無力
パソコンの調子が悪くて投稿が遅れてしまいました
「死にたい死にたい死にたい……」
俺は公園の片隅にある木に頭を打ちつけながらぶつぶつと呟いていた。
ああ……それにしても……死にたい……いっそ殺してくれ……。
「何をぶつぶつ言っているですか?」
そんな俺に、呆れたように腰に手を当てながら稲宮が問いかけてくる。
「稲宮か……お前にもあれを見られてしまったか……なぁ、どうすれば楽に死ねる?」
俺は涙で滲む視界で稲宮を捉えながら、心の底から問いかける。
今、俺はフルゲージ状態が解けた。あれは数分間しか持たない。フルゲージ状態のときは、大抵危機的状況だし、なぜかあの状態だとテンションも変になる。だからその時は自身の発言も少し恥ずかしいと思うだけだ。だが――解けてしまったが最後、意味不明の妙で寒い言い回しを連発してしまった直後に冷静になったら、死にたくなる。
「ああ、あの不運と踊っちまった、みたいな台詞のことですか。えーっと……そう、B級洋画の日本語訳みたいな――」
「殺せええええええ!」
ぎりぎり目の中にとどまっていた涙は、稲宮の追撃によってついに流れ出した。
「神坂さん、台詞は少々恥ずかしいですが……先ほどは助けていただいてありがとうです」
「いや、それは当たり前のことをしたからそれでいいんだ。そう、あの後の台詞がなければとっても当たり前だったな。……稲宮、殺してくれ……」
稲宮のお礼に、俺は木に頭を預けながら返事をする。
まだ関わりが少ないとはいえ、救える命が救えたのだから喜ばしいことだ。あの後の台詞がなければ。
「命の恩人は殺せないです。それと、私のことは颯希でいいですよ。こちらも龍也さんと呼ばせて頂くです。ほら、さっさとあの男を尋問するですよ」
稲宮――颯希と呼べと言ってきたから颯希か――は最後に小さく微笑みながらそう言って、気絶した後に縄で縛った男の方に歩いて行った。
俺も颯希に付いていくように、頭の中で練炭と七輪の計算をしながら歩いていく。
俺たち魔法使いは、常に縄を持ち歩いている。いつ襲われるかわからないし、相手を捕縛するのには必須の道具だからだ。
「ちっ……」
サングラスを外すと、その下には目つきの悪い目があった。今や黒服サングラスではなく、黒服だけになった男を見下ろしながら、問いかける。
「で、お前はどこの勢力だ? いきなり襲いかかってきたところを見るとどう考えても敵対勢力だが」
「答える義理はない、恰好付けめ」
「死にたい……」
心が一発で折られた。男の返答に。
「役に立たないですね、龍也さんは……」
颯希がうなだれた俺を見下ろし、小さくバカにしたのが分かる。
「さてと……いいですか、杖使いさん。貴方には、残念ながら選ぶ権利はないです。私たちを襲った以上、こちらの勢力がどんなところかもご存知ですよね?」
颯希は冷たい目で男を見下ろし、そういった。
「くっ……! 分かったよ。我らは――」
男が颯希の脅しに諦め、話そうとしたとき、
ヒュンッ、
と高い。風を切る音が響いた。
風を切って飛んできたのは、片面が白と黒で、片面が赤い、何かのカード。
どこかで見覚えのあるそのカードは、光っていた。
「「えっ?」」
とっさのことに、俺たちは唖然としているだけ。
そのカードは、男の首に刺さり――光輝いた直後、『爆発』した。
「ああああああああああああっ!!!」
正確には、爆発したように見えた。
カードから突然激しい炎が噴き出し、男を包み込む!
男は体を抱えて、炎に包まれながら大きな悲鳴を上げる。
「くそっ!」
俺はとっさに魔力を吸収して沈下しようとするが、フルゲージ状態でもないため危険が付きまとう。
颯希はとっさに鞄をとりに行き、そこから水筒を取り出して中身を男にぶちまけた。しかしそれも焼け石に水。大して勢いを緩めることもできず、男は苦しみ続ける。黒い服と髪の毛が焼かれていき、肌が爛れ、炭化していくのが見えた。
「颯希、水道だ!」
「はいです!」
公園に備え付けられている、ホースつき水道に駆け寄り、水を放出する。
しかし、水道から男までの距離は少し離れており、水がうまく届かない。
蛇口を全力でひねってぎりぎり届いたころには――男の体はほとんど、焼かれていた。
さきほどまでの騒がしさが嘘みたいに消え、静寂が訪れる。
俺と颯希はただ茫然と、男の焼死体を見下ろすことしかできない。
男の死体は――俺たちの無力さを物語っているようだった。
今回は区切りの都合で短いです。




