4DS サマル 1
「出てこい!!宝珠!オレに何が言いたい…!」
「どうしたの?こう!」
急に叫び出したこうの様子を見て、ヒナとジュンが心配そうに駆け寄る。リュウはその場を動かず様子を見守ることにしたようだ。
だが、今のこうにそんなヒナを気遣う余裕は無かった。
今見た光景はどこかに隠れている宝珠の見せた幻なのか、それとも自分に何か関係があるのか…
「っなんでもねーよ。」
答えの出ない苦しみに言い捨てるようにそっぽを向いた。
「っなんでもよくないじゃない!!」
こうの態度にヒナは怒ったように立ち上がる。
「!?」
ヒナもこちらを向かないこうの背中にこみ上げる思いを叫んでいた。
「わかんないよ…
話してくれなきゃ…!!いきなり倒れて起きたら叫んで…!どうしちゃったのよ…っ」
「…………ヒナ……。」
不安がるヒナの声に気付き、徐々に心を沈めていくこうは振り返り声をかけようとしたその瞬間だった。
『………やはりあなたは、今も昔も変わらず、人を巻き込み傷付ける。』
声がする。
なぜだか聞き覚えがある声……
懐かしくもあり、胸に小さな罪悪感にも似た切ない感情が生まれるのを感じる。
胸の奥に冷たく響くその声の主は、知っている。
「おま…えは!」
今さっき見てきた夢か幻の中の「同じ顔」をした男がそこに見える。
自分と「同じ顔」をして丘の上から見下ろしていた…
こうに声を掛けたその男は紫の髪の前髪だけを銀に染め、切れ長の紫の瞳、長いローブを纏い、手には黒い稲光を放つ球を持つ……
先程の夢の中の人物、魔導師風の男ポルクスに瓜二つだ。
そして、髪や目の色、服装の違いでわかりづらくはあるが自分だからわかってしまう。
自分の顔にも瓜二つだということに。
4DSの四星の一人。
サマルだった。
「お…おまえは…!」
リュウはすぐ先の丘に見えるサマルに気付き、一気に表情を強ばらせる。
あの男の紋章…!
4つの闇(D)の星(S)からなる族…4DSの四星……?
4DSの四星は体のどこかに四星たる紋章を身に付けている。
瞬時に気付き、急に現れた来訪者に驚くリュウだったが同時に疑問にも思った。
なぜ、こんなところに…?
それだけ、宝珠使いは脅威だというのか?
それとも何か他の目的が?
こうがまだ見たこともないはずのサマルの姿に言葉を詰まらせ、呆然と見ている横でジュンが表情を変える。
「おまえは4DSの頭!」
「え、ジュン?」
ヒナが呼ぶのも構わず、素早く攻撃呪文を詠唱し、杖を振る。
「ブラスト!!」
「………無駄ですよ。」
竜巻のような風と鎌鼬がサマルを切り刻むはずだった………
しかしサマルに襲いかかった風はサマルに触れたとたん急にそよ風のような弱さに変わったかと思うとあっという間に魔法自体を消し去ってしまった。
「え…………」
「あなたの魔法は私には効きません。」
サマルはそよ風に吹かれながら驚愕するジュンに冷たく微笑み、今度はこうに向き直る。
「それに、私はあなたに会いに来たんですよ…。今の名前は「こう」といいましたか?」
薄く笑いながら、丘の上から真っ直ぐに見下ろし声を掛ける。
親しげな言葉とは裏腹に冷たい氷のような声と視線。
「……。」
こうは何も言えず、ただサマルを見つめていた。