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25.肝試しに来た

※視点の切り替えは「/」で行っています

 目が覚めた頃にはもう日が落ち、辺りが暗くなっていた。

 身体にかけられてる毛布は、冷やさないようにと鈴音が掛けてくれたのだろう。

 一人で眠っているものだと思い、こちらを向いてすうすうと寝息を立てていた鈴音を見て、寝起き早々取り乱しそうになってしまった……。


 一枚の毛布の中に互いに水着姿の男女二人――薄暗くてよく分からないが、適度な主張をしていた丘陵が腕に挟まれ、肉感が強調されている。

 しかも柔らかそうな唇とその吐息が合わさり、男のいけない気持ちをどんどん掻き立ててきていたのだ――。

 一瞬事後か、そう言った関係になったのかと錯覚し、喜びそうになってしまったのが恥ずかしい……。


「な、七殿に追い出されてしまったのだっ――」

「あたりまえじゃ、妾の寝床で寝ようなぞ百年早いわ」


 いつもの着物姿になった七姉さん――起きた時、この人は全裸で海に入っていた。

 ただでさえ鈴音でドキっとさせられたのに、目覚めた先でこれだよっ!!

 にびは『男は自らあの人の為の階段になりに行く』と言っていたが、その理由が分かった――男を虜にするような豊満な大人の女の身体、これ見て欲情しない奴はいないだろう。

 術なんてかけずとも支配できる天性の魔性の女、鈴音に殴られなきゃ完全に自我を失ってた気がする……。


「いや、惜しかったのう」

「ひ、弘嗣を惑わすのは止められよっ!!」

「おや~?」

「な、何ぞその目はっ!?」


 その豊満な肉付きとは対照的な、妹のお子ちゃま狐はあちこち泥だらけにしていた。


「その内、酷い目にあう事を覚悟しておくと良いぞ?」

「せめていつ頃になるか言ってください……」

「嫌じゃ――ま、それはその内するとして、時間的にも丁度良い頃じゃし始めるかの」

「そう言えば、そんな泥だらけにして何をしてたんだ?」

「ふふんっ、肝試しの準備じゃっ」


 なるほど、それで山の中に入ってたのか。

 しかし、肝試しか……キャンプの定番でもあるが――普段からこの狐共といるせいか、お化け的なものへの感覚がマヒしてきてるんだけど。


「今日だけは本物にお願いしてあるので存分にチビると良いのじゃ。

 あと墓穴からゾンビが出てきたら一緒に踊ると良いぞ。主役は赤い服を着ておるので邪魔せぬようにな」


 もしかして日本でマイソーされてんの……?

 だけど、ゾンビ相手だと斧が銃あたりが欲しいんだが……あるとしたら鈴音の木刀――あれ、何でここに持って来てんの?

 それと、鈴音本人が”自分の魂”だって言ってたのに、何で受け取り拒否してんの……?


「わ、私はちと調子が悪いので眠りたいのだ――」

「別に構わぬが、ここいら全体に徘徊させるので、自分の身は自分で守るのじゃぞ?」

「な、何だと――」

「待ってっ、ここのお化けってそんな攻撃的なの!?」


 肝試しってそんなバイオレンスなものじゃない気がするんだけど……。

 全員で行くと面白くない、人間同士で行くと安全上問題がある――と言う事で、にびと俺・七姉さんと鈴音、の二組に分かれて行動する事になった。


 ・

 ・

 ・


「で、何で俺とにびなんだ?」

「『きゃー、こわいのじゃー』と言って茂みに押し倒され、妖怪万年発情女に襲われても構わぬのか?」

「……その心配がないにびちゃんが良いです」

「じゃろ?」


 三十分ほど前に二人が先に行ったので、妹狐は言いたい放題言っている。

 あの人と二人っきりになったらとんでもない目にあいそうだし、鈴音と共に行動していた方が安全だろう。


「だけど、鈴音があんな怖がりだとは思わなかった」

「あれは、お化けや物の怪と言った類が大っ嫌いじゃからの」


 出発の直前までビビって行かないとゴネていたぐらいだ。

 道中、何をしでかすか分からないので七姉さんと共に行くのがベストだったんだろう――出発時も無理矢理連れて行かれるような形だったし……。


 さらさらと木の葉が触れ合う音が鳴った。

 吹く風に乗って女の悲鳴が聞こえ、夜にも関わらずそれに驚いた鳥が暗闇の中を飛び立っている。


 いとおかし――。


 /


 嗚呼、何ゆえこんな事になっておるのであろう……

 七殿は小便に行くと申したっきり戻らず、人に見放されたかの如き荒れた墓場の中で私一人――先ほどなぞ、蝙蝠(こうもり)に情けない声をあげてしもうたし……。

 夏は夜と申すが、そ奴はここを見て今一度同じ言葉を言えるのか? 夏は昼ぞ、眩き陽の下で暑い暑いと言うのが良いのだっ!

 う、うぅ、行くも地獄戻るも地獄ぞ……かのような時、弘嗣がおってくれれば――。

 嗚呼、早く戻りたい……。


「先に堂宇(どうう)に行けと申しておったな……ん、何ぞこれは?」


 何やらパキッと硬い物を踏んづけてしもうたようだ。

 “かいちゅうでんとう”を向けると何やら白い物が足元に――


「ひッ――!?」


 ほ、骨ではないかっ……!? しかも、人の……ようだ。

 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……恨まぬでくれ、恨むならかのような事を考えた狐共をだな……。

 ああ、足が動かぬ……であるが行かねばならぬ。足を止めれば彼の者と同じ末路を歩んでしまう……。

 頼りになるのは我が木刀のみ。私はこれと共にあったのだ、うむっそうである、

 私は武士ぞっ、かっかのような事で屈しはせぬぞ!!

 であるが、物の怪に効いたとしても、幽霊に効くのであろうか?


「……」


 自滅してしまったではないかっ!!

 何ゆえかのような事を考えてしまったのであろう……。


「うぅぅ……あ、あれか? あれよな、な?」


 目の前に朽ちた堂のようなものが見えた。

 傍の誰か分からぬ、崩れ名も分からぬ者の墓に尋ねても返事はない――。

 次第に己が分からなくなって来ておる……な、中に入り札を取ってくれば良いのだったな?

 うむ、取ったら走ろうぞ。怖いわけではない、ちと身体を動かさねばならぬゆえに……。


「う、うぅむ、入るのも躊躇われるほど暗く――むッ!」


 後ろから何者かの気配を感じ、咄嗟に飛びのいた――。

 刀の一閃は私を斬る事が出来ず、堂の中に飛び込んだ私の背後の空を斬っている。

 何奴――顔は暗くて分からぬが、浮かぶ姿形は男であるようだ。


「居下鈴音とお見受けする。いざ尋常に勝負致せ。」

「何をッ――!!」


 先手必勝、即座に反撃に打って出たものの容易くいなされてしまう――これで倒せるほどの相手ではないと思うておったが、先ほどの太刀筋と合わせてハッキリした。

 この者――決して油断してはならぬ相手ぞっ。


 ぐっと踏み込む度に堂宇の床が大きく軋む音がし、木と木がぶつかり合う音が数度響く――私がここぞと決めに行こうとも軽く返され、逆に男の手にした木刀が私の肩に脚を打った。

 もしこれが戦場であれば死んでおったであろう――。


 勝てぬ戦いを挑むのは勇とは言えぬ。であるが、逃げ道が作れぬ……。

 分からぬ、日ごろの鍛錬ができておらぬせいか? 己が己ではない――全てが定まらぬ。

 踏み込む音がドタドタと全てが合わぬ、相手からは足音も聞こえぬ――。


「ぐっ――くぅぅっ……」


 上手くゆかぬ己に歯を食いしばってしまう。鍛錬不足のせいではあらぬ、何かが足りぬ……。

 何度打ち込んでも無駄とすら……もはやこれまでなのであろうか――。

 負けを認めれば私は……くっ、何を弱気な――ここで私が倒れたら、誰があ奴を……。


 嗚呼、そうか――。


「ぐぅっ――」


 油断してしまい、右腕に手痛い返しを受けてしまった――手がしびれ、カランッ……と木刀が床に落ちる音が耳に響いた。

 鬱陶しいほどの耳鳴りがし、もはや他に何の音がしておるか分からぬ。

 相手の木刀が大きく振りかぶられ――もはやこれまでか、と私は敗北を覚悟した……。


 /


「ぐうっ――!?」


 背中に……じゃない、内蔵にまで響くような鈍痛が全身にいき渡った――。

 息が出来ない――息の仕方を間違えているのではないかとさえ思ってしまう。

 でも良かった……鈴音は何ともないようだ……。


「ひ、弘嗣――な、何をっ!?」


 驚くのも無理はない、俺でも驚いているんだから。

 こんな素早く動けた自分に、躊躇わず目の前にいた大切な女性を守りに行った自分にビックリだ。


 にびとはぐれ、お堂に行ったら合流できるかと思っていた。

 するとなんだ、鈴音が何者かと戦いコテンパンにやられているじゃないか。

 木刀を落とした鈴音にトドメを刺さんと大きく振りかぶったのを見て、身体が勝手に動いたんだ。

 で、今だ――身体中が痛いし、こんなチャンバラごっこなんて子供の頃以来した事ないのに、身体が勝手に動いてその木刀を拾っていたんだから……。


「ほう、臆せず構えるか――。

 勝てぬ相手に挑むのは愚かな事よ、だが此度はその勇に免じて見逃してやろう」

「ふ、ふざけるなっ、鈴音を助けに飛び込んだのに、

 はいそうですかと置いて逃げるわけにはいかないだろっ」

「そちが敗れれば、そこの敗れた者が更に惨めになるだけであるぞ。」

「そ、それでもやってみなきゃ分からんだろっ!! しょ、勝負は時の運とも言うんだしっ!!」

「はっはっはっ、面白い。ではやられる前に最後に聞いておこう、何がそちを突き動かす?」

「何がって分からんっ、ただ……惚れた女を守るのが男って奴だろ――っ!!」

「えっ……」


 ああ、言っちゃったよ……。

 でもここでないと言えないし、今日この時で終わりかもしれないしさ。

 最後の最後ぐらい恰好よく締めたいじゃん。あの世で自慢もできるし――。


 けどなぁ、締まらんよなぁ……もっと思いっきり叩き斬られるとかなら諦めつくけど。

 相手に向かって突っ込んだら、脚ひっかけられてお堂の階段から落ちるんだもん――。


「うわあぁっ……!?」

「ひ、弘嗣っ――!?」


 視界がぐるぐる回る――

 この階段、何段あったっけ……確か五段ぐらいの短いのだったと思うけど。

 あぁでもこれが走馬灯ってやつか、確か初めて鈴音と会った時も見たなぁ。

 ただ死因はもっと恰好の付く死因が良かったよ――。


「ふん、弱いがまぁ良いであろう。鈴音、面白き男を見つけたな。」

「え……ま、まさか貴方様はっ!?」

「はっはっは、今頃気づいたか。全く相変わらず鈍い奴じゃっ」

「ま、待って――」

「それと、これはワシに負けた罰じゃ――ほれっ」

「痛っ!?」


 あれ、まだ生きてる……? 何か後ろの方でゴツッって音が聞こえたきがしたけど……。

 歩く音も立てず近寄って来た草鞋(わらじ)を履いた男が俺の手から木刀を奪って

 ベシッ――と音が……ってまさかっ!!


「いでっ――!?」

「ふん、孫にはもう必要あらぬ。

 これも相応しいとは思えぬが、あれが選んだのならそれで良いだろう」


 折った鈴音の木刀を頭の上に放り投げて、その男……いや爺さんはスウッーっと消えて行った。

 も、もしかして――落ち武者の幽霊っ!?


「いでっ!?」

「落ち武者ではないわっ!! ワシはちゃんと畳の上で死んだわっ!!」


 それ言うためだけに、消えかけた所からもう一回戻って来るんじゃないよ!!

 うぅ、ジジイの幽霊に拳骨喰らうとは思わなかったぞ……。しかも超痛いし……。

 あぁでもさ、生き恥って言うの? せめて意識飛ぶぐらいにして欲しかったんだけど。


「ひ、弘嗣……だ、大丈夫であったか?」

「あっあぁ……あちこちが痛いが大丈夫だ」

「さ、左様か……うむ……」


 空気が重い――成り行きとは言え、鈴音を好きだって言ったようなもんだしな。

 事実だし後悔はしてないけどさ……いつからか分からないけど、惹かれてたのは事実だし

 あぁ、完全にそうだって分かったのは美紀と吹っ切れた時か――。


「……」

「なっ……!?」


 気がついたら鈴音を抱きしめていた――。

 鈴音も抵抗せず身を預けるようにしてきている。海に入った時のように、

 じんわりと温もりが伝わり、それが身体中の痛みを和らげてくれていた。


「そ、その……先の言葉はまことであるか?」

「あ、あぁ……まこと……本当だぞ――」

「そうか……」


 ぎゅっと抱きしめてくれたが……これは何と言うかOKって事でいいのか?

 そこの一つ目の男の子、これはOKって事で良いよな?

 一つ目小僧は顔を赤くしてコクコクっ――っと頭を上下に……うん、なるほど。ありがとう。


「……」

「そ、そろそろ戻ろうぞ――」

「そ、そうだな……」


 いるわけない、いるわけないんだ妖怪なんて――。


 ・

 ・

 ・


 思えば墓場のど真ん中で何をしていたんだ……。

 でも、冷静になったら、あれが夢だったんじゃないかって思えてしまう――。

 後になって、"勘違いするな、あの時は気の迷いだったんだよ馬鹿"って言われて華麗に玉砕するとかないよね? そうなったらきっと立ち直れなくなるよ?


「お、帰って来たのじゃ」

「ほっほ、良い顔しとるのう――」


 やはりこの狐共の仕業かと思った。広義で言えばこいつらも妖怪の一種だよな――。

 全身痛いし、鈴音はあちこち痛めたようで足を引きずるようにして歩いてる……。

 こっちが大変な目にあっていると言うのに、この狐の姉妹はたき火でマシュマロ焼いてるしさ……。


「ほう、美味そうであるな」

「美味いのじゃー。ほれ、ここにまだあるぞ。こうして火に炙るのじゃ」

「ふむ。ならもっと火が必要であるな」


 そう言って、手に持ってた折れた木刀をたき火の中に――。


「ちょ、ちょっと鈴音っ!?」

「ん、何だ?」

「い、いや何でもない……」


 潤んでいる鈴音の瞳を見てしまうと何も言えない……。

『私にはもう必要あらぬ……。』とポツリと呟いた彼女の、もう一つの魂がパチパチと燃えて行くのをじっと見守るしか出来なかった。



 押しては返す真っ黒な海の波の音が聞こえる……。

 気丈に振舞っているが相当な覚悟だったのだろう。鈴音は膝を抱え、テントの中からじっと海を眺めていた。


「ふ、ふふっ――」

「ど、どうしたの?」

「いや、スッキリしたと思うてな」

「スッキリって……木刀燃やした事?」

「うむ。実を言うと……この世に参る前よりずっと迷うておったのだ。

 武士である己が正しいのか――とな。であるが、ここまで来てしもうては後には退けぬ。

 終わりはあるのか、それがいつなのかと考えると眠れぬ日もあった……」

「そうか……」

「ただ……不安ぞ。つい先ほどまでそれを拠り所にしておったのが失われたのだ……。

 本当の事を申せば、ここでの暮らしも初めは不安でしかなかった。

 周りは見知らぬ物ばかり、武士である必要のないこの世の私は何ぞ――と、気が触れてしまうのではないかと思うぐらいにな……。

 ただ今になって分かった、気が触れずにおられたのは弘嗣――そなたが傍におったからであると……」


 何も言わず、俺は鈴音をそっと抱き寄せた――。

 鈴音抵抗せずそっと預けてきたが、その身体は震えていた――夜の海は少し冷えるが、これは寒さのせいではない。

 全てを捨て、声を押し殺して涙する鈴音を優しく抱きしめるしかできなかった。

 けど何だろう……それだけじゃ足りない。何か言葉をかけてやりたくても全てが薄っぺらくなってしまう……。

 だから――


「え――。」


 鈴音の顔を持ち上げ、そっと唇を合わせた――。

 一瞬だったのに何時間もしてたような気分だ……鈴音は呆然とした顔で固まっている。

 指で唇に添え、何が起こったのか思案しているようだった。

 まぁテレビや映画でのキスシーンでも『はしたなき!』と怒っていた事を、結婚してからするべき行為をここでしちゃったのだから……。


「あ……そうかこれは……うむ――」

「そ、そろそろ寝るかっ……」

「そっ、そうであるな――」

「……」

「……そ、その……すまぬが、寝る前にその……きちんと申し出をして貰えぬか?」

「申し出……?」

「い、いや……その――実は違ったなぞと思うてしまいそうで、な……」


 あぁ、そうか……確かにこう言った事はちゃんと言葉にして伝えておかないとな。

 曖昧なままにしていたらどちらも不安なままだし……。

 きちんと正座するのもどうかと思うが、鈴音がそうするのだから合わせないと――。


「そ、その……鈴音の時代ではどう言うのか分からないから俺の時代で言うけど……。

 俺は鈴音の事が好きだ……これからも、その……ずっと一緒にいて欲しい……」

「うむ……ではないな――はい、その言葉、謹んでお受けします」

「……」

「……んんーっ!」


 一人で身悶えるんじゃないよっ!! こっちだって身悶えたいよっ!!

※次回 4/7 17:20~ 更新予定です

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