その決闘、過剰火力につき
翌日。 王城の闘技場は、異様な熱気に包まれていた。
「見ろ! 処刑皇子と、隣国の王子の決闘だってよ!」 「女を賭けた戦いらしいぞ!」 「また処刑ショーが見られるのか!」
観客席には、噂を聞きつけた貴族や兵士たちが鈴なりになっている。
アリーナの中央。 レオン王子は、白銀のレイピアを構え、優雅に立っていた。
「やあ、リリアナ嬢。見ていてくれたまえ。僕の愛の剣技を!」
貴賓席に座らされた私に向かって、投げキッスを送ってくる。 私はヴェールの中で、能面のような顔で固まっていた。
(帰りたい……。どうして私が賭けの対象に……)
対するヴァルダス殿下は。
「…………」
無言で、漆黒の大剣(処刑用)を引きずって現れた。 その全身からは、黒いオーラが湯気のように立ち上っている。
(殿下、本気だわ。殺す気満々だわ……!)
審判の合図と共に、決闘が始まった。
「始めッ!!」
「はぁッ! 華麗なる愛の突き(アムール・スティンガー)!」
レオン王子が素早い踏み込みで突きを繰り出す。 速い。 達人の域だ。
だが。
「……遅い」
殿下は、避けることすらしなかった。 突き出されたレイピアの切っ先を、左手の「指二本」で挟んで止めたのだ。
「なッ……!?」
レオン王子が目を見開く。
「この程度の『愛』で、俺から奪えると思ったか?」
殿下の指に力がこもる。
パキンッ。
名剣と名高いレイピアが、飴細工のようにへし折られた。
「うそぉ!?」
「遊びは終わりだ。……消えろ、害虫」
殿下が右手の大剣を振りかぶる。 それは剣術ではない。 ただの「暴力」だ。
「ま、待て! 武器がない相手を斬るのか!?」
「知らん。死ね」
殿下が剣を振り下ろす。 レオン王子は無様に転がって回避した。
ズドォォォォォォォン!!!!
闘技場の地面が爆発した。 土煙が晴れると、そこには深さ5メートルのクレーターができていた。
「ヒィィィッ!? これ決闘!? 戦争じゃなくて!?」
「逃がさんぞ。リリアナの笑顔を見たいと言ったな?」
殿下がクレーターの縁に立ち、鬼の形相で見下ろす。
「その言葉……あの世で後悔させてやる。あいつの笑顔を見ていいのは、この世で俺だけだァァァァッ!!」
殿下が大剣を振るうたびに、衝撃波で観客席の壁が崩れ、空が割れる。 完全に怪獣映画だ。 レオン王子は涙目で逃げ回っている。
「助けてぇぇぇ! 愛が重すぎるぅぅぅ!」
このままでは、アムール王国との戦争になってしまう。 私が止めなければ。
「(どうすれば……大声を出しても聞こえないし……)」
私は、必死に考えた。 殿下の気を逸らすには、殿下が一番気にしていること……つまり、私自身を使うしかない。
私は貴賓席の手すりに身を乗り出し、ヴェールをまくり上げた。 そして、殿下に向かって叫んだ。
「殿下ぁぁぁぁッ!!」
私の声が響く。 殿下の動きがピタリと止まった。
「……リリアナ?」
殿下が振り返る。 そこには、ヴェールを上げ、全力で顔を歪めた(必死な表情の)私がいた。
「もうやめてください! お願いです!」
私は精一杯、懇願した。 だが、極度の緊張と恐怖により、私の表情は「懇願」ではなかった。
目を見開き、口元を引きつらせ、般若のような形相で叫ぶ女。 それはまさに、『地獄からの呪詛』に見えた。
それを見たレオン王子が、悲鳴を上げた。
「ヒィッ! な、なんだあの顔はぁぁぁ!?」
レオン王子は腰を抜かした。
「ぼ、僕はあんな恐ろしいものを解き放とうとしていたのか!? 笑ってない! あれは『死の宣告』だ!」
レオン王子は勘違いした。 私が「これ以上やったら呪い殺すぞ」と脅しているのだと。
「こ、降参だ! 僕の負けだぁぁぁ!」
レオン王子は白旗を上げて、闘技場の出口へと逃げ出した。
「二度と来るかぁ! この国は王子も姫もバケモノだぁぁぁ!」
勝負あり。 レオン王子の逃走により、決闘は終わった。
しかし、ヴァルダス殿下の反応は違った。
「(……可愛い)」
殿下は、クレーターの中心で胸を押さえていた。
「(必死に俺を止めようとする、あの健気な表情……。俺の身を案じてくれたのか? 愛おしすぎて心臓が止まるかと思った……)」
殿下は鼻血を垂らしながら、天を仰いだ。
「勝った……。俺は守りきったぞ……リリアナとの未来を……!」
会場が静まり返る中、満足げに倒れる処刑皇子。 そして、自分が恐ろしい顔をしたせいで王子を撃退したと思い込み、再びヴェールを下ろして落ち込む私。
外交問題は、物理的な暴力と、顔面による威圧で、あやふやに解決されたのだった。




