第2話 氷室 雪南
「ではまず最初に聞きたいことがあるのだが貴様、私が見えるか?」
「………助けてもらった身でこう言うのもなんだけど、頭大丈夫?」
そしたら有無を言わずに俺の頭に衝撃が走った。
「ッてぇ!!
お前、いきなり何すんだよ!?」
「…いや、少しイラついただけだ。気にするな。」
彼女はため息混じりの深呼吸を一つして、言葉を続けた。
「……私が言いたいことは、私は人間には視認できない存在なんだ。
ただ、視認はできなくとも存在はしているから接触することは出来る。今私は貴様と言葉を交わしているが、本来ならばそれも不可能なはずなんだ。」
「……つまり、お前は幽霊…ってことなのか?
でも、だとしたらなんでお前はさっき俺を殴れたんだよ?」
「幽霊というわけではない。貴様達の言葉でいうならば……精霊とでも言うべき存在だろう。」
……なんだこれ?
どんなドッキリですか?
その観葉植物の辺りに監視カメラでもあるんじゃねぇのか?
「……貴様、信じてないだろ。」
「…ん、ん〜と…」
図星だったのであからさまに挙動不審な態度をとってしまった。
だが、正常な人間が『私は精霊です。』なんて言われていきなり信じられるか?
少なくとも俺は信じられないぞ。
「……まぁ信じる信じないはともかく、今からする話の前提となるから割り切ってくれ。では別の質問に」
「あ、その前に一つだけ確 認させてくれないか?」
「……………何だ。」
誰の目から見ても明らかに怒った表情をしてますね〜……
まぁ、今のは全面的に俺が原因なんだが……
「……えっとですね。
なんであなたは私の名前を知ってい」
「精霊だからだ。
正確には、白鳳山に住んでいる氷の精霊。
だからこの麓に住んでいる人間ならほとんど知ってはいるぞ。
望むならば、私の知りうる限りの貴様の情報をここで言ってやってもいいが、どうする?」
「……遠慮します。」
さっき自分がしたことをやられるのはあまりいい思いじゃねぇな……
てゆーか、やっぱしマジに精霊なのか?
死んだ爺さんが吹雪が街に降り続いた日に、『山の神の怒りじゃ〜!!』とか騒いでいたけど、アレはマジな話なわけ?
「……それと敬語はやめろ。いつもの貴様らしくないぞ、恭介。」
「え……あ、あぁすまん。じゃあ砕けた話し方でいいのか?」
「そっちの方が気が楽だ。……では、今度こそ質問をするぞ。」
「りょーかいっと。」
お互いに確認をとり、もう一度話を再開する。
「ではまず、前提の条件として精霊である私を貴様が視認できている、ということだが………」
………………なんか、いやに間が長いぞ。
そして彼女は沈黙を破りこう伝えてきた。
「……お前、まさか“シン”なのか?」
「……はい?」
シンって……?
何それ?
神ってこと?
「……えっと、さ。
シンって……何?」
「え、あぁ…まずはそこからなのか…」
そしてまた彼女は口を閉ざし、沈黙が訪れる。
その姿は教えるべきか悩んでいるように見えれば、うまく説明できる言葉を探しているようにも見える。
「教えられないようなら、別に無理には聞かないぞ。
それより、俺は早めに帰りたいんだが……」
「あ…ま、まて、恭介ッ!!
教えるかわりに……三つ、約束をしてくれないか?」
「? ……俺にできる約束なら、別にいいぞ。」
ふ〜ん……こいつでも動揺はするのか。
「じゃ、まず一つ目だが、途中で質問をせずにまた、絶対に笑わないで聞いてほしい。
二つ目は、必ず関係者以外には話さない。
そして最後に……後悔だけはしないでくれ。」
「わかった。約束するよ。」
………その、最後の約束は頼みめいたようなセリフだったが、どちらかと言えば悲しみの念が込められていたように見える。
だが俺はろくに躊躇することなく肯定した。
いや……無意識にこう答えたと言う方が正しいのかもしれない。
「……今、人間は四つの種で分かれている。
その四つの種族とは、“ゼロ”“ロウ”“ヨウ”それと“シン”の四つだ。」
彼女曰く、漢字表記をすると『零』『狼』『妖』『真』と表記するそうだ。
「この種族のうち最も数が多い種族はゼロ。
どこにでもいる社会人、今のオリンピックに出ているアスリートや、世界各国の頂点にいる者もこのゼロだ。この種族は世界中の人間の内、99%以上を示す。」
今の世界人口をだいたい60億とすると……59億4000万人以上はゼロということらしい。
「ゼロの特徴を強いてあげるならば、『何もない』。……いや、平凡な人間、といっておこう。」
じゃ、翼や直人もこのゼロなのかな?
「そしてゼロの次に多い種族がロウとヨウだ。
数としてはほぼ同じだが、特徴が互いに真逆だからわかりやすい。」
「真逆、ねぇ……」
「その特徴とは、ロウは身体能力の異常なまでの発達、ヨウは精神能力の(以下略)だ。」
「……えっと、解釈を変えるぞ。つまり、ロウは戦士、ヨウは魔法使いってことか?」
「……まぁそう捉えても間違いではないな。」
ここら辺はロープレをやりまくっているからなんとなく理解できたぞ。
つまりは
ゼロ→村人
ロウ→戦士
ヨウ→魔法使い
みたいな感じか。
「それで最後に、最も数が少ない種族、シンについてだが……」
……ようは、俺についてのことの可能性があるわけか。
「シンは他の種族と比べると特徴が多い。
まず一つは、ロウとヨウの特徴をもっていること。
次に、私に限らずだが、精霊と意思の疎通ができ、また契約を結べること。
それと、今までのシンは全て女性であったこと。」
「……えっと……え?」
今、最後なんか凄いことを言わなかった?今までのシンは全て……女性だって?
「貴様は私と意思の疎通ができるのだからシンであることには間違いはない。
だが、これは矛盾しているんだ。」
「……だよな。
俺は女性じゃねぇし。」
「……とりあえず、話を続けるぞ。
このシンという種族は、まだこの他に色々な特徴があるらしい。ちなみに世界中にいるシンは約10人程度だ。」
「………話はそれで一通り終わったのか?」
彼女は首を軽く縦に振り、肯定の意を伝える。
「一つ聞きたいんだけど、俺がヨウだという可能性は?」
「まず限りなくないだろう。先ほども言ったが、精霊と意思の疎通ができるのはシンだけであり、精神能力が優れているだけのヨウには不可能だ。」
「そうか……」
「貴様がシンであるかどうか見定める方法があるが……」
「どんな方法だ?」
彼女は一瞬の間躊躇したが、すぐに言葉を続けた。
「私と契約しろ。」
俺は今、彼女と共に小屋の二階にいる。
さて、改めて状況を整理しよう。
まず、俺は崖から落ちて彼女に助けられた。
そして目が覚めて彼女の作った朝食を食べ、ゼロ、ロウ、ヨウ、シンについての事を聞いた。
そして話の中から俺がシンである可能性が出た。
……あぁ、彼女が精霊という事実も忘れてはいけないな。
確かに精霊なら俺が崖から落ちたのに、全く怪我をしていない事に理由はつけられる。
ほら、ゲームとかでも精霊って魔法とかよく使うじゃん。
……しかし自分で言うのもアレだが、俺は純粋で無垢な少年か?
または順応性が高いとでも言うべきか。
とりあえずわかる事は、(理由は分からないが)彼女を疑っていないということだ。
もし疑っているならば信用もしないし、今頃は山を降りている途中だろう。
「もう一度確認するが、契約をするか?」
「……それしか確認のしようがないだろ。」
「……わかった。ならばこれをつけていろ。」
そう言って彼女は蒼い宝石がついているネックレスを渡した。
「これは?」
「精霊石……とでも言っておこうか。」
「ふ〜ん……」
渡された精霊石のネックレスを俺は身につける。
気のせいかもしれないがほんのりと冷たいように感じる。
「これから契約の儀に移るが、貴様は今願い事があるか?」
「願い事……?」
そんなもんは、はっきり言ってない!!
けどこう言うとなんかまた叩かれそうだから適当に言っておくか。
「じゃ、世界救済で。」
「……わかった。では、契約を始める。」
そう言うと彼女は部屋の奥へ歩きだした。
そしてだいぶ進んだところで足をとめ、俺の方向に顔を向けた。
「貴様はその場から一歩も動くな。
そして何もせず、何も考えずにいろ。」
「? …りょーかい。」
意味は分からないがとりあえずはここで直立不動の姿勢でもとるか。
……気づいたら彼女は何かを呟いている。
それと胸の辺りがなんか光ってねぇか?
……あ、この石も光ってるし。
しかしまー、ただ立っているだけというのは暇だな。
……まぁ向こうは忙しいんだろうが。
それにしてもあいつ、なんて呟いてるんだ?
世界救済、か………
話し方や好き嫌いだけではなく、願いもあの方と同じとは……
やはり恭介は、あの方の生まれ変わりなのかもしれないな。
「貴様はその場から一歩も動くな。
そして何もせず、何も考えずにいろ。」
「? …りょーかい。」
まぁいい。
恭介があの方の生まれ変わりであろうとも、今となっては関係などない。
今私がやるべきことは、この契約の儀を終わらせることだ。
私は魔力を右手に集中させ、その右手を地面につける。
そしてその手から伝わった魔力が契約の陣を形成する。
……そもそも精霊と人間の契約とは、人の身に精霊の力を宿すことを意味する。
言い方を変えれば『憑く』と言う表現でも表せる。
ただし肉体を乗っとるのではなく、契約者と同調して肉体に住むと言うべきであろう。
まぁ単純なところ、他人の家に家主の許可をもらい住まわせてもらうといった感じだ。そしてその許可とは、相手と精神を重ねること。
恭介が何も考えなければ恭介の精神の深奥を垣間見ることができる。
……つまりこの陣は相手の状態を調べる為の陣だ。
本来の契約にはなくてもよい段階。本来の契約はあの精霊石を恭介に手渡した時に終了している。
精霊石自体シン以外には触ることすら不可能なのだから。
最終的に私が今したいことは……恭介と私の重なる部分が知りたかった。
……探ることができない。
これは無意識の内に私を拒絶しているか、以前大きなショックでも受けて他人を受け入れられなくなったことのどちらかだろう。
……だが、別に関係などない。わかっているのは願いは同じところにある。ならば恭介の心境などは些細な問題でしかない。
これ以上やっても意味はないだろうな……
そろそろ終わりにして部屋に戻るか。
精霊石の光、彼女の光の両方が消えた。
それと同時に床に現れていた紋章も消える。……もう契約は終わったのか?
それともまさか、まだ続くのかよ?
「終わりだ。もう自由にしていいぞ。」
……終わったみたいだ。
にしても、随分あっさりと終わったもんだな。
てっきり俺は『貴様の実力を見るから手合わせをしろ。』みたいなことでもするものかと思ったのに。
「……これではっきりしたな。」
「はっきりって、何が?」
「貴様がシンであるということが、だ。」
あ〜……そういえばそうだったな。
すっかり忘れてた。
「……忘れていたようだが、まぁいい。
さて、これで貴様と私は契約を結んだわけだが、何も知らないようだから簡潔に契約の内容を説明するが、異論はあるか?」
「特にねーよ。
と言うか、むしろ聞きたかったくらいだ。」
「それならば説明をしよう。まず契約の主な意味から伝えるならば、互いの望みを叶える為に存在するのだが……」
彼女曰く人と精霊の契約とは、人は願いを叶える為に精霊の力を行使する。
また精霊は人の身体を借りて人間の世界に関与する権利が与えられる。
最初に俺が言ったが、俺みたいな例外を除くならば精霊も幽霊みたいなものと変わらないらしい。
だが人間と同じく感情はあるが、寿命はない。
つまりは未来永劫独りで過ごすということ。
だから精霊の願いは他人と関わりをもちたいことらしい。
……まぁそっちは別にいいんだが、問題は俺の願いなんだよな。
世界救済とか冗談で言ったんだが、あいつは信じてるからどうするべきか……
「ところで恭介、家には帰らなくていいのか?」
さすがに今さら嘘とは言えねぇし……
「……またか………聞いているのか、恭介ッ!!」
「ッ!?」
……俺、何回怒鳴られたかな……
「……すまん。もう一度頼む。」
「貴様は家に帰らなくていいのかと聞いたんだ。」
「……そういえばすっかり忘れてた。
俺は家っつーか、まずこの山を降りられるのか?」
「降りてもらわなければ私が困る。
私が人間の世界を見れなくなるし、貴様が長時間の間この家にいることも望ましくはない。」
……素直に言えばいいのに。ようは降りるまでは道案内をしてくれるという意味だろ。
「……わかった。
じゃあ早く降りようぜ。
もう家に帰らないとさすがに俺もヤバいしな。」
「当然だ。
……では私は外にいるから準備をして早く行くぞ。
貴様の荷物は食事をした隣の部屋に置いてある。」
「…りょーかい。」
「…………うわぁ……」
扉を開けると真っ白な雪原の中に彼女の姿が見えた。白の世界を背にして立つ『氷の精霊』の彼女。
その景色は幻想的で俺は夢を見ているような錯覚におそわれた。
それはまるで、氷の精霊というよりは雪の妖精のような、そんな姿。
「準備はできたか、恭介?」
彼女が唐突に言葉を発して俺は意識を戻す。
「……え……あ、あぁ、一応は。」
「ではさっさと行くぞ。」
彼女がそう言った時に一つ思い出した。
「なぁ、少し待ってくれないか?」
「……何だ?」
「お前、名前はないって言っていたよな。」
「あぁ。
言ったが、それがどうかしたのか?」
「いつまでもお前ってのもアレだし、俺がお前の名前を決めてもいいか?」
「……別に構わない。
好きなように呼べばいい。」
「じゃあ……」
彼女は氷の精霊。
いや、さっきの姿はまるで雪の妖精と言うべきか。
なら……
「……氷室。氷室雪南、なんてどうだ?」
「ひむろ、ゆきな……
氷に雪とは、まさしく私を示す言葉だな。」
彼女の口元が微かに笑ったような気がした。
「いいだろう。私の名前は氷室雪南。これで文句はないか?」
「ああ!!
実際、ずっとお前とかじゃ可哀想だしな。」
雪南も悪くないと思っているようみたいだし。
俺としても雪南っていう名前があるほうが、気分的にいい感じだ。
名前がないっていうのは嫌なことだしな……
「では改めて……準備はできたか、恭介?」
「できてるぜ、雪南。」
「では行こうか。」
こんにちは(でいいのかな?)、金影です^^ まず最初に一言…見てくれた方々、更新に遅れて申し訳ありませんでしたm(__)m 次話以降はこうならないよう、日々努力をしていきます。 あとがきといっても何を書けばいいかわからないので、一つお願い事があります。もし、至らない点や、修正箇所を見つけたならば、評価やメッセージに書き込んでくれたら幸いです。できる限り直していきたいと思いますので、どうぞ遠慮なく言って下さい。もちろん+の評価の方が嬉しいのですが(笑) ではまた今後ともよろしくお願いしますm(__)m