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第四章 除霊は、技術にあらず、力にもあらず、芸術である

第四章 除霊は、技術にあらず、力にもあらず、芸術である


        1


 除霊の舞台は、取り壊し前の十階建て三十室の賃貸マンションだった。マンションは建てられてから五十年近くが経過していた。


 マンションが建った当初は、付近で人口も増えており活況だった。とはいえ、街も住人と共に歳を取る。今やマンションの周りは古い家と空き店舗が目立っていた。


 マンションは老朽化により大規模修繕が必要だった。されど、近隣住民の年齢層が変化し、現在の賃貸マンションでは経営が難しく、間取りも入居希望者と大きく希望とずれてきていた。


 オーナーは古いマンションを取り壊して、介護付きマンションに建て替える道を選んだ。

 マンションには入居している部屋が三部屋あるが、今年の九月までに全員の退去が決まっていた。


 依頼人はオーナーのお孫さんの女性。孫といっても、オーナーはかなりの高齢なので、孫の依頼人は三十を過ぎていた。依頼人の名前は近藤伊佐美。


 龍禅が運転する車がマンションの駐車場に着いた。時刻は午後二時五分前。本来なら、夏なので暑いが、今日は寒気の影響と曇り空のため、ほどよい気温だった。


 駐車場に着いて、二分ほどで女性が現れた。女性は髪を茶色く染めて、ジーパン穿きに黒いジャケットを着ていた。龍禅が挨拶したので、女性が近藤だとわかった。


 ケリーと一緒に郷田も挨拶をかねた短い自己紹介をした。

 近藤が三人を見て、「ふーん」といった感じで感想を漏らした。

「霊能者が三人も来るって聞いていたけど、格好は普通なんだね。なんか、もっと、こう平安貴族っぽい服装をした人を想像していたんだけど」


 龍禅は紺を基調として外出用の普段着。ケリーが小豆色のカジュアル・パンツ・スタイルで、郷田も普段着なので、四人が集まっていても、普通に友人同士で集まっているようにしか見えない。


 龍禅が、どこかビジネス口調で応じた。

「できるだけ、自然な格好で行くようしているんです。ことがことだけに、目立つ格好の人間を嫌う依頼者さんもいますから」


 近藤はあまり深く考えない様子で軽い口調で指示をした。

「従いてきて。部屋に案内するから」


 マンションの入口を潜ると、築年数に並に劣化が進んでいた。だが、三部屋しか埋まっていない割には、掃除は行き届いており、ゴミなどは落ちていなかった。


 古いエレベーターで四階まで上がった。エレベーターを降りると、フロアーの電気は消えていた。それでも、窓から光が入るので、まだ充分に明るかった。


 一番近くの四〇一号室の前に来ると、近藤が鍵を取り出して開けた。無人のフロアーに、鍵の開く大きな音がした。


 表札を窺うと「近藤」の名前が見えた。

 扉を開けると、大きめな玄関には靴や傘があり、まだ人が住んでいる部屋だった。近藤が躊躇なく上がるので、どうやら案内している近藤本人が住んでいるらしい。


 除霊と聞いたので、てっきり自殺者が前に使っていた人気のない部屋を想像していたので、肩透かしを喰らった。


 玄関から少し進んだところにある扉を開けた。

 中は縦に長い三十畳ほどのキッチンとリビングが繋がった広い部屋になっていた。


 奥には大きな窓があって、ベランダに出られる構造になっていた。部屋の右には襖があり閉じられている。おそらく近藤の寝室があるのだろう。


 床面積からすれば、三人家族でも充分な広さがある。だが、構造上は一LDKなので、使いづらい。かといって、単身者が住むには広すぎる部屋だった。


 部屋の中を軽く見渡した。余分な家具がない部屋だった。九月末の引っ越しに向けて、不要な家具や荷物を少しずつ捨てていっている途中、というところだろうか。


 リビングには、本棚があった。それとなく見やると、格闘技関連の本がずらり並んでいた。

 郷田が入門を希望した格闘団体の悪役(ヒール)の鰐淵棺の特集記事が掲載されている雑誌があった。


 ヒールとして人気のある鰐淵だったが、一年前の試合を最後に、姿を消していた。

 鰐淵関連の本は、一緒に住んでいた男の趣味の物だろう。男がいた過去を考慮して見れば、部屋の中には男の物と(おぼ)しきインテリアが少しだけあった。


 とはいえ、玄関に男物の靴がなかったので、別れたかもしれない。こういう時は、男の話題には触れないほうがいい。


        2


 龍禅が部屋を見渡してから「神棚か仏壇はありますか」と聞くと、近藤は「ないよ」と素っ気なく答えた。


 銀の細い鎖がついた八面体の紫水晶を、龍禅がセカンド・バッグから取り出した。

 龍禅が目を閉じて、腕を伸ばして鎖に下がった水晶を垂らした。水晶が小さく円を描くように周った。


 五分ほどして、龍禅が目を開けた。龍禅が少し考える仕草をしてから発言した。

「部屋の中に誰かいるようですが、悪いものではないですね」


「誰かいる」と告げられても、近藤は気味悪がったりしなかった。かといって、龍禅の言葉を信じていない様子でもなかった。


 近藤が龍禅の見ている方向に視線を合わせて、龍禅に尋ねた。

「もっと、具体的にわからないかな。何かを守っているとか、何かに未練があるとか」


 龍禅が自然な口調で答えた。

「何かを守っているは、ないですね」


 近藤の顔に落胆の色が少し差した。


 龍禅が近藤の様子に気にせず言葉を続けた。

「未練はあるようですね。ただ、普通は未練があれば、霊のほうから積極的に語り掛けてくるはずなのですが、何も言わない。ただ、黙って何か待っているようです。時間が掛かるかもしれません。呼び掛けを続けてみますか?」


 郷田は手を挙げて申し出た。

「時間が掛かるようなら、俺は俺で、準備していいですか」


 龍禅が「余計な真似をするな」といわんばかりに険しい視線を送ってくる。だが、近藤が興味を示して「郷田さんも、霊能者なの?」と声を掛けてくれた。


「俺は龍禅先生と違って、霊能者ではありません。単なる陰陽師の見習いですよ」


 近藤が不思議そうな顔で尋ねた。

「陰陽師って、霊能者とは違うの?」


「どっちが凄いかを見せるプロレスと、どっちが強いかを決める格闘技は、違います。でも、一般の人がテレビで見ると違いがないように見える現象と同じですよ」


 近藤が「そういうものか」と納得した顔をして提案に乗った。


「いいわ。やってみてよ、仏式でも神式でもプエルトリコ式でも、私は構わないわ」


 龍禅は何かを小言いいたそうな顔をしていたが、依頼人が「やってみて」と発言したので、何を口にはしなかった。


 郷田は持参してきたリュックからA四版のノートを取り出して開いた。ノートには色々陰陽師のやる手順が書いてある。

「まず、米を取り出して、白い皿に撒いて占う、か」


 近藤が不審そうな顔をして聞いてきた。

「ノートを見ながらやるの」


「俺、見習いなんで、手順の全部は覚えてないんですよ」


 近藤が「こいつはダメだな」といわんばかり顔を背けた。でも、特に不満は述べなかった。龍禅に対しても近藤は、あまり期待している様子ではなかった。


 百円均一で買ってきた紙皿に米を撒いてみた。


 撒いて見たが、なんと結果が出たのかわからなかった。さて、どうしたものかと思っている、ケリーが皿を見て告げた。

「このまま、進めてOKと出ていますね」


 郷田には米の散らばりが何を意味しているかわからない。でも、ケリーが進めていいと言うのだから、いいのだろう。ケリーは陰陽道については、郷田より知っている。


 御幣と呼ばれる陰陽師の儀式に使う、紙細工を作るために、リュックから郷田は鋏を取り出して、ケリーに渡した。


 ケリーが当然というように「はい」と近藤に鋏を差し出した。差し出された鋏を近藤が受け取った。

 ケリーが近藤に鋏を渡しので、もう一度、ケリーに鋏を渡すと、ケリーが受け取った。


 予備に鋏を持ってきたので、郷田は鋏を手にして和紙を取り出した。

「では、次に、紙で御幣を作ります」


 すぐに、近藤が手渡された鋏を見て「私も作るの?」と疑問の声を上げた。

 ケリーが優しい顔で「そうです」と言い切った。


 陰陽師が御幣作りをする行為は当たり前だと思う。されど、素人の依頼人が御幣を作る行為は違う気がした。

 気がしたが、郷田より陰陽師に詳しいケリーが「そうだ」と判断するなら、そうなのかもしれない。


 どのみち、郷田もケリーも素人以上、玄人未満なので、大差がないと判断した。

 郷田は御幣の作り方のページを開いた。ノートを見るために三人で車座に座って、和紙を切っていく。


 郷田、ケリー、近藤で黙々と御幣作りをしていた。


 御幣作りをして十五分くらい経過して思った。

「そもそも、御幣って、どれくらいの量が必要なんだろうか?」


 御幣の作り方は勉強した。御幣が刺身と同じで、造り置きしてはいけない物なのも理解していた。

 とはいえ、どこにどれくらい使えばいいか、郷田は知らなかった。知らなかったが、問題ないだろう。きっと、ケリーが知っているに違いない。必要量が溜まれば教えてくれるだろう。


 ケリーが鋏を動かしながら、普通に口を開いた。

「郷田さん、御幣をあとどれくらい作ればいいですか?」


 ケリーも知らなかった事態が判明した。近藤が参加していなければ、知らない事実を告げて笑い合えばいい。


 けれども、近藤がいる状況では、正直に申告できない。郷田は出来上がった御幣を数える振りをしながら、曖昧な返事をした。

「もう少しですね。残りの必要な分は俺が作りますから、ケリーと近藤さんは、適当に紙を切ってください」


 近藤の手が止まった。近藤が顔を上げなにか疑うような顔で「適当?」と疑問形で確認してきた。


 冷静な顔を作りつつ、郷田は嘘を吐いた。

「そうです。適当です。決まりきった型の中に、違う物を混ぜるんです。純粋なものほど壊れ易い。様式美を周到しつつも、違う物を混ぜて強度を上げるんです」


 近藤がまだ懐疑的な顔なので、流れるように嘘を続けた。

「霊との交信は、科学ではありません、アートです。交霊も、大昔に遡れば、大衆芸能と根は同じ。であるなら、アドリブとか閃きは、必ずしもマイナスに有らず。現代陰陽道の研究でも、ライブ感の必要性が叫ばれる昨今ですからね」


 近藤が首を傾げるが「そんなものか」といった態度で作業に戻った。

 どうにか、やり過ごした。だが、ただ作業をさせていても、いずれは飽きる。ただ黙々と作業するのも、空気が良くない。


 郷田は気を利かせて、近藤に提案した。

「音楽を掛けながら、作業しませんか?」


 リュックの中にはMDプレイヤーが入っていた。

 近藤が「いいわよ」と立ち上がると、部屋にあった三十センチ四方のキューブ型オーディオ・プレイヤーに電源を入れた。


 部屋の中に、ロック調のBGMが流れ出した。曲は鰐淵棺のテーマ曲だった。


 ヒール役の鰐淵の雑誌があったので、男がいたと思っていた。だが、曲まで持っているとなると、近藤が単に鰐淵のファンだったのかもしれない。


 近藤の顔をそっと窺った。しかし、あまり楽しそうな雰囲気ではない点が、どうにも気になった。


        3


 ロックの曲を気に入ったのか、ケリーが音楽に乗りながら、次々と動物の形に和紙を切り抜いていった。近藤は動物とも植物とも付かない存在を切り抜いていった。


 二十分くらい経過したところで、だいぶ御幣が溜まった。

 人の気配を感じたので振り返ると、龍禅が顔を顰めて立っていた。いよいよ、小言を言うのかと思ったが、違った。

「どうやら、ここは郷田君に一度、任せたほうが良いかもしれないわね」


 龍禅が霊の声を聞こうとしていた行為を思い出して、近藤が尋ねた。

「彼が何をいいたいか、わかったの?」


 龍禅はどこまでも冷静な態度で答えた。

「いいえ、全く。彼は心を閉ざして閉じこもっています。ただ、郷田君が作業した辺りから、興味をしています。ですから、ここは郷田君に一度、任せたいと思います」


 龍禅が逃げたと思った。

 除霊を舐めるなと脅したが、霊なんていない。ただ、霊の仕業と思える現象も痕跡ないから、近藤を騙して丸め込む行為が難しいと判断したのだろう。龍禅は郷田に話を振って、責任を押し付ける気だ。


 腹が立ったが、近藤には三十分以上も作業を手伝わせている。今さら、霊なんていないとは、言い出せない。

 それに、近藤にすれば、霊がいると思っている。だったら、格好だけでも、近藤が納得するような形にしなければならい。でなければ、別の悪徳霊感商法に引っかかるかもしれない。


 二回目の曲が終ったところで、郷田は「もういいですよ」と発言して、御幣造りを止めた。

 部屋中央付近にある家具を移動させる。九畳ほどの何もないスペースの四隅に、御幣を取り付けた。


 取り付けたまでいいが、御幣を作り過ぎた。四隅に飾るだけなら、量が多い。かといって、スペースを囲むように御幣を配置するには、足りなかった。


 困った時には、ノートを見るに限る。

 ノートを見ると、注連縄を使って、御幣同士の間隔を開けて繋でいる画が描いてあった。縄を下げて間隔を開けて御幣を全て吊せば、ちょうどいい。 


 大きな問題があった。注連縄を忘れてきた。一般家庭に注連縄が常備されているとは思えない。買いに走るのも間抜けすぎる。何かで代用するしかない。


「ビニール・テープ、あります?」と近藤に聞くと「あるわよ」と即座に返ってきた。

 引っ越しの荷物を梱包するために使う白のビニール・テープを近藤が渡してくれた。


 四隅の御幣から御幣へと、ビニール・テープを張っていった。郷田が張ったビニール・テープに御幣を吊し、ケリーがセロハンテープで貼り付けていく。


 近藤が郷田のノートに目を落としながら、疑問を口にした。

「ノートには注連縄を使用するって赤線を引いて書いてあるけど、本当にビニール・テープでいいの?」


 まさに、指摘通りだ。郷田は平然とした態度で、御幣と御幣を繋ぐ作業をしながら答えた。

「注連縄は結界として使用して、霊を入れない時に使います。今回は隠れている霊に出てきてもらうので、結界だと、都合が悪いんです。ですから、注連縄をビニール・テープに換えて、霊が入って来易いようにします」


 近藤は「そうなんだ」と口にして、それ以上は何もいわなかった。とりあえず、納得したらしい。陰陽道に詳しくない依頼人で、助かった。


 四隅に御幣を祀って、ビニール・テープで区切った、御祓い空間モドキができた。

 音楽を停めて、御祓い空間から三人に出て行ってもらう。窓に背を向けて、ノートの祭文のページを開いて、書いてある祈祷用の祭文を詠み上げた。


 詠み上げながら顔を上げた。近藤の後ろでケリーが顔の前で手を小さく動かしていた。龍禅も渋い顔をして郷田を見ていた。


 郷田は読んでいる祭文が「霊を鎮める」祭文ではなく、山から木を伐り出す時に使う「山の神の許しを請う」祭文だと気が付いた。


 すぐに咳払いをして、別の祭文を読む。読みながら、ケリーを見ると、また同じサインを送ってきた。龍禅にいたっては顔を背けていた。


 音読を止めて、使われている漢字を指で辿っていく。思い出した。読んでいる祭文は「河の氾濫を鎮める」祭文と気が付いた。


 二回も中断すると、近藤も違和感を持ったのか、怪訝そうな顔をしている。

 郷田は立ち上がると「失礼」と断って、音楽を再開した。音楽を掛けると、さっきより少しボリュームを上げた。元いた位置に戻って、下を向いて小さな声で、次の祭文を詠んだ。


 音楽を掛けて、下を向いて、小声で祭文を読めば、聞きとり辛い。聞こえなければ、間違っていてもわからない。まして、素人の近藤なら、違いなんて全然わかるまい。


 三度目の正直と、祭文を声に出す。次の祭文は途中で「芸事が成就するように祈願する」祭文だとわかったが、間違いが露見しないので最後まで読み上げた。


 祈祷が終わると、近藤が聞いてきた。

「それで、なにがわかったの?」


 祈祷しただけなので、何もわからない。

 真剣な表情を作って、近藤に水を向けた。

「俺には、わかりません。でも、何か変化があったはずです。なにか、気付きませんか?」


 近藤が郷田に促されて部屋を見回した。

 近藤が何かに気付いたら「でしょうー」的な相槌を入れて、適当に解釈を入れればいい。何もないなら「供養は済みました」と話せばいい。どうせ、こっちは龍禅の下請けだ。


 後は、元請の龍禅が格好を付けるだろう。もし、龍禅が霊感商法臭い話をして、大金をせしめようとしたら、邪魔するだけだ。


        4


 ケリーが驚きの声を上げた。

「郷田さん、家具が動いています」


 家具が動いていると言われて、凝視する。だが、全くわからなかった。音楽が煩わしいので、停めようとしたら、龍禅が腕に手を掛けた。

「音楽を停めたら、ダメよ」


 なんで、除霊と関係ないロックを止めてはいけないのか理解不能だ。だからといって、無理矢理にでも止める必要はないので、ボリュームだけ下げた。


 近藤も「本当だわ、家具が動いている」と驚きの声を上げた。

 近藤が冷蔵庫の前で固まっているが、冷蔵庫は微動だにしていなかった。


 冷蔵庫の前に行くが、冷蔵庫は動いていない。

 冷蔵庫をじっと眺めていると、近藤から「下よ、下」と促されて、屈んで冷蔵の下を見た。


 よく見ると、冷蔵が置いてある床の隣に、汚れていない二センチほどの場所があった。

 重たい家具を動かすと、下から綺麗な面が出る。ケリーの傍に行くと、本棚の横にも埃がない綺麗な床がある場所があった。


 龍禅が腕組みして、静かな声で告げた。

「霊的な障害ね。私たちが郷田君の祈祷に注意が行っている間に、霊が家具を動かしたのよ。家具の移動は、霊からのメッセージね」


 昼過ぎなのに幽霊が出て、家具や家電を動かしたと、龍禅は言いたいのだろう。

「そんな、馬鹿な」と言いたい。だが、陰陽師としてやってきて祈祷して「わかりませんか?」と発言した後では、口にはできない。


 その場凌ぎで「うむ」と頷いた。だが、この後の展開をどうしていいか、全然わからなかった。

 龍禅からも「ああしろ。こうしろ」との指示がない。

 沈黙が場を支配した。


 近藤が初めて不安げな顔をして「霊は、なにを伝えたいのでしょう」と聞いてきた。


 郷田は龍禅の強かさに舌を巻いた。龍禅は詐欺師崩れのインチキ霊能者ではなかった。

 凄腕のインチキ霊能者だ。


 龍禅は部屋に予めなにかのトリックを仕掛けておいた。龍禅が除霊をした後に仕掛けを作動させれば、当然、実はトリックでは、と疑われる。


 龍禅は疑われないために、郷田の祈祷のせいに見せかけて、トリックを作動させて、容疑者から外れた。そうしておいて、一見すると無関係を装い、依頼人の不安を煽る。


 龍禅が凄腕なのは明白。使用したトリックには痕跡らしい痕跡がなかった。

 痕跡がなければ、霊の仕業で押し切れる。オーディオに目をやった。疑うとすれば、龍禅の使用したトリックは音を利用する類だろう。だからこそ、先ほど音楽を止めようとすると、邪魔をしたに違いない。


 トリックのヒントが音だとわかるのに、まるで仕掛けがわからない状況なのが、どうにも悔しい。

 近藤が龍禅に「先生と」話しかけていた。このままでは、近藤が龍禅のカモにされる。


 郷田は厳かな顔で腹の底から「あいや、待たれい」と声を出した。

 三人が郷田の顔を見たので、威厳の篭った声を心がける。


「俺が、どうにかしましょう」


 龍禅が顔を顰めた。明らかに「お前になにができる」といわんばかりの見下した表情だ。


 郷田は龍禅に構わず、リュックの中から練習で作りおいた霊符を取り出した。

「近藤さん、この霊符を、移動した家具と家電に貼ってください」


 近藤が神妙な面持ちで霊符を家具に張った。

 貼り終わると一礼して「では」と断って、家具を動かして元の位置に戻していく。


 近藤が重たい家具を動かしていると「あの、いったい何を?」と聞いてきたので、教えた。


「霊が動かした家具を直しています。なに、心配ありません。俺はベンチプレス、百二十キロも楽々いける人間です。高さが百八十センチある本棚といえど、中身の入ったまま、動かしてご覧に入れましょう」


 三秒ほど間があって近藤が口を開いた。

「本棚に本を入れたまま動かす行為は凄いですけど、なんの意味があるんですか」


「家具が元の位置にないと気持ち悪いでしょう。それに、重たい家具の移動は女性一人では無理です」


 近藤がどこか納得が行かないといった表情で聞き返した。

「それは、そうですけど。霊符の意味はなんですか?」


「霊符はどの家具を元に戻せばいいかの目印です」


 近藤が「エッ?」と小さく口にしたが、気にせずに家具を直した。


 家具を直すと祭文を読んで祈祷した。祭文は同じものを読もうとしたが、ノートを閉じたので、適当に開いた別の祭文を選んだ。


 新しい祭文は途中まで読んで「安産祈願」で除霊と関係ない内容だが、無視した。もう一度、祈祷して家具が動かなければ、除霊完了と言い張れる。


 祭文を詠み終えると、近藤が恐怖の表情を浮かべていた。

 まさか、と思い、霊符が貼られていた家具を見ると、家具がまた二センチほど動いていた。龍禅を見ると、龍禅は澄ました顔をしていた。


        5


 やりやがった。手品師たるもの、同じ観客の前で続けて同じ手品はしないのが、セオリー。

 何度も手品を見せれば、見せただけ種が露見する確率が上がる。

 龍禅は手品師のタブーを破って、また仕掛けを発動させた。絶対に見破られない自信があるのだろう。


 なら、いいだろう。龍禅の知恵で来るなら、俺は筋力で行く。

 上着を脱いでTシャツ姿になり、ポーズをつけて筋肉を龍禅にアピールする。そうしておいて、家具を元に戻した。


 近藤が混乱した顔で尋ねてきた。

「すいません。いったいなにが、どうなって、どうしているんですか。ちゃんと説明してください」

「霊が俺に勝負を挑んできているのです。挑戦されて、逃げるわけにはいきません。こうなれば、とことん、どこまでも勝負します」


 近藤が驚いた顔をしたが、引き下がった。

 家具を戻して、再び祭文を読む。次は下を向く振りをしながら、家具に気を配った。


 家具が動く気配はしないが、ケリーが口に手を当てているので、動いているのかもしれない。五分で二センチの移動は、わからない。もっと大きく動いてくれればいいが、動かなかった。


 家具を直して再び、祈祷した。今度は龍禅に気を配るが、龍禅に動きはなかった。だが、またケリーが家具を指差しているので、家具が移動しているらしい。


 まずい事態だ。てっきり、龍禅は二度はやっても、三度も四度も仕掛けを作動させるとは思わなかった。しかも、近藤もケリーも全く仕掛けに気づかない。


 これは、郷田が諦めるまで、龍禅は仕掛けを作動させ続けるかもしれない。仕掛けの正体は、いったいなんだろう。


 五度目の祭文を詠み上げたのちに思案すると、龍禅の仕掛けに閃いた。

 家具の移動は同じ方向にしか動いていなかった。龍禅の仕掛けは、家具を好きな方向に動かせるのではなく、決まった方向にしか動かせない、と仮定したら。


 建物は築五十年だ。おそらく、建物には傾きが生じていて当然。龍禅は建物の傾きを利用して、家具に振動を与えて傾いている方向に動かしているのでではないだろうか。


 振動を発生させるに当たって、きっと、小さいが音を伴う。つまり、龍禅がオーディオの音を消させない理由は、小さな音に気付かれないためだ。


 傾きと振動を利用しているのなら、話が早い。霊符を外して、小さく折って家具の下に敷いて傾きを消せばいい。対策がわかった。


 何かが頭に当った。飲み終えたコーヒーのプラスチック容器だった。容器が飛んできた方向を見ると、振り返ったケリーと近藤がいて、先には龍禅がいた。


 三人の視線を受けると、龍禅が「私は関係ない」とばかり胸の前で手を振った。

 中々、卑怯な真似をする。郷田が手を出せないと思って、ゴミ箱から容器を拾って投げてくるとは。


 かといって下手に喰って懸かれば、凄腕インチキ霊能者に言い負かされる。

 こうなると、龍禅がゴミを投げるタイミングで、振り向くしかない。ゴミを投げる瞬間を押さえてから、霊の存在を否定する。次に、仕掛けを指摘して霊符で傾きをなくせば、きっと龍禅の企みを潰せる。


 家具を直さすに、龍禅に背を向けて立って、祭文をたどたどしく詠みながら、仕掛けてくるタイミングを待った。背後で何かが飛んでくる気配がした。すぐに飛んできた物体を叩き落とそうと、拳を放った。


 拳が空を切った。なにも飛んできておらず、誰もいない。だが、事態が動いた。


        6


 龍禅が突然「ファイト」と叫んだ。


 理由はわからないが、ファイトと言われたので、ファイティング・ポーズをとった。ポーズを取ったが、ビニール・テープで囲われた空間には、誰もいなかった。


 誰もいない中、一人でファイティング・ポーズをとる行為は間抜けなので、いもしない相手を、とりあえず殴って見た

 奇妙な感覚に陥った。空間の中には郷田しかいない。されど、ビニール・テープで囲われたリングの中に、もう一人がいる気配がした。


 姿形は見えないが、何かがいる気配がした。近藤を見ると、近藤にも誰かが見えているようだった。

 どう対処していいかわからないので、両手を挙げて力比べをするスタイルをとった。


 そのまま、見えない相手の周りを、大きくゆっくりと周ってみる。周りながら観察すると、近藤と龍禅だけでなく、ケリーにも相手が見えているかのように、視線を動かしていた。


 郷田は理解した。

「これが、集団催眠状態と呼ばれる現象か。単調な音楽の繰り返しと、眠くなる祭文が、まずかった」


 テープの外の人間は、催眠状態に掛かっていて、いもしない存在が見えているらしい。でも、霊を信じていない郷田は中途半端に掛かったので姿が見えない状況下にあると結論付けた。


 まずい。どうやったら集団催眠が解けるのかがわからない。かといって、いつまでも、相手の周りを廻っているのも、芸がない。


 相手が殴り掛かってきた感じがしたので避けた。


 避けると、近藤から「避けてんじゃねえよ」の罵声が飛んだ。

 罵声にはムッとしたが、近藤に向かっていくわけにはいかない。代わりに、八つ当たりに、見えない相手に回し蹴を放った。


 見えない相手は避けなかった。見えない相手なので、避けたかどうか本来ならわからないだが、相手は確実に受けた気がした。


 集団催眠に掛かった三人を元に戻し、なおかつ除霊を終らせる方法がわかった。

 答は、プロレスをすればいい。もっと端的にいえば、エア・プロレスといえるかもしれない。エア・プロレスで、いない相手を倒せばいい。


 同時に思った。

「果たして、俺にはできるだろうか」


 エア・プロレスは簡単に思えるが、難易度が高い。

「俺は箒相手でもプロレスができる」の名言を残した、名プロレスラーはいる。だが、名プロレスラーだからこそ、箒が相手でも試合ができるのであり、一般人がやれば、下手糞なパントマイム・モドキの域を一歩も出ない。


 迷っていると、見えない相手に組み付かれてヘッド・ロックを掛けられた気がした。それらしい体勢を取って、耐える姿勢を維持した。


「固くなるなよ、新人。プロレスするのは、お前じゃない。俺なんだ」


 見えない相手が耳打ちしたように言葉が聞こえた。とりあえず、苦しんでみると、苦しい気がした。


 ふと、相手が力を抜いた瞬間に反撃に出た。見えない相手の足を踏んで、怯んだ相手を抱えて、一緒に後ろに倒れる。


 立ち上がると、見えない相手が、間を作ってから、飛び蹴りを浴びせてきた。蹴りを受けて倒れる動作をした。自然に体が動いた。


 見えない相手は、すぐには立ち上がらなかった。郷田はすぐに立ち上がり、倒れ込むような体勢で肘を打ちつけた。


 郷田の頭の中だけかもしれないが、見えない相手は存在した。見えない相手は襲い掛かっているが、防御のタイミングと攻撃のタイミングを、間で指示している。


「プロレスするのは、お前じゃない」の意味がわかった。


 郷田は守り、攻める。けれども、あくまでも主導権を持っているのは相手だ。郷田はレスラーとしては、プロではない。けれども、見えない相手は、確実にプロレスラーだ。プロだからこそ、新人相手でも試合になる。


 近藤が「いけ、鰐淵」と叫んだ。鰐淵と呼ばれた見えない相手が立ち上がった。

 見えなかった相手が、半透明で見えた。黒いマスクに棺をあしらったマークをつけて、舌を出して、両手の中指を立てた。鰐淵の姿が見えた。


 鰐淵と戦っているのなら、試合運びは、だいだいわかる。鰐淵にリードされながら戦った。

 鰐淵は非常に優秀な悪役だった。確実に郷田を追いつめ、反撃の隙を教えて、郷田の返しでピンチに陥って立ち上がる。


 十分が経過した段階で、鰐淵が急速に弱っていくのを感じた。どうやら、鰐淵は体調がよくないらしい。なら、試合を終らせよう。


 お互いに反対に走って、反転して腕を伸ばして、ラリアットの体勢で、中央でぶつかる。お互いに受身を取ったが、鰐淵が立ち上がらないので、すぐにフォールした。


 フォールして気が付いた。

「この試合、レフリーがいない」


 フォールされている鰐淵も、カウントが聞こえてこなくて動揺していた。

 おそらく、鰐淵も「おい、これどうすんだよ」と思っているだろう。


 近藤がテープを潜って入ってきて、大声で「ワン・ツー」とカウントを入れてくれた。


「これで終れる」と思ったところで、気が緩んだ。思わず少し早く体を起した。


 すかさず近藤が「カウント・二・九九九」と叫んだ。


 スリー・カウントが入らなかった。郷田は抗議しようとしたが、下で鰐淵の怒りの気配がした。存在しない鰐淵に蹴飛ばされた。


 鰐淵の怒涛のラッシュが始まった。相手は存在しないので、痛くはない。されど、郷田は身を固くして耐えるしかなかった。完全な失態だ。鰐淵が怒るのも、無理ない。


 ラッシュを仕掛けているが、体が辛いのは鰐淵のほうだ。鰐淵には平身低頭で謝りたいが、リングの上で悪役レスラーに謝るわけにはいかない。


 悪いと思うのなら、早く鰐淵を倒さなければいけなかった。郷田は身を守る行為をやめて、高速での殴り合いに切り替えた。郷田の六度目の手刀が鰐淵の首に入ったところで、鰐淵の行動が止まった。


 すぐに、鰐淵の頭に手を掛けて、頭突きを入れる。鰐淵の体が倒れたところで、気合と共に膝を入れた。鰐淵が倒れたので、すかさず、フォールに入った。


 近藤のカウントが響いた。


「スリー」のカウントが響いたところで、下になっている鰐淵の声が確かに聞こえた。

「はー、しょっぱい試合、だったなー」


        7


 試合を「しょっぱい」と表現していたが、鰐淵の声に安堵が混じっていた。

 鰐淵が消えた。集団催眠が解けたと悟った。


 近藤を見ると、近藤が涙を流し嗚咽を漏らしていた。

 テープで区切られた空間に近藤を一人にして、出た。


 近藤は泣き止むと泣き腫らした顔で、郷田の前に来て頭を下げた。

「主人もこれで、思い残すことはないと思います」


 どうやら、依頼は完了したらしいが、わけがわからない。


 龍禅が優しい顔で静かに尋ねた。

「鰐淵さんは、この部屋で亡くなられたんですか」


 近藤が部屋を見渡して発言した。

「鰐淵は、この部屋でなくなりました。あの人は、リングに上がるために、ずっと病気と戦っていたんです。でも、所属していた団体が、破産して消えたんです。もう戻る場所がないとわかると、急に病気が進行しました」


 一緒に試合をしたが、霊の存在をまだ信じられない。けれども、生きている近藤の気持ちは、汲まねばならない。


 郷田は近藤に頭を下げて詫びた。

「鰐淵さん、試合がしたかったんですね。でも、だとしたら、悪いことしたかもしれません。最後の相手が俺で、しかも観客もいない試合なんて」


 近藤が涙を拭いて、悲しそうに語った。

「最後に、あの人が零していました。もう一度、試合がしたい。贅沢はいわない。相手はド新人でもいい。会場は小さくても構わない。観客は一人じゃ寂しいから、二人は欲しい。二人いれば充分だって」


 霊はまだ信じられない。だが、鰐淵の霊がいたとしたら、安堵した理由は理解した。

 龍禅が呼びかけても出てこなかった理由は、おそらく龍禅が相手ではプロレスにならないからだろう。霊で人でも、興味がなければ、呼びかけに応じなくて当然。


 郷田に替わって、ようやく出てきた流れも、想像できた。

 鰐淵にすれば、わけがわからん連中が入っているので、最初は眺めている。


 そのうち、鰐淵のテーマが流れ、興味を持つ。不恰好ながらリングらしき物が組み上がってゆくので、試合があるのかと、少し期待する。


 レスラーかどうかわからない男が入場してきた。相手がレスラーかどうか試すと、体だけは作ってきている。どうやら、一般人ではない。顔を見ると知らない顔なので、新人らしい。


 こいつは対戦相手なのかと考えていると、よくわからないが前説が始まった。前説らしきものが終っても、まだ試合だと思えないので鰐淵が出ていかない。すると、再度、前説が流れる。


 そんな状況が四回も続くと、「これは、どうやら俺を待っているらしいぞ」と鰐淵が感じる。

 そうなると、鰐淵のテーマ曲も流れっぱなしな理由も理解できる。あまりにも、しょぼいと思うが、二人とはいえ、客が入っている。


 あれだけ、やりたかった試合の準備が整った。気が付けば、体は試合に出られる状態になっている。試合をやる最低限の条件はクリアーして、対戦相手と客が待っている。どうして、尻込みしていられようか。


 全ては郷田の思い込みかもしれないが、だいたい合っている気がした。


 近藤がもう一度、深々と頭を下げて礼を述べた。


 龍禅が優しい顔で「みんなで後始末しましょう」と提案した。


 ケリーと一緒に同意して、後片付けをした。片づけをしながら、近藤を視界の端で窺うと、近藤は泣いていた。

 泣いている近藤に寄り添っている鰐淵の姿が見えた気がした。


 片づけが終ると、龍禅はすぐに場を後にした。龍禅の優しさだと思った。

 未練が消えた鰐淵は、消える気がした。なら、最後は二人だけにしたい。


 龍禅が運転する帰り車の中で尋ねてきた。

「これが、私の仕事なの。少しは、わかったかしら?」


 龍禅の問いより、別の事柄が心を捉えていた。

「少し考えさせられましたね。鰐淵さんは、夢を追って途中で亡くなったでしょう。鰐淵さんは後悔してないんですかね。もっと、別の道を行っていれば、とか?」


 ケリーが横で、少し怒った顔で意見を述べた。

「それはないです。何をやっても、危険や挫折はあります。もちろん、何かの理由で諦めなければいけない事態になるかもしれません。でも、受け入れるのも、避けるのも、本人が決めることです。大人とは、決められる人間です」


 格闘技の道を諦めると決めた。だが、果たして、格闘技を諦めずに戻ったほうがいいのだろうか。

 このまま、交通事故で亡くなったと仮定する。中途半端な郷田は、どうなるのだろう。どこにも行けない気がした。


 とはいえ、今の陰陽師生活も、格闘技とは違う楽しさがあるのも事実だ。今、陰陽師を投げ出せば、格闘技を諦めた時のように後悔するかもしれない

 龍禅が郷田の心を読んだかのように、軽い口調で発言した。

「迷っているなら、迷ったらいいでしょう。人間は死んだら、成仏しなきゃいけない理由は一切ないのよ」


 初めて聞く言葉だった。

 龍禅が尼寺の尼僧のように語った。

「こうでなければならない、と思い始めた時点で、人間は他に決めるべき内容を考えずに放棄している。そんな状態で決断すると、何かを決めているように見えて、実質、決めていないと同義。なら、迷ったらいいでしょ」


「お言葉ですが、いつまでも決められないと、何も前に進みませんよ」


「鰐淵さんのケースは、どうだったかしら。鰐淵さんは、諦める決断をしなかった。だから、迷った。迷ったけど、ちゃんと郷田君が解決したでしょ。決めても、決めなくても、必ず結果は、やって来るの。ただ、人間は自分が決めたと思うと、耐え易い。僅かな違いよ」


 まだ、納得がいかないと、ケリーが「そうですよ」と相槌を打ったので、すぐに突っ込みを入れた。


「ケリー。さっき、決められるのが、大人だって言ったよね」


 ケリーが頷いてから、賢そうな口調で発言した。

「いいましたよ。ですが、大人になるのがゴールではないのです。大人になった時から始まるのです。ですから、ケリーもまだ道の途中なのです。迷いながら、歩いていかねばならないのです」


 二人の会話はよくわからない。だが、決めるのに一年くらい時間の猶予があるのは、確かなようだ。なら、もう少し、陰陽師を続けてみよう。

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