3-3 夏の日がおわる
「…さっきの話の続きだけどさ」
そのまま俺達は、コノエの部屋になだれ込んでいた。
さすがにこの部屋の空調はいい感じに効いている。外のうだるような暑さから解放されたのか守られているのか…床の上、めいめいが好きなクッションの上に、座ったり寝ころんだりしている。
「さっきの話?」
「ほら、あのヴォーカリストの」
「…ああ。そうそう。RINGERのでしたっけ。いやあのですね、何か妙に自虐的だなあと思いましてね」
「自虐的…というと」
んー、とコノエは仰向けになって俺の方を向く。
「例えば、二曲目、覚えてますかねカナイ君」
「二曲目? 明るい曲だったよね」
「曲はそうですね」
曲は。やけにそこが強調されて聞こえる。どういう意味、と俺は重ねて訊ねた。
「んー… こう聞こえたんですがね。『望むならあなたの好きなように』…でこの手もこの身体も、とかあなたのために、とか続くんですけどね」
「好きにして、かよ」
「そんな感じでしたけどね」
「…別にいいんじゃないの?」
「何となく、心配になるような歌詞だなあと」
そんなものかなあ、と俺は考えた。だけどそれ以上に奴は言う気配はない。手を伸ばして、クッションの上で膝を抱えているタキノに手を伸ばしてくすぐっている。
どうもそれは、勉強の時と同様、俺が何か気付かない限り、判らないものらしい。
仕方ないから、話題を変えることにする。
「…結局マキノさ、いつの間にかあそこから消えてたよな」
「そうですな」
「やっぱりベルファのメンバーと一緒に居るのかな。今頃」
「…でしょうな」
何となく眠そうな気配。俺は奴の顔をのぞき込む。目が確かに半分寝ている。タキノの方をちら、と向くと、くす、と珍しく彼女は大人びた苦笑を返した。
そして夏の日が終わる。
*
…だが秋が始まった頃、そのマキノの姿がいきなりACID-JAMから消えた。