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9/13

その来賓、軽薄につき

私の平穏な(?)監禁生活に、新たな嵐が訪れようとしていた。


「……隣国の、王子?」


私、リリアナ・シェフィールドは、侍女のソフィから聞いて首を傾げた。 顔にはいつもの鉄仮面(ヴェール付き)、首には皇子からの贈りチョーカーという完全装備だ。


「はい! アムール王国のレオン王子が、親善大使として来訪されたそうです!」


ソフィが目を輝かせる。 アムール王国といえば、「愛と芸術の国」として有名だ。 そこの王子様となれば、さぞかし煌びやかなのだろう。


「でも、私には関係ないわね」


私は「笑わない不気味な女」として隔離されている身だ。 華やかな外交の場になど、出る幕はない。


「それが……ヴァルダス殿下が『俺の目の届く範囲にいろ』と仰って……」


「え?」


「今夜の歓迎晩餐会、リリアナ様も同席するようにとのことです!」


まじですか。 私は戦慄した。 他国の要人の前で、もし私が不気味な顔をして空気を凍らせたら……。 今度こそ「国際問題」で処刑されるのでは?



そして、晩餐会。 大広間には、豪華な料理と着飾った貴族たちが集まっていた。


私は、ヴァルダス殿下の斜め後ろ、影のような位置に立たされていた。 もちろん、黒いドレスにヴェール姿だ。 完全に「魔王に仕える闇の神官」みたいな見た目である。


「……リリアナ」


殿下が、ワイングラスを傾けながら小声で囁く。


「いいか。絶対に俺のそばを離れるな。そして、誰とも目を合わせるな」


「はい、殿下」


「特に、あの『金色のチャラついた害虫』には近づくな」


殿下の視線の先。 そこには、金髪をなびかせ、歯が浮くような笑顔を振りまく青年がいた。 アムール王国のレオン王子だ。


「やあやあ! ヴァルダス殿下! お招き感謝するよ!」


レオン王子が、軽やかなステップで近づいてくる。 その背後には、キラキラした薔薇のエフェクトが見える気がした。


「……ああ。歓迎する」


殿下の声は絶対零度だ。 握手を求めたレオン王子の手を、完全に無視している。


「つれないなぁ! 相変わらず『処刑皇子』の名に恥じぬクールさだね! そこがシビれる!」


レオン王子はめげない。 そして、殿下の背後にいる私に気づいた。


「おや? そちらの麗しい女性は?」


「……俺の所有物だ。気にするな」


殿下が私の前に立ち塞がる。 壁(物理)のような背中だ。


「所有物? ははは、またまたご冗談を! こんなに美しい方を、まるで『籠の鳥』のように閉じ込めるなんて!」


レオン王子が、殿下の隙間から私を覗き込む。


「初めまして、マドモアゼル。僕はレオン。……ヴェール越しでもわかるよ。君が悲しみに暮れていることが」


「(えっ? ただ緊張してるだけですけど……)」


「君のような花は、太陽の下で咲くべきだ。こんな『独裁者』の陰に隠れているべきじゃない」


レオン王子が、私の手を取ろうとした。


バチィッ!!


空気が爆ぜた。 殿下が、レオン王子の手首を掴んだのだ。 ギリギリと、骨が軋む音がする。


「……おい。誰の『所有物』に触れようとしている?」


殿下の瞳が、赤く発光している。 殺意の波動が、晩餐会の会場を揺らした。


「おっと! 怖い怖い!」


レオン王子は軽やかにバックステップで回避した。


「独占欲が強いのは愛の証……と言いたいけど、少し束縛が過ぎるんじゃないかな? 彼女が怯えているよ」


「(怯えてるのは、殿下が今にも戦争を始めそうだからです……!)」


私は心の中で叫んだ。


「ふん。……リリアナ、行くぞ」


殿下は私を抱き寄せ、その場を去ろうとした。 だが、レオン王子はニヤリと笑って言い放った。


「逃げるのかい? ヴァルダス殿下。……もし彼女が、君から『解放』されたがっているとしても?」


殿下の足が止まる。


「……なんだと?」


「僕は愛の国の王子だ。レディの心の声が聞こえるのさ。……彼女は泣いている。『助けて』とね」


(言ってない! 一言も言ってないわよ!?)


私の心の否定は届かない。 殿下はゆっくりと振り返った。


「……面白い。その減らず口、二度と開けなくしてやろうか?」


「おや、外交問題になっちゃうよ? ……どうだい、賭けをしないか?」


レオン王子が指を鳴らす。


「明日の正午、闘技場で決闘だ。僕が勝ったら、彼女を自由にしてもらう。……そして、そのヴェールを外して、僕に『最高の笑顔』を見せてもらうよ!」


会場がざわめく。 一国の王子同士の決闘。 しかも、賞品は私(の笑顔)!?


殿下は、しばらく沈黙した後、獰猛な笑みを浮かべた。


「いいだろう。……ただし、俺が勝ったら」


殿下が剣の柄に手をかける。


「貴様をミンチにして、我が国の肥料にする」


「えっ、重くない?」


「交渉成立だ」


殿下は私を引きずって会場を出て行った。 残されたレオン王子は、冷や汗を拭いながら呟いた。


「……冗談の通じない男だねぇ。でも、あの子を救うためなら、僕も本気を出そうか」


とんだ勘違いヒーローが現れてしまった。 私の平穏は、またしても粉砕された。

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