雨とジュンと 1
……雨。
天から降り落ちる雨が地を濡らしていた。
屋根から滴り落ちる雫、サアァ……と聞こえるか聞こえないかくらいの静かな雨。
静かだが確かに空は暗く雲が広がり、心までも濡らすようなしっかりした雨。
シトシト降る……冷たい雨…
窓を閉めたまま、雨が地を濡らす様をただぼんやりと眺める。
何も感じず、何も考えようともしない。
ただ滴り落ちる雫の一つ一つを眺め、雨が地を叩く音を聞く。
笑いも、悲しみも、怒りもなく。
ただ無心で。
無心で雨を見ていると気付かぬうちに目蓋は閉じられていた。目蓋を閉じたその目に浮かぶ光景。
……私は雨が嫌い。
あの日も…雨が降っていた。
シトシト…
冷たく、凍るような雨が…
地を濡らしていたのは………
「ジュン!!」
「!!キャア!!」
雨を眺めていたのはジュンだった。
パピルスの丘からの帰り道、急に降る雨に濡れながらも村に辿り着き、とりあえず冷えた体を暖めるため宿をとり休んでいたところだった。
暖かい室内の灯りに微睡みながら窓にもたれていたジュンが顔をあげるとそこには驚いた顔のヒナ達がいた。
「………どうした?」
リュウがボソっと呟くように声をかけた。
「あっ!なんでもないのっ。考え事して…」
「あ!もしかして、宝珠が言ってた鍵のこと!?」
「マジ!!それで!」
「…………違うけどね……」
身を乗り出すように問いかけるヒナとこうに苦笑いして逃げながら、ジュンはまた雨の降る窓辺の景色に視線を移し思いを馳せる。
ここは…この近くに私の故郷が…あった…
ついさっき降ってきた雨を空と共に見上げる。
「雨は…きらい。」
「やだよね〜髪は濡れるし、服はビショビショ。あ!!この街は?ここから近いんじゃない?」
ジュンの憂鬱にも気付かずヒナはリュウの出してきた世界地図のある街を指差す。
「……『魔法使いの街』…か。ジュン。」
リュウがジュンを振り向きながら声を掛ける。
「え!?」
「そうだろ?本部がある。宝珠の鍵の情報もあるんじゃないか?」
見透かされたかと思った……
高鳴る鼓動を抑えるかのように窓辺から立ち上がりヒナ達に向き直る。
「そうね。何か情報があるかもしれないし行きましょ。」
ジュンは平静を装い笑い掛ける。
重い胸の内を隠しながら。