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その浮気、断罪につき

「死ねェェェェッ!!」


ヴァルダス殿下の大剣が、ガストン男爵に向かって振り下ろされる。 風圧だけで窓ガラスが割れる威力だ。


「ギャアアアアア!」


男爵はゴロゴロと転がって回避した。 剣が床に突き刺さり、石畳が爆散する。


「ちょこまかと逃げるな、肉塊!」


殿下は剣を引き抜き、再び構える。 その目は完全にイッていた。


「い、命ばかりは! 俺はただ、女と遊ぼうとしただけで……!」


男爵が口を滑らせた。


「遊ぼうとした……だと?」


殿下の動きが止まる。 そして、さらに温度が下がった。


「貴様。俺のリリアナを、『遊び』と言ったか?」


「へ?」


「俺が……指一本触れるのすら躊躇い、神像のように崇めている彼女を……『遊び』で汚そうとしたのかァァァァッ!!」


ドゴォッ!!


殿下の蹴りが、男爵の腹にめり込んだ。 男爵はボールのように壁まで吹っ飛び、めり込んだ。


「ぐぇ……ッ」


「貴様には、斬首すら生ぬるい。四肢を引き裂き、ハゲ鷹の餌にしてやる」


殿下が男爵の首を掴み、持ち上げる。 男爵の足がブラブラと宙に浮く。 もう、殺されるのは時間の問題だ。


「やめてぇぇぇッ!!」


私は、殿下の腕にしがみついた。


「リリアナ。離れろ。汚れる」


殿下は冷たく言い放つ。


「ダメです! 殺しちゃダメ! この人は……この人は!」


「なんだ? まだこの男を愛しているとでも言うのか?」


殿下の声が震えている。 嫉妬と絶望。 なんてこと。殿下は本気で、私がこの男爵と愛し合っていると勘違いしているんだわ。


「違います! 愛してなんか……い、いえ、愛しているのは……!」


私はパニックになった。 愛しているのは殿下です、と言えばいいのか? でも、そんなこと言ったら、この場でもっとややこしいことになる。


私は、必死に言葉を探した。 そして、とっさに叫んだ。


「この人は、『犯人』なんです!!」


「……は?」


殿下の動きが止まった。


「犯人? 何の?」


「盗みの、犯人です! この人が、宝物庫から燭台を盗んだんです! ソフィの無実を晴らすために、私は証拠を探しに来ただけで……!」


私は、床に転がっていた『銀の燭台』を拾い上げ、殿下に見せた。


「見てください! これが証拠です!」


殿下は、私と、燭台と、白目を剥いている男爵を交互に見た。


「……盗み?」


「はい!」


「……密会ではなく?」


「違います!」


「……お前はこの豚に、惚れているわけではない?」


「死んでもお断りです!!」


私は全力で否定した。 表情筋も全力で「拒絶」を示した(般若のような顔になった)。


殿下の手から、力が抜けた。 ドサッ。 男爵が床に落ちる。


「……そうか」


殿下は、長いため息をついた。 そして、手で顔を覆い、天を仰いだ。


「なんだ……。泥棒か」


その声には、心底安堵したような響きがあった。


「よかった……。リリアナが、こんな男に心を奪われたわけではなかったのか……」


殿下は、ふらつきながら私に近づいた。 そして、いきなり私を抱きしめた。


「きゃっ!?」


「心配したぞ、リリアナ……。お前が俺以外の男に染まってしまったのかと思って……俺は、俺は……!」


殿下の身体が震えている。 強い力で抱き締められ、骨が軋む。 苦しい。 けれど、殿下の心音が、私の耳元でうるさいほどに高鳴っているのがわかった。


「で、殿下……苦しいです……」


「あ、すまん」


殿下はパッと私を離した。 そして、咳払いをして、いつもの冷徹な仮面を被り直した。


「……事情はわかった。つまり、こいつは国宝を盗んだ大罪人ということだな?」


殿下が男爵を見下ろす。 その目は、さっきとは違う意味で冷たかった。


「リリアナの無実を証明してくれたことには感謝するが……」


殿下は剣を突きつけた。


「泥棒もまた、重罪だ。……やはり、処刑だな」


「ひぃぃぃッ! 助けてくれぇぇぇ!」


男爵が泣き叫ぶ。 私は、ホッと胸を撫で下ろした。 とりあえず、誤解は解けた。 男爵の命運は……まあ、自業自得ということで。


こうして、嵐のような夜は幕を閉じた。

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