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嫌われ者の蟲使い  作者: 『食べられません』を食べた人
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第三話

 蟲達を体に収納すると体は蟲の紋章に埋め尽くされた。手のひらを見ると皮膚の色が見えないほど隅々まで真っ黒だった。


 これは人前に歩けなくないか?それにしてもこれはちょっと不便だな。体の表面じゃなくて内側に移動させられないかな?おお?消えたな。これなら大丈夫そうだな。


 眠いし、宿の方にいくか。あそこはスラム寄りだったから、火が燃え広がっていないだろう。この街にはすでに俺しか生きているものはいない。金目のものを奪うことはしない。すでに闇ギルドから沢山もらったからだ。それにしてもなんだかお腹が空かないな?もしかして蟲からエネルギーでももらっているのか?まぁいいか。


 黒甲殻蟲を体から出して街中に放つ。これは警戒のためだ。生きているものがこの街に来たら知らせてもらう。その間俺は宿で寝ておく。もう朝だし、戦いっぱなしで疲れたからな。


 宿は無事だった。入って見た感じきれいそうなベッドを選び、眠りについた。








 黒甲殻蟲は街中を歩き回り、人がいないか確認して回った。すると門の方に馬車が止まっていた。そこには重装備を着こんだものが数人いて、何かを探していた。


 「ルドルト様、兵士も誰も見当たりません!やはり何かあったのではないでしょうか?」


 「うむ、これは緊急事態かもしれないな。魔物が攻めてきた場合には必ず門に誰かしらいる。それに応援を呼ぶためにここに来るまでに誰かに遭遇するはずだ」


 「街の中を見に行った方がよさそうですね」


 「私が見て参りましょう」


 「行ってくれるか?ラジュラ?」


 「はっ!いって参ります!」


 重装備を来た者達は周囲の警戒をし、ラジュラというものは街の中を見て回った。街では本来この時間から朝市が行われ、朝早くから賑わっているはずだ。それなのに、人の声ひとつしない。ラジュラはその状況に焦った。


 冒険者ギルドに向かってみると、そこには焼け落ちた廃墟があった。それだけならまだ何かが襲ってきたということがわかる。だが、一番おかしなことは人が誰一人とおらず、血すらないということだ。


 どういうことだ?魔物が襲ってきたとしたら、血ぐらいあるはずだ。それにこの街の領主様は冒険者としても名を馳せたお人だ。魔物ごとき、お一人で十分なはず。人拐いという路線ならまだ可能性はある。強いとはいえ、人質をとられてしまえば、なにもできない。なら、この状況は説明できる。これは大事のようだ。はやく、ルドルト様に報告しなければ!


 ラジュラが報告にいっている間、人は誰もいなかった。しかし、蟲は監視していた。彼が何をしているのか?どこにいくか?何を喋っていたのかを。黒甲殻蟲はすぐさま行動にうつった。主人に報告するもの、ラジュラを監視するもの、他の者を監視するもの、情報を集めるものに別れて陰から見続けた。


 黒甲殻蟲は主人が起きるまで待機した。付近に来ない限りは見守ることだけにしておいた。考えなしに動いてもうまくいかないことを理解しているからだ。








 「ルドルト様!大変です!人が一人もいません!それに血1つありません!」


 「なんだと!?人がいないなら魔物の線が濃厚だが、血がないとすれば、人拐いさらいや、それでもこの人数はおかしい。この街には数千人はいたはずだ」


 「ムアリ!王に報告にいけ!これは国の危機に関わるかもしれない!一刻もはやく報告するのだ!」


 「はっ!仰せのままに!」


 ムアリという男は狼に乗って来た道を戻っていく。ルドルトは周りにいた仲間に武装の準備を言い渡し、自分の準備をしていく。


 これはまずいことになった。今回は元々ここの領主様に王からのパーティーへの誘いを言い渡すために来たのだが、この状況から察するに領主様はなにか重大なことに巻き込まれている可能性が高い。まずは領主様の屋敷に向かうか。


 ルドルト達は各々の使役する魔物を体の紋章から出して跨がり、街の中を進んでいく。騎士になるためには武術や魔法が必須だが、使役する魔物によっても配属される場所も変わってくる。獣系統なら騎獣兵として、鳥や鼠なら情報部としてというように、変わる。この部隊はもし領主がすぐに来る場合の護衛として来ているので、騎獣兵ということになる。


 「この静けさは恐ろしいですね」


 「そうだな。これは本当に非常事態だ。領主様の屋敷に向かうぞ!もしかしたら、助けを求めているかもしれないからな!」


 「急ぎましょう…」









 ルドルト達は屋敷に着くまでに人一人すら会わなかったことへさらに警戒を強めて向かった。焼け落ちて廃墟と化した屋敷に着くとそこには手足に剣を突き刺されて血塗れになった無惨な領主の姿があった。


 「領主…様…」


 「一体誰がこんなことを!?」


 「生き残りがいないか探せ!」


 「「「「はっ!」」」」


 ラジュラを含めた4人は二人一組になって屋敷の周辺を練り歩いた。一人でも見つけることができればなぜこのような状況になったのか、わかるためだ。これは少しの情報でもいい。


 ルドルトとは2人の騎士が残り、領主様に手を合わせていた。領主の無惨な姿に涙を浮かべるものさえいた。


 「誰が領主様を…?」


 なんだ?この血は?まだ新鮮な臭いがする。もしかして領主様は殺されたばかりではないのか?近くに犯人がいるのでは?


 「ルドルト様?どうかなさいました?」


 「この血を見てくれ、まだ新鮮なものだ。もしかしたら領主様は殺されたばかりかもしれない!」


 「では!罪人がこの近くに?」


 「さすがにいないだろうな。俺でもこの状況ならすでに街を出てる。だが、この状況をつくったのは人がやったことがわかった。人が領主様以外いないこと、そして剣を使っていること、この二点からわかるように人拐いもしくは領主様を殺すことが目的だろう」


 人がいない、それに血もない。人や魔物が攻めてきたとすればそこら中血が散っているはずだ。だとすれば血すらも好む系統の魔物だ。獣系統や竜系統は肉は好むがここまできれいに食べることはできない。丸飲みしたとすればなくはないが、それはないだろう。


 だとすればなんだ?まさか…蟲か?いや、だとしても蟲使いはわかったらすぐに処分するはずだ。もし、処分することができていなければギルド経由で各国に伝わる。生まれたばかりの蟲使いならあり得る。なら、この街へどこから?蟲に対しては魔物結界が有効だ。侵入はできない。ならなんだ?


 いや、まて。魔物結界は使役した魔物には通用しない。切り替えはできるが、街に設置されているものは基本的に使役した魔物を通すために緩めてある。通さない場合は全魔物を弾く魔物結界を張る。この場合は通す結界よりも魔力消費が激しくなる。


 それにあそこにあるのは魔物結界の装置だ。破損しているが、あれは通さない魔物結界に切り替えてある。つまりは侵入された後に通さない結界に切り替えた可能性が高い。では、ここに蟲使いが現れ、領主様を殺したということになる。


 「ミハネ、ロズ。四人を呼んで戻してきてくれ!」


 「「はっ!」」


 これは国を脅かす事態だ。一刻もはやく王に報告しなければ、蟲使いは不吉の象徴だ。今ここで倒さねばこの国に未来はない。








 「んっん~っはぁ…よく寝た…」


 もう昼頃だろう。それにしてもよく寝れた。ちょっと疲れてたかと思っていたけど、寝たらスッキリしたな。朝食じゃないや昼御飯はなに食べようかな。ここは街なんだし、どこかの店に入って食べればいいか。


 ベッドを降りて部屋を出ると黒甲殻蟲がいた。俺が寝てるときの話を聞くと、門に重装備の騎士が8人来て、一人は報告にどっかいって7人が街を探索した後領主様を発見し、屋敷周りを探索後、同じ門から出ていったらしい。出た門は村とは反対方向のようだ。


 すでに来客が来たのか。ん?監視をつけてるから、どこにいったのかわかる?こいつら優秀だな。それにしても騎士か。国への報告だろうな。蟲使いについてはばれてないだろう?いや、血がない点でばれてるだろうな。それに村の人が伝えてるはずだ。


 各お店に回って食料を回収していく。蟲達には生き物を食べていいとはいったが、他には手をつけないようにいってあるので、食べても大丈夫だ。かなり集まったな。1年くらい過ごせるかもしれないな。調理道具も貰っておこう。これくらいでいい。


 お?武器屋に防具屋か。ちょうどいいのあったな。これを貰おう。魔法の鞄もあるな。魔法の鞄に魔法の鞄を入れるのはなんかあれだな。まぁいるものは全部貰っておこう。コートも頑丈でいいものに替えよう。ん?これは竜革か。ありがたく貰っておこう。剣もぼろぼろだし、交換しておこう。ふむふむ竜の牙で造ったのか。属性も付与されていると。いい買い物をした。


 そういえば今の状態ってだいぶ特殊だけど、ステータスってどうなってるのかな?数万の蟲達が体に収納されてるしな。


名前:ラルフ

種族:蟲人族

使役魔物系統:蟲

レベル:52

ランク:B

進化レベル100:蟲将

生命力:1285/1285

魔力量:1457/1457

【魔物使い】Lv7

→蟲系統の魔物を使役することができる。

Lv1:Gランクの蟲系統を使役できる。

→蟲系統を使役でき、自ら使役されにくる。

→蟲系統に襲われない。

Lv2:Fランクの蟲系統を使役できる。

→蟲系統と意思疏通ができる。

Lv3:Eランクの蟲系統を使役できる。

→蟲系統の感情が理解できる。

Lv4:Dランクの蟲系統を使役できる。

→蟲系統の位置特定,把握ができる。

Lv5:Cランクの蟲系統を使役できる。

→蟲系統を経由しての魔法が使用できる。

Lv6:Bランクの蟲系統を使役できる。

→蟲系統の特性を獲得できる。

→蟲系統を体に収納することができる。収納した蟲の紋章が体に刻まれる。

Lv7:Aランクの蟲系統を使役できる。

→蟲魔法を使用できる。

【属性魔法】Lv5

初級魔法:火,水,風,土,光,闇,無

中級魔法:火,風,闇,無

【蟲魔法】Lv3

初級魔法:毒,麻痺,不快

中級魔法:腐蝕

【肉体強化】Lv3

血肉強化,骨密強化

【擬態】Lv2【剣術】Lv4【弓術】Lv3【短剣術】Lv3


 ん?すでに人じゃないと?しかもいつのまにか魔物寄りになった上進化もできると?これって同化してることと関係ないのかな?まぁいいか、魔物使いが7で特性はありがたい。んで蟲魔法?なんだこれ?嫌がらせかな?肉体強化かねぇ、これが生命力と魔力量を増やしたのかな。BランクとAランクといえば下位竜だな。もはや蟲なのかすら怪しいな。


 蟲達を体から出してどんなやつがいるのか確認することにした。戦力確認は重要だ。あの騎士がどれほどのことをするかによって戦闘が増えることがある。さてさて?何がいるかな?


【吸血系統】

吸血羽蟲G

→吸血害蟲F,吸血病蟲E,吸血病魔蟲D,吸血魔蟲C,下位吸血鬼B,

 →吸血有害蟲E,吸血毒蟲D,吸血毒牙蟲C,吸血死毒蟲B

 →吸血触手蟲E,吸血異手蟲D,吸血異蟲C(最上位)

吸血羽蟲G

→ブラッドフライF

 →ブラッドイビルフライE,邪血羽蟲D,邪血翼蟲C,闇翼血蟲B

 →レッサーブラッドフライE,隠血蟲D,溶血蟲C(最上位)

吸血羽蟲G

→ブラッディフライF

 →ブラッディイビルフライE,血操羽蟲D,操血蟲C

 →レッサーブラッディフライE,小血操羽蟲D,操血蟲C


【骨系統】

骨食蟲F

→骨拾蟲E,骨収蟲D,骨密蟲C(最上位)

→骨刃蟲E,骨密刃蟲D,硬骨蟲C,硬骨密蟲B

→骨砕蟲E,骨粉砕蟲D,骨飲蟲C


骨蜘蛛F

→骨囲蜘蛛E,骨巣蜘蛛D,骨密巣蜘蛛C(最上位)

→骨刃蜘蛛E,骨密刃蜘蛛D,硬骨蜘蛛C,硬骨密蜘蛛B

→骨砕蜘蛛E,骨粉砕蜘蛛D,骨飲蜘蛛C


【多足系統】

百足蟲F,

→千足蟲E,万足蟲D(最上位)

→毒百足蟲E,病百足蟲D,病魔百足蟲C

→百足羽蟲E,百足翼蟲D


【ワーム系統】

ワームG

→スモールワームE(最上位)

→ハイドワームE,ソイルハイドワームD(最上位)

→ソイルワームE,砂蛇D,岩蛇C


【甲殻系統】

甲殻蟲F

→黒甲殻蟲E,灰甲殻蟲D,銀甲殻蟲C,装甲蟲B

→甲殻羽蟲E,甲殻羽刃蟲D,硬刃蟲C

→隠甲殻蟲E(最上位)


丸甲殻蟲G

→硬丸甲殻蟲F,弾丸甲殻蟲E(最上位)

→触手甲殻蟲F,異手甲殻蟲E,異手装甲蟲D

→角甲殻蟲F,硬角甲殻蟲E,硬刀甲殻蟲D,硬双刀甲殻蟲C


【食肉系統】

蛆蟲G,憑蛆蟲F,寄生蛆蟲E,寄生羽蛆蟲D,寄生翼蛆蟲C,支配翼蛆蟲B


 うん、ちょっと数多すぎてよくわからんな。吸血鬼?これって人型の血を吸うやつじゃなかったっけ?詳細見ないとわからないな。えーっと?なになに?


下位吸血鬼

ランク:B

レベル:22~34

進化レベル50:中位吸血鬼A

【吸血】Lv8【飛翔】Lv7【繁殖】Lv6【毒牙】Lv5【病魔】Lv6【血操作】Lv5【血強化】Lv5


 『進化直後は元の吸血魔蟲の体のままだが、魔物もしくは人の体にとり憑いて徐々に自分の体に置き換える。それによりその生物の体を得る。一番馴染むのは人の体であり、ほとんど場合は人が食べる食事に紛れ込んで食べられたと同時に体を支配する。支配した体での吸血は牙で行う。自分が死ぬときは近くにいるものに乗り移る。吸血鬼=人型というのは人の姿でいることが多いからであるが、あくまで本体は血である。』


 なるほどね、じゃあ今は体を持たない状態なのか。次の村か街を襲うときはとり憑かせよう。成人したとはいえ子供と扱われて襲われるのはめんどくさいからな。もしかして蟲って寄生するやつ多い?


 吸血系統と食肉系統は強襲と広範囲の襲撃だな。骨系統と甲殻系統は偵察と情報収集。ワーム系統と多足系統は待ち伏せだな。あとは蟻系統と蜘蛛系統は待ち伏せと数の暴力だな。これくらいの戦力確認でいいか。蟻と蜘蛛はあとで回収しないとな。


 戦力確認が終わったので、村方向を左、騎士が出た方を右として次向かうのは前方向にいくことにした。門に向かうまでには誰もいなかった。蟲達はちゃんと残さず食べようだ。門を出た後に装甲蟲達に周辺の蟲達を集めさせた。道が整備されてたので、この先に村もしくは街があるのだろう。集まった蟲達はこれまた数万を越えていた。蟲は小さいものは数ミリの大きさなので、豆よりも小さい。そのためこの近くでもそれだけ集まってしまう。


 道なりに歩いていくと小さな村があった。村では街の出来事を知っているものがいないようで、挨拶しながら入るとにこやかに返してくれた。村はラタフ村という名前で牧場があってのどかなところだった。村は森が開けた場所にあり、草原と畑が広がっていた。蟲達の食事?食べたい!という言葉は却下しておいた。会う人会う人を襲っていったら足取りがばれてしまう。


 「あら?旅の方ですか?どこからいらっしゃったんですか?」


 「スタロト村に住んでたんですが、成人したので旅に出ようかと思って、一昨日出てきたばかりなんですよ」


 「あらまぁ、旅に出たばかりなんですか。この村は畑と牧場しかないですが、良いところなので観光していってくださいな」


 「僕もこんな良いところがあるなら、旅に満足したらここに住んでみたいですね!」


 「ぜひいらっしゃってくださいね!そろそろ時間なので仕事に戻りますね!達者でね!」


 「はいっ!お仕事頑張ってくださいね!ではまた!」


 歩いてると休憩中のおばさんに話しかけられて、休憩が終わるまでお喋りをした。数日しか経ってないけど、まともな人と話したことを久しぶりだと感じてしまった。


 「すいません。旅をしてるものなのですが、こっちの方向にいったら何がありますか?」


 「若いのに旅か!まぁいい経験になるがあまり無理しないようにな!ガハハハハハ!そうだなぁ、あっちにいけば鉱山都市があるぞ!若いもんからしたら面白くないかもしれないが、ドワーフが武器やらお酒やら作ってくれるかも知れねぇな!」


 「ドワーフ?」


 「おいおい、ドワーフも知らねぇのか!ドワーフってのはな背が小さくて筋肉ムキムキなんだ。まぁこれは男だけだが、女の方は背が小さくて胸がとにかくでかい!男にとっては楽園のようなとこだな!まぁムキムキな女もいるが少数だ!」


 「楽園…」


 「そう!楽園なんだ!俺も行ってみてぇが、俺の嫁さんがそれ目的で行ったら殺されちまうから、行けねぇんだ…」


 ちらっとおじさんの後ろを見ると、彼の奥さんが睨み付けていた。なんの話してるのか丸聞こえのようだ。これ話が終わったら、おじさん怒られそうだな。というか、催促してくるな。そろそろ行くか。頑張ってね!おじさん!


 「楽しそうなのでいってみますね!」


 「おう!もしまたここに寄ることがあったら、話でも聞かせてくれや!」


 「はいっ!わかりました!ではまた!」


 「おう!またな!」


 おじさんから離れていくと後ろでは奥さんに捕まったおじさんが叱られていた。焦ったおじさんはこちらに救援を出したような気がしたが、巻き込まれなくはないので、そそくさとその場を立ち去った。


 草原を進んでいくと遥か向こうに山が見えた。見た感じ植物が生えてるようには見えないので、鉱山のようだ。あれを目指せば着きそうなので、のんびり進むことにした。これほど広い草原なら草食の魔物がいるだろう。


 蟲達にこの周辺に魔物がいないか捜索してもらうと少し道を外れるが、草を食べてる牛の魔物がいるらしい。先程の村では牛や豚を飼っているが、柵にかこまれているところに入れている場合は誰かの所有物だが、草原にいるならそれは野生の牛のようだ。


 牛のところにいってみると、数匹の牛がのんきに草を食べていた。蟲達は食事を欲しているので近づいて牛に手を触れる。それだけで牛の血は全て抜かれた。初級魔法の闇のカーテンで周りから見えないようにして食べさせた。食べ終わった後に魔法をやめて、次の牛を襲った。


 残り2匹のところで普通に剣で殺しておいた。鉱山都市に寄ったときに酒のつまみとして渡すものだ。ドワーフは酒好きというので、つまみも大切だろう。まぁ街に入れるかわからないけど。


 牛を魔法の鞄に入れた後、夕方になってきたので、急ぐことにした。走ってる最中に戦闘音が聞こえたのでいってみると、ハンマーを持った小さいおっさん達が牛と戦っていた。見るからに劣勢だということがわかる。


 「ぐぅっ…この牛野郎強すぎねぇか?」


 「だから言ったじゃねぇか!こいつはやめとけって!こいつはいつも狩ってるDランクの草食牛じゃなくてCランクの草原闘牛なんだからよ!こいつは敵対した者に対してどこまでも追ってくる。特にお前の着てる鎧は紅いから格好の的になるんだ」


 「無駄口叩いてないでお前も手を貸せ!わしの盾が持ちそうにないっ!」


 「そうだぞ!はやく手伝え!闘牛のほうが身が引き締まって美味しいんだぞ!」


 「わかったから、睨んでくるなよ!」


 闘牛の攻撃を盾で防ぎ、止むとハンマーで叩いてるおっさんと、足を狙ってハンマーで叩き動きをにぶらすおっさんと、頭をハンマーで狙うおっさんがいた。どうやら体を傷つけずに牛を倒そうとしてるようだ。


 ハンマーで牛を倒せるのか?いや、生命力を打撃で削ればいけるか。遠くから見てるけど、見つからないようにしないとな。ん?あれらを食べたい?だめだぞ、さっきあげたじゃないか。我慢してくれ。仕方がないなぁ。


 魔法の鞄から牛を取り出して蟲達に食べさせる。その音でおっさん達がこちらに気付いてしまったようだ。食べ終わった後、蟲達をしまってその場を去ろうとしたら普通にばれた上戦闘に参加するように言われてしまった。


 「そこの坊主も手伝ってくれ!頼む!」


 「わかりました。これは剣を使わない方がいいですか?」


 「おぅ!剣を使えば肉に傷をつけちまうからな!」


 「打撃でも傷はつきますよ?」


 「はっ!?そ、そうだった。くっだが、斬撃よりかはいくらかマシなはずだ!」


 考えてるようで実は気づいてないこともある。そんなことを思いながら、蟲魔法の麻痺で動きを止めて殴り殺した。


 「こんな感じでどうですか?」


 「お、おぅ。助かったぜ」


 なぜだか反応が悪いが倒したことには変わりないので、誰が持つのか聞くと、魔法の鞄を持っているとのことなので、牛を収納した。おっさん達は鉱山都市で鍛冶をする者で、酒のつまみのために牛を狩っていたが、闘牛のため苦戦していたそうだ。手伝ってくれたことに感謝をされつつ、鉱山都市に向かった。


 鉱山都市は鉱山都市ガルドフという名でドワーフしか住んでいないそうだ。ドワーフ以外の者が都市に入るにはドワーフの招待がないと入れないそうだ。ドワーフは信頼したものと酒を交わすが、信頼できないものとは酒を飲まない。酒の前に鍛冶師のプライドがあり、信頼のできないものとは商売をしない。


 おっさん達から招待されて鉱山都市に入ることができた。おっさん達は門番に闘牛を倒すのに一役かってもらったことを説明し、なかなかの腕をもっていることを伝えると普通に入れてもらえた。


 身分証明がないのはいいことなのか?まぁいいや。歓迎されて街に来ることは悪いことじゃないしな。それにしても鉱山都市っていうのは要塞みたいなところだな。全体的に石造りの家が多いな。あとちょっと熱い。外との気温差が激しいのは鍛冶をしているからなのかな?おっさん達の家の中も熱いな。


 「ようこそ!俺達の鍛冶屋へ!まぁ今日はゆっくりしていけよ!」


 「さっきは助かったわい!」


 「いえいえ、宿を探す手間が省けたので助かります」


 「おう!気にすんなや!そういやまだ自己紹介していなかったな!俺の名前はカイゼルという。これでも細工にかけては腕があるから、素材をくれたらつくってやるよ!」


 細工か、素材?素材なんて持ってるかな?そういえばまだ魔法の鞄の中身をちゃんと見てないから探せばあるかもしれないな。


 「わしはランゼスという。わしは防具専門の鍛冶師じゃ、まぁ趣味で酒を作りすぎてそっちを注文されることが多いがな!」


 それはもはや酒造り専門ではないだろうか。本当にドワーフは酒が好きなんだな。俺はまだ酒は飲んだことはないが、苦いものって嫌いなんだよな。


 「俺はログナスだ。武器専門の鍛冶師だ。さっきは助かったぜ!酒のつまみのことなら俺に任せな!」


 酒のつまみか、村でもよくおじさんからつまみだけお菓子代わりにもらってたっけな。


 「俺はラルフと言います。ついこの間、旅を始めた者です」


 「ほぉ…旅人だったか。それほどの実力を持っているからどこぞの冒険者かと思ったわい」


 冒険者ねぇ…無理だろうな、まず街に入るのですら困難だからな。できても不法侵入だし、使役できる魔物がばれたら、すぐ蟲狩りが襲ってくるだろうしな。


 「元々は冒険者になるつもりでしたが、ひとつの場所に住み着くよりも世界のことを多く学びたい思いまして」


 「まぁ冒険者ギルドに所属しなくても旅をするものは多い、生活費の足しになることがあるが、その代わり冒険者としての責任も生じる。いった先々で依頼を受け続けるのはいいが、緊急依頼があれば必ず受けなければならないからのぅ。自由にとは行かないものだ」


 俺はどちらかといえば討伐される側なんだけどな。緊急依頼が発令されるだろうな。俺の使役できる魔物がばれたら。


 「そろそろ宴でも始めるか!ログナス、つまみを作ってくれ!俺は闘牛を解体してくる!」


 ログナスははやく酒が飲みたいのか、急かし始めた。


 「おう、ちょっと待ってろ!ラン爺は酒の用意を頼む!」


 ログナスは調理場に向かいながらエプロンを着けた。今から料理をするというより鍛冶をしにいくようにしか見えなかった。実は料理の仕方が特殊なのではないかと思ってしまった。


 「わかったわぃ、ラルフは寛いでいてくれ」


 「わかりました」


 寛げと言われたので、体の中の蟲達の様子を見てみると、お腹を空かしてるようだが、料理という言葉に反応してちょっと楽しみにしているようだ。実はあの街で蟲達に料理されたものを食べさせたら驚愕しながら味わって食べていた。


 好みは分かれるが、嫌いな訳じゃないようだ。しかも今では数十万はいるので、好き嫌いが分かれようとも好きなやつは食べるだろう。それに興味を持ったものには過剰に反応するようになった。


 寛ぐにしてもやることはない。そういえば魔法の鞄の中って何が入ってるのかな?料理なんて結構かかるものだし、確認するだけなら念じるだけで十分だよな。

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