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その求婚、勘違いにつき

レオン王子撃退から数日後。 王城に、アムール王国からの親書が届いた。


『先日は大変失礼いたしました。命を助けていただき感謝します』


文面は丁寧だったが、添えられていたプレゼントが問題だった。 大量の「魔除けグッズ」と「鎮魂の香」だったのだ。


「……完全に、私が悪霊扱いされているわね」


私は部屋で、送られてきた数珠を見つめてため息をついた。 まあいい。平和が戻ったのなら。


そこへ、上機嫌なヴァルダス殿下が現れた。


「リリアナ。喜べ」


「はい? 何でしょうか?」


「お前の『悪名』が広まったおかげで、周辺諸国の貴族どもが、恐れをなして縁談を持ってこなくなった」


殿下はニヤリと笑った。


「『処刑皇子の婚約者は、呪いの鉄仮面女。近づくと魂を抜かれる』……素晴らしい噂だ。これで、お前に近づく害虫は激減するだろう」


「(……素直に喜べないんですけど)」


私はガックリと肩を落とした。 私の婚活市場価値は、ついにマイナスに突入したようだ。


「そこでだ」


殿下が、私の前に跪いた。 え? 何?


殿下はポケットから、小さな箱を取り出した。 パカッ。 中には、以前のチョーカーと同じ、真紅の宝石がついた指輪が入っていた。


「……そろそろ、正式な形にしておくべきだろう」


殿下の顔が、少し赤い。


「俺の婚約者になれ、リリアナ」


「えっ……?」


プロポーズ。 まさかのプロポーズだ。


「お前はもう、俺以外には貰い手がない(噂のせいで)。そして俺も、お前以外の女など視界に入れるつもりはない」


殿下は私の手を取り、指輪をはめた。


「これは『拘束具』のアップグレード版だと思え。……一生、俺のそばで償ってもらうぞ。俺の心を狂わせた罪をな」


(訳:愛してる。一生大事にするから結婚してくれ)


私は、指輪を見つめた。 真紅の宝石が、キラキラと輝いている。 それはまるで、殿下の不器用で、重たくて、少し怖いけれど……真っ直ぐな愛のようだった。


「……はい、殿下」


私は頷いた。 どうせ、私を受け入れてくれる(?)のは、この世界で殿下しかいないのだ。


「謹んで……お受けいたします」


私は、精一杯の感謝を込めて、顔を上げた。 もちろん、極度の緊張で表情筋は死んでいる。 きっと、「死ぬまで離さないわよ」という怨念のような顔になっていただろう。


だが、殿下には違って見えたらしい。


「ッ……!」


殿下が胸を押さえてうずくまる。


「(くっ……! 今、微かに目が笑ったか!? 破壊力が……俺のライフがゼロになる……!)」


「で、殿下!? 大丈夫ですか!?」


「……構うな。幸せすぎて死にそうなだけだ」


殿下は震える手で私を抱き寄せた。


「覚悟しておけよ、リリアナ。……式は、国を挙げて盛大にやる。お前のヴェールを上げるのは、その時が初めてだ」


「(公開処刑にならないかしら……)」


私の不安をよそに、二人の婚約は成立した。 笑わない鉄仮面令嬢と、彼女を溺愛しすぎて時々死にかける処刑皇子。 最強(最恐)のカップルの誕生に、国中が震え上がる――いや、祝福するのは、もう少し先の話である。

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