第1話 『始まりのメール』
それは、ある一通のメールから始まった。
『この度、ゴーレム・ウォーは再び生まれ変わります。
リニューアル・ワールドで、新たな戦いが始まります。
いいえ、すでに戦いは始まっているのです!
私たちは、あなたの参戦を期待しています』
記載のURLを叩くと、ブラウザが起動する。
それは確かに、愛すべきMMOSLG、『ゴーレム・ウォー』のウェルカム・サイトであった。
MMOSLGというのは、その名の示す通り、
・大勢のプレイヤーが同時に参加する
・シミュレーションゲーム、とりわけ経営&戦争シミュレーション
のことだ。
おそらくは海外のゲームにその萌芽があり、その後を追うように、日本国内でも様々な人気タイトルが生まれた。
『ゴーレム・ウォー』はその潮流の、おそらくは最先端に位置する1つである。
プレイヤーは、架空世界の錬金術師となる。
小さな領地を経営しつつ、「ゴーレム」と呼ばれる人造の巨人を開発・生産。
そして戦場へと送り込むのである。
最大のセールス・ポイントは、ゴーレム開発システムだろう。
試作型ゴーレム【ベイビー】、および、その派生型である2種類のゴーレムの開発は、マニュアルが示される。
2種類のゴーレムは、【ワーカー】と、【ウォーリアー】という。
ワーカーは、その名の通り、労働者だ。
これで、領民たちの手作業で進めていた作業が、グンと捗り出す。
ウォーリアーも同じく、その名の示す通りの、戦士だ。
これまでは脅威だった、山賊や、野犬の群れなどを、蹴散らしてくれる。
ゲームを進めて、ここまで開発すれば、とりあえず合格だ。
ぎこちなかった領地経営も、かなり楽になるし、やっと戦場にも出られる。
が、ダメなのだ。
それは、初めて戦場に出たとき、誰もが驚く光景である。
プレイヤーの間では『赤紙』と呼ばれる、定期的に発生する全体イベント。
国王からの招集命令に応じて、それまでは領地の治安を守っていたウォーリアー部隊を率いて、最前線へと駆けつける。
そこで行われるのは、遥かなる彼方よりやってくる悪魔の軍勢から、王国を守るための戦争である。
そこで、ふと、隣を見る。自分と同じように、領地から部隊を率いて駆け付けた仲間たちを。
いない。
右を見ても、左を見ても、苦労して作り上げた戦闘ゴーレム【ウォーリアー】は、いない。ウォーリアーよりも強そうな、色とりどりの、オリジナル・ゴーレムの部隊が、整然と並んでいるのである。
「なにあれ! どうやって作ったの?」
という疑問を言葉に出す暇もないまま、戦争が始まる。
すると、マニュアル通りに作成されたウォーリアー部隊は、ほとんど何も出来ずに倒されていくのである。
それに、強さだけの問題ではない。
【ウォーリアー】は、決して洗練されたデザインはしていない。むしろ、ダサい。
いや、あえてその無骨な外見が好き、というプレイヤーもいるのだが、やはり少数派である。
多くは、他のプレイヤーのオリジナル・ゴーレムのデザインを見て、自分の率いてきたウォーリアーのダサさに、恥ずかしくなる。
おのぼりさんが、都会に出てきて、初めて「オシャレ」というものの存在に気付かされたときの恥ずかしさに、似ているかもしれない。
挫折感を抱えて領地に逃げ帰ったプレイヤーは、オリジナル・ゴーレムの開発に着手するわけだが・・・そこが、もっとも苦労するところであり、そして醍醐味でもある。
何故ならば、この先のマニュアルは無い。自力でなんとかするしかないのだ。
まず、推理と試行錯誤。
そして、経験と勘。
その末に、やっと自分だけのオリジナル・ゴーレムが誕生する。
この、我が子にも等しいゴーレムが、軍勢を成して戦場を行進する雄姿を見たとき――錬金術師は、涙を流すのである。
こうして始まった『ゴーレム・ウォー』は、その後も新要素を加えつつ、発展してきた。
第2次サーバーがリリースされると、ギルドが誕生する。自分の領地に籠ってゴーレムを開発するだけでなく、仲間と協力して未開の地へ進出する者たちが現れ、ゲームに開拓時代が到来する。
第3次サーバーでは、プレイヤー間での戦争が解禁された。これにより、ギルド同士の戦国時代が到来する。
第4次サーバーでは、新クラスが正式に追加される。錬金術師としてゴーレムを創造するだけでなく、自らが乗り手としてゴーレムに騎乗し、戦場を駆け巡ることが出来るようになったのだ。
ゴーレムを造り、
ゴーレムに乗り、
ゴーレムと戦うゲーム。
これが、現在の『ゴーレム・ウォー』の姿なのである。
ブラウザに表示される、
『リニューアル・ワールドへようこそ!
貴方は、この世界の住人となることが出来ます。
ゴーレム・ウォーの世界へ移動しますか?』
というメッセージに、もちろん、
【イエス】
を選択する。
このゲームにハマッって以来、錬金術師としての腕を磨き上げてきた。新サーバーで、その腕前を試してやりたい。
ワクワクしていた。
だから、とうとう最後まで気付かなかったのだ。
『リニューアル・ワールド』だと思っていた文字が、
『リアルニュー・ワールド』だったことに。
それが、文字通り、本物の(リアル)、新世界(ニュー・ワールド)を意味していたことに・・・!
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『「未来の結婚相手が、」』(全4話・完結済み)
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