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嫌われ者の蟲使い  作者: 『食べられません』を食べた人
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第五話

 帰ってきたギルドマスターは肩に受付のティルヌ?を担いでいた。そして脇にいつぞやの殴りかかってきたドワーフを抱えていた。二人を無造作に床に放り投げてからソファに座り直した。二人のうちティルヌは周りをキョロキョロして俺のことを見つけると睨み付けてきた。男ドワーフの方は気絶していた。


 「こいつらで間違いないか?」


 「そうですね、間違いないです」


 「そうか、すまなかったな。ティルヌは今日をもってギルド職員を解任する。そこに転がってる男は罰金を課す。それでどうか許してもらえぬか?」


 その言葉にティルヌは驚愕といったようで、しばらくの間、現実を受け止められず、かたまっていた。その間も俺とギルドマスターの話は続く。


 「いいですよ。冒険者になることができるのであれば、特に気にしませんよ。そういえばその男はティルヌ?にご執心でしたが、仕返しに来ませんかね?」


 「来てもなにもできんだろうに。こいつは口だけでなにもできんからのぅ。ギルドに来ては初心者いじりとティルヌを口説きに来てただけ、実力は初心者冒険者よりも弱い。草食牛にすら負けてしまう。それほどまでにこやつは弱いからのぅ」


 ひどい云われようである。ただ、事実なのでなんとも言えないところである。なぜならこちらはただ殴っただけにも関わらず気絶するほどだ。それほど弱いやつになにができると言うのだろうか。


 「確かに弱かったですね」


 「こいつの弱さは本当にドワーフかも怪しいほどだがな」


 一段落ついたのでお茶とお菓子を食べながらリラックスすることになった。牛達については半分ほど買ってくれると言っていた。あまり多すぎても消費できないとのことだ。なので残りはログナス達の宴で食べることにした。


 「お主は闘牛を倒せるほどの腕前と聞いたが、実際のところどれほどの力があるのか、儂に見せてくれんか?」


 「それはギルドマスターと戦うということですか?」


 「そうじゃな、儂はこれでもまだまだ現役だ。最近の若者の強さがどれくらいなのか、見せてくれぬか?人族というのはドワーフと力量が違うものじゃからな」


 「いいですけど、いつ頃しますか?」


 「今からというのはどうじゃ?」


 「いいですよ」


 そういうことでギルドマスターと戦うことになったわけだが、なぜかそれにログナスも巻き込まれた。俺に助けを求めてきたが、ギルドマスターの熱い要望によってログナスは逃げ場を失った。


 戦う場所はギルドの裏にある広場だ。ここはギルドの講習会にも使われることもあるが、あまりにも大きな魔物が連れ込まれた場合の解体所としても使われるそうだ。


 俺が剣を使うということでギルドマスターもそれに合わせて剣を使うことになったが、ドワーフということもあって普通の剣の大きさではなかった。俗にいう大剣といわれるものだ。人族からしたら大剣だが、ドワーフからしたらもしかしたら普通の剣なのだろうか。


 「久しぶりに腕がなるわい」


 「ラルフがんばれ~」


 ギルドマスターのやる気を感じる。ログナスからはやる気のない応援が聞こえてきた。俺とギルドマスターの手合わせの後にログナスも付き合わされるためかログナスに元気はなかった。それほどまでにギルドマスターは強いのだろうか。


 ちなみに今回は蟲達の力は使わない。使うとバレる可能性がないこともないが、今回はあくまで俺の腕前を知るために目的がある。そのため蟲達を使うことはできない。


 まずは様子見だ。ギルマスに剣を振り下ろすと難なく受け止められる。連続して斬りかかり思考する。軽く斬ったところでドワーフの力には及ばない。種族進化してるおかげなのか力加減がわからない。


 「ずいぶんひ弱な攻撃じゃな」


 「こいつはどうかな?」


 5割程度の力を出して叩き斬る。するとギルマスは「うおおお」と言って後ろに弾き飛ばされた。やはり力加減が難しい。5割でこれだと全力だと剣が壊れそうだ。


 「お主…今のは全力か?」


 「まだ半分ですが?」


 「降参じゃわい。あれほどの力があれば闘牛を素手で倒すこともできるじゃろう」


 そう言って模擬戦は終わった。それからギルマスとログナスが戦い、ログナスがボロボロになったところで今日は帰って宴をすることとなった。ログナスはボロボロだったが酒を飲んで元気になった。酒には治癒力はないはずなんだが、もしかしたらドワーフの特性かもしれない。


 次の日の朝、ギルドに行ってギルドカードをもらった。ティルヌの件があったものの、ギルドでは手厚く迎えられた。そして念願の冒険者になれた。


 ちなみに冒険者にはランクがあり、下級・中級・上級とあり、その上に特級・神級がある。下級は魔物で言うG,Fランクに対抗でき、中級はE,Dランクに、上級はC,Bランクに対抗できるとされている。特級はAランクを、神級はSランクと対抗できるという風になっている。


 それでも蟲や竜については別格でこのランクに当てはまらない場合が存在する。特に蟲は個で活動するものが少ない上、見分けがつかないほど小さいため、蟲はどれも危険度はCランク以上にされている。魔物のランクでいえばGでも無数の蟲がいればそれはCランクということだ。そして個でいた場合は視界に入らない場合があるため危険度はさらにはね上がる。


 竜については魔物のランクがあるが、生きた年数によっても強さが変わってくる場合がある。幼竜と成竜とではランクが一緒でも強さが全く違ったりするからだ。古くから存在する古竜と最近進化した竜とでもランクが同じ場合があるが、やはり強さは古竜の方が強い。という具合でランクで判断すると痛い目に合うのでしっかりと魔物について学ばないといけない。


 今日はギルドカードを得たから魔物や国家間についてと他種族について学ぼうと思っている。まずは魔物についてだが、基本的に名前・ランク・属性・到達レベル・弱点・スキルなどが記載されている。


 名前というのは神がつけたとされるもので鑑定することによって判明する。ランクと属性も鑑定してわかったものだ。到達レベルについては確認されている最高レベルと平均レベルについてだ。これによって強さも判断できるわけだ。


 弱点については属性だったり、皮膚の柔らかい部分だったり急所が載っている。それを暗記しておくことは冒険者としては重要なものであるといえるだろう。スキルについては覚えておくと対応に困らないのでざっと見ておくことにした。


 この魔物図鑑には今まで人族が使役してきた魔物が載っているのだが、ここには載っていないものももちろん存在する。それは悪魔についてだ。悪魔は人に使役されない唯一の存在とされている。悪魔は人に似た魔物であり、人類の敵とされている。だが、ほとんど目撃されることが少ないため、その実態については未だ判明されていない。


 次にドワーフについてだ。ドワーフは人族と違い、魔物を使役することができない。その代わり大地の声を聞くことと、酒への耐性が物凄く強く、生まれながらにして鍛冶への適正をもっている。大地の声を聞くことによって鉱脈や地面の空洞を探知することができる。さらに土魔法を自然と身につける。これがドワーフの神からの加護とされている。


 まだ会っていないが、エルフについてだ。エルフも人族と違い、魔物を使役することができない。その代わりに精霊を使役することができる。さらに精霊の声を聞くことによって植物の状態や自然に存在する魔力を吸収することができる。エルフは魔法の申し子とされるほど魔法が得意な上、精霊を介した魔法も使うことができる。これは精霊魔法といって、自然界の魔力を使って行う魔法だ。そのため、普通の魔法よりも威力が強いそうだ。


 などの本を読み食堂で一息ついているといつの間にかドワーフ達が集まって宴会を始めてしまった。まだ昼間なんだが、集まったら宴の始まりのようでなんだか家族を思い出す。ここまで大騒ぎはしなかったけど、それなりに楽しかったことを記憶している。こんな日常もたまにはいいかもしれない。


 「蟲使いがナハト街に現れたぞ!」


 ギルドに汗をかきながら突然入ってきたドワーフはそう叫んだ。その言葉にこの場は静寂と化した。あれだけ騒いでいた宴が鎮まるほどだ。ドワーフ達は口々に恐怖・絶望・怒り・悲しみを言っていた。


 「静まれ!」


 そこへギルドマスターがやってきた。それによりこの騒然とした場は収まった。ギルドマスターは緊急依頼を発令した。


 「全ドワーフに告ぐ、蟲使い討伐依頼を依頼する」


 その言葉にドワーフ達は雄叫びをあげた。あまりの大きさに耳を塞ぐほどだ。それほどまでにドワーフの熱気は強く、さらに殺気立っていた。


 宴に参加していた者から順に参加表明をした後、ギルドを颯爽と出ていった。その場に残されたのは俺とギルドマスターとギルド職員だけだ。俺はまず飯だということで、食堂で今日のおすすめを頼んだ。その光景にギルドマスターはこちらを凝視していた。


 「ラルフよ、なぜそんなに落ち着いておる?」


 「なぜ?ですか?それは今すぐにここに来るかもわからないのに、一々焦って絶望して何になりますか?蟲使いに対して一瞬の隙も許されない状況で焦りは死へと還元されます。なので俺はとりあえず飯を食べようかと」


 「それでその落ち着きようか?」


 「あれほどの熱意のあるドワーフは見たことがありませんでした。もしこの場に蟲使いがいればドワーフ達が簡単に退けてくれるでしょう」


 「そうか、確かにそれはいえている。ラルフはあのドワーフ達と共に蟲使いを討伐しにいかぬのか?」


 「そもそもその緊急依頼に俺は含まれていませんよ?」


 「それもそうじゃな、わしはついラルフがいない呈で全ドワーフと言ってしまったからのぉ…」


 「お、きたきた。そういうことなのでこのおいしいご飯を食べますね」


 このギルマスもあのドワーフと一緒に出ていくと思ってたが、どうやらこのギルドを守る!みたいな役割でもあるのかな?まぁ俺はこの街を襲う気はさらさらないけどな。おいおい、お前ら。そんなにないんだからあんまとるんじゃないぞ


 「なぁ、お主に聞きたいことがあるんじゃが…」


 「はひぃ?おっと失礼、なんでしょうか?」


 「今世の蟲使いの名が"ラルフ"と言うらしいのじゃが…こいつはお主のことじゃないよな?」


 「それは偶然名前が一緒なだけでは?ラルフなんてありふれた名前じゃないですか」


 ふーん、そこまでわかってるんだ。ということは村の奴等は俺のことを国にチクったのか。まぁいずれわかることだから別に良いけどさ。


 「偶然…確かに偶然かもしれないな。じゃが、これも偶然か?お主が()()()()()()()()()()()


 「偶然は偶然ですよ、おっと」


 ギルマスは腰につけていた剣を振り下ろした。それを紙一重でかわして距離をとる。


 「いきなり物騒なことをしますね。危ないじゃないですか、怪我したらどうするんですか?それにせっかくのご飯が台無しですよ!」


 「これを避けるか…お主には蟲使いの嫌疑がかかっておる。拘束させてもらうぞ」


 「それは嫌なので逃げさせてもらいますよ」


 先程から暴れたそうな蟲が体からあふれでてきた。


 「やはりお主が!」


 ギルマスは剣で斬りかかってくる。それをいなしてかわす。蟲達はギルマスに蟲魔法の麻痺をかける。それによってギルマスはガクガクと震えながらその場に倒れた。


 「はぁ…せっかく居心地のいい街を見つけたのに、出ていかないといけないとは…」


 ため息をついて食堂のコックに注文を言いに行くとそこには誰もいなかった。仕方がないのでギルマスの前に座り、言葉を発するまで待つ。


 「かはっ…はぁ…はぁ…なぜナハトを襲った…」


 「なぜか?それはノーコメントですね。あえて言えば復讐のためとだけ言っておきましょう。あ、そうそうドワーフは復讐対象外なので安心してください」


 「それでも…蟲使いを野放しにできる…わけないじゃろ…」


 「蟲使い=悪で括るから蟲使いは暴れるのであって全ての蟲達がどれもが悪な訳ではないんだけどな。そうやってイコールで結び付けるのがこの世界の過ちだろうな。それに蟲使いだって同じ神様から与えられた加護であることを忘れている」


 「それは…」


 「ドワーフの神もしかり、もし10樽で酔う加護と20樽で酔う加護があったとする。皆は20樽の加護を羨む。それを異端として討伐するのと同じじゃないのか?神から与えられた加護に優劣があるとして与えられた者に罪はあるのか?あるとすれば不平等を与える神こそが悪ではないのか?」


 その言葉にギルマスは押し黙る。反論しようにもそれが正論であって、それが邪道な考え方とは言えないからだ。神が加護に不平等を与える。その考え方は異端だが、与えられた者からすればそのような解釈がなされることも必然となる。


 「違うのか?」


 「ちが…わな…い。だが…それとこれとでは訳が違う。人を殺しておいて…どの口が言える」


 「そうかな?自己紹介したら殺しにかかってくる人達のことを返り討ちにしたらだめというのか、どの口が言えるのか、俺も聞きたいな」


 「うぐっ!」


 「なんだっけ?名前がラルフでナハトから来たら拘束されるんだっけな?まぁ俺は蟲使いだけども」


 のんびりとギルマスを責めているとギルドにドワーフ達が集まってきた。俺と距離を保ちつつ、武器を構えて立っていた。


 「おやおや皆さんお揃いで。忘れ物でもしましたか?」


 「お前が…蟲使いだったのか!ラルフ!」


 そこには世話になったログナス、ラン爺、カイゼルと一緒に宴で騒いだドワーフ達がいた。誰もから殺気を感じられるほどの目力があった。


 「蟲使いといえば蟲使いですね」


 「なぜだ!なぜ、ギルドマスターを殺した!」


 「ちょっと待て、そこのギルドマスターは生きてるぞ。勝手に殺してやるなよ」


 「そうだ!わしの仇をとるんじゃ!」


 「おい」


 「よくも…ギルドマスターを…」


 「なんで話を聞かないかな…まぁいいか、やれ」


 今にも斬りかかりに来そうなドワーフ達を蟲魔法の麻痺で倒していく。これで死ぬことはないが一先ず動くことができないので、気軽に使うことができる。


 「くっこれしきのことで…う、動けねぇ…」


 「なんだか、皆さん茶番がお好きなようなのでそこでじっとしておいてくださいね」


 麻痺で動けなくなったドワーフ達の間を通り、外出用の扉近くまで行く。蟲達に聞くとギルド前には武装したドワーフ達が集まってきているとのことだ。蟲達に指示を出して武装しているもの達に蟲魔法の麻痺をくらわせる。そして扉を開けて外の住民にも声を届くようにする。


 「皆さんにお知らせがあります。俺こと、蟲使いラルフの名において全ドワーフに対して一切殺しを行わないことを誓います。これは嘘ではありません。俺個人としてもここは気に入ってますし、何よりも蟲達がログナスの料理が大好きなので蟲達もログナスを含めたドワーフを殺したいと思うやつがいません。以上でこの話は終わります。ご清聴ありがとうございました。では達者で」


 宣言を終えた後、ログナスやラン爺、カイゼルのところに向かう。三人とも麻痺で動けなくなっているが、声は聞こえているし、言葉も発せられる。三人の前に行くと。


 「ログナス、ラン爺、カイゼル、世話になったな。ここにはもう来れそうもない。また宴して騒ぎたかったが、現実的に無理なようだ。達者でな。これ、俺からの御礼だ。捨ててもいいが勿体無いから使ってくれるとうれしい」


 それに対しての返事はなく、ただただこちらを見つめてくる三人に微笑みを返した後、ミスリルの塊を三人の前に1つずつ置いた。ギルマスの前にはナハトの酒を置いておいた。


 「それじゃあ、また来ることはないだろうけど、さようなら」


 麻痺でしびれたドワーフ達の間を縫って歩いてその場を立ち去った。向けられる視線には様々な感情が見られた。恐怖・絶望・悲しみ・戸惑い・困惑・殺意・興味・羨望など。どれもが俺に対するものと周りを飛び回る蟲達に対するものだ。


 蟲達は昼間に漂う料理の香りに引かれては散ろうとするが、自分の姿のせいで嫌がれることがわかっているのか、俺のそばから離れようとしなかった。


 そんな蟲達の感情は悲しみや絶望などのネガティブなものばかりだった。それほどまでにこいつは美食家になってしまったのだろうか。


 「次の街ではたらふく飯を食わしてやるから、大人しくしてるんだぞ?わかったか?」


 歩いていくと俺が蟲使いだと気付いた人達は逃げていった。その中には兵士や冒険者もいて、俺に襲い掛かって来たものまでいた。それに対して殺傷はせず、蟲魔法の麻痺で黙らせた。


 「襲ったりしませんから、そちらもそっとしておいてくれると助かります」


 その言葉に困惑する者達だが、その中でも気力だけで立ち上がった猛者がいた。


 「蟲使いに…耳を貸すものなど…いる…ものかぁぁぁっ!」


 「その耳は飾りか?」


 斧を振り回しながら走ってくるドワーフに対して、剣で斧を弾き飛ばした後、頭を鷲掴みにして地面に叩き付ける。そのドワーフは白目になって気絶した。


 「話はちゃんと聞こうね?じゃないと…そこの人らもこうなりますよ?それでも来るなら、これを差し上げましょう。蟲魔法"不快"」


 それをくらったドワーフ達は顔を青くさせ、顔をしかめてその場で転げ回った。それを無視してその場を後にした。街を出る門には数多くの冒険者や兵士のドワーフが武器を構えて待っていた。


 「お前を逃がすわけにはいかんぞ!」


 「このままでただですむと思うなよ」


 「蟲使い、殺す」


 口々に俺を非難する言葉を並べるドワーフ達に嫌気がさす。こいつらは本当に話を聞かないな。それにしてもこれだけの兵士が相手でこちらが負けるとでも思っているのだろうか。


 「はぁ…めんどくさい人達だ…」


 武器を持ったドワーフ達は襲い掛かって来た。そのどれもが俺を殺そうとする本気の勢いだ。それに対して一閃で弾き返す。


 「なっ!化け物がぁ!」


 「ぐわっ」


 「うおっ!」


 弾き飛ばされたドワーフ達は後ろにいたドワーフを巻き込みながら倒れていった。


 「力の差というものを理解しましょうね…ん?」


 ドワーフ達は土魔法を使い、ラルフを土の壁で閉じ込める。それにドワーフ達は歓声を上げるが、それも虚しく蟲魔法"腐食"によって土壁は溶けていった。


 「はぁ…これで済むわけないのに。今度は火魔法か…」


 飛んでくる火の玉を水の壁で防ぐ。ドワーフ達は連発した魔法で魔力切れを起こして倒れるものまでいた。そんな中、ラルフだけは息も切らずに立っていた。ドワーフは力は強いが、鍛冶や酒に特化しているため、どちらかといえば魔力よりも生命力の方が強いのだ。それに対してラルフは蟲人族と言われる全く新しい種族な上、内包した魔力は絶大だ。魔法の対決で負けるわけがない。


 「その程度で俺は倒されないよ。おや皆さん?お疲れなようで?さっさと食堂やバーに行って反省会でもしたらどうですか?」


 それでも諦めきれないドワーフ達はラルフに無謀にも立ち向かっていく。それに対してラルフは蟲魔法の麻痺をお見舞いする。次々と倒れていくドワーフ達に対してなにもせず、ただ通りすぎていくラルフにドワーフは困惑していた。


 「これでやっと…おや?これはこれは人族の騎士様かな?」


 そこには頑丈な鎧を纏い槍を構え、ワイバーンに跨がった騎士がいた。その数ざっと20騎だ。


 「お前が蟲使いのラルフだな。ここで死んでもらう」


 その瞬間ラルフは火に包まれた。


 「これで終わりだな。ずいぶんあっけないものだな」


 そう言って立ち去ろうとした瞬間にワイバーン達はその場で干からびた。騎士達はあまりにも突然だったため、体勢を崩してその場に転倒した。


 「こんなんで俺が死ぬと思うなよ?笑わせるなって…あまりにも滑稽で笑うのを我慢するのが大変だったぞ」


 「なにを…した…?」


 「なにとはどれのことだ?いつの間にワイバーンが蟲達に食われていたのか?それともいつ気付いたのか?それともなにもわからないのか?」


 あんなもの気付かない方がおかしい。空を眺めていたらワイバーンが人を乗せて飛んでるなんておかしいだろ。しかもギルドではその事に対して一切触れていない。ワイバーンほどの亜竜が出ればすぐに緊急依頼が発令するはずだ。なのにそれがない。つまりはそのワイバーンは俺を討伐するためのものもしくは蟲狩りを配置するためのものだ。


 気付いたら即座に蟲達を小数向かわせて寄生させる。合図で一気に捕食させれば簡単に倒れる。蟲使いの討伐なんて十中八九火を使う。わかれば簡単だ。水魔法や土魔法、風魔法でも防ぐことはできるが、蟲魔法には腐食がある。腐食は物を腐らせることもできるが、魔法も腐食させることができる。つまりは体に腐食を纏わせると火魔法が触れた瞬間にそれは爆発することなく、溶けていくというものだ。言うならば腐食を纏わせると大体どんな攻撃も防ぐことが可能なのだ。


 「そんなことはどうでもいい、丁度いいところに来た。その体、もらい受けよう」


 その言葉に困惑する騎士達だったが、次の瞬間。騎士達は叫びだした。抵抗しようにもまず不可能だろう。なぜならこれは下位吸血鬼達が体に寄生しているところなのだから。下位吸血鬼達は倒れた騎士の体に寄生するとまず血に溶け込む。それにより寄生者は体の活動が止まる。次にあらゆる筋肉・神経を支配し、最後に脳を支配する。それにより記憶や知識を下位吸血鬼は覚え、言葉を発せられるようになる。最後に体に変化が訪れる。爪と牙は鋭く伸び、髪は白くなり、眼は赤くなる。


 「どうだ?その体は?」


 「はい、ラルフ様。少し動きづらいですが、いずれ慣れると思います」


 「そうか、他の者はどうだ?」


 「「「「問題ありません」」」」


 「そうか、それはよかった」


 下位吸血鬼達と話してると門からドワーフ達が出てきた。どのドワーフも疲弊していて息も絶え絶えだった。


 「蟲狩りの皆さん!そいつが蟲使いです!討伐してください!」


 その言葉に下位吸血鬼達は顔を見合わせてドワーフを見て笑った。


 「なんで私達がラルフ様を殺さないといけないのやら」


 「この方達は本当に面白いですね」


 「まぁ言ってやるな。これでもドワーフ達は真面目だからな」


 俺達の対応にドワーフ達はぽかーんと口を開けて呆然としていた。そのドワーフ達をほっといて寄生した吸血鬼と情報交換を行う。


 「蟲狩りはどんな感じで配置されたかわかるか?」


 「はい、どうやらナハトが襲撃され、滅びたことからナハト周辺の街や村に1~20人ずつ配属されたようです。ここドワーフの街は重要度が高いため、上位の亜竜騎兵が配属されたようです」


 「なるほどね、それで?」


 「重要度の低い村には多くて3人、街には少なくとも5人だそうです」


 なるほど、すでに警戒網を張ってるみたいだね。これがどれほどの強さかわからないけど、少しは戦力を狩れたみたいだな。


 「じゃあ自分のステータスは見れるか?」


 「はい、どうやらこの体の元の持ち主に私達のスキルが統合されたもののようです」


 「どれどれ?」


名前:カシム=レオスファーム

種族:下位吸血鬼

使役魔物系統:亜竜

レベル:44

ランク:B

進化レベル50:中位吸血鬼A

生命力:870/870

魔力量:920/920

【魔物使い】Lv6【農業】Lv3【裁縫】Lv5【属性魔法】Lv6【肉体強化】Lv7【剣術】Lv6【短剣術】Lv5【統率】Lv5【威圧】Lv3【吸血】Lv9【飛翔】Lv8【繁殖】Lv6【毒牙】Lv5【病魔】Lv6【血操作】Lv6【血強化】Lv6



名前:ミルフ=ロンドワール

種族:下位吸血鬼

使役魔物系統:亜竜

レベル:30

ランク:B

進化レベル50:中位吸血鬼A

生命力:660/660

魔力量:750/750

【魔物使い】Lv6【鍛冶】Lv4【細工】Lv3【属性魔法】Lv4【肉体強化】Lv7【剣術】Lv6【短剣術】Lv5【吸血】Lv8【飛翔】Lv6【繁殖】Lv6【毒牙】Lv6【病魔】Lv6【血操作】Lv5【血強化】Lv6


名前:カイン=ヤルンマ

種族:下位吸血鬼

使役魔物系統:亜竜

レベル:39

ランク:B

進化レベル50:中位吸血鬼A

生命力:700/700

魔力量:790/790

【魔物使い】Lv6【気配遮断】Lv7【気配察知】Lv4【肉体強化】Lv7【短剣術】Lv5【隠密】Lv5【吸血】Lv8【飛翔】Lv6【繁殖】Lv5【毒牙】Lv7【病魔】Lv7【血操作】Lv5【血強化】Lv5


 「これは…」


 寄生した本人の能力に上乗せされた下位吸血鬼のスキルまでもが追加されていた。魔物使いのスキルは神様からの加護のはずだから本人が死ぬとなくなるかと思っていたが、寄生ではなくならないのか。これはいいものを手にいれた。しかも使役できるのは全員亜竜ときた。これはついている。しかも寄生した騎士達にはまだ亜竜の紋章がある。つまりはこの亜竜も一緒に手にいれたということだ。

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