ふたりゆりゆられ
――引っ越しか。
これで何度目だろうか。
電車に揺られ、思考する。
何度引っ越したかはわからない。数えもしていない。する必要すら感じない
友人に捨てられ、親にも捨てられ、家族と言えるものもなく家もない。
そんな俺を引き取ってくれた保護者兼親代わりの人に恩といえば綺麗に聞こえるが、実際は宛もない俺は着いて行くことしかできなかった。
果ては中学で事件を起こしてからと言うもの、イジメは悪化し、その人は仕事柄あちこちに行かねばならない為に俺も着いてく形で転々と学校を渡り歩きしていた。
それも日本だけではなく、海外も例外ではなかった。
海外ではどうにか日常会話程度には話せるように努力はしたが、それでもまだ外国語というのは苦手だ。
俺は生粋の日本人だからだ。
そんな俺は、その人の善意でとある学園に留まらせてもらうこととなった。
その人に恩返しをできなくなるのは引け目を感じるが、是非もない申し出だったのも事実で、俺は寮のある学園に留まることを決めた。
「……」
それでも、難問であることには変わりはしなかった。
「そんな暗い顔してると、幸せが怖がって近寄って来ないぞ」
隣から陽気な明るい声が聞こえる。
「……」
「反応なし?ちょっとガッカリだよ」
隣を見ると、ショボンとした顔でしょげているのが確認できた。
「……おまえと話してるのを誰かに見られると、誤解されるのは火を見るのより明らかなんだ。だから独り言のように勝手に喋ってろ」
「酷い言い分だな~。それ。私は幽霊じゃないのに」
「幽霊みたいな“もの”、だろ?それでも俺以外見ることができないのも確かなんだ。だから諦めろ」
諦めろなんて冷たいよ。そんなことを言いながら俺のバックを勝手に漁り、板チョコを取り出してアルミを剥いて食べ始めた。
彼女は“悪魔”らしい。それを俺は中学の時にとあることをして召喚をしてしまって、呼び出してしまった。
最初は戸惑った。いきなら全裸の女の子が目の前に現れたのだ。無理もないだろう。
彼女は自らこう名乗った。自分は魔界から来た悪魔なのだと。そして召喚した俺は契約者で、御主人様なんだと、そうとも言った。
それと、彼女は普通の人には見えないらしい。
具現化するには本来の姿になるのが条件らしいが、本当のことはわからない。本当の姿になったことがないからな。
でも事実、他の奴らには見ることができなかった。
契約者の俺にしか見ることができない。
「また考え事?」
まぐまぐ言いながら首を傾げる彼女。
どこをどう見ても普通の女の子だ。
変に曲がった角も、歪な形の翼も、うねうね動く尻尾もない。
肩を過ぎた黒い髪に、目・鼻・口・眉毛と整った顔立ち。透き通るような陶磁器みたいな白い肌。ノースリーブのシャツにふわふわしたドレススカートという格好。
――これが悪魔だなんてな
普通に考えて、こんな強く抱き締めてしまえば折れてしまいそうな体つきした女の子が、悪魔だとは思わない。
強いて悪魔ような部分を挙げれば、自由気ままな性格と、紫水晶のような色をしたその瞳ぐらいだ。
「――パキンッ。まぐまぐ……むくっ。ナイトも食べる?」
俺の目下に食べかけのチョコが差し出される。
「……一口だけ」
折るようにかじると、パキンッと小気味のいい音が鳴って欠ける。
「美味しいね」
「あぁ」
甘ったるいブドウ糖が口の中に広がるを、無愛想に答えながらも、感じた。




