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18.狐のお医者様もやって来た(六尾)

※視点の切り替えは「/」で行っています

 どーしてこんな事になっているのだろう……。

 倉庫に在庫確認をして戻って来れば、女性社員の皆さんから隠し子疑惑を持たれていた。

 それも全てこの手紙の差し出し主――にびのせいだ。

 あいつが何故か俺の事を"お父さん"と呼び、鈴音の事を"お母さん"と呼んだ……そのせいでここ最近の俺の様子などから

『あんな子供がいたなんて――』

『奥さん病気って大丈夫なのかい?』

『いつ結婚して――あっ……』

『もしかして奥さんの連れ子じゃ……』

 と、言いたい放題言われ、質問攻めにあっていた……。


 もしここで正直に――

『戦国時代の娘さんを預かってて、あの子は狐の女の子で悪戯で言ったんですよー』

 なんて言おうものなら心に大きな防壁が作られてしまう。

 なので適当にはぐらかしておいたけれど……絶対にワケ有りだと思われてしまっている。


 鈴音の事が心配で今すぐにでも帰りたい所なのだが、メモには

 ―童たちが見ておるから心配いらぬ。

 ―鈴音が気に病んでしまうのでちゃんと仕事を終えて来るように。

 ―それとこれ買ってくるように

 ―

 ―スポーツ飲料(いっぱい)・タオル(数枚)・プリン(童に対し申し訳ないと思う数)

 ―サザエ(あるだけ※絶対必要 なければ帰って来るな)

 ―ハムスター(いらない、あっても持ってくるな。売ってなかったと言え)


 ……サザエとハムスター?


 /


 少し眠れたお陰か先ほどより多少楽になっておった……だが目の奥、鼻、身体の節々が不快なのは変わっておらぬが。

 頭の下に敷かれてある物、額に貼り付けられておる布が心地よい――。


「目覚めたようじゃの」

「にびか――これは?」

「氷枕に熱さましのシートじゃ、まだ楽じゃろ?」

「うむ……して、お主も病を患っておるのか?」

「いや…童のはたんこぶじゃ……」


 私の看病をしながら、片手で氷が入ってあるのであろう袋を己の頭に乗せておった。

 今気づいたが、いつの間にか"べっど"に運ばれておるが――にびでは無理であろうし、(かたわ)らにおる七殿が運んでくれたのであろうか?

 さあ知らぬと言った顔をしておるが、かのような態度を取っておっても心根は優しいのかもしれぬな。

 それとその七殿の後ろにもう一人の女子は……。


「…………いい音鳴った……ベシーンッて……」

「にび、すまぬが――あの者は……?」

「おお、紹介がまだじゃったの、童の姉――六姉様じゃ。小児科で子供の病気などを診ておる」

「……子供大好き……ふふ……」

「ままっ、まぁそれはさておき、鈴音の病を診てもらおうと七姉が呼んだのじゃ」

「ほう医者か……立派な方が私の為にかたじけない」

「…………ナナに呼ばれたから来ただけ…………診察するから…………脱いで…………」

「ぬ、脱ぐっ!?」

「あー鈴音、この方は……自分の歩調でしか動かぬ方じゃ……」


 私は病床の身、その道に精通した医者がおるなら従わねばならぬ――。

 女子ばかりであるし恥ずかしがっておる場合ではない、私は六殿が申される通り着物の帯を解き胸元を露わにした。


「…………もじゃもじゃ…………これ挟んで……そのまま……そう……。

 口をあけて…………うん…………舌動かさないで…………うんうん…………。

 …………熱は…………ある……やっぱり……」

「やはり――やはり何なのだ?」

「…………インフルエンザ…………寄らないでばっちぃ…………」

「い、いんふ…………?」

「インフルエンザじゃ……まぁそなたの所で言う流行り風邪の一種じゃの。

 それと六姉様は医者なのですから、大人の患者を病原菌扱いしないでくだされ……それに童らにはかかりませぬし。

 ついでに申せば、いちいち服を脱がせずとも分かるではありませぬか……いつも意味も無く脱がすのじゃから……」


 なっ……ぬ、脱がずとも良かったのか!?

 何なのだ、一体何なのだこの者らは――だがやはりはやり風邪か、薬もろくに効かぬ性質の悪い病ぞ。

 大方の予想はついておったが、やはり私は治らずこのまま果てるのか……。


「……そんなの知ったこっちゃない……」

「それで六よ、この後はどうするのじゃ?」

「……注射打って……飲み薬……調合する……あとこれ……ふふっ……」


 な、何か分からぬ言葉が次々と……それと最後に取り出したあれは何ぞ?

 薬と申しておったが――煎じるのか? うう、飲み薬は嫌いなのだが……苦いから……。

 苦いのは嫌いぞ……"ぴーまん"と申すのもそうであるが、誰がかのようなものを食おうと思うたのだ……。


「ほっほ、なるほどなるほど! いや楽しみじゃの」

「な、何なのだ? 何をするつもりなのだ?」

「…………これを…………ねじこ……じゃない、入れる……」


 い、入れるとは――いや、その前におかしな言葉を発しておらぬかっ!?

 かのようなのを入れるとすれば……鼻かもしくはそのまま飲み込むのであろうか。

 着物をはだけたままうつ伏せになるよう申され――何やら嫌な予感しかせぬのだが……。

 なっ、かか、身体が動かぬ――まるで傀儡の如く、動かぬ後ろから腹を掴み身体を持ち上げ、すき放題動かされてゆく――。

 "べっど"に突っ伏し、尻を高く持ち上げた姿――い、一体……な、何をするきさまら、や……やめぬかっ……。


「や、やめよっかのような辱め――殺せ、いっそ殺せっ――」

「それだけ元気があれば大丈夫そうじゃがの。まぁ悪いようにはせぬ、いや何――ただ薬を入れるだけじゃ」

「く、薬を入れる!? い、何処に……ま、まさか――や、やめ私はまだ……」

「…………違う…………こっち…………」


 触れられたそこは――いいい、いかぬっ……そこにそんなものなぞ――


「…………大丈夫…………武士はこっちでもする…………」

「ち、違うっ……いや違わぬがそれは衆道で男が――に、にび頼むっ止めるように言ってくれっ!?」

「あまり騒ぐと熱が更に上がるのじゃ、それに坐薬と言ってちゃんと正しい治療じゃ――ま、諦めるのじゃな」

「なっ、なんだと……ちょ、ままっ待てっ、やめ――っ――……」


 あっ、鮭が――

 堰を越え、川を遡っておる――

 流れに負けずどんどん先へ――


「もう……嫁に行けぬ――」

「元から行けぬじゃろ……」


 /


 朝もダッシュ、帰りもダッシュで自宅に帰ってきた。

 鈴音は大丈夫か!と部屋に駆け込むと――何やら部屋の中が以前より賑やかになっている。

 にびに七姉さんに……あの黒毛は一体誰だ?


「おぉ、帰って来たようじゃの。この方は童の姉の六姉様、鈴音を診てもろうたのじゃ。

 よしよし注文した物は買うて来たか、どれ――プリンは一個だけじゃとっ!?

 お主の気持ちはその程度なのかっ!?」

「……待ちくたびれた……」

「ほれ、妾のはどこぞ?」

「弘嗣か、おかえり……うぅ……」


 OK、まず状況を整理しよう――。

 まず鈴音はベッドの上でそっぽを向いてさめざめとした雰囲気をかもし出している、まぁ病気だからしょうがない。

 次はから紹介された六姉と言う人、格好からして医者であるようだ……手に魚焼き用の網を持っているのは何故だ。

 そして七姉さん、手に持っている鉄串は一体……。

 最後ににび、スプーンを握っている。

 ――よし、わけが分からん。


「…………サザエ…………」

「ハムスター」

「プリン」


 とりあえず分かる物からまず消化していく、筆記テストで効率よく解答していく方法だ。

 金網にサザエ――つまり六姉さんがそれを食いたいって事か。

 スプーンにプリン――つまりにびがそれを食いたいって事か。

 鉄串にハムスター――つまり七姉さんがそれを食いたい事になる。


「一人だけおかしくないですかね……?」

「……ナナはゲテモノ食い……あれでお腹壊さない事に医者もびっくり……」

「ゲテモノとはなんじゃ!! れっきとした食い物じゃ!!」

「愛でる物だと思うのですじゃ……」


 全部で十五本の尻尾がワイワイと動いていて、どれが誰の尻尾なのか分からなくなってくる。

 亜麻色がにび、白色が七姉さんで、黒と白色が六姉さんか――この人だけ七姉さんと正反対の毛色なんだな。

 賑やかな姉妹の反面、鈴音はどんより暗いオーラに包まれているし……本当に大丈夫なのか?

 にび曰く、今は突っ込んだ薬が効いているので調子は良い、病状はインフルエンザとのことだ。

 でも何でまたこの時期にインフルエンザ?


「……この世とあっちの世では抗体や抵抗力が違う……」


 あれは冬にかかるものじゃないのかと思ったが、鈴音はこの世に必要な抗体や抵抗力を持っておらず。

 現代人が子供の頃に色んな予防接種受けいるから問題ないものの、鈴音は"この世に留まれば留まるほど感染症にかかるリスクが高くなる"らしい。

 インフルに関しては抵抗力が低かったりすると夏場にもかかり、沖縄などは夏のインフルもそこそこいる――との事だった。

 絶対に大丈夫――と言う確証はないが、鈴音自身体力があるのでまぁ大丈夫であろうとの事だった。


「……で、注射する……」

「なっ……ま、まさかまた――」


 それを聞いてそっぽ向いていた鈴音がビクっと反応した。

 注射が嫌いなのだろうか……戦国時代にそんなのあったっけ……?


「今度は普通に腕にする物じゃ、お主が思った場所にするのはまた別の分野じゃ……」

「う、腕とは……それは針ではないのか、そんなのを刺すと言うのか……?」

「……ブスッと……でも今日はしない……今から……サザエ食べる……」


 明日まで鈴音はブルーな気持ちでいるだろうな……小学校の時に予防接種の注射の日の前日など一日テンションが低かったものだ。

 そんな事おかまいなしと言わんばかりに、六姉さんは袋からサザエを取り出し網に乗せて食う準備をしていた。

 なんともマイペースな人だろう。

 あと七姉さん、いくら探してもハムスターはありませんよ?


「……にびちゃん……火……」

「え゛っ……は、はいどうぞ――」

「……ライターの火じゃ焼けない……次やったら殻ねじ込む…………早く……」

「折角の力が戻って来ておるのです……これ使うたらまた……」

「……それはにびちゃんの都合……」

「え、えぅぅぅ~~…………」


 姉の威圧に負け涙目になったにびは、両手を前にやるとポッ――と手の平から青い塊が……。

 熱を持った本物の火――狐火は熱くないと聞くも、次第に赤くなった火が貝を炙っている。

 火を発している狐娘だけを見れば何と目を剥くような神秘的な光景であるが、もう一歩離れるとコンロ代わりにされている情けない光景であった。


「凄いが凄くない――」

「えぅぅ……」


 サザエのつぼ焼きの美味しそうな匂いが部屋中に広まっていた。

※19話は3/31 19時頃更新予定となっています

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