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錬金術師の箱庭戦争  作者:
第1章
7/17

閑話 『錬金術師の思い出』

それは不意に、走馬灯のように、頭の中に蘇った。


壮大なBGMと共にスクロールしていく、あの懐かしきゲーム『ゴーレム・ウォー』のオープニング・デモ。

そして、錬金術師としての第一歩となる、ゴーレム作成のチュートリアルの風景である。







――古き歌に(いわ)く。

――空の月が、まだ一つだけだった頃、世界は平和であった。





「それでは、始めるとしよう。2度とは教えぬゆえ、そう心得て、よく学ぶのじゃぞ」


「はい、導師」




――ある年のこと、空の月が、二つに増えた。

――それは、平和の終わりであり、悪魔の軍勢による侵略の始まりであった。





「この部屋をよく見るが良い。錬金術を知らぬ者には、ただの書斎に見えるじゃろう。しかし、この部屋そのものが、魔法陣であり、祭壇(さいだん)なのじゃ。

 とりわけ、本の配置は、儀式の(かなめ)となることを銘記(めいき)せよ」


「はい」


「では、右奥の書架、上から2段目、右から7冊目にある『不死鳥の杯』を、背面の書架、一番下の中央に収めよ」


「はい、導師」





――押し寄せる悪魔との戦争は、百年もの長きに渡った。

――人類は、多大な犠牲と引き換えに、悪魔を退治することに成功した。





「次に、左手前の書架、下から3段目、右から3冊目にある『世界の始まりの調』を、右中央の書架、中央の段の左端に収めるのじゃ」


「はい、導師」





――悪魔が去った後の世界は、静寂であった。

――かつての実り豊かな大地は、荒野と化していたのである。





「『精霊百人一首』を――」

「『アマゾネス化粧呪文』を――」

「『宝石島奇譚』を――」

「『牛頭馬脚の黄泉路返り』を――」


「はい、導師」





――人類はまず、不毛の大地の復興に着手した。

――戦いの中で、多くの知識や技術が失われており、作業は難航した。

――しかし、苦難の時代は、そう長くは続かなかった。





「――うむ、これで準備は完了じゃ。では、いよいよ、神力魔核(マナードコア)の原石を、台座に捧げるぞ。正確に、六芒星(ヘキサグラム)の中央になるよう、注意するのじゃ」


「マナードコア?」


「先ほど、大きな石を1つ、預けたじゃろう。それがコアとなるのじゃ」


「あ、これですね」





――今では伝説となりし、偉大なる賢者、ワイズマン。

――彼は、失われた『錬金術』を復活させることに成功した。





「ここで、呪文(キーワード)を唱える。短いが、聞き漏らすでないぞ。よいか? ゆくぞ?


偉大なる(ミ・シャルロス・)始まりの(ミ・シュトレイス・)四つと(ミ・シェリス)

 セアルティ、(セール・セアルティ・)イグルディ、(ケール・イグルティ・)バラルキィの(ソール・バラルキィ)

 聖印の下に(ラ・ラ・エルフィル・)鼓動となれ(アプロヴィナス・ロー)


 ・・・どうじゃ、覚えたであろうな?」


「はい・・・・・・はい、大丈夫です、覚えました、導師」


「唱えてみよ」


「はい・・・『ミ・シャルロス・ミ・シュトレイス・ミ・シェリス・セール・セアルティ・ケール・イグルティ・ソール・バラルキィ・ラ・ラ・エルフィル・アプロヴィナス・ロー』」





――ワイズマンの錬金術は、ゴーレム創造の秘術であった。

――生み出されたゴーレムたちは、牛馬以上の労働力となり、復興を大いに助けた。





「さあ見るがいい。ただの石コロでしかなかったものが――この通り、宝石の(ごと)く輝く。これが、コアじゃ。ゴーレムの心臓なのじゃ」


「はい・・・とても綺麗です」


「隣の部屋へゆくぞ。このコアを、ゴーレムの肉体(ボディ)に納めるのじゃ」


「はい、導師」





――ゴーレムは、畑を耕し、家を建てた。

――が、それだけではない。

――辺境にいまだ巣食う、悪魔の生き残りたちと戦う、戦士にもなった。

――ゴーレムは、生活の友であり、頼れる守護神であった。





「最後に外部装甲(フレーム)を取り付ける。外装(フレーム)はゴーレムの、『顔』であり、『服』であり、『鎧』であると心得よ。

 田畑を耕すにも、戦場で争うにも、フレームが無くてはすぐに傷つき、壊れてしまうのじゃ」


「はい、導師」





――だが、徐々に、別の使われ方をするようになる。

――各地の領主が、互いに相争うようになったからだ。

――いわゆる、『ゴーレム・ウォー』時代の幕開けである・・・。





「これにて完成となる。全ての錬金術師にとって、始まりのゴーレム、【ベイビー】じゃ。これより先、お前が創る全てのゴーレムは、この子の兄弟であることを、ゆめ忘れるでないぞ」


「はい。ありがとうございました、導師」


「よいか、アステリスクよ。今日からお前は錬金術師として――」








「――どうしたの、アステリスク?」


ゴーレム・ファクトリーへと向かう途中。

ふと気づくと、ベアトリクスがこちらを振り返って、小首を傾げていた。


「・・・いや、この窓から見えたものでな・・・月が」


窓の外は、すでに日が暮れていて、空に浮かぶ2つの月が、美しく輝いている。


「月?」


「ああ、なんだか・・・一瞬、頭が、走馬灯になってた」


そう、あれは・・・初めてゴーレムを作ったときのこと。

『ゴーレム・ウォー』に夢中になり始めた頃の、思い出だ。


錬金術のチュートリアルに登場する『導師』は、本当に大事なことでも、絶対に一度しか言ってくれないので、必死にメモを取って、暗記したものだ。


(・・・ミ・シャルロス・ミ・シュトレイス・ミ・シェリス・セール・セアルティ・ケール・イグルティ・ソール・バラルキィ・ラ・ラ・エルフィル・アプロヴィナス・ロー・・・・・・忘れないものだなあ、これだけは・・・)


「・・・さ、行きましょう? 工房のスタッフが帰ってしまわないうちに」


「ああ・・・そうだな」


夜空に浮かぶ、双子月。

それは、あらためて、ここが『ゴーレム・ウォー』の世界であり、自分が錬金術師であることを、教えてくれているようだった。


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