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神様の涙2  作者: 美黒
1 2年後の僕たち
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1 彼女と再会した、僕らの未来

 たとえば僕らを繋ぐものがあるのならば、それは紛うことなき雨だろう。

 僕らを繋ぐ唯一のものと言っていいそれは、単なる自然現象にしか過ぎない。それでも、このぽつぽつと降り続き独独の匂いを撒き散らしながら周囲を濡らしていく涙が、僕にとっても。きっと彼女にとっても。

 どうしようもなく、たまらないほどに愛しくて仕方がないのだ。


 雨が降る日に、あの場所で会いましょうという約束。

 恐ろしいほどに雨が似合う彼女の姿。

 雨が大嫌いだった僕が好きになったこと。

 そして――彼女の正体。


 全てはこの時折降る雨のおかげで、だから今日もこうして僕はここにいる。

 ここで、貴女を、ただ貴女だけを待ち続ける。


 それが、僕の日常。


 「赤瀬さんは、どうしていつも来てくれていたんですか?」

 彼女と再会して数日経ったある日のこと。

 僕はいつものようにお供えのおまんじゅうが入った袋を片手にどんよりとした空の中、ぽつぽつと音楽のように鳴り響く雨の音を聞きながら神社にたどり着いた。

 相変わらず神社は無人で、本当にここはちゃんと管理されているのか不安にさせられつつも、ただ一人、僕が来るのを待ってくれていた彼女に目を向ける。

 彼女は相も変わらず僕を見つけるなりその可愛い顔を、弾けるような笑顔で迎えてくれる。

 そうしていつものようにおまんじゅうを渡すと、美味しそうに頬張りながら、先ほどの質問をしてきた。

 「どうして、ですか?」

 「はい。その……、ずっと、気になっていたんです」

 僕はその言葉にううん、と唸る。

 いつも、というのは多分この二年間、雨が降るたびに欠かさずこの神社に来ていた事を聞いているのだろう。

 確かに、ちゃんとした理由がいくつかある。

 でもそれを全て話すには、少しばかり恥ずかしい気がした。

 だから、その全ての理由を繋げると辿り着く、たった一つの答えを少しだけ躊躇いながら口にする。

 「雨宮さんに、会いたかったからです」

 言ってしまってからやはり恥ずかしくなって顔を両手で覆ってしまう。

 隣では何も答えずにほう、と息をつく音がした。

 やがて数秒が経っても何も返って来ず、ただ虚しいほどの雨音しか聞こえなくなったので、ちら、と横を見てみる。

 すると、彼女は顔を真っ赤にして俯かせていた。

 「……雨宮さん?」

 「み、見ないで下さい!!」

 いやいやいや、見るなと言われても長い黒髪の間からその赤い顔が隠しきれずに見えてます……。

 そう言おうとして口を開くと雨宮さんはふい、と完全に横を向いてしまった。

 ああ、これはどうすればいいのか分からない。

 僕はしばし迷っていると、今度は雨宮さんから切り出してきた。

 「しばらく話しかけちゃダメです」

 その赤い顔が戻るまで?

 そう問いかけたいのを必死にこらえて、代わりに少しばかり笑ってしまう。

 相変わらず子供らしいところがあって、それがとても好感を覚える。

 僕は笑っているのがバレないように、ダメと言われているけど話しかける。

 「おまんじゅうは美味しかったですか?」

 「……はい。次は、前に言っていた羽二重餅というのが食べてみたいです」

 おっと、怒られるかと思いきやちゃんと返ってきた。

 横を向いていて表情は伺えないが、おまんじゅうの話をしたら少し楽しそうな声になったのに気付くと、了解です、と返す。

 「羽二重もいいですけど、羊羹というのも美味しいですよ」

 「それもおまんじゅう?」

 「まんじゅうとは違いますけど、和菓子です。小豆が好きなら、きっと好きになります」

 「じゃあ、それも今度食べたいです。……ねえ、赤瀬さん」

 「はい?」

 いきなり名を呼ばれ、雨宮さんを見つめていると、彼女は俯いた顔をこちらに、それも先程より真っ赤な顔で向けてきた。

 僕は首を傾げる。顔が赤いうちは見ちゃダメって、言ってなかったっけ。

 「あの、……その」

 雨宮さんは何か言いたげだけれどどうにも歯切れが悪い。それでも焦らなくていいですよという意味で僕は微笑み待っていると、ようやく彼女は決心したようにその言葉を言った。

 「私も、会いたかったです」

 ……その顔でその言葉は、反則だと思う。



 雨宮さんが僕の前から消えて、二年が経った。

 僕は結局、どうすることも出来ずに、雨宮さんが消えていくのをただただ呆然と見ている、情けない人間だ。

 それでも雨宮さんが消えた後の後悔は尋常じゃなかった。

 大学でも塞ぎ込んだし、友喜と幸広にもかなり迷惑をかけた。

 おかげでただでさえ悪い成績が更にガタ落ち。運動も出来なくなる。いや、これは元からだけど。

 常時暗い表情で過ごし、加えて雨宮さんと別れてからすぐに春さんの葬式が来たという悲しい現実の連続で、僕の弱い心はあっという間に砕けた。

 それでも僕は雨の日は欠かさず神社に向かった。

 気休め程度と言えばそうかもしれない。もう二度と現れる事はないんだと分かっていながらも、もしかしたらという妙な希望を持ってしまっていた僕は、今では過去の自分に感謝している。

 なんたって、雨宮さんは戻ってきたのだから。

 そう、これは僕と雨宮さんが再会した後の幸せでかけがえのない日常の話だ。

 ただの辺鄙でつまらない話かもしれないし、リア充とか言われるのかもしれない。

 それでも僕はここに綴ろうと思う。

 雨宮さんと過ごした、大切な日々を。


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