第一話
虫嫌いな方や食事中の方は読むことをご遠慮することをおすすめします。
僕はラルフ、ただのラルフだ。僕はスタロト村に一人で住んでいる。スタロト村には数日前まで大勢の人々が暮らしていたが、あることが原因で誰も近寄らなくなった。
その原因とは僕の使役できる魔物にある。成人を迎えると神から使役できる魔物の系統を言い渡される。これは成人を迎えたその日にステータスに現れる。人は生まれると同時に神からステータスを授かる。それには最初から【魔物使い】のスキルがあり、スキルを鑑定するとこう書かれている。
『ーーー系統の魔物を使役することができる。』
このーーーに成人すると何系統の魔物を使役することができるのか表示される。これがもし、『火竜』であれば一躍有名になれる。『鳥』であれば配達業が向いている。『馬』ならば商人に向いている。『牛』であれば酪農家になれる。その中でも『蟲』は特に嫌われている。これがもし『虫』なら蜂や畑の虫を食べてくれる虫など、農家には特に好かれる。
なぜ『蟲』が嫌われているのか。それは『蟲』が不吉の象徴と言われているからだ。この世界では害のないものを『虫』といい、害のあるものを『蟲』と呼んでいる。『虫』は人間に対して利益をもたらすが、『蟲』は害しかもたらさないとされている。
『虫』使いは人々に愛されるが、『蟲』使いは人々から嫌われる。少しの違いだけでこの世界では嫌われてしまう。その人がどれほど優しい人だろうとも『蟲』であれば全てがかき消されてしまう。そんな世界だ。そして僕はその『蟲』使いだ。
僕は誰もいないこの村で少しの間だけでも思い出に浸りながら過ごすことにした。『蟲』使いが現れた村や街では数ヶ月以内に蟲使い狩りが行われる。
その人がどれだけ善人だろうと殺される。その人が平民だろうと貴族だろうと、はたまた王族であろうと殺されてしまう。昔、成人を迎える将来有望な王子が『蟲』使いというだけで殺されたという歴史もあるくらい嫌われている。
僕は『蟲』使いになったときから友達や近所のおじさんからも罵倒されて石を投げられた。そして親からも"穢れる"と言われた。僕は神を恨んだ。どうして平和に過ごすだけで満足しているのに、【魔物使い】のスキルを与えて『蟲』使いにしたのか。僕は神を憎んだ。
僕は世界に復讐すると誓った。
とりあえず荷造りだけしておく。これは必要なことだ。僕がいるものとしては長年冒険者となるために使っていた装備と剣だ。そして食料も必要だ。家には備蓄してあった食べ物がある。それを装備の近くに置いておく。
僕は別に村でいい子していたわけではないので、村人達の家の中に潜入ごっこをしていたため、どの家に何があるかも知っている。昔冒険者をしていたおじさんの家には魔法の鞄が棚の後ろに隠してある。罵倒されたことと石を投げられたことへの代金として頂いておこう。
僕に"穢れる"と言っていた親のへそくりも根こそぎ奪っておこう。僕は各家を回って貴重品や金品を魔法の鞄に入れていく。魔法の鞄には持っているものに鞄の中身を知らせる機能があり、知りたいときは念じれば知ることができる。
罪悪感はすでにない。そのため、遠慮なしに全て奪っていく。なぜこんなにも物を置きっぱにしているのか謎だが、有り難く頂いておく。どうせすぐ殺されるやつに何ができるとでも思っているのだろう。僕はいい子を演じてきた。家の手伝いは進んでして近所の人達の仕事の手伝いもしていた。そのためか誕生日には沢山のプレゼントをもらっていた。
でも僕は別にいい子だからしているのではない。やった方が得が大きいと思ったからだ。親の手伝いをしていればお小遣いが増える。仕事の手伝いをすればお裾分けを貰えるし、お店にいけばただでおやつがもらえる。やるのとやらないとでは生活には大きな違いが出てくるのだ。
そうしていくうちに村の貴重品から食べ物の備蓄まで魔法の鞄に詰め込んだ。これでひとまずは大丈夫だろう。明日にはここを発つ。そのために夜は早く寝ようと思っている。
ベッドに横になると昔のことを思い出す。親のプロレスごっこをリアルタイムで見てしまったこと。潜入したおじさんの家にあった本がおじさんの妄想日記だったこと。友達のアルベルトが12歳でお漏らしをしていたこと。一足先に成人になったアルベルトの使役できる魔物が鼠系統だったこと。
そんなことを思い出しているといつの間にか朝になっていた。どうやら思い出に浸りながら寝てしまったようだ。朝は井戸から引いた水で顔を洗い、朝の鍛練を行う。朝は剣での素振り100回と腕立て伏せ100回と村を3周する。その後普段だったら村のみんなの手伝いをするが、今は手伝いしにいく人がいないので、体を拭いて朝食を食べる。
朝食は黒パンとスープとサラダだ。いつもだったらここに後何品か加わるのだが、くれる人もいないのでこれだけだ。まぁ別に寂しくはない。森に近づく度に僕には自ら使役されにくる蟲が近付いてくるからだ。
スキルの【魔物使い】にはいくつか特殊な効果があり、使役できる系統の魔物自ら使役されるために寄ってくることと、使役できる系統の魔物からは襲われない。そして蟲はどこにでも棲息している。そのためすでにこの村は蟲の集団に囲まれている。
魔物にはランクがあり、G~SSSまで存在する。そして【魔物使い】にも使役できるランク制限が存在する。これはスキルレベルにもよるがレベル1ではGランクを使役することができる。
僕の【魔物使い】はまだレベル1なので、Gランクしか使役することができないが、蟲は低ランクのものが多いので、使役する魔物に困らないという利点があるが、あまり嬉しくはない。
朝食が食べ終わると装備を着けて、着替えなど忘れ物がないかをチェックする。剣と魔法の鞄を装備して家を出た。
街に向かうのではなく逆の方へ向かうことにした。蟲使い狩りに遭遇しないためだ。僕が森に近づくと数多の蟲達が僕の周りに寄ってきた。
「僕に使役されたいものはここに残れ、それ以外は去れ!」
そう宣言しても蟲達は離れることはなかった。僕は鑑定するために種類ごとに分かれてもらうことにした。すると言葉は通じているようで種類ごとに分かれてくれた。それらを順に使役していくと、ステータスが更新されていった。使役した種類の蟲は世界に存在する全てのものを使役することができるようだ。
僕は違和感を覚えた。親が言っていたことと大きく違うことにだ。使役した魔物には使役したその魔物だけを使役し、種類が同じものでも個体ごとに何度も使役の契約をしなければならない。それなのに僕が使役した蟲はその個体だけではなく、種類の全てを使役している。つまりは蟲は1が全であり、全が1であることを表している。
それとも蟲使いが特殊なのだろうか。鑑定していくとほとんどの蟲がレベル1だった。使役されるとレベル1に戻るのか、それとも蟲は弱いがゆえにレベルが上がっていないのかもしれない。
ランクFの蟲は大きいものがいない1cmよりも小さいものもいるくらいだ。あまりにも弱いため今のところ使い物にならないだろう。とりあえず明日のことも考えて狩りをしながら移動することにした。
蟲には離れてもらい、獲物を探す。冒険者になるために一通りのスキルは獲得している。まずは【気配探知】だ。これを使えば魔物の位置を把握することができる。蟲はその探知には引っ掛からないほど気配が微弱だ。そのため、接近されないと気づくことができない。
最初の獲物を見つけた。フォレストボア率いるボアの群れだ。これを全て狩ることができれば一週間は狩りをする必要がなくなる。まずは弱い方から狩っていく。強い方から狩ると弱い個体を逃がそうとするからだ。
ボアの足を歩けない程度まで痛みつける。それからフォレストボアはボアよりも上位個体だが、習性は変わらないため、基本的に真っ直ぐしか襲ってこない。初動がわかれば避けるのも簡単だ。フォレストボアが動いた。正面から僕のことを撥ね飛ばそうとしている。少しだけ横にそれただけで避けることができた。もう一度突っ込んできたので避けながら頭を剣で切りつけた。すると辺りどころがよかったのか、一撃で死んだ。
フォレストボアを逆さにして血抜きをしていると、蟲達から美味しそうだな…というイメージがおくられてきた。そういえば蟲の中には吸血羽蟲がいたな。ボアのうち弱っているもので3匹は食べるとして残りの2匹をどうしようかと思った。まず3匹を殺してフォレストボアと同じように血抜きをした。血抜きは足をロープで巻き付けて木にぶら下げるというものだ。
残りの2匹を引きずりながら血抜きしているボアより離すと、蟲達を呼んだ。蟲達は先程よりも数が増えていたように思えたが気のせいだろう。まずは1匹を吸血羽蟲に殺させることにした。とりあえず、引っ付くことだけを指示するとボアを隙間なく覆い尽くした。うわぁ…どんだけ数いるんだよ。ボアも最初の頃は暴れていたが、すでに生きることを諦めているようだ。隣のボアは失神していた。
吸血羽蟲に食べていいとの指示を出すと、勢いよくボアの体積が減っていった。ボアの血どころか水分全てを吸い尽くした屍が出来上がった。吸血羽蟲のステータスを鑑定してみた。
吸血羽蟲
ランク:G
レベル:3~10
進化レベル10:吸血害蟲F,ブラッドフライF,ブラッディフライF
【吸血】Lv6【飛翔】Lv5【繁殖】Lv4
『吸血羽蟲は湿度の高いところを好み、生き物の血を食べて生活している。群れで過ごすことがほとんどで孤立しているものがいればそれははぐれの個体である。繁殖は頻繁に行われ、雌を巡った雄の戦いは生存競争よりも白熱している。そのため雌の周りには多ければ数千の雄が群れることもある。それをみた人々からは蟲玉と呼ばれている。もしこの蟲玉に入っていけば、身体中の血を吸い尽くされてしまうだろう。』
…吸血羽蟲こわっ!?ん?もう進化できる個体がいるのか。てかスキルレベル高いのな。生きるためにスキルを使ってるからかな?まぁいいや、進化できるものが多いな。とりあえず3分の1ずつ分かれてもらおう。えーっと吸血害蟲は?小さすぎてよくわからんけど、鑑定は出来るな。
吸血害蟲
ランク:F
レベル:1
進化レベル10:吸血病蟲,吸血有害蟲,吸血触手蟲
【吸血】Lv6【飛翔】Lv5【繁殖】Lv4【毒牙】Lv1【病魔】Lv1
『吸血羽蟲の進化個体で、吸血の際に相手に病気や毒をもたらして弱らせる。1度吸血されると中毒障害を起こし、何度も吸血されたいという快楽に溺れる。吸血羽蟲に吸血されると痒くなる程度だが、吸血害蟲に吸血されると痒さよりも気持ち良さが上回る。そして中毒になったものは自ら群れの中に飛びのみ、自ら吸血されに行き、死に至るまで吸血される。』
吸血害蟲こわっ!?羽蟲よりも怖いな。なんだこいつら一匹だけでも相手にしたくないな。よかった…蟲使いで…全然よくないけど。あとはブラッドフライとブラッディフライか。
ブラッドフライ
ランク:F
レベル:1
進化レベル10:ブラッドイビルフライE,レッサーブラッドフライE
【吸血】Lv6【飛翔】Lv6【繁殖】Lv4【血強化】Lv1【血擬態】Lv1
『血に擬態することができ、血を食べることで自分を強化することができる。生き物の死体の周りに棲息していて、血溜まり場を好む。死体暮らしとも言われていて、死体があるところには必ずといっていいほど棲息している。』
あれ?ちょっとまともになった?ちょっと血が好きすぎになってるだけで他は特に言えることはないけど、生き血は飲まないのね。完全に死体処理みたいなことしてるけど?ん?ボアの血抜きで出た血をのみたい?いいよ?
ブラッディフライ
ランク:F
レベル:1
進化レベル10:ブラッディイビルフライE,レッサーブラッディフライE
【吸血】Lv7【飛翔】Lv6【繁殖】Lv4【血強化】Lv1【血搾取】Lv1
『吸血羽蟲の中で特に新鮮な生き血が好きな個体が進化する。生きるために吸う血と自分を強化するために吸う血があり、自己強化の吸血はいくらでもできる。このブラッディフライに吸血されたものは死ぬまで吸血される。そのため血に飢えた狼と呼ばれることもある。ランクはFと低いが蟲の中でも見つけ次第すぐに殺さなくてはいけないほど危険な蟲だ。』
おいおい、危険すぎるだろこの蟲。ブラッドフライと姿ほとんど変わらないじゃないか。見分けつかないけど、見つけ次第ということは間違えてブラッドフライも殺される可能性があるな。というか戦場とかどうすんだ?こいつらは間違いなく集まるぞ?戦争する度に蟲避けの結界でも張ってるのか?
まぁ吸血羽蟲のことはいいや、もう一匹のボアをどいつに食わせるかだが…ん?死体を食いたい?
「ボアの死体を食いたいやつは出てきてくれ。まぁ血はないけどさ。進化しそうになったら、教えてくれ」
結構出てきたな?あれはアリかな?それと蜘蛛?鑑定しないと名前がわからんな。えーっと兵隊蟻に兵長蟻にリトルマンティス、小蜘蛛、虫取蜘蛛、死体蝿、蛆蟲か。うーん名前でわかるからこいつらにはとりあえず食べさせておこう。
群がった蟲達は許可が出ると次々と食べていって骨だけ残った。早く食べ終わるのはそれだけ数がいる証拠だ。骨だけになったボアにはほとんどの蟲が離れていったが、その中でも異質な蟲は骨をかじっていた。
肉だけ食べるのかと思っていたが、骨を食べるやつもいたのか。なになに?骨食蟲と骨蜘蛛か。こいつらの特性はわからんな。骨を食って何を得てるのかな?
骨食蟲
ランク:F
レベル:5~8
進化レベル10:骨拾蟲E,骨刃蟲E,骨砕蟲E
【腐食】Lv4【骨密】Lv5【骨刀生成】Lv2
『骨蟲から進化した個体。骨を食べることによって自身を強化する。骨密によって体を硬質化させていき、骨刀生成を武器として外敵から身を守る。』
骨蜘蛛
ランク:F
レベル:6~9
進化レベル10:骨囲蜘蛛E,骨刃蜘蛛E,骨砕蜘蛛E
【蜘蛛糸】Lv5【骨糸】Lv2【骨密】Lv2【骨巣】Lv1
『小蜘蛛が進化した個体。骨を食べることによって自身の強化と糸の強化をすることができる。骨は自信の強化のためだが、肉もしっかりと食べる。主食は肉だ。骨糸によって作られた骨巣は外敵から身を守ることができる。』
なるほど、こいつらは骨が元々好きなやつと途中から骨が好きになったやつなんだな。みた感じどちらかといえば虫寄りな気がするが、基準がいまいちわからんな。てかFランクか、いつの間にか魔物使いのスキルレベルが上がってたのか。確か親が言っていたのは熟練度みたいなのがあって、使役数が一定数を越えるとレベルが上がるって言ってたな。系統によっても変わるし、ランクによっても変わると言っていたな。まぁもう蟲を数千は越えてるだろうな。なぜか種族全てだからな。
あっ、失神してたボアが起きた。周りの状況を確認して固まってるな。こいつはどいつに殺させようかな。
「今までにご飯を食べてないやつ出てきてくれ」
うーん、結構いるな。村で女達に特に嫌われてる蟲達大集合って感じだな。百足蟲にワームにうわぁ…甲殻蟲に丸甲殻蟲か。うんまぁそうだろうとは思ってたけどな。
百足蟲
ランク:F
レベル:5~9
進化レベル10:千足蟲E,毒百足蟲E,百足羽蟲E
【硬化】Lv3【切離】Lv1【毒牙】Lv3【束縛】Lv1
『十足蟲の進化個体。体長5cmほどで多くの足を持ち、全ての足に爪があり、引っ掛かれると肌がかぶれてしまう。口には牙があり、噛まれると麻痺毒を染み込まされる。ランクが上のものには効かない。体は甲殻に包まれているが、体の節はいつでも切り離すことができる。』
人には効かないけどかぶれると痒いんだよな。なんだか地味だけどランクで効くか効かないがあるのか。ボアはちなみにEランクでフォレストボアはDランクだ。そのため1回の食事で進化する個体が多いのだろう。
ワーム
ランク:G
レベル:1~3
進化レベル10:スモールワーム,ハイドワーム,ソイルワーム
【土堀】Lv4【逃避】Lv3【嗅覚】Lv5
『土の中で棲息している。落ち葉や微生物を食べて生活している。森の開拓者と呼ばれている。』
こいつがなぜ蟲側なのかわからないのだが、完全に人に利益もたらしてるじゃないか。というかむしろ一番貢献してるとも言える蟲じゃねぇか!
甲殻蟲
ランク:F
レベル:8~9
進化レベル10:黒甲殻蟲E,甲殻羽蟲E,隠甲殻蟲E
【気配遮断】Lv5【無音動作】Lv5【敏捷強化】Lv3【気配探知】Lv5【繁殖】Lv4
『殻蟲の進化個体。黒くて早くて硬い。ゴミ漁りの居候と呼ばれている。』
うん、あいつだな。1度見てしまったら10匹はいると言われている。あいつだな。進化間近ばかりだな。こいつはあまり見たくない、つぎつぎ。
丸甲殻蟲
ランク:G
レベル:4~7
進化レベル10:硬丸甲殻蟲E,触手甲殻蟲E,角甲殻蟲E
【硬化】Lv2
『外敵に見つかると逃げることと殻に籠ることしかできない。引きこもりそうと呼ばれている』
こいつって肉食なの?意外だな。とりあえず食べさせるか。その間に血抜きが終わったボア達を解体しとくか。頭はあんま好きじゃないから放置。足と腹あたりに背中あたりかな。他は要らないな。欲しいところは取ったから、吸血系にあげよう。流れ血にはすでにブラッドフライが食事してるから、残った血はブラッディフライと吸血害蟲にやろう。んで、他は蟻とか蜘蛛にやろう。うんうん、どんどんお食べ。
それを見てると次々と進化していった。蟲の進化はやいなぁ。やっぱ上位ランクを食べさせてるからかな?俺もご飯を食べとくか。ボアの肉って脂肪が多くて旨いんだよな。まぁ面倒だから焼くだけ。
そろそろ移動するか。蟲達も進化したし、Eランクもちらほらいるみたいだな。さて、何処にいこうか。
「なぁ、村ってあそこ以外ならどこにあるか知ってるか?」
意思疏通が一応できる蟲達は僕の周りをぐるぐると回った後右側に隙間を開けた。
蟲達に従って進んでいくと、スタロト村よりも大きな村?ではなく街があった。
「これは村じゃなくて街だけど、どうしようかな。門から入ると絶対捕まるからな。ん?壁の隙間から?いや俺の大きさ見てみろよ、無理だから」
蟲から色々入る方法を聞いてみると全部俺には無理なものばかりだ。空から壁を越えたり、地面を掘って入ったり、気配を消して入ったりだ。
さてどうしたものか。門の前には兵士が多くいる。今はすでに夕方間近だ。門では何の魔物を使役できるのかと名前を問われる。それが本人確認だからだ。犯罪履歴もわかってしまう。先程村で泥棒をしたばかりだからな。
「ここは頑張って壁を昇るしかないのか?ん?なるほどね、下水道があるのか。じゃあ入り口を案内してくれるかな?」
あのみんなに嫌われた俺の仲間とも言われてるやつが色んな道を知っていた。この街の近くに住んでた蟲が教えてくれた。そこには不法侵入してるやつが結構いるらしい(蟲情報)。
寒さを凌ぐためのコートを羽織り、コートの内側に吸血系の蟲に張り付いてもらった。甲殻系の蟲は壁の隙間から街に侵入してもらい、ワームや蟻には外に待機してもらった。骨蜘蛛系には連絡係をしてもらう。10匹をこちらに、他を街に侵入させて情報を集めてもらう。
街には基本的に蟲用の結界が張られているが、使役されたものは弾かれないようになっている。そのため、俺の仲間は弾かれることなく侵入ができる。
下水道は街の外にある1つの小屋と繋がっていて、闇ギルドの団員の出入口と化しているそうだ。なのでもちろん見張りがいる。取り次いでもらうために門から入るよりも高値のお金を支払う。すると中に入れてくれる。
ホームレスがいるが、それは闇ギルドの団員で騎士が来たときの対策として待機しているそうだ。チップをやるとヘラヘラ笑いながら「ありがとよ」と言ってきた。
下水道には蟲がたくさんいて、近寄ってきたが、黒甲殻蟲に指示を出して遠ざけさせた。目に入った知らない蟲は小声で使役契約して、下水道から出てもらい、壁の隙間から街に侵入してもらう。
下水道にいた闇ギルドの団員に出口を聞き、出るとそこは街の中に存在するスラムだった。スラムは静寂に包まれていたが、何人かは気配を消して警戒しているようだ。
俺はその人らに小声で御苦労様と言って、宿屋を探した。商店街は酔っぱらいや冒険者、子供達がはしゃいでいて賑わっていた。
俺は肉屋を見つけるとブラッドフライの番いとブラッディフライの番い、そして吸血害蟲を放ち、その場を去った。ブラッドフライには血溜まりで子を生んでもらい、成虫になったらその肉屋を出てから街をさまよって餌を見つけてもらうことにしている。
ブラッディフライには蛆蟲を一緒に連れてってもらい、肉に住まわせて肉の中で繁殖してもらうことにした。ブラッディフライには肉の血を吸い付くしてもらい、繁殖させる。数十を越えたら、肉屋の一家を吸い殺していいと許可を出している。
吸血害蟲には訪れる客を快楽に落として、吸った次の日に街を出てもらうようにした。肉屋ではこれくらいの準備でいいだろう。肉屋は結構あったので賑わっていない店を1つだけピックアップしてそこ以外に蟲を住ませた。
宿はたくさんあったので、スラム寄りの宿にした。そこには下水道で会った闇ギルドの団員がいた。
「あれぇ?さっきの坊主じゃねぇか。ここの宿に泊まるのか?」
「あぁ、ここの雰囲気が落ち着くからな」
受付に行こうとすると団員が近付いてきて、短剣を俺に向けてきた。団員の後ろにも何人かいた。受付のお嬢さんは平然としていた。これが日常なんだろう。
「そうか。俺もここは落ち着くいい場所だと思ってる。だがな、そんだけ金を持った坊主はこんなとこに来たらだめだぞ」
数人の闇ギルドの男達は腰の剣を抜き取り、こちらに向けてきた。殺す気満々のようだ。
「確かにな。だがな、そんな物騒なモノはしまっておくべきだったな。やれ」
コートの中に隠れていた蟲達や宿に住み着いていた蟲達が一斉に男達に群がった。受付にいたお嬢さんの周りは黒甲殻蟲だらけだ。男達は叫びながら振り払おうとするが、すぐに身体中の血が吸われ、身体中を噛みつかれて生きたまま身体を食べられ、骨まで跡形もなく食べ尽くされた。残っているのは受付のお嬢さんと短剣を向けてきた男だけだ。男は顔以外の全てを蟲に覆われている。
「なぁ?物騒なモノはしまっておくべきだったろ?」
「お、お前…む、むし…蟲使い…だと…」
男がその言葉を言った後、許可を出して全てを食べさせた。
「お嬢さん?今日泊まりたいんだけど、1拍いくらかな?」
受付のお嬢さんは先程まで無表情だったが、今では怯えた表情で首を横に振っていた。
「え?泊まれないの?満室ってこと?」
また首を横に振った。
「え?じゃあどういう意味?」
「お、お代は…いらないから…殺さないで…ください…」
自分の身体を抱き締めるようにして縮こまり、身体を震わせていた。
「俺は誰でも殺す訳じゃないよ。あ!ここって今さっきの人達以外にどんな人が泊まってる?」
「や、闇ギルドの方々が…いらっしゃいます…」
「君の知り合いというか、親とか友達とかはこの宿にいる?」
「い、いません…私は…一人だから…」
少女は怯えた表情から一転して悲しそうな顔をした。
「そ、そうなのか。じゃあ俺と一緒だね…」
俺以外にも孤独な子がいたのかとなんだか辛い気持ちになった。1度目を閉じて昔のことを思い出し、目を開いて現実と目の前の子の目を見て、寂しく囁いた。
「え…?」
孤独の少女は蟲使いの先程までの残虐な行動をしていたとは思えないほど、悲しそうな顔をしていたことに驚愕した。
「じゃあみんな、この子以外の人と魔物を全て食い殺していいよ。欠片すら残さなくていいぞ」
そして宿にいた蟲使いの少年と孤独の少女と蟲以外の生き物は欠片すら残すことなくいなくなった。
これを書きながらカレーを食べました。美味しかったです。