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錬金術師の箱庭戦争  作者:
第1章
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プロローグ 『ゴーレムの戦場』

荒野の中に、防塵(デザート)ゴーグルをつけた、褐色の肌の女がいた。

その身に(まと)うのは、皮革(レザー)の戦装束である。


女はふと、空を見上げた。

頭上にあるのは白い雲さえも無い、限りなくどこまでも広がる青空だ。それと、中天の太陽である。強い日差しが、枯れた大地を――そして、大地に立つ、白いゴーレムを照らしていた。


白いゴーレムの後頭部に着座した女戦士は、背中から吹きつける乾燥した風に髪を遊ばせながら、微笑んだ。



「フフッ・・・今日は、死ぬには良い日、ね――」



歌うように呟きながら、視線を下ろす。岩だらけの斜面の先で、百を超す数の赤いゴーレムの軍団がこちらを見上げていた。

敵がいる。だが、味方もいる。

彼女の後ろには、彼女が乗っているものと同じ、白いゴーレムの軍団が整列を完了して命令を待っていた。


"ゴーレム"――魔法の心臓と、鋼の肉体を持つ、人造の巨人。この世界における主戦力である。


『閣下? ベアトリクス将軍閣下?』


女戦士が髪飾りのように()している受信羽(レシーバー)が、後方にある本陣からの声を伝えてきた。

荷車とテントで組んだ簡易の本陣には、偵察チームやゴーレム技師たちが詰めている。彼らは今、神に祈っているのだろうか。



「――ああ、聞こえている」


『全部隊の布陣が完了しました。各隊長とも、閣下の合図を待つ、とのことです』


「宣戦布告はまだだったな?」


『はい。使者を立てますか?』


「そうだな――」



眼下に広がる、赤茶けた不毛の大地。そこに立ち並ぶ、赤の一色に塗られたゴーレムの群れ。その先頭に立つ、敵将と、目が合った気がした。

ベアトリクスが、静かに手を振り上げる――と、応じるように、敵将の手が上がった。



「――いや、構わん。挨拶は要らぬとの返事だ。皆に送れ。『作戦に変更無し、我に続け』だ」


『ハッ。ご武運を祈ります』



しばしの静寂。

ベアトリクスの手が、風を巻いて、振り下ろされた。



ドッゴォンッ!



轟音。そして、大地が揺れた。

百を超すゴーレムの足が、一斉に地面を蹴りつけたのだ。それはあたかも、天空の宮殿に住む巨人が持つ、城をも粉砕するというウォーハンマーが振り下ろされたかのような衝撃であった。


間を置くことなく蹴り足が2発、3発と響き、その後は、もはや豪雨の如き怒涛(どとう)となった。


寡黙(かもく)なゴーレムたちは、戦場を駆けていても、人間のような喚声を上げることはしない。

その代わり、重金属のボディが熱を帯びて(うな)り、陽炎(かげろう)を立ち昇らせながら、大地を踏み鳴らす。

それこそがゴーレム兵団の咆哮(ほうこう)であり、戦士の雄叫びであった。




ベアトリクスの視界の中で、敵軍が、密集陣形をとる。

重歩兵型ゴーレムを最前列に隙無く並べ、さらに第2列、第3列が、前列の背中を押すように支えることで、厚く、堅く、陣を重ねている。

ただでさえ重厚な巨躯(きょく)を誇るゴーレムが、その身を連ねて壁となろうというのだ。まるで荒野の真ん中に、突如として(くろがね)の城が現れたかのような威圧感であった。



「フフッ・・・アッハハハハハ!」



陽光を反射して純白に輝くゴーレムをその腕で()りながら、ベアトリクスは笑った。


(戦列突撃を、多重戦壁で迎え討つ――この敵、会戦の醍醐味(だいごみ)が分かっている!)


あらためて、指揮下のゴーレムたちに『全力突撃』命令を送ると、忠実なる白亜のゴーレム軍団は、恐れることも怯むこともなく、一心不乱に加速していった。

土煙を巻き上げながら、赤いゴーレムの壁にめがけて、愚直(ぐちょく)に突っ込んでいく。


(さあ戦士たち、敵を砕きなさい! さもなければ、砕かれて散るがいい!)


褐色の肌の女将軍は、敵将の乗る、ひときわ頑強そうな一機に狙いを定めると、最後の加速をかけた。

多重関節機構を備えたゴーレムの両脚が、最後の一歩で深く沈み、そして、跳ね上げる。

次の瞬間、両軍は文字通り"激突"した。



ドガガガガガガガガガガガ・・・・・・ッ!



破壊と、破滅の音が、機関銃のように立て続けに鳴り響いた。


――大地を駆け下りた、白いゴーレム軍団は、

――あたかも"壁"のごとき敵にぶつかった。


――大地を踏みしめて備えた、赤いゴーレム軍団は、

――あたかも"津波"のごとき敵にぶつかられた。


ベアトリクスの白いゴーレムは、敵将を乗せた赤いゴーレムの足を完全に浮かせて、なおかつ、自身はまったくの無傷であった。

激突のタイミングと角度を完璧にコントロールすることで、自機が負うべき衝突の負荷を、敵機に押し付けたのである。


だが、他の味方たちは、同じようにはいかなかった。

敵の最前列に並ぶ、赤いゴーレムたちの半数近くを砕いた・・・が、その代償に、こちらは半数以上が砕けてしまっていた。

左右の被害を見て取ったベアトリクスは、眉をしかめた。


(まさか、これほど硬いとは思わなかった――)


ある程度の損害は覚悟していた。わざと敵から見えるように整列し、一斉突撃の構えを見せて、正面衝突を誘ったのだから。

しかし、敵のゴーレムの堅固さは、想像以上だった。あまりの被害に、一瞬、"即時退却"の選択肢が脳裏に浮かんだほどである。


(――けれど、その甲斐はあった)


天才的な騎乗術を披露したベアトリクスは、同時に、卓越した眼力をも発動させていた。

大きく跳ね上げてやった赤いゴーレムから、敵将が振り落される様子を、スローモーションカメラのように把握していたのである。

だから、放物線を描いて落ちていこうとする敵将に、乗機の両腕を振り向けることが出来た。


バシュッ、バシュン!


アレスト装備と呼ばれる、対人用スタン弾のシャワーが2発、正確に敵将を捉える。

ただでさえゴーレム同士の正面激突による衝撃を浴びたところに、ゴム弾の集中豪雨にさらされたのだ。着込んだ革の鎧(レザーアーマー)がどれほど優秀でも、(あらが)えるものではない。


無力化した敵将を捕まえると、ベアトリクスは信号弾を投げ上げた。



――≪我≫

――――≪敵将≫

――――――≪撃破≫



その意味は、即座に敵味方に伝わる。

指揮官を失った以上、敵の選択肢は限られる。

思った通り、赤いゴーレムの軍団が、ゆっくりと後退を始める――よりも早く、ベアトリクスは新たな指令を発していた。


『全軍突撃』


正面衝突を生き残った味方の隊長たちと、彼らの率いる白亜のゴーレムたちが、一斉に動き出す。



「一機も逃がさない、全て刈り尽す!」



褐色の肌の女将軍の声が、荒野を貫いた。








その報せは、風よりも速く駆け巡った。


純白鳥(ホワイトスワン)伯爵領軍、

   火炎犬(ヘルハウンド)侯爵領軍を、

     一度の会戦の内に撃破せり。』


そして、ベアトリクス将軍の勇名が、近隣所領にまで鳴り響いたのである。

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