その侍女、冤罪につき
私の牢獄(豪華客室)にも、少しだけ味方ができた。
専属侍女のソフィだ。 彼女はまだ15歳の新人メイドで、少しドジだが、純粋な心を持っていた。 私の「鉄仮面」を見ても、「リリアナ様は、クールで素敵です!」と目を輝かせてくれる、奇特な子だ。
だがある日、ソフィが泣きながら部屋に入ってきた。
「うぅ……リリアナ様ぁ……」
「どうしたの? ソフィ」
私は(無表情で)彼女の背中をさすった。
「わ、私……泥棒の疑いをかけられているんです!」
話を聞けば、王城の宝物庫から、儀式用の『銀の燭台』が一本盗まれたらしい。 そして、その時間に掃除当番だったソフィが、犯人扱いされているというのだ。
「やってません! 私、絶対に盗んでません!」
「信じるわ。貴女がそんなことをするはずがないもの」
私は断言した。 彼女の手は、働き者の手だ。盗人の手ではない。
「でも、衛兵長が『自白しないなら拷問にかける』って……」
「……なんですって?」
私の眉が、ピクリと動いた(気がした)。 拷問。 冤罪で、この小さな手が傷つけられるなんて、許せない。
「(私が、助けなきゃ)」
私は立ち上がった。 ヴェールを被り、決意を固める。
「(でも、どうすれば……? 殿下に相談する?)」
いや、ダメだ。 ヴァルダス殿下に「ソフィが疑われています」なんて言ったら、どうなるか。
『俺の所有物の世話係を愚弄した罪だ。衛兵長を全員斬首刑に処す』
間違いなくこうなる。 血の雨が降る。 それだけは避けなければならない。
「(私が、真犯人を見つけるしかないわ)」
私はソフィの手を握った。
「大丈夫よ。私が証明してみせるわ」
「リリアナ様……!」
「ただし、このことは殿下には内緒よ。……命に関わるから」
「は、はい!」
ソフィは感動して頷いた。 「私のために、命がけで捜査してくださるんですね!」と。 (まあ、主に命が危ないのは犯人と衛兵たちなのだけど)
こうして、私は「鉄仮面探偵」として、城内の捜査を開始することになった。
◆
その夜。 執務室のヴァルダス殿下は、不機嫌だった。
「……リリアナの様子が、おかしい」
殿下は、魔法の水晶(監視モニター代わり)を睨みつけていた。 そこには、部屋をこっそり抜け出し、キョロキョロと周囲を警戒しながら歩くリリアナの姿が映っている。
「いつもなら部屋で大人しくしているはずだ。なのに今日は、朝からソソクサと動き回っている」
殿下の指が、机をトントンと叩く。
「しかも、俺に隠し事をしているな? 夕食の時も、俺と目を合わせようとしなかった」
リリアナは「(捜査のことがバレたら大変)」と挙動不審になっていただけだが、殿下の脳内フィルターは最悪の方向に作動した。
「隠し事。コソコソとした外出。周囲への警戒……」
殿下の赤い瞳が、ギラリと光る。
「……男か?」
嫉妬の炎が、ボッと音を立てて燃え上がった。
「まさか、この城の中に『間男』を引き入れているのではあるまいな?」
殿下は立ち上がった。 その手には、愛用の処刑剣が握られている。
「いいだろう。突き止めてやる」
殿下は、この世の終わりみたいな笑顔を浮かべた。
「リリアナをたぶらかす害虫がどこのどいつか……この手でミンチにしてくれるわ」




