すぐに越えたのだと思います」


 「そうか、ではあの広場に降りるか」


 広場に降りるとそこは村のようなところだった。村のようなというのはそこには人ではなくどう見ても頭が豚のオークにしか見えなかったからだ。


 「ブゴッ」


 「ブボゴォォォォォォオオオーーーーっ!」


 「ブゴッブゴッ!」


 オーク達はラルフ達のことを見つけると獲物を見つけたとばかりに襲ってきた。オークは実力差などわかるはずもなく、武器を構えて走ってくる。


 「なんか来たな。あれはオークか。確か…焼いて食べると旨いらしいぞ」


 「それは確保せねば!」


 「ラルフ様、ここは私達が」


 「よし、やれ」


 「「「はっ!」」」


 下位吸血鬼達もオークと同じく獲物を見つけたとばかりにオークを狩っていく。オークと違うところといえばそれは武器の扱いのキレの違いだ。それはスキルの有無によっても変わるが、やる気からして違うのだ。オークはただ新鮮な飯を見つけただけだが、こちらは新たな美食への希望やラルフという主からの命令もあって気合いが違うのだ。


 その結果、オークはわずか数十分で全滅した。オークは大規模な集落を形成していたため、オークの数も数百はいた。しかしそれも下位吸血鬼達によっては朝飯前だ。オーク達は皆同じくして首を狩られている。


 「終わりました」


 「うん、早かったね。あと君ら進化してるよ」


 数百も狩ると自然とレベルも上がる。それにより下位吸血鬼から中位吸血鬼へと進化することも必然だ。中位吸血鬼となった彼等は【擬態】によって元の体の持ち主の髪色と眼の色に変えておいた。それにより別人とかわからなくなったことだろう。


 「さて、これをどれだけ食べるかだ。まずは血抜きからだな」


 オークを木にぶら下げて首から血を流す。それを吸血系統の蟲に飲ませる。それによって繁殖と進化を繰り返させる。オークは自分等で食べる五十匹と上位のオーク達を最初に血抜きする。それを次々と魔法の鞄に収めていく。


 「残りは全部食べていいぞ。焼いてほしければ持ってこい」


 そう言うと地面に落ちていたオーク達はみるみる小さくなっていき、骨すらもなくなり、あとに残ったのは集落と装備品だけだ。集落の探索はまだやっていないので、なにがあるか楽しみだ。


 「なにがあるかな?」


 辺りを見る限りはオークが狩った動物や人の骨や死体があった。それらは蟲達が美味しく頂いた。集落のうち1つだけ立派な建物があった。そこに入ると虚ろな目をした女性が沢山いた。そのお腹は膨れていて、どう見てもオークに孕まされている。


 「これはひどいな…このまま生きてても辛いだろう。楽にしてやろう」


 一思いに首を狩ってやった。中には涙を流しながら喜んでいた者さえいた。そうして残った遺体は蟲達に証拠を無くすかのように食べさせた。奥に進んでいくとそこにはオークと人の中間のような姿の者やオークそのものの姿の者がいた。これらはきっと先程の女性とオークの子供だろう。


 「…やれ」


 その子供達は叫んだり泣いたりしているものがいたが、それでも蟲達に食べさせた。この子達には罪もなにもないかもしれないが、それでもこのまま生きていても辛い現実だけにしか会うことはないだろう。


 集落を出た後、集落は中級火魔法で焼き払った。こんなものがあってもまた同じようにオークが住み着くだけだろう。人が住んだところで魔物に襲われるだけだろう。


 それから亜竜に乗って歩いていくと街へと続く道を発見した。遠くには街に入るための詰所に並ぶ人々の姿があった。それに並ぶとなぜか注目を浴びた。何故だろうと思い、自分等の姿を見ていると確かにこの姿では目立つことが理解できた。


 俺の姿は旅人って感じだが、他の中位吸血鬼達は騎士の格好をしているため、冒険者とか傭兵っていうよりは貴族を守る騎士だからな。それにデカイ槍や大剣を持っていて今から戦争にでも行くのかと思われる出で立ちだ。そんなことを思っていると詰所から兵士がやって来た。


 「もしや蟲狩りの翼竜騎士団の方達ではありませんか?」


 「…いかにも」


 その返事にやって来ていた兵士達は羨望の眼差しを送っていた。そして周りの人々は歓声を上げ、手厚く迎えられた。


 「では、こちらではなく、あちらの門からお入りください」


 そう言われて身分証明とか確認されることなく、街に入ることができた。蟲狩りという点から何故か歓迎され、高級宿に案内された。しかも無料で明け渡されたのだ。こんな雑な詰所でいいのだろうか。


 「さて、これからどうするかだ」


 「まずはここのご飯を食べてみるというのはどうでしょうか」


 その言葉に他の吸血鬼達は涎を垂らす。なんだこいつらは。どんだけ飯を食べたいんだよ。もう少しスマートになれよ。


 「それは夕食で食べることになるから、後回しだ。この街の情報を集めてみるか。蟲達を配置しよう」


 窓を開けて蟲を小数放つ。蟲達にはここで繁殖してもらい、情報を集めてはこちらに連絡してもらうようにする。中位吸血鬼達にはナハトで手にいれた服を着てもらい、初めてのおつかいに行っていってもらう。内容としては下位吸血鬼達を街にいる人達に憑かせて一緒に美食巡りをしてもらうということだ。これは重要な任務なのですごく張り切っていた。


 三人組を作ってもらい、街を探索する。俺はというと二人の中位吸血鬼を護衛に商店を巡る予定だ。商人は色んな街を巡りお金を稼ぐ生業だ。そのため、色んな街や国に行こうと不信ではない。そこを利用して蟲達を俺の元に向かわせる。こちらに来た蟲達はある程度進化させたあと、再び元の場所に戻って人を食べてもらう。商人には下位吸血鬼を憑かせるので蟲を恐れることもない。


 街を歩いているとつけてくる者がいた。翼竜騎士団とわかってのことか、それとも金蔓とでも思っているのだろうか。中位吸血鬼の二人に指示を出して別の方向に行かせる。路地に入ると行き止まりに誘導された。男達はニヤついた顔で短剣を構えて脅してくる。男達は全員で10人程だ。


 「そこの坊っちゃんよ。金目のものを置いて行きな」


 「誰が坊っちゃんだ?」


 「てめぇだよ。その魔法の鞄を置いていけば命だけは助けてやるよ」


 「もしかして俺に言ってるの?」


 「はぁ?てめぇしかいねぇだろ!この人数に勝てるとでも思っているのかよ?」


 男は下品な笑いを浮かべながら短剣を振りかざす。


 「お前しかいないけど?」


 「はぁ?目が腐ってるのか?」


 「どこにいるって言うんだよ。よく見てみろよ」


 男が振り向くとそこには自分に向けられた短剣を持つかつての仲間達だ。ぺらぺらと喋っている間に中位吸血鬼の二人に9人の男達を拉致させて、下位吸血鬼をとり憑かせた。


 「で?誰をやるって?」


 「お、おま…い、いえ…俺は…なにもぐふっ!?」


 生き残りの男をボコボコにした後、ごみ箱に捨てて放置した。9人の下位吸血鬼にはこの街の闇ギルドに攻め込んでもらう。どの街にも必ずある闇ギルドに嫌気が差すが、あると便利だが、なくなるとすっきりする。


 「さて、飯でも食いにいくか」


 「「はい」」


 中位吸血鬼達の嗅覚を頼りに酒場に入る。そこには昼間から酒を飲む人が多く、冒険者もいるのだろうか。なぜか俺に注目が集まるが、すぐに視線が離れていった。それからボソボソの小声で会話していた。何かしらの情報が回っているのかもしれない。


 「マスター、お勧めの料理を3つ頼む」


 「ガキにやるような飯はねぇぞ…!?い、いえ!あります!ぜひ作らさせて頂きます!」


 マスターは俺の事をガキ呼ばわりしたが、すぐに中位吸血鬼達の殺気に恐怖して言い直した。そしてガクブルしながら厨房に向かった。


 「全く…ラルフ様のことをガキ呼ばわりとは…躾が足りないにもほどがあります」


 「気にするな。確かに俺は成人しているが、まだまだ子供みたいなものだしな」


 「ラルフ様がそういうなら何も言いませんよ。それにしても美味しそうな匂いですね」


 「だな。ここを選んで正解だったな」


 匂いについて感想を述べながら待っていると、先程のガクブルマスターが料理を運んできた。どこぞの貴族みたいな仕草をしながら去っていった。彼は一体俺たちをなんだと思っているのだろうか。さて、そんなことはおいておいてまずはこれを味わおう。


 「これは…ステーキか?このタレはなんだろう?」


 「ラルフ様、こちらのお肉はステルスバードと言われる稀少なものかと思われます。羽毛が周りの景色に溶け込むことによって見つけることが困難と言われている鳥系統の魔物ですよ」


 「なるほどな、それからこのタレはなんだ?」


 「そちらはトマトをベースとして香草や塩を加えたものかと思います」


 「さっそく食べるか」


 「はい」


 ナイフなんて貴族みたいな食い方はしない。フォークを突き刺して食べるのが冒険者ってので結構好きだ。村ではなぜかナイフを使っている人もいたが、大体フォークとスプーンで食べるものばかりだったな。


 ステルスバードと言われるのは羽毛が周りと溶け込むからと聞いていたが、肉の方はタレと同化してて見えにくいな。フォークを突き刺すと肉汁が溢れてくるがそれは皿で受け止める。それから一口食べてみると鼻を透き通るような香りがした。それから少し辛味を感じて、最後に肉の旨味が口の中に広がっていった。


 「っ!?」


 つい驚きで固まってしまった。中位吸血鬼達はあえて俺の事を無視して肉をかじると俺と同じように固まった。それから顔がふにゃーんと弛むほどのうまさがあった。


 「ど、どうですかい?」


 ガクブルマスターは不安な顔で俺らに恐る恐る感想を聞こうとする。俺は静かにサムズアップした。俺の目には一筋の涙が流れるほどだ。それにはマスターも苦笑い。それでも嬉しそうにしてることは確かだ。それから感動が終わらないまま食事は終わった。それから代金を払って帰ろうとしたとき、魔法の鞄に入っているオーク達のことを思い出した。


 「マスター、ちょっといいか?」


 「へ、へいなんでしょうかい?」


 「こちらで肉を用意するから料理を作ってくれないか?ちゃんとお金は払うからさ」


 「そ、そうですね…昼頃ならお店も閉めてますし大丈夫ですが…今の時間はお客さんが多いので…」


 「そうか…じゃあまた日を改めて来させてもらうよ。そのときを楽しみにさせてもらうよ」


 「へ、へいありがとうございやした!」


 マスターの気持ちのいい返事に満足したので闇ギルドがどうなったのか。散歩がてら見に行くことにした。未だに情報が入ってきてないのでどうなったかはわからない。


 美味しいご飯を食べてお腹一杯になり、幸せそうにしてると、身体中の蟲達から抗議の嵐だ。やはり自分一人で楽しむのはだめだったか。あと中位吸血鬼達が羨ましいそうだ。







 蟲達をなんとか宥めながら着いた闇ギルドはまだまだ楽しくお祭り状態だった。闇ギルドの建物は大体立派で貴族が住んでいるような屋敷だった。外には何人も騒ぎを聞き付けて集まっていた。


 「まだ終わってなかったみたいだね」


 「そうですね、慣れない体だと厳しいのでしょうか。それとも…」


 「ちょっと偵察を頼むか」


 数匹の黒甲殻蟲と隠甲殻蟲を放って様子見だ。彼らは悪食だが、気配遮断に優れているから目立たずに行動できるし、なによりああいう大きな建物に数匹潜んでいるのがほとんどだ。だから見つかっても追いかけられるが不自然じゃない。


 「あれ?火が灯ってるな。大丈夫か?あいつら」


 「多少なら大丈夫かと。それにしてもここまでの騒ぎになるとは思いませんでしたね」


 「せめて明後日までは何事もなく過ごしたいな」


 「そうですね」


 「お、来た来た。それで何が?ふーんそれは大変だな。まぁタイミングは悪かったのは仕方がない。お前らはどうだ?なるほどね。そりゃあ長引くわ」


 「ラルフ様、私達にも教えてください」


 蟲達を使役してるのは俺だけなので俺にしか声が聞こえない。なので中位吸血鬼達は気になってしょうがないようだ。余談だが、中位吸血鬼は吸血系統の蟲の声は聞けるらしい。


 「なんでも攻め込んだ時にちょうど凄腕の冒険者が借金を払いに来てたときに遭遇したもんだから、そいつと一戦交えることになり、倒した後さらに借金冒険者が来て戦ってを繰り返してるらしい」


 「それはなんとも…」


 「ちょっと増援を送るか」


 オークを狩ったおかげで下位吸血鬼も数百匹はいるからな。体を与える体が強いほどその個体も強くなっていく。強い素体があるなら手にいれなくちゃ。ということで数十匹を送り出して体に憑いていく。そのおかげもあって進展したとの情報が入ってきた。


 「もうちょっとで終わるみたいだな」


 「それはよかったですね」


 「さて、中に行きますか」


 中位吸血鬼達も待ってる間に全員集まったので、ぞろぞろと屋敷に向かっていくとやはり注目が集まった。それでも中に入ろうかと思ったが、街の警備兵に止められた。


 「こちらは危ないので入らないようにしてください!」


 「いえ、お気に為さらず」


 「ですから!こ「どうぞどうぞ!こいつのことは構わず入ってください」ちょちょっと!センパイ!?」


 「いいから!」


 「?まぁいいか、入らせてもらうぞ」


 なにやら兵士同士で言い合いを始めたが、センパイ兵士とやらは中位吸血鬼の元体の持ち主について知っているようだ。なので入ることを止めないのだろう。身分の違いって素晴らしいんだな。


 中に入ると至るところに倒れた人がいたが、冒険者風の格好をしていることからこいつらは借金冒険者だろう。建物内は黒甲殻蟲に案内してもらった。金になりそうなものは拝借して、武器は憑かせた吸血鬼にでも使わせるためにもらっておこう。


 上に上がっていくと豪華な扉があり、そこは開いていた。中からは金属同士がぶつかる音がしており、未だに戦い続けているのだろう。


 こっそり入るわけでもなく、堂々と中に入ると一旦戦うのを中断してこちらを見てきたのは下位吸血鬼達だろう。それを隙だと感じた冒険者が斬りかかったので、蟲魔法の麻痺をお見舞いしてあげた。


 「申し訳ありません、ラルフ様。手間取ってしまい」


 「気にするな。それにしても中々手応えがありそうなやつがいるな。こいつらは体を貰おう」


 次々と下位吸血鬼はとり憑き、絶叫する男達に闇ギルドの団員達は恐々としていたが、少しすると体を確かめるように無言で立ち上がる男達にさらに恐々とした。


 下位吸血鬼達にはお金を渡して美食巡りの旅に行ってもらう。残ったのは闇ギルドの団員達だ。ちなみに下位吸血鬼達は裏口から気配を消して出ていった。


 「ここに闇ギルドの長もしくは幹部はいるか?」


 「お、俺だが…」


 「そうか、ちょうど俺の使役してる魔物がお腹すいててさ。ちょっと食べられてもらうね」


 「うぅっ…おらぁ!」


 その言葉に恐怖で震えていたが、闇ギルドの団員の端くれだからか意地なのか、短剣を投擲してきた。しかし中位吸血鬼が俺に当たる前に手刀で弾き飛ばした。


 「なっ!?」


 「ラルフ様に面倒を掛けさせるな」


 待ちきれなくなった蟲達は体中から蠢き、床を這うもの、壁を伝うもの、闇を染めるものが食事を求めて這い寄る。闇ギルド団員は声にならない声を発しながら逃げようとするが、意味もなく喰われていく。


 「いや…ぁっ…あああああああああーっ…」


 「いだぁいいだぁい…なっあああ!嫌だぁ!」


 彼らは骨も血も残らず美味しく蟲達に頂かれた。


 「どう?はぁ…味がいまいちか。やっぱりどこかの食堂とかにいかないとだめか。でも骨は美味しかったって?俺には骨の味はわからんからな。なんとも言えないね」


 満足のいかない蟲達は次の獲物を寄越せと騒ぎ出したが、レベルが上がったことで知能が上がったのか、冷静を取り戻して素直に俺のもとに帰ってきた。しかし一部の食いしん坊は駄々をこねる。


 「あのおっさんの食堂の飯でも食べさせてやるから、我慢して待っとくんだな。この街の住人を食い尽くしたらうまい飯も食べられなくなるぞ。それに俺達にはあの食堂のおっさんがつくってくれる飯があるんだ。それまでの辛抱だぞ」


 蟲達には食欲があるのはわかるが、我慢を覚えるという思考があるのかは謎だが、説得すれば割りと理解して行動する蟲達はまるで人の子供のようだと思った。


 「ラルフ様、そろそろこの建物から去りましょう」


 「そうだな、撤退するぞ」


 「「「はっ!」」」











 ラルフ達がまた1つ闇ギルドを滅ぼした頃、ルセラ王国には国中に散らばる蟲狩り達が集結していた。ルセラ王国にはかつて蟲使いが現れたことがあった。その際、数年にも及ぶ戦いで数十万人ものの人々が蟲によって食い尽くされた。


 その蟲使いもまた、ラルフのように神を憎み、世界を憎んでいた。蟲使いからの侵略は幾度となく繰り返さられ、ルセラ王国は滅亡の危機にたっていた。


 滅亡寸前に追い込まれた頃、蟲使いに対抗することのできる強力な魔物を使役した者が現れた。その者達は瞬く間に蟲使いを狩りとることに成功した。


 その者達は全員で十三人いた。十三人は次に蟲使いが現れたときの対策として"蟲狩り"を設立した。その時のルセラ王は十三人に特別な勲章と爵位を与え、さらには領地を与えた。


 そして現在に至り、その十三人の称号は蟲狩りの序列へと変わり、序列に就いた者達は領主になるという決まりになった。


 今、現ルセラ王であるアルディージャ・ルセラザラートの前には十二人の蟲狩りが跪いていた。


 「よくぞ、我のもとに集まってくれた。感謝する。此度もまた蟲使いが現れた。お主達には蟲使いを討伐してもらいたい。すでにナハトは蟲使いに滅ぼされてしまった。我はそれを遺憾に思う。だからこそ、これ以上の被害を出さないためにも、即座に蟲使いを狩りとるべきである」


 王は立ち上がり、十二人の蟲狩りへと宣言する。


 「今宵の蟲使いは過去最大の成長速度を持っていると思われる。お主達には一刻もはやく蟲使いを狩ってもらいたい!これは我だけの願いではあらず、これは神の願いでもある!神は申された『蟲使いを排除せよ』と。この御言葉は神聖皇国の教皇からもたらされたものだ。蟲使いを駆逐しろせよ!」


 「「「「はっ!」」」」


 その宣言と神の言葉は全蟲狩りに伝えられ、蟲狩りは各地へ散らばっていく。どの者も殺気立っていることがわかるほど、空気がピリピリしていた。


 蟲使い討伐には蟲狩りだけでなく、国軍も総動員され冒険者を駆り出される。もちろん一般市民さえもそれには参加する。そしてスタロト村の村人さえもこれには参加するのだ。しかしそこからは一人の女性がいなくなっていた。











 蟲使いの家族は蟲使いを産んだという罪で殺される。これは人が決めたものだ。蟲使いの血は穢れているとされる。たとえそれが聖女の家系だろうと貴族だろうと王族だろうと関係ない。


 蟲使いの家族はもういない。これは次の蟲使いを生まれないようにするための国の決定。だが、【魔物使い】の系統使役に今のところ血との関係があるとされたことなのなかった。


 しかし人は過去の人の言葉を基盤とする。これを覆すことは相応の成果や衝撃がなければ変えられることはない。


 人は協調性を大事にする。仲間外れは虐められ、心を傷つけられ、嘲笑れ、存在を消されていく。仲間外れを傷つけることに躊躇はない。何故なら罪の意識がないのだから。周りがそうだと言えばそれが常識だ。


 もしかしたら1つの虐めから発展した差別だったのかもしれない。そういう事例は存在する。それは体型しかり声しかりしゃべり方、考え方など様々だ。特にこの世界では使役できる魔物という点においては『蟲使い』が該当する。


 他にも存在する。それは"種族"だ。今、人族が祟っているのは【魔物使い】のスキルを与えてくれる神様だ。しかし神様は複数存在する。








 「今日の世界樹様は御機嫌がよろしいですね」


 一人の女性が巨大な樹の幹を撫でる。すると樹が薄っすらと光り、その樹の周りに光の玉が飛び回る。


 「ふふふ、何か良いことがあったのかしら…」


 1つの光の玉が女性に話し掛ける。


 『世界樹様が仰られた。"蟲使いが生まれた。魔族が活発化した。魔神の封印に綻びがうまれた。"』


 「蟲使いに魔族に魔神ですか。これは期待できそうですね」


 『私はお前と世界樹様がいれば何でも良いがな』


 「そんなこと言って、本当は楽しみなくせに」


 『私をからかうでないっ!』


 女性は笑い、光の玉は震える。その光景を世界樹は楽しそうに微笑む。


 『いつ見ても仲がいいな。蟲使いが生まれるのはいつぶりだろうか。彼に罪はない蟲にも罪はない。彼等をいつまで貶めるのだろうか。僕は調停者としては感心しないなぁ。彼女はまだ魔神を縛っているのか、本来の目的も忘れていつまで続けるつもりだろうか』


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