同室の子を“お友だち”にしましょう
ふう、学校なのに広すぎませんか。
寮は、敷地内にあるのに、門から時間がかかりすぎます。
3時までに寮に入らなければいけないのに、これだとギリギリですね。
足は忙しく動かしながらも、頭はこれからの計画を確認しだしました。
まずは、堕とす人を見極めなければいけませんね。
できれば、
①お金持ち
②美形
③ヤンデレ、ストーカーになりそうにない
が、揃っている人を堕としたいんですよね。
この学校でしたら、①②が揃っている時点で発言力も影響力もあるでしょうし、③は私の平和な生活のためには欠かせない条件です。
大事です!とっても大事です!!!
とりあえず今は、寮で同室の人がどんな人かを見極めないといけませんね。
同室の人だけは、避けようがありません。
この寮は、二人で一部屋です。
寝ているときの声まではどうにもできませんし、もしそれで興奮されて、無防備なところに襲いかかられでもしたら、大変危険です。
ほかの方なら、堕とした人たちを遣えばいいのでしょうが、同室だとそうはいきません。
一年間一緒な部屋で過ごすのですから、早い段階で、私のいいなりになるよう調教しなくては。
さて、私の同室はどんな人でしょう。
声はちゃんと意識して……
「失礼します。」
「どうぞ、入ってらして。」
わあ!お嬢様です!
完璧なお嬢様です!
少女マンガに出てくる、ライバルのお嬢様を想像してください。
少しつり目ですが、とても美人です。
肌や髪の毛、爪などは、丁寧に手入れがされているのでしょう。艶々しています。
スタイル抜群で、立ち姿はまるでモデルのようです。
私服は、はっきりブランド名が分かるものではありませんが、質のよい服なのが、見てとれます。
部屋の中は、見学にきたときは殺風景だったのに、今は高そうでふかふかなラグや、ソファー、クッション。
開いているクローゼットからは、服やバックやアクセサリーがところ狭しと並んでいます。
そして何より!
『セバスチャーン!』
と思わず呼びたくなるような、執事服の人が後ろに控えています。
「私、伊集院麗香と申しますの。一年間よろしくお願いいたしますわ。」
「井上綾香です。よろしくお願いします。」
「私、勝手ではありましたが、右半分のスペースを使わせていただきましたの。よろしかったかしら?もし、ご都合が悪ければ、今すぐセバスチャンに移動させますわ。」
ほんとにセバスチャンだった!!
「いえ、私はどちらでも大丈夫ですので。」
「そうですか。ありがとうございます。セバスチャンもありがとう。もう家に戻ってよろしいわよ。」
「かしこまりました。」
「井上様。」
「はいっ。」
「麗香様は、世間知らずのところはございますが、素直でよい方です。どうかよろしくお願いいたします。」
「セバスチャンったら!」
「こちらこそよろしくお願いします。」
お嬢様らしく、人に命令するのが当たり前といったところはありますが、お礼を言うことができる、珍しいお嬢様ですね。
素直そうですし、この人なら大丈夫でしょうか。
高慢ちきなお嬢様だったら、権力やお金を使ってくるので、危ういことになるんですよね。
『私のものになってくださいませ!』
と言われて、高級品(ただし盗聴機入り)や高級菓子(艶っぽい声が聴きたいと媚薬入り)をプレゼントされたり、私の行く先々に現れたり、私に話しかけてきた子の親御さんを左遷させかけたり(とめるのに声を使わざるを得ませんでした)と散々でした。
……最終的には、お嬢様の自宅に、私を監禁するための部屋が作られ、監禁されかけました。
もう、あのときはどうなることかと……。
というか、親御さん!!!
娘の暴走をちゃんととめてください!!!!
このお嬢様はそうならないように、しっかり調教しなくては!
まずは、意識した声で、
「伊集院さん、私、この学校に誰も知り合いがいなくて寂しいの。私とお友だちになってくれる?」
「もちろんですわ!…では、綾香様とお呼びしてもよろしい?私のことも、名前で呼んでくださいませ。」
「ありがとう!麗香様!」
『これで私たちお友だちね。』
意識するのをやめ、普通の声に切り替えると、みるみる麗香様の目が潤み、頬が染まり、私の声に惹かれていくのが分かる。
「お友だち……。」
『そう。お友だちよね。』
「はい……。」
ことさら“お友だち”を繰り返す。
こうしておけば、“お友だち”の枠から外れるような行為を怖れるはず。
……だって、麗香様を見る限り、完全に私の声に堕ちているんだもの。
これで、寮の部屋での安全は確保できたでしょうか?
……一応、明日からも“お友だち”を協調しておいたほうがいいかもしれませんね。
麗香様、私の“いいお友だち”になってくださいね。