第3話 帰郷
「やっと帰ってこれたー!!」
「たかが6時間程度の徒歩だろう。
しかし……これが恭介の住んでいる街か……」
雪南の家から歩いて6時間、俺はやっと自分の街である美尾月市に帰ってきた。
ちなみに時間的にはちょうど午後5時くらいだと思う。
……しかしまぁ、白鳳山から歩くとここに出るとは夢にも思わなかったな。
「恭介、あの建物は何だ?」
「……アレは美尾月北中学校だな。」
通称美尾北。
ここは(言っちゃあ悪いが)どこにでもあるような中学校の一つ。
学力はやや劣っているが、かわりにスポーツ関係が強く美尾月市の運動神経のいい少年少女達が好んで集まる学校だ。
まぁ全員が行くわけではなく、例えば運動神経のいい翼は美尾西に進学している。俺と直人も当然美尾西だ。
翼曰く、
『わざわざ遠い場所に進学する理由がない』
だ、そうだ。
俺は好んで美尾西に進学したから、少し翼の論理がわからなかったが。
……話は変わるが、美尾西とは美尾月西中学校だ。
美尾西は美尾北より平均的な中学校であり、俺と翼と直人の母校。
学力は良くはなく悪くもなく、部活動は2〜3回戦までが関の山。ただし、先代校長のせいか学校行事には力をいれている珍しい中学校であったりする。まぁそのおかげでそれなりに充実した学校生活を送れたので、個人的には素晴らしい中学校である。
「美尾北か〜……
確かあいつってここの卒業だっけ……」
「そういえば今恭介は高校の一年生、とやらだったか?」
「ん?
あぁ、そーだよ雪南。
今いるこの美尾月北中学校って場所は高校に入る前に通う場所の一つ。」
「一つと言うことは他にもあるのか?
例えば……北があるのだから美尾月南中学校みたいな場所が。」
雪南の家から歩いて来るまででわかったことが一つある。
それは理解力が高い事だ。。まさに一を聞いて十を知る、といった感じだ。
「他にもあるが南はないな。なぜか知らないけど南だけない。」
「ふぅん……
ん、恭介。先ほどからこっちを見ているあの人は誰だ?
貴様の知り合いか?」
見ると美尾北の校門に見知った顔を見つけた。
「お前……言原か!?」
「えっと……藤岡先生…ですか?」
「生きていたのか!!
久しぶりだなぁ言原!!
お前が行方不明って聞いてたから心配したんだぞ!」
やっぱり藤岡先生だ。
この人は中学時代の俺の担任の先生。
1年から3年まで受け持ち、俺たちの卒業と共に美尾北に移動した先生だ。
……しかし、この反応から見るとやっぱり俺は世間では行方不明になっていたんだな……
軽く落ち込むぜ〜……
「ところで言原、お前今までどこにいたんだ?」
……一番説明しづらい質問だ。
雪南の姿は一般人には見えないし……
「恭介は私の家で休んでいました。
彼は崖から落ちたようなので、しばらくの間私の家で安静にさせていただきました。」
「そ、そうなのか。
……ところで君は?」
「私は氷室雪南と申します。彼とはつい最近知り合った仲です。」
「なるほど……
氷室さん、言原を助けてくれてありがとう!!
でもどこかに連絡もしてもらったらこっちとしても助かったかな。」
……なんで藤岡先生と雪南は普通に会話してるんだ?
意味がわかんねぇ……
「じゃあまたな、言原。お前の家には先生からも連絡を入れておくから、お前も早めに帰れよ〜。」
「え……あ、はい……」
雪南はさようならと言って挨拶をしている。
……なんかおかしくないか?
そして雪南はそんな俺の心を読むかのようにその疑問を口にした。
「貴様、今なぜ私が普通に会話をしたか疑問に思っただろう?」
「あ、あぁ。」
俺が肯定したのを見ると、雪南は説明を始めた。
「つまりこれが人と関わりをもつと言うことだ。
私の場合契約をする前はシンだけに、した後はシン以外の全ての人間と関わることができる。」
……なるほどね。ようは、俺は雪南と人間を繋げるみたいな意味も兼ねているわけか。
「それより早く行くぞ、恭介。貴様の家は一体どこにあるんだ?」
「俺の家か?まだまだ結構歩くぞ。
大体一時間くらいかな………って、なんでそんなことまで聞くんだ?」
街まで戻ってこれれば後は一人でも帰れるのに。
……なんて思っていたらこいつはとんでもないことを言い出しやがった。
「そんなことは決まっているだろう。
貴様は私と契約した。ならば私が貴様の家に住むというのは当然の道理だ。」
「…………………は?」
……それしか口に出せなかった。
今なんて言った?
俺の家に………住む?
why?
「だから、契約をしたからだ。契約をしたということは私は貴様を守らなければならない。
それ故に貴様の家に住むということだ。」
「守るって……なにから?」
「……いずれ教えてやる。」
……それっきり雪南は黙した。
まぁとりあえず(雪南の話を信じた場合)理解できたことは、俺は何者かに狙われる立場になったということ……ぐらいだ。
まぁここでいくら推測しても仕方ないし、一旦家に帰るか……
……などと思ったが、やっぱり山を降りた後に一時間も歩くのはつらいぞ。
なので途中の公園で休憩をとることにした。
「とりあえず喉が渇いたな……
自販機あるから俺は何か買ってくるが、雪南は何かいるか?」
「……すまん恭介。
自販機とは……何だ?」
あ〜……そっか〜……
雪南って精霊だったっけ……
「えっと……なんつーのかな……
まず雪南、お金ってのはわかるか?」
「……それくらいは理解しているつもりだが?」
あ、なんか軽く怒ってる……
「……まぁいいや。
自販機ってのは、そのお金を払い飲み物を提供してくれる機械だ。」
「なるほど……
……では何か一つ冷たいものをくれないか?」
「りょーかい……雪南は何がいい?」
「それは貴様に任せよう。好きに選べ。」
好きに、ねぇ……
とりあえず俺は寒いことだしホットコーヒーで。
問題は雪南だよな……
好みがわからん。指定は冷たいものってことだけだし……
なんて迷っていたら面白いものを見つけた。
『辛・ブラックティー』
……懐かしいもの発見。
2年ぐらい前に発売されて、あまりに辛いからなくなったと思っていたが……まだ生きていたとは。
試合で負けた時の罰ゲーム用としてよく買っていたが、今は絶対に飲みたくないものの一つだ。
さすがにこれを雪南にやったら殺される気がしてならない……
なんて考えていたら白い指がそのブラックティーのボタンを押しているのが見えた。
「あまりにも遅いから私が決めた。
今後私を待たせるなよ、恭介。」
「……いや待て、雪南。
それはやめておいた方が……」
あ、飲んだ。
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
とりあえず俺達はそこのベンチで10分程休憩をとった。雪南はブラックティーとやらの口直しを理由にもう一本買っている。
ちなみに俺は……八つ当たり同然のボディーブローを受けて昏倒中である。
「……なんでこうなったんだ。」
俺は軽くため息をついた。そりゃため息の一つや二つ、つきたくもなるさ。
朝起きてから今までの時間だけで相当疲れたぞ。
精霊との出会い、契約、それに他にも色々と……
「……にしても、シンか……」
精霊と契約できる人間、シン。そんな人種がいたのも驚いたが、それが俺だとは夢にも思わなかった。
まぁ確かに小さな頃には夢を見たさ。
謎の秘密結社に立ち向かう一人の精霊使いとか、世界を守る為に立ち上がる選ばれし勇者とかを。
けどそれはゲームやアニメの中の世界であって、自分には一切関係ないということが最近理解できた。
……いや、そう感じとったのだろう。
世界を見てもどこも危機なんて存在しない。まぁこれは俺の知る世界の話だから実際は違うが、それでも勇者や精霊は存在しないと思っていた。
「だけど……精霊は存在しているんだよな。」
これは雪南の言うことを全て信じた場合だ。
雪南が嘘をついているならば今までとなんら変わりない生活が続く。
だが実際はまだわからない。まぁ単純な話、今の俺の心境は……
「半信半疑、という感じかしら?」
「……え?」
突如後ろから女性の声が聞こえた。そして俺は立ち上がり後ろを振り向くと、そこには確かに女性がいた。
一見するとただの女子高生だが……
「お前……誰だ?」
「あ、自己紹介がまだだったわね。
私の名前は萩宮凛。
よろしく、言原君♪
……ちなみに初対面の相手にお前って言う言葉は、あまり関心できないわよ。」
「あ、悪ぃ……
って、ちょっと待て。なんで俺の名前を知っているんだ?」
そう質問したら彼女は不敵な笑みを浮かべこう答えた。
「だって……あなた、シンなんでしょ?だから少し調べさせてもらったの。」
「……ッ!」
俺はわずかに……いや、実際はかなり動揺している。
なんでこいつは俺がシンだって知ってるんだ!?
俺自身今日初めて知ったというのに!!
「まぁとりあえず敵になると面倒だから……」
「……だから、何だ?」
その答えは多分予想はしていた。だが俺は聞き返さずにはいられなかった。
「……死んでくれるかしら?」
その答えと共に彼女の顔が常人とは異なる、殺人者のような冷徹な顔に変わる。
そして彼女を中心として、周りの空間が徐々に違和感に包まれていく。
気づくとその手にはナイフを持ち俺の首に刃をつけていた。
……本当にこいつ、俺と同じ人間かよ?
いつ動いたのか全く見えなかったぞ。
俺はその殺気にも似た感情に気圧されながら、自分でも驚くような答えを言っていた。
「……出会い頭に死んでくれとはまた、大層な願いは初めて聞いたよ。
悪いが俺は、死ねと言われてそうですかと頷けるような人間じゃねぇんだよ。
だから……」
「だから……何?」
これはある意味賭けに等しかった。
だが、ここまで言ったあげく今さら退くなど、できる筈もない――!!
「お前がくたばれ、萩宮凛!!」
そして彼女の手首が動く――!!
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
だが一瞬前に雪南の蹴りが彼女を吹き飛ばす!!
「くっ!?」
彼女は空中で体制を直し、地面に着地した。
「……貴様は死ぬ気なのか、恭介。」
「雪南の言葉を信じただけだ。」
「ふ〜ん……あなたが言原君と契約した精霊なのかしら?」
凛が雪南に質問を掛ける。
「貴様の推察の通りだ。
そういう貴様は……ヨウか?」
「正解。
だけど今までの間に武術は少々習ったこともあるし、身体強化もできるから舐めない方が身の為よ?」
「安心しろ。
私は敵として現れた者には容赦はしない――!!」
そうして二人は戦いを始めた……が、はっきり言わせてもらおう。
今の俺には何が起こっているか理解ができない。
いや、頭では戦っているということを理解しているのだが、目が全く追いつかない。それぐらい二人の戦いは“常人”である俺には理解できるものではなかった。
『聞こえるか、恭介?』
不意に脳裏にそんな声が聞こえた。
『私だ。今貴様の目の前にいる氷室雪南だ。』
……確かに、雪南の声だ。それはわかる。
『今から貴様にしてもらいたいことがあるのだが、頼めるか?』
……それはいいのだが、返答の仕方がわからない。
『いや、伝わったからいい。では一つ頼む。契約の時と同じ状態になってくれないか?』
思ったことが雪南に伝わるのか?
……真偽はわからないが、俺は心の中でわかった、とつぶやきあの時と同じ姿勢をとり、同じ気持ちにする。
『感謝する、恭介。
……もう少しその状態でいてくれ。』
何も考えずに……
俺は自らを空にする。
例えるならば、荒れ狂う海を静めるように……
――おう―――で―――――――いを――
瞬間、誰かの声が聞こえた気がした――
『もういいぞ、恭介。』
雪南の声が聞こえ、俺は目を開ける。
その世界には雪南がおらず、先ほどまで雪南と戦闘していた凛が吹き飛ばされている姿と、俺の二人だけが残っていた。
「雪南ッ!?」
『私は今貴様と共にある。嘘だと思うならば自分の手足を見てみろ。』
「え……?」
俺は雪南の声の通りに自らの手足に目を向ける。
そこには俺の手足の他に蒼色の武器や防具みたいなものがついてある。
右手には手の甲にナイフが仕込まれたような武器があり、左手は……いや、左手自体が刀のようなもので覆われている。また足はブーツのような形状をしたものに護られている。
「雪南……これは一体どういうことだッ!?」
『これが貴様が私の力を行使するということだ。
身体能力も強化されているはずだぞ。』
言われてみれば体が軽くなった気もする。
「けど、なんでこんなことをっ!?
もう雪南は戦えないのか!?」
『事実を伝えるならば、私は貴様との契約のおかげで現実に干渉できるようにはなった。
だが、干渉できるだけで戦えるほどの力はない。
だが貴様に力を与えるというならば話は別だ。』
「どういう意味だよ雪南ッ!?
ちゃんと……」
『話は後だッ、くるぞ恭介!!』
「はあぁぁぁっ!!」
「………ッ!!」
凛が繰り出したナイフを俺は右手のナイフで抑える。
……とりあえずは先ほどとは違い、凛の動きにはついていけるようにはなったようだ。
『恭介、上を見ろ!!』
言われるがままに見ると、槍の形をした火が俺の方向を向いている!
「ッ!!」
俺は足に力をいれ左に移動する――!!
「がっ!?」
が、動きが読まれていたのか俺の腹に鋭い蹴りが入った!
そして凛はナイフを再び俺に向け突き刺そうとしてくる!!
「……っせるか!!」
俺はギリギリのところで体制を立て直し、左の刃で防ぎ――そのままナイフの刃を叩き切る!!
「えっ!?」
相手はナイフが折られて一瞬動揺する。
そして俺はそこに先ほどやられたことをそっくりそのまま返してやる!
「くっ!!」
そして凛はそのまま吹き飛ばされ、うつ伏せに転がった。
俺は容赦せずにその状態の凛の背に足を乗せ、頭に右手のナイフをつきつけた。
……端から見たら、まるで俺が悪人みたいだな。
「……一つ聞きたいことがある。」
「……何よ?」
「お前、一体何をしにきたんだ?」
「……あなたを殺す為よ。まぁ、もう一つあるけど。」
「そのもう一つってのは何だ。」
俺は語尾を強めて問い詰める。だが凛は怯まずに続けた。
「それはね……」
「……………………」
「あなたを拘束する為よっ!!」
『ッ、恭介!!』
雪南の声が響く。
俺はとっさに凛から離れていた。
「凛を返り討ちにして、なおかつ今の攻撃も回避するとは……」
俺の後ろからまた聞きなれない声が聞こえる。
気づくと先ほどまで俺がいた場所には銃で撃ったような弾痕がいくつか見つけられた。
「だが、まだ甘いな。
貴様の行動には隙が多すぎて話にならん。」
『逃げろ、恭介ッ!!』
雪南の声が聞こえた、その直後には俺の背中に衝撃が走った。
「なっ……!?」
足元がふらつく。
視界が定まらずに、体の自由が失われていく……
「嘘ッ…だ……ろ…?」
「……まだ―――ある――。
あ――使い―――――のだが――」
やつが何を言っているのかが聞き取れない……。
だが、わずかに見える視界がやつの行動を見せてくれている。つまるところ、俺に……『それ』を向けている。
「次―――――仲間―――――を祈ら――――おう。
では…――――――眠って―――――介。」
そしてやつは何の躊躇もなく……トリガーを引いた。
「……ありがとうございます、先生。」
「気にするな、凛。
……一ついうと、お前には感謝している。」
先生は少し嬉しそうにそう口にした。
「と、いうと?」
「……私は数多くのことを凛に教えてきたつもりだ。だがこいつは、その凛を身体能力だけで圧倒……いや、互角の戦いを繰り広げたんだ。」
私はたまに、先生の意図がわからなくなることがある。
私は負けた方が良かったということなのか?
「そういうわけではないのだが……彼は最初から仲間に誘うつもりでいた。」
「ッ……シンであるのに……ですか?」
「……あぁ。
……シンであるが故に、だ。」
「なぜです、先生!!
シンを仲間に誘うなど、正気ですか!?」
気づけば私は先生に対して本気で怒鳴っていた。
それほどまでに私は先生の言葉が信じられない――!!
「確かに我々が出会ったシンはどれも尊敬できるような人間ではない。
ましてや、凛にとっては仇とも言える存在だろう。」
「それは先生もではないのですか!?」
「ああ……
だがそのシンはこいつではないし、シンであるが故に悪と言うわけではない。
事実、私みたいなロウや凛みたいなヨウにもその力を悪用する者がいるのを見てきただろう?」
「………つまり、彼は悪い人間ではないと?」
「あぁ。
だからこのまま連行して私たちの仲間になるように諭してみるつもりだ。」
……私は正直、先生の判断が理解できない。
確かに戦闘能力の高い人物は作戦には必須だ。
だが、わざわざ危険をおかしてまでシンである彼を仲間にする必要性を感じられない。
「……わかってくれるか、凛。」
「……………………………………わかりました。」
とりあえずは先生の言うことを信じてみよう。
このシンが敵か味方かを判断するのは……それからでも遅くはないはず。
読んで下さった皆さん、こんにちは^^ 作者の金影です さて、今回はまた別の人物が出てまいりました。この二人は物語でも重要な位置にあたる二人です。 この後、恭介はどのような世界に巻き込まれるか……作者の私が見物です(笑) では物語の話はこれくらいにして、いつも通りのお願いを。 これを読んで下さった方々、至らない箇所や訂正すべき点などを見つけたり以外にも、普通にこの小説の感想でもいいので随時感想やコメントを募集(?)していますので、何卒よろしくお願いします。 ではまた次回に(^^)ノ~~