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錬金術師の箱庭戦争  作者:
第1章
6/17

第5話 『白 VS 黒』

「まず、あたしたちの町、ホワイトレイクは、ここ」


タペストリー地図の上に、ポン、と駒を置く。

サイドボードのチェス盤に並べてあった、白色(ホワイト)王様(キング)の駒だ。



=======

≫ [白王](ホワイトレイク)

=======



タペストリー地図は、王国の南西地方の一部をクローズアップしたもので、純白鳥(ホワイトスワン)伯爵領を中心にして、かなり広い範囲の描かれている。


「ホワイトレイクの町を中心に、5つの拠点があるんだけど、町と呼べるほどの規模があるのは、ここと、もう一つ、リバーサイドの町だけね」


言いつつ、白色(ホワイト)歩兵(ポーン)の駒を置く。



=======

≫   [白兵](リバーサイド)

≫ [白王](ホワイトレイク)

=======



「こうしてみると、小さなものだな」


「世界が広いだけ。ホワイトスワンは、れっきとした伯爵の格なのよ?」


北には連なる山脈があり、南は砂塵の舞う荒野へ。

東に向かえば大街道に繋がり、その先は地方総督府へと通じる。

西へ向かえば緑が増え、その先には大森林地帯、となっていたはずだ。


「ヘルハウンドの中心都市、ケンネル=タウンの町は、ここね。あっちは、ウチよりも大所帯よ。町も2つあるしね」


「タウンの町、って変じゃないか?」


「あたしが名前を決めたんじゃないもの」


今度は、黒色(ブラック)王様(キング)の駒を取り、ホワイトレイクの下側、南の位置に置き、さらにその付近に、黒色(ブラック)歩兵(ポーン)も並べる。



===========

≫   [白兵](リバーサイド)

≫ [白王](ホワイトレイク)

≫         [黒兵]

≫     [黒王](ケンネル=タウン)

≫   [黒兵]

===========



「それで? 地図を見て、どうするの?」


アステリスクは思案顔で頷いた。


「ベアトリクス、この辺りで、一番大きい勢力はどこだ?」


「この辺りって、どの辺りまで? 地方総督府も入るなら、当然そこが最大勢力だけど」


「・・・基準は、シルバー級だ。ヘルハウンドに、シルバー級の量産機を、相当数、を流したヤツがいる筈なんだ。この辺りで、それが出来るギルドは、どれだ?」


「えっ・・・? ど、どういうこと?」


唐突に何を言い出すのかと、驚くベアトリクス。

しかし、アステリスクの声には自信があった。


「戦場跡に落ちてた赤いゴーレム、あれは敵が乗っていた機体だろう?」


「【フランベルク】のことね?」


「確か、ブロンズ級の戦闘用ゴーレム、だったな?」


「そうよ?」


「違うな。あれは、シルバー級だ」


「えっ・・・えええーっ!?」


アステリスクの言葉に、よほど意表を突かれたのだろう、


「そ、そんな筈は! 【フランベルク】はブロンズ級、間違いないわ!」


思わず立ち上がりそうになるベアトリクス。

すると、ポン、とアステリスクの手が、ベアトリクスの頭を叩く。


「な、なによ?」


「うっかりしてるぞ、ビー君。ゴーレムの等級を決めるのは、コアとボディだ。外装はどうにでもなる――簡単に取り換えが利く部分だろう?」


「あっ・・・!? ゲームなら、外見で中身をカモフラージュする意味なんて無かったけど・・・こっちの世界でなら!」


こちらの世界は、ゲームと違い、いろいろなデータや数字が、目には見えない。

ゴーレムの外見が同じだからといって、中身まで同じかどうかは、確かめてみなければ判別出来ないのだ。


「そうか・・・あのとき、あたしの戦列突撃を迎え撃った【フランベルク】は・・・そういうことだったのね!? なら、あの固さも分かる・・・!」


悔しそうに床を蹴るベアトリクス。

何も言わずに待っていると、フゥ・・・と、溜め息のように息を吐いた。


「・・・ごめんなさい、アステリスク。ビックリして、それに、自分が情けなくって、ちょっと取り乱したわ」


「問題ない。それに、勝ったのは君だぞ」


ポン、と肩を叩く。


「ヘルハウンド軍は、地力(ぢりき)の優位をカモフラージュで隠して、上手く罠に()めたと思った筈だ。きっと、今の君どころじゃないくらい、悔しがったことだろう」


「フフッ、そうね。そう思うと、やっぱりあたしって凄いのね?」


「天才だよ。で、天才の将軍閣下に、教えてほしい。ヘルハウンドに、シルバー級を提供することが出来るギルドは?」


すると、ベアトリクスは、クスッ、と笑って、サイドボードから、黒色(ブラック)女王(クイーン)の駒を取る。


「コイツよ!」


トン!、と音を立てて、褐色の指が、タペストリーに駒を置いた。



====================

≫   [白兵](リバーサイド)

≫ [白王](ホワイトレイク)

≫         [黒兵]

≫     [黒王](ケンネル=タウン)

≫   [黒兵]

≫          

≫                [黒女王]

====================



「ギルド『ブラッディランス』。第3次サーバー出身の、戦争狂どもよ」








――血塗れ槍(ブラッディランス)公爵領。


その中心都市、レッドウォールの町は、重厚長大な城壁に囲まれた、堅牢な城塞都市である。

その町の中央には、巨大な黒い城が建っている。城の外壁は、ところどころに赤染めの布を垂らしており、遠目からは城そのものが血を流しているかのように見えた。



城の中に入ると、驚くほど質素である。

権力者の権力(パワー)を象徴するような豪勢さが、ほとんど感じられない。


その代り、なのかどうかは知らないが、詰めている兵士は、かなり多く、皆に、立派な鎧に、靴、小手、マントと、統一した装備を与えられている。

もし、彼らを城の装飾品の一部だと見なすのであれば、質素どころか、実に豪勢な城といえるだろう。


中央の階段を上がった先の広間では、伝令の兵士による報告が行われていた。


「失礼いたします! ヘルハウンド侯爵バレンチーノ様より、お手紙が届きました!」


広間の奥、高くなっている場所に(しつら)えられた椅子に、短外衣(ケープ)を纏った女が座っている。

周囲の者たちが、比較的に簡素な装束であるのに対し、この女の身に纏っているものは全て、貴金属や宝石で飾られている。短外衣(ケープ)にも、青や緑などの、彩り豊かな大きな羽根飾りが、わんさと付いていた。

顔は、黒い薄布(ヴェール)を垂らしており、よく見えない。


この女こそ、血塗れ槍(ブラッディランス)公爵エリザベス、その人であった。



「読むがよい」


「えっ、しかし、侯爵様から直々の親書なのですが・・・よろしいのでしょうか?」


(わらわ)に、2度、言わせるのか?」


薄布(ヴェール)越しの声は、広間に冷たく響いた。


「し、失礼しましたッ! それでは、代読させて頂きます! 『麗しきエリザベス様へ――』」


「世辞は飛ばせ。用件のみ、伝えよ」


「ハッ!・・・ヘルハウンド侯爵バレンチーノ様は、援軍を求めておられるようです。えー・・・

 ・・・先日の、ホワイトスワン伯爵領への攻撃に際して被った損害のうち、もともと、ヘルハウンド軍の保有していたゴーレム部隊の損耗分については、順調に回復中であり・・・

 ・・・しかし、ブラッディランス軍から借りていた部隊の損耗分は、補充を送って貰いたい、とのことで・・・

 ・・・そして次回の侵略を成功させるためには、さらに増援が欲しい、と・・・

 ・・・以上です!」


広間が静まり返る。

エリザベス公爵が、この手紙に、どのように反応するのか、様子を(うかが)っているのだ。


(わらわ)の軍勢を()()に失っておいて、また送れ、とな。それも、もっと増やせ、とな」


クックック、と薄布(ヴェール)の奥で、女公爵が笑う。

部下たちは背中に冷や汗を感じながら、主人の激昂を予感した。


だが、


「よい。叶えて遣わせ」


エリザベス公爵は、呆気ないくらいに、すんなりと頷いた。


「前に貸したのは、50、じゃったか? では次は、100、送るがよい」


それどころか、大盤振る舞いである。

さすがに疑問を感じたか、一人の武官が、勇気を奮って進言した。


「お、お待ちくださいませ、閣下。ヘルハウンドとて一個の領主。それに対し、100もお与えになる必要がございましょうか? 援軍を欲しがっている軍は、他にいくらでもございます」


その言葉は、他の家臣たちの共感を呼んだ。たとえ言葉に出さなくとも、頷き、視線を送る者たちは、決して少なくはなかった。

女公爵が、答えた。


(わらわ)に、2度、言わせるのか?」


その一言で、すべての家臣が平伏した。

勇敢だった武官は、他の誰よりも深々と、床に頭をこすり付けて、主人に忠実であることを態度で示したのだった。








「戦争狂? ブラッディランスが、か」


「もちろん、『ゴーレム・ウォー』は、そういうゲームだから、まったく否定はしないけどね」


血塗れ槍(ブラッディランス)公爵は、この南西地方に割拠する領主たちの中でも屈指の勢力であり、その母体となっているギルドは、第3次サーバーで活動していた『ブラッディランス』という武闘派ギルドである。


「もともと、第3次サーバーは、殺伐とした戦国時代のノリだったし・・・だけど連中は、ちょっと異常なくらいに好戦的よ」


ブラッディランスは、こちらの世界にやって来るなり、真っ先に戦争を始めたのだという。

しかも、一年以上を経た今日に至るまでも、常に、どこかと戦争をしているらしい。


「まったく、呆れる戦争マニアっぷりよ。ウチみたいな穏健派ギルドでは、ちょっと想像もつかないノリだわ」


「こら、ベアトリクス。他人事(ひとごと)みたいに言うな」


他人事(ひとごと)だったんだもの。隣近所(となりきんじょ)っていうほど近くはないし。いずれ飛び火してくるかもしれないけれど、その前に潰れると思ってたわ。いくら大手といっても、見境なくケンカを売ってばかりじゃ、ね――」


ベアトリクスは、肩をすくめて苦笑する。


「――ところが、もう飛び火してたのね?」


「ヘルハウンド軍に戦力を提供したのが、ブラッディランス軍だとすれば、だが」


「間違い無いと思うわ。ヘルハウンドと戦争になってから、それなりに調べてはいたの。生産力とか、交友関係とかね」


「繋がりがあったのか?」


「ヘルハウンドは、第4次サーバー時代から、ライバルがいたの、覚えてる?」


「ああ・・・確か、キングコング、だったか」


ギルド『火炎犬(ヘルハウンド)』と、ギルド『暴れ王猿(キングコング)』は、文字通りの犬猿の仲で、絶えることなく小競り合いをしていた。


「逆に、仲が良いんじゃないかと思っていたが」


「そういうウワサもあったわ」


ともあれ両ギルドは、こちらの世界に来てからも、犬猿の仲を続けていたらしい。


「なのに、少し前に、急に和解したの。その後、ウチに宣戦布告してきたわ。それで――」


「両者の和解を取り持ったのが、ブラッディランスか」


「――っていうことみたい。何故そんなこと、って思ってたけど、これで納得。ようするに、2つのギルドを同時に傘下に収めたわけね。たぶん、脅迫に近い感じで」


不愉快そうに眉をしかめるベアトリクスに、尋ねた。


「キングコングは、今、どうしている?」


「分からないわ。調べてみる?」


「頼む。が、取り敢えず後回しでもいい。今は、こっちが大事だ」


アステリスクは、テーブルの上の織り掛け布(タペストリー)の地図に並べられたチェスの駒の一つ、黒女王(ブラッククイーン)を指で弾くと、こう言った。


「私の仕事をする。ファクトリーに案内してくれ」


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