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4-3 離れてみなくてはわからないもの

 だが奴はなかなか出てこなかった。その間に、俺はマキノをバンドの練習に誘ったりもしていた。

 俺達は何だかんだでよく話すようになっていた。目の大きいこの華奢なクラスメートは、どうやら一度それなりに認識した相手にはそれなりに愛想もよくなるものらしい。

 教室の中、放課後の学食、休み時間の廊下、たびたび俺達は顔を会わせ、他愛ない話をした。

 その都度俺は、奴からさりげなく話を聞き出していた。奴が一人暮らしであること、ACID-JAMに通っていたこと、BELL-FIRSTが好きなこと、故郷はやや遠い所にあること等々。

 そして俺は俺で、何故か現在の生徒会長のことはちゃんと記憶していた奴に、それは自分の幼なじみで、姉貴みたいなものだ、ということをも喋っていた。

 そしてもう一つ。びっくりすると、奴の目は猫の様に大きくなることも。

 一度それを指摘したら、マキノは何となく奇妙な表情になった。



「…ああ、あの子は猫ちゃんって呼ばれていたからね」


とナナさんは言った。

 あれからちょくちょく俺は店に通っていた。店だけでない。時々、教えてくれた電話番号で、彼女と俺は連絡を取り合っていた。

 とはいえ、電話の前に座っている人のことを考えると、うちに掛けさせるのはあまり気が進まなかった。俺は仕方なく訳を話して、彼女の番号をもらった。


「でもカナイ君、おかーさまの方も、何とかした方がいいわよ」

「…そうは言っても、俺に一体何ができます?」

「…何をって…」


 彼女は腕を組んで考え込む。白い腕。細い腕。何となくそれは、タキノのそれを思い起こさせる。女の人は普段、陽に当てることはないんだろうか?その白さが妙に俺の目を離さない。


「…カナイ君」


 はっ、と俺は彼女の腕から目を上げる。

 どうやら彼女は俺の視線の意味には気付いていなかったらしい。俺はややほっとする。手首がすっと上がる。時計の、細い鎖がひらりと輝く。そのままその手は頬杖になる。また、目が離せない。


「おとーさまは、どの位帰ってこないの?」

「え?」

「一度、おとーさまに、たまには帰ってくるように話してみたら?」

「だけど親父も忙しい訳だし…」

「確かにそうかもしれないけど… でも、今キミが心配してるのは、キミの心配するべき分野じゃないと思うわ」

「どういう意味ですか」

「どうなんだろうな… 何って言うか…それは、キミがどれだけ心配したところで、何にもならないことじゃないかなあ。それは、たぶん、夫婦の話よ」


 う、と俺は言葉に詰まった。


「キミの話聞く限りでは、あたしにはそう思えたけど」

「そういうものなんですか?… そう仲がいいようには見えないけれど…」

「うーん…」


 彼女は苦笑する。


「べたべた仲がいいだけが、夫婦じゃないでしょ? それに、離れてみなくては判らないものっていうのもあるからね」


 そして彼女は付け足す。


「少なくとも、キミがそのことで悩む義務はないのよ」


 そういうものだろうか。

 …そういうものなのかもしれない。少なくとも、ナナさんのその言葉が、俺の気持ちを楽にしたのは事実だった。


 そして、離れてみなくては判らないものというもののことも。

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