第四話
魔法の鞄の中には食料や武器、金品が入っている。食料については自分でいれたから何が入っているのかを知っている。武器に関しては詳細を知らない。金品も何があるかを全く知らない。
まずは金品だ。これはここで生活するために必要なものだ。旅人のくせに金欠はあり得るが、全く持っていないのは不自然だ。俺の村では物々交換だったから、お金なんていらなかったけど、街では必要だ。
宝石類34点
お金=1317億1397万6284ルノ
黒金貨20枚 黒金貨=10億
(→国間での取引で使用・世界最悪になった蟲使い討伐)
大金貨368枚 大金貨=1億
(→大商人最高取引・貴族資産・SSランクの魔物討伐)
金貨6500枚 金貨=1000万
(→小貴族資産・商人最高取引・Sランク魔物討伐)
小金貨8710枚 小金貨=100万
(→露店商人最高取引・Aランク魔物討伐)
大銀貨10509枚 大銀貨=10万
(→Bランク魔物討伐)
銀貨14650枚 銀貨=1万
(→一般街民の1ヶ月の給料平均銀貨3枚)
小銀貨23528枚 小銀貨=1000
(→宿屋1泊分)
大銅貨25000枚 大銅貨=100
(→一般的な1日の食事大銅貨1枚以下)
銅貨53406枚 銅貨=10
(→一番安価の食事(小銅貨3枚))
小銅貨14224枚 小銅貨=1
鉱石大量
うん、なんだこれ。俺はこれから街でもつくるのかな?一生暮らせるな。冒険者にならなくてもお金の心配ないわ。やり過ぎたか。蟲達に金品を集めさせたのが悪かったのか、街の商店からしらみ潰しにお金を集めたのが悪かったのかわからないが、なんにせよやり過ぎた。あの街復旧無理じゃね?人も金もないぞ?鉱石か、ちょうどいいからここで武器つくってもらうか。
次は武器だな。これも有りすぎて見る気が失せるけど、良さげなものだけでも見とくか。えーっと、魔剣ライガス?これは領主が使ってたやつか。身体能力上昇と雷を纏わせることができるか。雷使ってなかったけど、これはわかる人にはばれそうだから使わないようにしておこう。
他に良いものはないかなぁ。ん?これはなんだ?ステータス偽装の指輪?これはいいな。取りあえずつけてみるか。サイズは自動調整なのね。これは何を偽装するのかな?
名前:ラルフ
種族:蟲人族
使役魔物系統:蟲
レベル:55
ランク:B
進化レベル100:蟲将
生命力:1285/1285
魔力量:1457/1457
【魔物使い】Lv7【属性魔法】Lv5【蟲魔法】Lv3【肉体強化】Lv3【擬態】Lv2【剣術】Lv4【弓術】Lv3【短剣術】Lv3
何も偽装されてないぞ?あれ?なんでだ?あ、もしかしたら魔法の鞄同様に念じればいいのかな?えーっと?3つ偽装可能?3つか。足りないけど、一応身分確認のときに確認される項目だけ隠しとくか。
名前:ラルフ
種族:人族【蟲人族】
使役魔物系統:犬【蟲】
犯罪履歴:なし【強盗・虐殺・殺人・街とり】
レベル:55
ランク:B
進化レベル100:蟲将
生命力:1285/1285
魔力量:1457/1457
【魔物使い】Lv7【属性魔法】Lv5【蟲魔法】Lv3【肉体強化】Lv3【擬態】Lv2【剣術】Lv4【弓術】Lv3【短剣術】Lv3
鑑定されたらばれるけどこれくらいできたら大丈夫だろう。もし犬を使役しろとか言われたら蟲に寄生させよう。他に良さげなものはないかな?お?結界装置あるじゃん。安全地帯と見せかけて中に蟲がいるという罠が作れるな。これは次の街でやろう。ここでは大人しくしておこう。
「ん?ラルフ何やってるんだ?なんだ、ラルフも魔法の鞄持ってたのか」
「はい、これは村にいた昔冒険者をやっていたおじさんが旅をするからとくれたんです」
他には何かないかと見ているとログナスができたつまみを持ってきた。これは何かの肉の燻製かな?すごく香ばしい匂いがする。
「へぇーっソイツはいいおじさんだな!魔法の鞄ってのは高価だからな。売れば結構な金になるから、冒険者をやめたやつで田舎に引っ込むやつは大抵売り払うんだ。それなのに、くれるとは相当ラルフのことを大事にしてたんだな!」
くれたっていうか等価交換したんだよね、暴力と魔法の鞄で。
「いつもお菓子や野菜などくれてましたからね。それにしてもこの燻製美味しそうですね。何の肉ですか?」
「おう、こいつはな。鉱山鳥っていうこの街の近くに生息している鳥でな。よく採掘しにいくときに一緒に狩ってくるんだ。とりあえずこいつを食べといてくれ。まだまだ作ってくるからよ」
「わかりました」
鳥肉か。村でもよく食べてたけど、これはどう違うのかな?鉱山ってことは食料不足で痩せてたりしないのかな?とりあえず食べてみよう。なんだこれ!すげぇうめぇ!柔らかいし村で食べた鳥がゴミのように感じられる。それになんだこの味は!?村では薬草を使ったものが主流だった。確かにあれはあれでさっぱりして美味しかった。だけどこのジューシーな鳥肉はなんだ!?
なんだか涙が出てきた。俺ここに住もうかな。蟲達も食べたいと騒いでるし、ちょっとだけ食べさせるか。
燻製された鳥肉はタレがついてるわけではなく、肉に染み込んだもののようでベタベタしなかった。それを手で持って握った。それだけで掌の内側から少し顔を出した蟲達が群がって食べ尽くした。手を開くとそこには何も残っていなかった。あまりの美味しさに蟲達のうち一部が静かになった。
そのせいで他の蟲達がさらに騒がしくなった。今にも体から出ようとする蟲までいたが、『いることがばれたらあの美味しいご飯が食べられなくなる』と言ったら出ることはやめてくれたが、器用にも『味わったときの感情と味のイメージを意思の力でどうにかしろ』といってきたやつがいた。なんて無茶なとは思ったが、食べてるときの感覚を共有することでなんとかできた。
燻製を泣きながら味わっていると酒を大量に持ったランゼスがやって来た。小樽ではなく大樽だ。村で生活用水を入れるものに使っていたが、あれが全部酒かと思うと、ドワーフの酒好きというのは本当だったようだ。それにしてもあれは人が飲める量ではないと思うのだけど。
「おいおい、ログナスの料理で泣いちまったのか?ログナスの料理はまじでうめぇからな!泣くことも分からねぇわけじゃねぇ!こりゃあログナスも喜ぶぜ!」
「村で食べたことがないくらい美味しいです!もうここに住みたいぐらいうまいですね!」
それを聞いていたのか少し耳を赤くしたログナスが大量の料理を全部ランゼスの前に運び込んだ。
「そいつは嬉しいこった。俺も腕によりをかけて作らねぇとな!ラン爺はいつもの芋のバター焼きと鉱山鳥の燻製に山ボアの塩焼きだ!」
「おう!悪いな」
ランゼスは運ばれた芋のバター焼きを一口食べたあと酒を注ごうとしたがログナスに止められた。
「ラン爺、酒は料理が作り終わった後だ」
ランゼスは少し悲しそうにしたが、決まり事のようでランゼスはすぐに引いた。それから闘牛の解体が終わったカイゼルが帰ってきてログナスの料理が終わるのを待った。その間俺はひたすら鉱山鳥の燻製を味わいながら食べていた。もちろん蟲達はその味わいに感動して静かにしていた。
「悪い悪い、結構待ったみたいで。これで完成だ!カイゼルが解体してくれた闘牛の串焼きに時間が掛かってよ」
その言葉を聞いたランゼスは悲しそうな顔とは一転、素早い動きで酒を注いで配った。俺は成人したてなので、遠慮しておいた。それに蟲達の影響が分からないので、食事にだけ集中することにした。
食事に集中したかったが、ランゼスやログナス,カイゼルが呼吸をするように酒を飲んでいてそれが気になってしょうがなかった。胃の代わりに魔法の鞄をつけてるのかと思うくらいひたすら飲み続けてる。最終的につまみのことなんて気にせず酒を飲み続けていたので、つまみは全てもらっておいた。
食べる量は蟲達が満足するまで食べることができる。感覚共有からのエネルギーの分配で空腹感をいつでも得られる上、蟲達は数万以上いる。どれだけ食べても大丈夫だ。
泊まる部屋は二階の空き部屋で布団だけ貸してもらって寝ることにした。蟲の中でも夜行性のものもいるため夜でも騒がしい。ここらの情報収集のために数匹の黒甲殻蟲を放つ。こいつらは割りと街の中でも歩いてるので、いたところで避けられるだけだ。明日のご飯に思いを更けながら眠りについた。
その頃、八人の騎獣兵達は王のもとにたどり着いていた。馬車よりも数倍は早く着いたのは使役している魔物のおかげだ。
「ルドルトよ、よく帰ってきた。報告を聞こう」
そう言ったのは一際豪華な装飾をされた椅子に座っているこの国の王だ。この国の名はルセラ王国だ。この国の王はアルディージャ・ルセラザラートといい、11代目の王だ。王は頬杖をついてルドルト等八名を見下ろしている。
「報告いたします。ナハトの領主様が領主様の屋敷前で何者かによって殺されました。そしてナハトの住民は一人も残らず忽然と姿を消しており、街には争った跡や火がつけられた跡があるものの、一滴の血も残っておりませんでした」
その報告に王は顔を険しくし、ルドルトの報告の続きを聞いた。周りの大臣達は顔を青くしていた。それを行える魔物がいるのか、大盗賊団でも現れたのかと体を震わせていた。
「領主様が殺されたのは私達が着いた少し前であり、鮮血が流れておりました。そして領主様は剣を四肢に刺された上心臓を一突きされておりました。そのことから人為的に街が襲われたことがいえます。そして血が一滴も残ってないことから蟲使いが現れたと推測されます」
「なんじゃと!なぜすぐに探し出して始末しない!」
「そうだ!お主らなら倒せるはずだ!」
大臣達はすぐに始末しにいかないことを責めた。しかしそんなことをしに行って倒された場合、蟲使いが現れたという情報が王に伝わるのがいつになっていたのかわからない。そして大臣達は蟲使いの恐ろしさを話でしか知らない。それがどれ程のものかわからないから言えるものだ。この国では数度蟲使いが現れて騎士や冒険者が処理している。ルドルトも一度蟲使いとの戦闘をしたことがあり、蟲使いの恐ろしさを理解している。
大臣達は責め立て続けたが、王は静観を貫いていた。そのためルドルトは王の返事を待っていた。
「ルドルトよ!返事をせぬか!わしらが聞いておるのじゃぞ!もしや始末する自信がないのかのぅ…」
「静まれ」
王の言葉に騒いでいた大臣達は口を閉ざして跪いた。王の威厳には大臣達も敵わない。王は大臣達を一瞥してからルドルトを見た。ルドルトは跪いたままだ。
「よく報告しに帰ってきてくれた。もしルドルトが報告していなければもっと被害が広がっていただろう。サルバ大臣よ、冒険者ギルドに通告して蟲使いを探させて討伐させよ。ルドルトは騎獣兵の火属性の魔物を持つものを率いてナハトに出陣せよ。その他の騎士達を国中に警戒網を張り巡らせよ」
「はっ!すぐに」
王の命令にルドルトすぐに反応し、その場を離れていった。大臣は冒険者ギルドへの通達書を作成し、王様にサインを書いて貰った後、ルドルトと同様にその場を離れた。残ったのは王と数名の臣下だけだ。
「ハセルはおるか?」
「はっ!ここに」
残っていた臣下とは別の場所から姿を現した。
「蟲狩りを召集し、ナハト周辺の村や街と王都に手配せよ」
「はっ!」
ハセルは命令を受け、音もなくその場から立ち去った。王も椅子に立て掛けられた剣を持ってその場を後にした。
翌朝起きると、一階から金属がぶつかる音がリズミカルに聞こえてきた。鍛冶でもしているのだろう。支度をして一階に降りてみると、ランゼス達が仕事をしていた。
「おはようございます」
挨拶をしたが、無反応だったので用意されていたご飯を食べた。やはりおいしかった。こちらに気がついたカイゼルに一言言ってから家を出た。外からはやかましいほど金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
これだけ騒がしいと近所迷惑にならないのかと思っていたが、そんなことはなく、通りすぎていく人達は特に気にしていなかった。
外に出たところで暇だったので、なんとなく冒険者ギルドにいってみることにした。今はステータスを隠蔽した状態なのでばれることはないだろう。
商店街に出ると朝から賑わっていてほとんどがドワーフばかりだった。髭もじゃのおっさんばかりかと思っていたが、そんなことはなく、剃ってるひともいた。その代わり皆がみな筋肉がムキムキだった。
おいしそうな食べ物がいっぱいあり、匂いも其処らからしてきていたため、蟲達が騒がしかった。しかし彼らもここで外に出ると食べられなくなることがわかっているのか、途端に静かになった。俺もこの美味しそうな匂いに釣られていたが、蟲達に「ずるい!」とでも言われそうなので一人だけ食べに行くのはやめておいた。
冒険者ギルドのまわりには武器屋が沢山あった。もちろん其処ら中どこでもあるが、ここには特に密集していた。中に入ると屈強な男達しかおらず、ひょろい人なんていなかった。
中に入った瞬間に一気に注目を浴びた。ここに人族が来ることが珍しいのだろうか。それとも単にたまたま注目が集まっただけなのだろうか。すると、何人かの屈強なドワーフが俺のもとに集まってきた。ドワーフ達は俺に指を差して笑いだした。
「なんじゃ?こんなところにがきんちょがいるぞ?」
「おいおい、あんまりからかってやるなよ?ほら、怖がってんじゃねぇか、なぁ?」
「そんなひょろい体じゃあ剣すら持てねぇぞ、ガハハハハ」
これは絡まれてるのだろうか?まぁ気にせずに受付にいくか。もしかしたら冒険者登録できるかもしれない。できなくてもなんらかの資料を読めるかもしれない。
「すいません、冒険者登録したいんですが、ここでできますか?」
受付もやはりドワーフだった。ドワーフの女性は小柄で一部がすごく大きく、アンバランスな体をしている。このドワーフは特に胸が大きかった。
「あら?人族の方ですか?ここで冒険者登録とは珍しいですね。なにか訳ありですか?」
「いえいえ、そういうわけじゃないんですけど。旅に出てきてお金が足りなくなってきたので、冒険者になって一稼ぎしようかと思いまして」
「そうですか。旅に出てきてここに冒険者登録ですか。確かにここにはそのような方がよくいらっしゃいますね。ドワーフの里で冒険者登録できると周りに自慢ができるとかなんとか」
この流れはここでは登録できないとか?確か冒険者ギルドはどこでも登録可能だったはずだ。
「まぁこれらは調子を乗ったものを知らない人だけですが、いいでしょう。ただし、ここでは冒険者登録するために試験を受けなくてはなりません。他のギルドではすんなり登録できますが、ここではそうはいきません」
試験?腕試しかなにかかな?肉弾戦でドワーフに勝てるかな?ちょっときつそうだぞ。というか俺はどちらかというと遠距離の攻防の方が得意なスキル構成なんだよな。
「試験ですか?それはどのような?」
「そうですね、この都市の近くにいる牛を一匹狩ってきてください」
「え?そんなんでいいんですか?」
あの牛か、蟲達も好きみたいだし、ログナスに色々つくってもらおう。それにあれだけの量があれば蟲達もそれなりにお腹一杯になるだろう。
「え?Dランクの草食牛でも貴方みたいなひょろい人では難しいでしょう。そんな見栄はらなくても大丈夫ですよ。遠慮せずに辞退なさってください」
「大丈夫なので、今から狩ってきますね。では」
素っ気なく返してギルドから出ようとすると後ろからなぜかドワーフのおっさんが殴りかかってきた。蟲達に教えてもらったので、簡単に避けることができた。
「なんですか?いきなり?」
なぜか顔を赤くしてプルプルと震えていた。これが女ドワーフの胸なら誰しも喜ぶが、おっさんの顔を見たところで楽しくともなんともなかった。
「せっかくティルヌが心配してんのに、なんだその返しは!」
ティルヌ?あぁ受付の人か。心配もなにも草食牛なら昨日も2匹ほど狩ったし、心配されるようなこともないのだが。
「心配されるようなことはないので大丈夫だと言ったじゃないですか。それにこれは俺に出された試験なので止められても困ります」
「あぁ?ティルヌの心配を無下にするって言うのか?」
「無下にはしてないじゃないですか。俺はやることをやりにいくので、邪魔しないでくれますか?」
「てめぇには心ってものはないのか?あの美人で優しいティルヌが心配してくれてんだぞ?ここは受けとるべきだろ!」
「大丈夫なので、いきますね?」
「ふざけるのも大概にしろや!」
またドワーフのおっさんは殴りかかってきた。なんだか相手にするのもめんどくさくなってきたので、このおっさんを気絶されるのが手っ取り早いか。
顔を狙って殴ってきた拳を左手で持ち、そのまま後ろに投げ飛ばし、宙に浮いたおっさんの腹を右手で殴る。それによって閉ざされていた扉が開き、外におっさんが放り出された。道にはおっさんが大の字で倒れており、そこには人だかりができていた。ギルドから出ると注目を浴びたが、無視して牛を狩りにいった。
門で牛を狩りにいくと言うと夕方ごろまでには帰ってこないと街には入れないと言われたので、昼頃には帰ると伝えておいた。草原にはポツポツと牛が見えていた。近いところでは牛を狩ってるドワーフの姿があったので、少し遠くに出て誰もいないところにいった。
そこには数匹の群れがあり、あれなら量も十分あると思ったので、近づいていくとCランクの闘牛が走ってきた。蟲魔法の麻痺をかけると盛大に転がってビクビクしながら倒れたので、剣で頭を突き刺した。それだけで痙攣していた闘牛は静止した。鮮度を保つために蟲達に頼んである程度の血抜きをしてもらい、魔法の鞄にしまった。
数匹の群れは全て草食牛のようでのんびり草を食べていたので、全体に麻痺をかける。倒れた草食牛から止めをさして魔法の鞄にしまっていった。一匹だけは蟲達に食べさせておいた。そうでもしないと空腹で死にそうな蟲がいたので食べさせた。
なんだか簡単な試験だったが、いいのだろうか?二時間も経たないうちに終わってしまったので、門にいくと、門番さんに「え?もう?」と言われたが終わったものは終わったのでしょうがない。
ギルドに行く途中なぜかみなが俺を避けていき、自然とギルドまでの道ができてしまった。あんまり目立つ気はなかったのだが、やってしまったものはしょうがないので素通りしてギルドに向かった。
ギルドに入ると最初に来たときとは別の視線を感じた。最初は興味と憐れみだったが、今は興味と恐怖だった。確かに殴り飛ばしたのは怖く感じるかもしれないが、最初にやってきたのはおっさんなので、俺は悪くない。
「すいません、牛狩ってきたんですけど。どこに出せばいいですか?」
「そんな嘘はつかなくても大丈夫ですよ。見栄ははらずに辞退なさってください」
「はぁ?だからもう狩ってきたんですけど?」
「いいですいいです。さ、次の人どうぞ」
なぜわざわざ狩ってきたのに嘘をつかなくてはならないのだろうか。この受付のティルヌ?って人仕事しねぇな。さてどうしたものか。なぜか牛狩ってきたのに無理矢理試験を辞退させられたんだが。
「お?ラルフじゃねぇか?こんなとこでどうしたんだ?」
「あぁ、ログナスさんか。冒険者登録しにきたんだが、試験で牛を狩ってこいと言われたから狩ってきたんだよ。そしたら嘘つき呼ばわりされて無理矢理試験を辞退させられたんだよ」
「はぁ?なんだそれ?どういうことだ?」
「なんかそこにいるティルヌ?っていう受付の人が全く信じてくれなくてさ。全く応じてくれないんだ」
「そいつはひでぇ話だな。ちなみにどれくらい狩ってきたんだ?」
「群れに遭遇したので闘牛1匹と草食牛7匹狩ってきました。今は魔法の鞄の中に入ってます」
「結構狩ったな、今日もうた「お、ログナスじゃねぇか!こんなところでどうしたんだ?」」
ログナスが今日も宴になりそうだと言いかけたときに近くにいたドワーフが話しかけてきた。どうやらログナスの知り合いのようだ。
「お?ガクランじゃねぇか!久しぶりだな!元気にしてたか?」
「おうよ!この通りピンピンしてるぜ!それにしてもそこにいる人族とは知り合いなのか?」
ガクランって言うのか。このドワーフも筋肉ムキムキだな。ここの冒険者の規準ってもしかしなくても体の筋肉ってことはないか?
「おう、ちょっと闘牛狩ってるときに手伝ってもらってな。今のところ俺らの家に泊まってんだ」
「そんなひょろい体してるやつに手伝えることあったのか?」
またひょろいか。そんなにガリガリなわけでもないんだがな。やっぱりドワーフと人族との主観があってないからかな?
「そうだな。確かに体はひょろいが人族はだいたいこんなもんだぞ。それにラルフは人族にしてはかなり筋肉もついてる。しかも闘牛を素手で殴り殺すぐらい強いぞ」
「は?闘牛を素手でで!?」
「あぁ、あんときはすげぇ驚いたが話を聞いてるといいやつでよ。俺の飯を泣きながらうめぇ!って言ってくれてよ。こんなやつに会ったのは初めてだ」
ログナスの料理は本当においしい。今日の昼御飯も楽しみだ。俺も楽しみだが、蟲達も楽しみにしてる。
「そりゃあログナスの料理は本当にうめぇからな!」
なんでお前がどや顔してんだよ。
「そういえばラルフ?牛の討伐部位の提出したか?」
「なんだ?討伐部位って?」
「あぁそうか。ラルフはまだ冒険者じゃないもんな。牛を狩ったっていう証明のために討伐した魔物の特定の部位を提出するんだ。そうすると討伐報酬ということでお金が貰えるんだ」
「なるほどな。草食牛と闘牛の討伐部位ってどこだ?」
「あぁそうだな。牛系統は左の角だな」
言われた通りに討伐部位を提出するために魔法の鞄から闘牛と草食牛の頭を出しては角を切り落としていると、なぜかまた注目を浴びた。そんなに珍しいことをしてるわけでもないのだが?
それを持って解体所兼買取り所の受付に向かうと、受付の人からお金が貰えた。本来であれば冒険者だったら、もう少し値がつくそうだが、どこかのティルヌという受付に拒否されたため、値下げされてしまった。
「あ、そうだ。ログナス、これって売るとしたらどれくらいで売れる?」
そう言いながらキャベツぐらいの大きさのミスリル鉱石の塊を魔法の鞄から出すと、ログナスだけでなく周りのドワーフ達が口を大きく開けた状態で凍ったように固まった。
ちょっといたずらみたいで面白い展開になるかと思っていたが、まさか固まるだけとは。魔法の鞄を漁ったら結構な量があったんだが、少し売ったところで気にもならんしな。
「おいおいおいおい!それは純ミスリル鉱石か?その大きさだと安くとも2000万ルノはするぞ!」
「へー、結構高いんだね~」
そんなことを言っていると周りは騒然とし、さっきまでの静けさはどこへやら?それほどまでに騒がしくなった。なんだかうるさいのでミスリルをしまうとさらにうるさくなった。そうこうしてると2階から一人の年老いたドワーフがやって来た。
「なんの騒ぎじゃ?少しうるさいぞ?」
その一言でなぜかギルドが静かになった。先程の煩さが嘘のように消えていった。その年老いたドワーフは近くにいた冒険者に事情を聞き、俺とログナスに「ついてこい」と言ってきたので、大人しくついていくことにした。逆らっても特に意味を感じないし、元凶は俺なので仕方ないと思った。
ついた部屋は木の机と椅子が並んでいて、年老いたドワーフと向かい合って座ることになった。ちょっとの間、無言空間になっていたが、年老いたドワーフが口を開くことによって話が始まった。
「で?なにをしてあんだけ煩くなったんじゃ?」
それに対してログナスが説明して、ログナスに言われてもう一度ミスリル鉱石を出すと、すごい勢いで年老いたドワーフに「売ってくれ!」と言われた。別に売ってもいいのだが、まずは名前を?と言うと、なんとこの年老いたドワーフはここのギルドマスターでグラーデンというらしい。
売るにあたって条件をつけるというとなんでもいいぞ!と言われた。なので、いつでもこの都市に来ていいという許可と冒険者登録とおいしい食材を教えてもらうことと、魔物についての資料を見せてもらうことを条件にすると言うと全く問題ないと言われた。なぜ冒険者登録を?と言われたので、経緯を話すと、どこかに行ってしまった。