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21.バイトの依頼が来た(上)

※視点の切り替えは「/」で行っています

 会社に行こうとした時、六姉さんが突然やって来た。

 手には”試作”と書かれている透明な液体が入った小瓶が二つ――これは非常にダメな臭いがする。


「……新薬の実験……よろしく……」

「やっぱりなっ!?」

「……報酬は一本七万、今日だけ特別でプラス二万でどう……」

「うっ……」


 治験のバイトは割がいいと聞くが、九万は大きいな――うーん……

 この人が作る薬なので、おかしな物ではないのだろうけど、何の薬かも分からないのは服用したくない。

 二本やればほぼ一か月の手取りになりそうだしなぁ……ああ、欲しい物があるから余計に悩む……。


「な、何の薬なんだ?」

「ひ、弘嗣っ、金払いが良いからと言って、かのような怪しげな物のに手を出すでないっ!」

「ちょ、ちょっと内容を聞くだけだから……」

「……別に変なのじゃない……嘘発見用の薬……」

「嘘発見用……?」


 自白剤的なアレだろうか……確かあれ打たれたら廃人になるとか聞くけど――。

 いや、嘘をついたら鼻が伸びるとかもありそうだが……。


 先端だけが白い黒い尾に、綺麗な黒髪をした狐娘――六姉さんは悪孤だと言う。

 悪と言っても昔ちょっと色々しちゃったぐらいで、今はそんな悪い事はしていないらしい。

 やりたくとも手加減知らない人が目を光らせているからと言うが――きっと頭に浮かんだあの人だろう。

 なるほど、あの人がいる内は大丈夫か。


「よ、よし……やってみよう」

「な、ならぬっ! やるのなら、身体の丈夫な私がっ……!」

「……じゃあ、はい……二本……」

「ちっ、違う!? 二人がするのではっ――」


 マイペースと言うより、人の話を全く聞かない人だ……手渡されたからにはもうやるしかない。

 鈴音は止めろと言うが、ここは腹をくくってグイっと飲んでみる――が、特にこれと言って美味くも不味くもない、無味無臭のトロみのある水のようだったが……。


「あ、あぁ……な、なれば私もっ――」


 鈴音も俺も特に変化がない――。

 嘘発見用の薬だから嘘が言えなくなるだけで、それ以外は特に何て無いのだろう。

 何だ、結構楽なものじゃないか、これで九万は大きい――鈴音に似合うかんざしが買える。

 きっと可愛く見えるだろうな……え?


「う、うぅむ……?」


 鈴音もきっと同じ事を考えている気がする――。

 嘘発見用の薬だよな、これ……? 嘘が言えないと言うより、何か隠し事できないような気がするんだけど……。


「……別名、正直者の薬……自分を偽れなくなる……」

「な、なんだとっ!?」

「……ふふ、じゃあレポートよろしく……あ、にびちゃん、このジュースあげる……」

「栄養ドリンクではありませぬか……でも助かりますのじゃ、ここのとこ七姉様の世話で忙しくてクタクタなので――」


 そう言って、意外と胸もあってお尻がきゅっとして可愛い六姉さんは姿を消した――。

 騙された気がしてならない……でも間違ってはない気がするが、自分を偽れなくなるって一体なんだ?


「うーん?」

「そ、そろそろ時間であろう? 名残惜しいが、気を付けて行って参れ――って、違う!?」

「あ、あぁ……鈴音の為に今日も頑張ってくる――って、えぇぇ!?」

「なっ――嬉しい……ではないっ、は、早う行けっ!

 ちゃんと、手ぬぐいや財布は持ったか? 賊に襲われぬよう、道中は用心して――あぁぁっ!?」

「わ、分かってる、大丈夫だって。

 じゃ、しばらく会えないのは寂しいけど行ってくる……のぉぉっ!?」

「うっ、うむ……」

「人は何かしら偽って生きておるって事じゃの。童は飲まされなくて良かったのじゃ」


 にびの言う通りかもしれない――無意識にとは言え、そんな事を考えているのかと自分でも驚いてしまう。

 鈴音は意外と心配性な部分もあって可愛いのは分かったけど、逆に俺も知られてしまう事に……これは非常にマズい気がするぞ……。


 /


 こ、これは困った――嘘が言えぬだけと思うておったが、本心全てを話してしまうものであったとは……。

 己でもかのような心配性であるとは思わなかったし、弘嗣の帰りをこれほどまで待ちわびておるとは――あぁぁっ違うっ!?


「こっこれはいつ治るのだっ!?」

「さぁ、六姉様の薬じゃし一日もすれば効果が消えるのはないか?」

「相変わらず役に立たぬ子狐よ――はっ!?」

「……お主がどんな目で童を見ておるのかよーく分かったぞ」


 いかぬ、つい本音が――子狐は『もう何も言わぬっ』と言わんばかりに、へそを曲げてしもうておる。

 嗚呼、これは如何したものか……私は外に出ねば良いだけであるが、

 弘嗣は外に出て勤めに――狐と狸の化かし合いの場にてこれは不味いのではないか……。

 もし、これのせいであ奴の立場が悪くなりでもし、お役御免になりでもしたら……

 しばらく一緒に居られる――ではないっ!? であるが朝晩共に……嗚呼っ違うっ!?


「ど、どうすれば良いのだ!?」

「さぁー? なにぶん、()()()()()()()()じゃからのうー」


 完全にへそを曲げてしもうておる……。

 であるが、してしもうたものは致し方なし――天命に身を委ねるしかあるまい。

 もし何かあらば……今の私に出来るのは家の事のみ、なれば美味い飯を作り弘嗣の疲れを癒すしかあるまい――。

 美味いと言うてくれるであろうか、いつもそれだけが心配ぞ……。


 ・

 ・

 ・


 この世の”でんわ”と申すのは何とも素晴らしい物であるな。

 どれだけ離れておっても、まるで傍に耳元で話しかけられておるようだ――。


『そ、その……何も変わりはないか?』

「う、うむ――大丈夫であるぞ。して……戻るのはいつも通りであるか?」

『ああ、そうだな……うん、多分少し早く戻れるかもしれない』

「さ、左様か――嬉しいな……

 じゃ、じゃなくてっ、今宵の飯は自信があるから早く帰ってきて欲しいっ」

「お、おう……」


 弘嗣より何度目かの電話――あまり支障はないようで安心した。

 係わりが薄い者には影響がないのであろうか。

 であるが、勤め先で人と人の係わりが薄いと申すのは……それはそれで大丈夫なのか?

 うぅむ……して、次はいつかかってくるのであろう、出来ればもう一度――。


「童のスマホを何じゃと思うておるのじゃ、テレクラか?

 後でQ2並の料金請求してやるからの、覚えておれよ」


 ブツクサと文句を言うにびは放っておくとし、晩飯を期待せよと言うたからには、気合を入れねばならぬな。

 よしっ、今宵は力の入る肉料理にでもしようか――力が入り過ぎて、い、いや何を考えておるのだ私はっ!?


「なんじゃ、面白いことをやっておったなら早う言わぬか。

 乗り遅れてしもうたではないか――」

「む、七殿か。これのどこが面白いのだ、迂闊に口が開けず苦労しておるのだぞ……」

「人は常に何かしらの仮面を着けておると言う事じゃ。弱きを己を見せぬ、気づかぬように、な。

 であるが、それがあってこそ人。偽ること全てが悪い事でもあらぬ。

 関係を保つために、相手の為を想ってこそ必要な嘘も沈黙もあるのじゃ――」

「……七殿も何か偽っておる事があるのか?」

「……人も狐も同じよ。であるが、狐は欺いてこそであるぞ、ほっほ」

「ふふっ、では眉に唾を塗っておかねばならぬな――」


 ……して、先ほどからにびは何ゆえ眉をしかめておるのだ?

 何やら七殿の顔をじっと見ておるようであるが、何か思うところでもあるのであろうか。

 手には六殿から受け取った”えいようどりんく”なる瓶を握っておるが――。


「七姉様。やはり、ここのとこ化粧が厚くなっておりませぬか――はっ!?」

「ほう……この娘は遂にそんな口まで叩くようになったか」

「ち、違いますのじゃっ、七姉様がちょっと老けてきたかもなぞ一切……あぁぁっ!

 ま、まさかこの栄養ドリンクは――!?」

「ふむ、どこが老けてきておるか正直に言うてみるのじゃ。妾は怒らぬからのうッ――」

「いひゃいっ、いひゃいでひゅっ!? く、くひゅりっ、くひゅりのふぇいですのひゃっ!?」


 鼻をこれでもかと摘まみあげられ涙目で弁明するにび――老いを指摘され怒らぬ女子はおらぬと言うのに……。涙目で七殿の腕を叩き降参の合図を出しておるが、逆鱗に触れられた七殿は手を緩めようとしておらなかった――。


 あの瓶にも同じものが入っておったのであろう、口を開くたびに腹に抱えておった物が吐き出され、更に七殿の怒りを買うておる。

 いつもは立っておる二本の尾がしおれ、股の間に……。対する七殿の尾は――。

 獣は怒れば毛が逆立つと申すのは真であるな……美しき白き尾や耳の毛がハッキリと分かるぐらい逆立っておった……嗚呼、くわばらくわばら。



 にびは”ますく”と申す白き覆いに黒い×印を書いて喋らぬようにしておった。

 が、目で語ってしまうので意味はなかったが――。

※次回 4/3 17:20~更新予定です

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