序章
新作に目を通して頂きありがとうございます。
平和な現代社会の裏。科学の世界と同じように、非科学的な世界が存在する。
それは魔法。科学が台頭した世界に置いてその勢力は弱まっているものの、依然活動は続いている。
科学と違って、それぞれ違う法則で働く魔法は、昔から種類によってさまざまな派閥が出来ていた。
そして――その派閥争いは、大昔に戦争を幾度となく起こした。
それは世界大戦であったり、宗教戦争であったり、英雄神話であったり――表向きの戦争の影、水面下で魔法戦争が行われていた。
血で血を洗う闘争の末、数多くの勢力が衰退し、時には消滅した。
それにより、貴重な、物理法則に捕らわれない数多くの『神秘』が失われた。
これを憂いた魔法使いたちは、大規模な戦争を行う事を止めるよう、お互いに呼びかけた。
けれども、勢力は強くしたい。しかし、争えば一般人や貴重な技術が失われる。
よって、魔法使いたちは、超強力な魔法によって契約を交わした。
『戦争は各勢力の代表が行い、総力戦などの大規模な戦争はしない』
『負けた勢力は勝った勢力に与する』
その、小さく、静かな戦争は――現代社会でも行われている。
■
真夜中。古びた遊具と狭い砂場ぐらいしかない寂れた公園。
そこでは――炎が舞っていた。
それを操るのは、スーツにサングラスの、特徴的だか無個性だかわからない格好をした中肉中背の男。その手には、時代錯誤も甚だしい、古めかしい木製の『杖』が握られている。
それに対し、俺は幼馴染と一緒に戦っている。
男が杖を振ると、その先から光の線が伸びていく。その線に沿って炎が放たれるが、白いシスター服を着た幼馴染が迫りくるその炎に向かって手刀を下すと、それだけで炎は消し飛ぶ。その隙に俺はその男に近寄り、接近戦を挑みかかる。
――勘違いしないでほしいのは、今ここが、間違いなく、二〇一四年の日本だということだ。
決してファンタジーの世界でもなければ、古代の宗教戦争でもない。
表の世界では科学が席巻する、世界でも有数の技術大国である島国の一角だ。
国の九割以上は、こんな非科学的な技術など知らない。
世界の大前提である質量保存の法則やエネルギー保存の法則を無視して、杖を振るだけで人が焼け死ぬほどの炎が生み出されるこの技術は、決して科学とは相いれない技術だ。
そもそも、いくら真夜中の寂れた公園といえど、こうして炎が渦巻いているのだ。その光と異様さと騒がしさに、誰かは気づきそうなものだ。だが、人の気配は全くないし、それどころか野良猫や虫の気配すらなく、風と俺たちが移動する音だけが響いていた。
「このやろっ!」
黒服サングラスの男は放った業火が手刀一つで消し飛ばされたことに動揺し、俺の攻撃に反応できていない。
俺は悪態をつきながら、拳をその顔面に突き刺す。
バコッ、と鈍い音が静かな公園に響き渡った。
男はそのまま後ろに吹き飛び、背中を地面に強打する。
そのまま追い打ちをかけようと走り寄るが――
「ちっ!」
男は立ち上がりざまに、こちらに炎を放ってきた。白いシスター服を着た幼馴染と違って俺は手刀一つでこの炎を消し去れないため、急ブレーキした後に回避せざるを得ない。
炎が晴れ、俺が向こうにたどり着けるようになったころには――もう、男の姿は無かった。
「……逃げられちゃったね」
「いきなり襲いかかってくるんだもんな……」
幼馴染が派手なシスター服を翻しながら後ろから駆け寄ってくる。俺は幼馴染にちらり、と目線を向けながら、苦々しい顔になって呟いた。
虫の声も、野良猫の声も。人の営みの音も聞こえてこない。ただ、風と、それによって擦れる草葉の音だけがあたりに静かに響く。
――たった三人。しかも戦っている場所は狭くて寂れた公園だ。
――だがそれでもこれは、小さいながらも、確かに『戦争』だった。




