天の搭 1
「ん…」
ヒナはゆっくりと目をあけた。
目覚めたばかりの視界はぼんやりとしながら陽の光に慣らしていく。
空が近い…ここはどこだろう…
ユラユラ…
微睡みの中で自分が不安定に揺れていることに気が付く。
心地よい揺れに、ちょうど良い体温が伝わる…
体…温…??
「……て!」
「お?やっと起きたかよ、バカヒナ。」
「ちょ、ちょ、ちょ、おろせ~!!」
声にならない声がこうの耳元に響いた。
ヒナはこうにおぶさった格好のままバタバタと暴れる。
「いて、痛!なにすんだよ!!」
「うるさいわよ!早く降ろしなさいよ!」
容赦ないヒナの攻撃で、こうはタジタジになりながらゆっくりと地に降ろす。
「おっとっ!」
「おい、気を付けろよ」
とたんに足元がぐらつき、思わずしゃがみこむ。
気づけばそこは足場の悪い外に面した石造りの螺旋階段。
手すりも壁もないその階段は足を踏み外せば、真っ逆さまに転落してしまうだろう。
空にそのまま吸い込まれそうなくらい高くまで登ってきたようで、眩しい陽射しは近く、まるで天に届きそうなくらいだ。
「ここは…?」
「天の搭だよ。宝珠がいるって触れ込みの。お前が寝たままだけどあのままあそこにいたら危なそうだからな。」
「高い…」
恐る、恐る下を見下ろすと先程まで自分のいた場所は雲に隠れてよく見えないくらいだった。
あいつ…私をおぶったままここまで…?
「…お…重かった…?」
「いや、別に。どーってことねーよ。」
素っ気なく答えるこうに、ヒナは思わず顔を伏せる。
「…そ…。」
幼なじみだけど、男の子と女の子。
近所に住んでいるとはいえ、次第に距離が開いていた二人。
急に距離が近付いたことで、知らずうちに意識をしてしまったことに戸惑うヒナ。
…何よ、あいつ。こっちの気もしらないで…。
妙な空気感を振り切るように、空を見上げる。
「あ!いたいた!ヒナ~!!」
「え!?」
空の下から上がってくる声に驚き、声の方を振り返るとジュンが奇妙な絵文字の光る円の陣に乗るようにして飛び上がってきた。
「…すご…!」
「さっきまでいた二人がお互い消えてしまったから、もう安全よ。」
「消えた?あの変な男と強そうな女が?」
ジュンは二人の階段の高さまで来ると手を叩き、陣を杖へと変化させ、地面に降り立った。
「??さっきの?二人?」
「ああ、ヒナは寝てたからな。あいつらは一体何者だ?」
「男の方は4DSの四星と呼ばれる幹部、セレメスね。女の子の方は知らないけど。」
「4DS…」
ヒナをどうにかする雰囲気だったな…やっぱ宝珠ってやつを集めるのも一筋縄じゃいかないわけか…
「どうしたのよ?二人とも」
話に入れずにいたヒナが身を乗り出す。
「いや、別に。とりあえずもうすぐ頂上だ。行くぞ。」
考えを振り切るように先陣きって歩き出すこうにジュンも続いた。
「天の宝珠様…いるといいわね。」
「…うん」
ジュンに促され、ヒナも螺旋階段を登りだす。
宝珠…
眠りにつく前のことを思い出し、傍らを飛ぶモンタが重そうに運ぶ本を一瞬見やる。
これを12個…集められるのかな…