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14.ミル~ジェーノ2~

 その一撃をマリアンナが槍で弾いた。


 「雑魚狩りとは流石賊だな!」

 「ああ、カルーアのトップとなると、雑魚狩りもトップなもんだ」


 マリアンナはさらに追撃。槍を棒のように回し、突いて、叩きつけたりもする。奇抜な槍の扱いであるが、ジェーノはすらりすらりと躱していく。まるで踊るように。

 そこに矢が飛ぶ。躱した瞬間である。身動きが取れないところにジョシュは正確な一射をした。


 「まぁそうくるよな」


 これもアクロバットにバク宙して無かったことにした。ジョシュが「今の結構自信あったんだけど、おじさんショック」と呟いた。そんな場合ではない。今度はジェーノから来る。

 ジェーノはマリアンナに斬りかかった。積極的に好戦的に。ジェーノは素早い。でも短刀は火力が無い。武器としての長さもない。対してマリアンナは槍。槍と言うだけで威圧感があるものだが、むしろジェーノは距離を詰めていった。

 マリアンナは圧された。


 「今更言うことじゃないが、槍の利点は間合い。そして弱点も間合い」

 「うっ」

 「俺はあんたが負けた部下より遥かに強いって馬鹿じゃなくてもわかるはずだ」

 「だからどうした?」


 マリアンナはなんとか距離を取り、構えた。だったら不意を突かれないようにさらに距離を取る。そしてアイコンタクト、ジェーノにだ。こっちで時間を稼ぐから司教を助けろ。ということだ。ジェーノはいささか厳しい面持ちだったが、迷っている暇はない。

 マリアンナはジェーノに勝てない。そう自分で認めた結果だ。これ以上、マリアンナの誇りに傷をつける意味もない。

 ジェーノは短刀を回す。まるでペン回しのように指の間をクルクルと。ハンドスピナーのように指先で。


 「なるほどそういう作戦ね。あの長髪薄ら笑いが狙いか」

 「長髪薄ら笑い?? ああ、司教のことか」マリアンナはわりとマジでわかってなかった。

 「あれ、挑発したんだけどな。まぁいいや。しかし騎士道をもう少し信じてみてもいいんじゃねえか。どっちにしろ、俺はお前をさっさと仕留めるだけだが」

 「そうか。なら、かかってこい」

 「じゃあ――遠慮なく」


 遠慮なく。その言葉は反転していた。ジェーノは逆に――待ち構えるマリアンナを無視して、弓を置いたばかりのジョシュを殺しにいった。

 

 「卑怯者め!!」


 しかし速い。マリアンナの足じゃ、追いつかない。これも短刀と槍の差だ。槍が重い。決してマリアンナは追いつけない。そしてジョシュも完全に不意を突かれた。間に合わない。


 「投げろ!」俺は叫んだ。


 マリアンナは一瞬戸惑ったが「そうか!」と槍を投げた。剛腕。マリアンナの槍はすこぶる速く、ちょうどジェーノが斬りかかるところ、ジョシュの頭の真上まで飛んだ。


 「ほんとに女か?」


 ジェーノは攻撃できない。でもジョシュは違う、弓ではない短剣。念のためのほとんどフルーツの皮むきと化したらしい短剣でジェーノを突いた。ジェーノは辛うじてそれを弾いて下がる。

 下がる。一息つく。さすがに走って疲れたか、マリアンナの投擲に怯んだのか。されどマリアンナは違う、騎士ゆえの体力の多さはいかんなく、その瞬間を斬りかかった。


 「はぁ? なんで剣持ってる!?」ジェーノは怯んだ。短刀で受けた。

 「なんでって? この剣はずっと私のものだったが?」

 「はぁ? そうか!」


 俺の手に残ったのは鞘だけだ。

 ここに勝機がある。圧している。マリアンナが圧している。俺とジョシュは叫んだ。


 「今だ! やれ!」

 「言われなくても!!!」


 マリアンナは短刀を上へ弾き飛ばした。今、ジェーノは丸腰、その間合い、完全にマリアンナのものだ。やった!――はずなのに、そこで流血していたのはマリアンナのほうだった。ジェーノの左手には短刀があった。


 「いっひいっひっ! 弾いたんじゃなくて、投げ回したんだよ!」


 マリアンナの左肩深くに短刀が刺さった。ジェーノはそれを捻り回し、裂いた! そして思いきり蹴り飛ばした――マリアンナはそのまま一階まで落ちた。


 「まずは一人。九死に一生も悪くないって感じだ!」

 「マジですか。これ、ちょっと無理なんだけど!」


 とりあえずジェーノは近くにいたジョシュへ襲い掛かった。ジョシュは完全に怯み、階段から落ちてしまった。

 するとさすがに下のカルーアらは気づく。ジョシュとマリアンナに。ジェーノは遠慮しない。味方が気持ちよくなる言葉を投げる。


 「そいつら、任せた!」


 任せた。ジェーノにはカリスマ性があるらしい。ジェーノの期待に応えるべく、カルーアの雑魚は怯んでいるジョシュと負傷したマリアンナを殺しに行く。

 そしてジェーノは俺のほうへ。


 「絶体絶命のピンチ」

 「ご名答!!」


 ジェーノはご機嫌。俺のほうへ襲い掛かってきた。俺はとにかく短刀の一撃を鞘で弾いた。はずが、鞘のほうがどっかにいった。


 「非力なんて思うなよ。傍観者」


 俺は腰を抜かしてしまった。完全にジェーノに圧倒されてしまった。

 後ずさりしてもあるのは手すりだけ。逃げ場などどこにもない。ジェーノは「まずは一人」と短刀を振り下ろす――キラッと何か輝いた。ジェーノ腰に何かある、いや、もう一つ――俺の上を鉄の塊が飛んできた?

 

 「なんだ?」ジェーノはそれを弾いて掴んだ。


 兜だ。マリアンナの血塗れの兜だ。なぜそんなものが? ジェーノが疑問に思っている間に俺は離れて、あっちに転がっている剣を拾った。

 ジェーノはこっちに興味が無い。下を見た――下、雑魚がなぎ倒されている。特にメイスと大盾を持ったデカブツが、それとこちらをじっと見ている――ダリウス。


 「よぉ、弱いやつを狙ってばっかなところ、カルーアらしいじゃねえか。さっさと俺を撃ちにこればいいものを」


 腕を回す、ダリウス。周りから寄ってくる雑魚ももはや見ずとも、殴り飛ばしている。


 「誤解してんな、アホ。ウォーキングはいつもこうだ。正面堂々。でも俺たちは違う。お前らが這いあがって来いよ。来れるものなら」


 ジェーノの挑発。ダリウスは乗ったと言わんばかりにニヤっとした――走る。かかってくる雑魚を適当に殴り倒し、階段の前――ジェーノは指を鳴らした。ダリウスの頭上、ガラス片の土砂降り。それから雹にしては酷く大きい、巨人のカルーアが二人がダリウスの前に立ちはだかった。


 「ダリウス。ゲームをしよう。お前がこっちに来るのが先か、俺がこの前菜を殺すのが先か」

 「悪趣味なゲームだ。強制じゃねえか!」


 ダリウスは難しい顔をしている。さすがに巨人が二人、ダリウスでも時間がかかりそうだ。いや、それだけじゃない、その背後には雑魚が二三十人。

 

 「ちょっとダリウスじゃ無理か」

 「おい!」

 「でも――」


――だったら俺が下に行けばいい――


 「――なんて考えてんだろ? させるわけないだろ前菜」


 俺の前には依然としてジェーノがいた。やる気満々だ。どうしたって俺を殺したい、いたぶりたい、そんな感じだ。

 俺は剣を構えるだけ構えて、牽制する。でも意味がない。ジェーノは顔色一つ変えない。


 「なんだって俺を狙う?」

 「前菜だ。俺は人生楽しむタイプなの。楽しむっていうのは丁寧に始末するってこと。だから弱いやつからやるわけ。それにダリウスって気に入らないし、目の前で一人死んだらちょっと面白くなりそうとか」

 「いきなり冗舌に。なんでそんな楽しそうに俺を殺す理由が出てくる」

 「ああそうそう、あと――さっきのクソガキと同じ臭いがする」


 俺のどこがあの見栄っ張りと同じなのか。もしもそうだというならもう少し、俺の牽制に注意してほしいくらいだ。と内心思いつつ、どちらにせよ理不尽。俺はもうどうにかするしかない。どうにかってどうなんだよ。

 一番強い敵が一番弱い俺を殺しにくる。なんの冗談だ。


 「じゃあ――」

 「来る!」

 「――行こう」


 ジェーノは短刀を手首で回しながら握ると踏み込み、一瞬で俺の懐に入ってきた。そこから短刀を二度ほど手のひらで回すと、鳩尾を狙って刺してきた。俺はなんとか回している間に、おぼつかない足で横に躱した。ジェーノはそれをわかっていたみたいに人差し指で短刀を回し、逆手持ち。追撃を仕掛けてきた。俺は反射的に腕でジェーノの腕を弾いた。

 ジェーノはやや驚いたらしい。一瞬の隙があった――が、俺は後ろに下がって、距離を取った。


 「仕掛けてこないわけか。肝が据わってるな。じゃあ次はその肝を狙うとするか」


 と言った次の動き、ジェーノが回す短刀に気を取られ、不意を突かれた。いや、それだけじゃない、ふつうにさっきより加速が速かった。

 俺はジェーノを見失った。どこからくる? ジェーノはさっき言った通りに腹を狙ってくる――タイプの人間じゃない。むしろその逆、頭か足、のどちらかだ。どっちだ? 頭、頭はまずい。即死だ。でも足なら――足だ。


 「右後ろ」

 「ん? バレた?」


 俺は身を守る為だ。反射的にだった。右手に握っていた剣をそこに居てほしいジェーノに振るった。

 それがなんと、ジェーノに直撃した。剣が刃こぼれしていたから打撃にしかならなかったし、俺の力もなかったから、ジェーノは少しのけ反るだけだった。むしろ反動で俺のほうが姿勢を崩した。

 すぐにまた距離を取った。ほんとうに右後ろにいることに俺は驚いた。だから一層、距離を取った。

 ジェーノは短刀をまた回した。


 「調子悪い? いや」


 とすでに声が姿に置いていかれたくらいに、ジェーノはまた俺に仕掛けてきた。でも今度は見失っていない。

 左脇、下、右首、左、右、背後。俺はジェーノの動きをなんとか目で追って、ときには剣で受けながらも耐えた。

 こう自分で言うのもなんだが、慣れてきた? 正直、精神的にはまるで余裕がない。緊張が常に走って、必死だ。だけど俺の神経は、集中はジェーノをたしかに捉えていた。しかもおかしい、自分が思っているより自分の体がよく動く――死んでから体が軽くなった? 身体能力があがった?

 

 「やめだ」


 ジェーノは止まって髪を掻いた。うんざりした感じだ。俺はそれでも警戒を緩めなかった。それを見て、ジェーノはさらにうんざりした。


 「はぁ、その目。意外にいい目してんな。見くびってた。前菜にしてはちょっと癖が強いわ。まぁでも下を見ろ……って言っても全然見ねえな。じゃあ、まぁお前の助け船は苦戦してんのさ。たぶん、こっちに来てもボロボロだろうな。なら俺は勝てる」

 「はっきり言えよ」

 「調子がいいこと。まぁつまり、お前らが勝つにはお前が俺を倒すしかないんじゃねえかなっていう冷静な助言ってわけ」

 「挑発だ」

 「そう思うか? だったらチャンスをやるよ。ざっと五秒」ジェーノは短刀を上に投げて、落ちてきたのを取った。

 「五秒?」

 「五秒、お前にやる。これは俺の気まぐれだ」


 一体何を言っている。自分から無防備になる? さすがの俺でも丸腰相手なら一発くらい攻撃しても問題ないはずだ。素手で戦うのか? そうだとしても即死じゃない。剣を持っている俺のほうがどう考えたって有利だ。

 わからない。何が狙いだ。いや、そもそも俺は戦闘のプロじゃないし、わかるわけがない。考えても無駄、乗らなきゃいい。そうだ、とにかく死なない。死にたくない。


 「何を悩む必要があるのかね? まぁいいや、じゃあどうぞっ」


 ジェーノは回していた短刀を言った通りに宙へ投げた。ほんとうに投げた。俺は何か罠があるんじゃないかと、短刀を凝視した。けど、何もないみたいだ。だったら俺はこのまま、短刀が落ちるまで待つだけ――その短刀の後、あるはずのない天井に刺さった全く同じ短刀を俺は知った――まさか!


 「短刀は二本あった?」

 「残念、三本目だよ!」


 すでに遅かった。ジェーノは俺の服を掴んで倒しながら、鋭い短刀の牙を俺の頸動脈へ振りかざしていた。完全に術中にはまった。ジェーノのあまりに気品のある短刀裁きに俺はもはや見惚れてしまったようだった。そして無慈悲な一撃に恐怖する暇もなかった。


 ――そこに拳が飛んできた。鉄の拳。ダリウスの拳だ。俺の前にあったのは醜悪な盗賊の顔ではない、それは血塗れの、それと活き活きとしたもう一人の盗賊の顔だった。


 ダリウスの拳はジェーノの顔面に命中。ジェーノは勢い良く回りながらぶっ飛んだ。そのまま一回に落ちて跳ねた。その振動、雑魚どもは絶句した。


 「俺の勝ちだな。ジェーノ」

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