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錬金術師の箱庭戦争  作者:
第1章
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第6話 『女だらけのゴーレム・ファクトリー』

この世界における多くの城がそうであるように、ホワイトレイクの町にある、純白鳥(ホワイトスワン)伯爵の居城にも、その敷地の大きな部分を占めている建物群がある。



ゴーレム・ファクトリーである。



コアの錬成に始まり、ボディのデザイン、フレームの設計、機体の生産に修復、そして廃棄までを行う、錬金術師の象牙の塔。

大事な大事な宝箱(オモチャばこ)だ。


ホワイトスワン軍の主力戦闘用ゴーレム、【白鳥(シグナス)】も、この中で産声を上げたのである。


工房(ファクトリー)の入口のところに、

『この門をくぐる者は一切の先入観を捨てよ』

と打たれた看板がかかっている。

地獄の門に書かれているという文言をもじったもので、アステリスクが「ゴーレム・マイスター、かくあるべし」などと、()()を発揮して、掲げたものだ。


あらためて見ると、気恥ずかしい。さっさと取り外したいのだが――


「オリヒメ君! ここにいるな、オリヒメ君! さっさと出てきなさい!」


――あの看板をいたく気に入って、断固として下ろさせない原因の名前を、大声で呼ぶ。


「はい?・・・って! うそっ! しっ、しっ、師匠~~~っ!?」


黒髪を無造作にまとめた、上下繋ぎの作業着姿の女性が、素っ頓狂なほどの大声を上げて、アステリスクの顔を指差した。


「おお、やっぱりいたな、オリヒメ君。久しぶ――」


ようやく2人目の仲間と出会えた、と思ったのだが、言い終える間もなく、作業着姿の女性は、まわれ右で後ろを向くと、走って逃げだしたのだった。








錬金術師だから、というわけではないだろうが、オリヒメは運動神経が鈍い。走れば足が絡まり、すぐに転ぶ。

当然、あっという間に捕まってしまった。


「あのな、オリヒメ君。この場合、逃げても解決しないだろう?」


「ごめんなさ~い、師匠~っ」


涙目で座り込むオリヒメ女史。

正面で、困ったようにしゃがみこむアステリスク。

その2人の周囲を、数十人もの、作業着姿の女性たちが、ある者は心配そうに、ある者は怒ったように、ある者は興味深そうに、見守っている。


「・・・まあ、良い勘をしているのは、相変わらず、さすがのオリヒメ君だな。叱られると思ったんだろう? 大丈夫、正解だ」


「あ~んっ! 大丈夫じゃないです~! 許してください~っ」


と、そこへ一人の女性が割り込んだ。


「ちょっと、アンタ!」


2人を囲んでいる女性たちの中から、一人、気の強そうな女性が進み出る。


「どこの誰だか知らないけど、何なの!? ウチらのオリヒメ先生に向かって、偉そうなクチの利き方してくれて! 先生に文句があるなら、アタシが聞こうじゃないか!」


(ヤンキー? ガテン?・・・知らない顔だし、向こうも俺を知らないみたいだな)


瞬間的に、「なんだNPCか」、と判断し、


(いやいや、そうじゃない。こっちの世界では、この人たちこそ、本物の人間なんだ・・・今、ここで認識を改めておかないとダメだ!)


すぐに、「なんだ」と思った自分を戒める。

まっすぐに立ち上がって、気の強そうな女性を含めた全員を見回し、


「失礼した。この工房のスタッフの方々、と見受ける」


ペコリ、と頭を下げた。


「君たちの職場に、突然やってきて、しかも傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な振る舞いをしてしまった。申し訳ない。事情は説明させて頂くが、まずはこの通り、謝罪させて貰いたい」


深く頭を下げたアステリスクを見て、気の強そうな女性スタッフも、毒気を抜かれたようになる。

そこへ、


「違うの、皆、この人はね、あたしの師匠なの! だから、悪くないの! 悪いのは・・・あたしなの~」


と、オリヒメが庇うように立ちあがり、しかし、またヨロヨロとしゃがみ込む。

作業着姿の女性たちが、「大丈夫ですか、先生!」「先生、しっかり!」と、次々と手を差し伸べて、オリヒメを支え、慰める。


そんな状況を、笑いを堪えるようにして、しばらく遠目で見ていたベアトリクスだったが、さすがに収拾がつかないと思ったのか、

パン!、パン!、パン!

と大きく手を叩き、皆の視線を集めると、よく通る声で、こう宣言した。


「ファクトリーで働く諸君! 我がホワイトスワン領のゴーレム・マイスターが、本日、到着された! 只今をもって、錬金術師オリヒメ殿の、工房長代理の任を解くと共に、新たに副工房長に任命する。そして、新しい工房長は、そちらにいる錬金術師アステリスク殿にお任せする!」


シーン・・・と水を打ったような静けさ。その後、スタッフ全員の悲鳴が、工房内に木霊したのだった。








「あたらめて、あたしから紹介するね。こちら、あたしの師匠の、アステリスクさん。本当は、ここも、アステリスク師匠の工房なの。あたしは、お留守番みたいなものだったの」


ファクトリーに残っていた作業スタッフを集めて、オリヒメが説明する。

皆、すぐには状況が呑み込めないという風だったが、ベアトリクスも同様の説明をしたので、ようやく受け入れることが出来た。


「じゃあ、師匠からも挨拶してください」


場を譲られ、アステリスクは、もう一度頭を下げた。


「錬金術師の、アステリスクだ。改めて、謝罪する。騒ぎを起こし、不快な思いをさせて申し訳ない」


重ねての謝罪に、スタッフたちが「もういいですから」「こちらこそ、すみませんでした」と、口々に言う。


「あの!」


一人のスタッフが手を挙げる。見れば、先ほどの気の強そうな女性だ。


「班長のリゼラ・レッグストロングです。アステリスク様に質問です。さっき、オリヒメ先生を泣かせた理由を説明してください!」


この国における錬金術師は、かなりの知的エリート職業であり、一流の錬金術師であれば、自動的に貴族と同等の扱いを受ける。

それ故だろう、言葉遣いは敬語になっていたが、彼女の表情は、そのセリフほど大人しくはなかった。


「待って、リゼラちゃん、違うの。悪いのは――」


「ストップだ、オリヒメ君」


アステリスクは、隣のオリヒメを制し、リゼラに向かって言う。


「班長といったが、君がここのスタッフのリーダーか?」


「違います。オリヒメ先生がボスで、スタッフは3チーム。アタシと、ここにいる連中は、第1チームで、アタシはその班長。分かった?」


すでに敬語が(ほころ)び始めていたが、構わず応じる。


「理解した。その上で訂正するが、今、ここのボスは私だ。オリヒメ君ではない。ここまでは分かるか?」


「・・・ああ、分かる」


悔しそうにするが、ベアトリクスをチラリと見て、頷く。

ベアトリクス将軍は、ホワイトスワン伯爵領の最高幹部であり、町を守っている英雄である。その決定に異議は唱えられないのだろう。


「では、リゼラ君、この工房のボスとして、君を私の第一助手に任命する」


「・・・はぁ!?」


「私と、オリヒメ副工房長に次ぐ、ナンバー3のポジションを君に任せる。ここまでは分かるか?」


「えっ・・・いや、えっ?・・・分かんねえよ!?」


「宜しい。では分かるように、これから理由を説明しよう。ついでに、先ほどの君の質問、何故オリヒメ副工房長が泣いたのかの説明にもなる筈だ」


そして、ファクトリーの奥へと歩き出しながら、こう言った


「オリヒメ君、リゼラ君、付いて来たまえ! 他のスタッフは仕事に戻って良し! ただし、リゼラ君のように、先ほどの騒ぎの理由が気になるという者は、付いて来て構わない!」


そして結局、ほとんど全員が付いて来たのだった。


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