第六話
本宅の二階にある、広いリビング。家具はどれも外国製の高級品ばかりで、ソファの金色の手すりや金でできているという熊の彫刻なんか私は最悪に悪趣味だと思うのだけれど、あの男は気に入っているみたいだ。
私と志乃ちゃんは、そんなソファに並んで座っていた。
こち、こち、と鳩時計が時間を刻む音が、やけに大きく響きわたっている。
「……ねえ、弥生」
「なに?」
私は両膝に手をやって、視線を前に据えたまま答える。壁には、虎の描かれた自然画。
そんな私に、志乃ちゃんが少し躊躇して息を吸う気配がした。
「ほんとに、やるの?」
「うん」
「ほんとにほんとに、やるの?」
「やるよ」
志乃ちゃんは、重たそうに息を吐いた。
「面倒なことにならないかな」
「面倒だと思うよ。あの男のことだし、めちゃくちゃ面倒。でもさ」
私は、白地に黒い斑点の天井を見上げた。
「やるしか、ないじゃん」
志乃ちゃんが私の言葉に対して、どう反応したかはわからない。
ただ、少しだけ、もぞりと動く気配がした。
視線は動かさないまま。志乃ちゃんの手を、そっと握った。
すると、きゅっと握り返してくる。
だいじょうぶ。
かつて志乃ちゃんに助けてもらったみたいに。
今度は、私が志乃ちゃんを助けてみせる――。