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爆弾魔と理想と偶像と

「なぁ、汚い物を片っ端から爆破すればどうなるだろうか。」

長嶋の欲求をそのまま吐き出したような言葉に驚きを隠しきれない。確かに爆発はどんな芸術よりも美しいものだ。私も何度もそう思ったことがある。だがそれを自分の外に体現するというのは私にはおっかなくてとても出来なかった。爆発が好きだから花火師でもなろうかと思ったこともあるが、花火はどうまは好きになれない。小さい頃から私には花火がどうしても俗悪に感じられてしまうのだ。あの赤や黄で彩られた花火はどうしてもどうだ綺麗だろうと自らの美しさを浅ましく強調する女ー最もそんな女で美しいものはほとんどいないがーのように見えるのだ。そしてあのドンとかパンとかいう音も軽薄な感じがしていけない。音が無いのもいけないが何か、何かが物足りないのだ。また花火が空中で爆ぜるたびに綺麗だなんだとはしゃぐ人々もバカらしい。


「俺はみんなが幸せになると思う。」

長嶋の不気味な低い声が深夜2時大学近くの商店街の闇にとけていく。

「彼女に振られた?」

女性関係のもつれかと思った。

「現代社会に絶望した。一緒に革命でも起こさないか?」

妙に真に迫っていて気味が悪い。

「やめとく。」

「そうか。」

長嶋は残念そうに小石をふっと蹴り上げる。

石は店のシャッターに当たると、ガシャンと音を立てて落ちた。また、薄暗い商店街をポツリポツリ歩き出す。


俺は長嶋とはまだ大学で出会ったばかりで彼がよく分からなくなることが多い。

だが、物が爆破される瞬間が好きという少し特殊な趣味と何故かお互い一緒にいると楽だということで食事に行くことがよくある。長嶋を良く知る友人に聞いてみたところ俺に向かって

「長嶋は本物の天才だ。頭が良いだけじゃあ、天才とは呼べない。あいつは誰であろうと自分の世界に寄せ付けることはせず、どれだけが拒絶しようとも俺たち凡人を惹きつける。あいつこそが天才と呼ばざるを得ない生き物だ。それにひきかえなんだ10年に1人の天才だとかテレビやネットなんかでもてはやされて満更でもなさそうな奴らは、あんな奴が天才と呼べるか。彼奴らのせいで世界は腐敗して行くんだ。長嶋たち本当の天才が世界を作ってみろ、きっと俺らは度肝を抜かれるどころじゃねぇ。」



3

会話の中で出てくる言葉一つとっても長嶋は俺ら凡人を惹きつけ、夢中にさせた。俺たちがまるで意味のない日常的会話をしている時も長嶋は自分の世界を言葉に漂わせ、そのたわいもない日常的会話に爆発的な興奮と感動を生み出す。そして、その場にいる皆全てが長嶋の不気味で不思議で猟奇的な世界に魅せられてしまうのだ。俺の目にはどんな漫才師よりも落語家よりも彼の話し方、話題、身振り手振りが素晴らしく美しくて仕方ないのだ。 長嶋と暫く一緒にいると劣等感を感じ、じわりじわりと自分の心がだんだんと病んでくることがある。だがそんな感情も、あいつと俺は人間科という大きな括りでは一つだが細かく分けると全然違う生き物だから。と考えると何処かへ消え去って行く。




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