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最強の殺し屋

作者: 俊衛門

五分企画参加作品です。五分企画で検索していただくと、他の作家様方の作品も読めます。



 老人は、殺し屋だった。


 現役時代には要人の暗殺を請け負い、世界を恐怖に陥れた凄腕の暗殺者であった。

 その腕前は飛ぶ鳥の目を射抜き、数百キロ先の蛇の頭を撃ち砕くほど。

 ただ、あることがあってから第一線から身を引き、祖国で暮らしていた。


 そんな老人のもとへ、一人の男が尋ねてきた。

 男は、軍の狙撃手であった。だが民間人を手にかけ、それが元で殺し屋稼業に足を突っ込んだのだ。彼は現在、国際指名手配されている。


 「そんなお尋ね者が、何の用じゃ」

 いきなりの訪問客に動じることなく、老人は男に問うた。

 「あんたが、“リカオン”だな」

 男は、老人の現役時代の二つ名を口にした。

 「単刀直入に言う、俺と勝負しろ」

 はて、と老人が首を傾げる。男はさらに続けた。

 この世界に入って、生ける伝説となった老人の噂を聞いた。裏社会では、老人のことを知らないものはいない。そんな伝説の暗殺者を仕留めることが出来れば、名を上げることが出来ると踏んだということだ。

 「伝説をれば、最強の殺し屋として俺はのし上がることが出来る」

 男は傲然と胸をそらした。

 老人は「最強ねえ……」とぼやきながらも、とりあえずその『勝負』とやらの詳細を聞くことにした。


 男が言う勝負とはこうだった。 


 まず、両者向かい合わせに座る。同型の自動拳銃を互いに持ち、一旦分解する。

 その後、互いに目隠しをする。

 合図と共に、分解した銃を目隠しをした状態で組み立てる。組み立て終わったら相手に引き金を引く――当然ながら、より早く組み立てたほうが勝ち。負ければ死あるのみ、という単純なルールだ。

 「良いか」と男が言うのへ、老人は了解の意を伝えた。

 引退後も、老人に挑むやからは少なくなかった。しかし大抵は射撃や格闘で――こういう勝負は初めてである。

 だが、実戦においても似たような状況は多々ある。闇夜に襲撃を受けた場合、手探りで銃を組み立てることだってある。老人も、兵学校で叩きこまれたものだ。


 「始めよう」

 老人と男は向かい合わせに座った。各々銃を分解、目隠しをする。

 男がゴーサインを出した。

 銃は、男の故国で最近出たばかりのモデルだった。引退した、しかも田舎で暮らす老人はこんな銃は見たことも、触ったこともなかった。

 一方男は、この型の銃の分解・組み立てを誰よりもやり込んできた。習熟度は男の方が上だ。

 男の指は滑らかに動いた。無駄な動きの一切を廃した、芸術的とも言える手捌きで組み上げていく。

 あっという間に、完全な拳銃がその手に収まった。10秒と掛からずに。

 よし。

 男が銃をつきつけようとした、そのとき

 「遅いよ」

 眉間に冷たいものが当たるのが、分かった。

 それが何であるか、男は瞬時に悟った。老人が銃を完成させてつきつけている、それが目隠し越しにも分かった。

 一瞬の間が、永遠にも感じられた。

 闇の中に死の暗雲が広がるのを、感じた。

 

 老人が引き金を引いた。


 ガチッ


 撃鉄が無機質な金属音を奏でた。弾は、装填されていなかった。

 「……なぜ、俺を助けた」

 「なに、殺しに飽きた。それだけじゃ」

 老人が銃を置いた、とともに男は目隠しを取った。

 その時、奇妙なものが目に映った。

 男が渡した目隠し――それがテーブルの端に置いてあったのだ。それも、畳んだ状態で。男はあっと声を上げた。

 「貴様、目隠しをしていなかったな! だからあんなに早く組み立てられたのか!」

 男は怒り、「卑怯者!」と罵った。しかし老人は何食わぬ顔で言った。

 「お前さん、そんな甘い心がけでこの先やっていこうというのか? 負けはすなわち死だ。スポーツじゃあるまいし、ルールを守らなければいけない道理なんてないじゃろう」

 老人の言葉に、男はたじろいだ。

 「卑怯でもなんでも、この世界は『生き残った者勝ち』じゃ。そのためには、どんな手を使ってでも勝つ。覚えておけ」

 老人はそういい残すと、部屋を出ようとした。

 「そうか……どんな手でも、か」

 男はそう言うと、完成した自分の銃を無防備な老人の背中に向けた。

 「じゃあ、俺がこうしても、文句は言えねえよなあ!」

 男が引き金を引いた。

 発砲。銃声が轟いた。


 動き出しは、わずかに老人が勝った。

 男が引き金を引くより先に、老人が足を繰り背中を向けたまま、体を横にして銃弾を避けた。

 そのまま男まで、3メートルの距離を一足飛びで縮める。

 狼狽する男の右手首を掴み、関節を極めた。次に半身に切って、投げ飛ばした。男の体は宙を泳ぎ、背中から地面に叩きつけられた。

 男が反撃しようと身を起こすのに、老人は奪った銃で狙いを定めた。

 「見えるものが全てではない」

 老人は静かに言った。

 「お前さん、見えるものしか信じないようだがな、物事の根幹は見えないところにこそあるんだ。本質を見抜けぬようでは、まだまだじゃ」

 そう語る老人の目に違和感を感じた。両目とも、焦点が合っていない。人工物のような――まるで活きた目には見えない。

 「裏の裏まで見通す力、それがないとこの世界では生きていけん」

 人工物? まさか……

 「それと、1ついっておこう。わしが目隠しをしなかったのは、勝つためじゃない。必要ないからだ」

 老人はそういうと、いきなり両の眼窩に指を突っ込んだ。自分の眼球を抉り出し、唖然とする男にそれを見せた。


 「わしの目は、ホレ。義眼じゃよ」


 「ば……」

 馬鹿な、と言うより先に。

 老人の銃が火を噴いた。


 「表面に騙されて、見えないものには気を配らぬ……所詮、最強などという虚飾に目がくらむ君は、外面しか見えぬ盲目な大衆の1人でしかない」

 老人は義眼をはめ込んだ。爆風で視力を失い、引退するきっかけともなったその目。しかし

 「めしいたわしの方が、よっぽど見えているというもの」

 そういって老人は部屋を後にした。


 後には、男の死体だけが残った。

なんだかよく分からないものになってしまいました。


哲学的なお話をと思ったのですが……なんかもう、すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。初読みです。 この分量でハードボイルドであろうとする著者の意思が伝わり、実際に雰囲気や設定などは直球ど真ん中のハードボイルド。目隠しをしてなかったりと笑える部分もあって、仕事の…
[一言] 勝負のルール説明の段階で、老人は目隠ししないと思いました。でも盲目だった、と。驚きより論理性の破綻にがっかりです。見たこともない銃を目も見えぬままどうして速く組み立てられるのでしょう?  答…
[一言] 初めまして、Merlinです。五分企画から飛んで来ました。 まさに『最強』ですよね。ああいう哲学を持っている人が最強なんですね。しかも、盲目という・・・最強且つ天才なんでしょうね。 勉強にな…
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