第一話
私はりぼんが好きだ。
学校に行く前の朝、広い浴室で熱いシャワーを浴びながら、私は声に出してそう呟いてみる。
いや、ちょっと違う、と思う。好きとか、そういうことではないのだきっと。だって私はいまこの瞬間もこころ細い、私のりぼんが洗面台に置いてあるっていうそれだけで、あの大切なりぼんがあの男に汚されやしないか、母に盗られやしないかなんてすごく心配している。
なんだろう。
頭からシャワーのお湯を被り、丹念に身体を洗いながら考える。
……ああ、そうだな。
こう、言ってみたらどうだろう。
私はりぼんに縛られている。
その表現は私の気持ちをかたちにしてくれたし、それに中学二年生の私が考え出したにしてはずいぶんと文学的だと思った。
執拗とも言えるほどに、身体を洗う。何回も、何回も。
あの男の血が流れているはずの、私の身体。
汚らわしい――。
鏡に、ちらと視線をやる。さっぱりとしたショートボブに、姉に似たどんぐりみたいなひとみ。身体はほっそりしているけれど、ちょっと筋肉質な気がするのがけっこう大きな悩みだ。友達なんかには、モデルさんみたい、なんて褒められるけれど。
鏡から目を逸らし、タオルで膝をごしごしとこする。いくらタオルで洗ったってボディーソープで洗ったって、血を入れ替えられるわけではない。それに血を入れ替えたところで、私の遺伝子の半分は、あの男のものなのだ。屈辱的なことに。
でも、それでも。
私はいつだって、シャワーをていねいに浴びるのだ。
そうすることで少しは、汚らわしい細胞が落ちてゆくかと思って――。
肌がほんのり赤くなるほどに身体を洗って、やっと私は満足する。栓をひねって、きゅっ、とお湯を止める。
さあ、これで、私はりぼんをつけることができる。
今朝も、武と待ち合わせている。早く行かなくっちゃ。