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3.侍娘がやってきた(決意)

 しかし、互いに何も話さずともいい間柄なら問題はないのだが、知り合って間もない奴と二人っきりってだけでも辛いのに、先ほどの出来事もあって色々聞きたいけど聞けない――この無言の時間が物凄く居心地悪い。

 いつもならまだ夢の中に居る時間だし、あの騒動は夢だったのではないかと思うが、節々の痛みがそれが現実だと教えてくれる。

 恐らく鈴音――と名乗った彼女も落ち着きなくあちこちを見回しているし、同じ居心地の悪さを感じているだろう。


 ここで彼女の肩に手を回して『ヘーイ、初対面だけど酒でも飲んで盛り上がろうぜ姉ちゃん!!』なんてやれたらまだコミュニケーションは取れるかもしれない。

 ――が、彼女に対してそれをするとコミュニケーションどころか命がとれてしまいそうだった。


 それはさて置き、この沈黙の中で考えていた事をまとめてみる。

 俺の考えている通り、彼女の言う通りであれば、居下鈴音はこの世――この時代の人間ではない。

 もし仮に祈願の最中に神様をディスり、怒った神様がうっかりここに送り込んでしまった――。

 異世界からやって来たみたいな漫画やラノベではないし、そんな事はありえないことなんだけども……。

 テレビで何かやってないか――もしイタい奴で、そう言った設定を演じているとしたら、何かボロを出すかもしれない。演じていればテレビに対して何の反応もしないはずだ。


『な、何ぞ!? 中に人が入っておるぞっ!?』


 と言って反応したのはいいが、テレビの側面を小太刀で切り開いて中身を確認しようとしてきた――買ったばかりだったので全力で止めた。

 まぁそのお陰か話をするきっかけができた……と言っても、彼女自身がずっと気になっていたであろう床に置いてあるケトルの事から、ベッドなど周りの物を見てこれは何だと言った話ばかりだったが。


 彼女はボロを出すどころか、どれも目に入る物全てが見知らぬものと言う反応で、どれも頭の根底にありそうな気配が感じられない。

 俺自身も説明した物全てにリアクションをする彼女を見て楽しいと感じてしまっていた。


 あれは何だ、これは何だと説明していく互いに少しずつ打ち解けて来た気がしたので、本当に聞きたかった事に触れていこう。

 これだけは先送りにできない、ハッキリさせておかないといけない内容だし。


「その……なんだ、もし仮に鈴音……が戦国時代の人で、何かの間違いでこちらに来たとしたら、これからどうするつもりなの?」

「すまぬがその――戦国時代、とは何ぞ? 確かに戦乱の世ではあったが……」

「えーっと……俺の考えがもし合っているならば、鈴音は今の時代――未来にいる事になる。

 鈴音が居た時代はここしたら数百年前の過去――遠く昔の時代なんだ」

「先の世――か、にわかに信じられぬ話よ。それが正しくあれば戻る手段が無い限りここで生きる事になるな……。

 うぅむ……だが、じきに戻れるやもしれぬし……戻れずとも何とかなるであろう」

「多分ならないと思う」


 江戸や明治などと言った時代なら文化も多少似通った部分もあるだろうけど、これが戦国時代――となると時代があまりにも違いすぎる。

 文明開化や戦争……ここに来るまでのすっ飛ばした過程がそれほどまでに大きいし、それ以上に――。


「何ゆえそう思うのだ?」

「色々理由はあるんだけど、まず侍なんてものがもうこの世にない」

「何だと――?」


 鈴音が居た時代なら多くいたのかもしれないが、この時代ではもうその様な人々が存在しないのだ。いや、今でも血筋や家柄、魂など概念としては残ってはいるが、戦場で合戦をする侍そのものはもう存在しない――。

 そんな人がいきなりやって来て、生活様式が全く異なるこの現代で生活なぞできるはずがない。


「世捨て人のように、世間から離れて生きていく人も存在するにはしているけど、

 それでもこの時代で生まれ、この時代を知った上でだからこそ生きられるんだ。

 何と言うべきか上手く言えないけれど、既に終わった侍の時代だけしか知らない人間が、

 この先一人で生きていくなんて不可能だと思う」

「諸行無常――いつかは終わりを迎えるものであるが、やはり武士の世は終わるのだな……。

 この時代が私を認めず、私の存在を許さぬと言うなれば潔く腹を切るしかあるまい。介錯を頼めるか……?」

「だから死んじゃダメだってば!?」

「なれば残された手がまだ一つある……腹を切るのを許さないと申すのであれば、生きて行くにはこの他に手はない」


 この時、俺は先を聞いてはいけないと思った。聞いてしまうと何か大きなものが動き出し、とんでもなく大きな物を背負い込んでしまうと――。

 だがこの瞬間、本来はなかった場所にごく小さな歯車がはめ込まれた気がする。

 それは様々な歯車に影響を及ぼし、小さな歯車から次第に大きな歯車が動き出すような感覚がした……。


 普段なら躊躇してしまっていたことだろう――だがこの時は鈴音の為にも、自分の為にも聞かなくてはならないと思った。


「どんなのだ……? できる事なら協力するが」

「うむ――しばらくここに厄介になることなのだが」

「そうか……って、ええぇぇっ!?」

「やはり駄目か。なれば致し方なし、かくなる上は潔く――」

「あぁぁぁぁっ、待て待てっ!? 分かったっ分かった、いいよ!!」

「うむ、感謝する」


 相手には切腹と言うカードがあるがゆえ、俺には了承するしか選択肢が存在してなかった……。

 こいつ俺がNOって言えない状況なの分かってて言ったな?

 やはりこの歯車は動かすべきでなかったのかもしれない……。


 こうして戦国時代から来た侍娘と俺の共同生活……いや、侍娘との同棲生活が幕を開けた――。

※弘嗣は「侍」、鈴音は「武士」と呼んでいる

⇒鈴音の所は特に仕えている主君が居ない為、鈴音は「武士」と呼んでいる。

 これと言って差が無いため鈴音は訂正していない。

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